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弐 "月の君"――殿

はてさて、称華をプレゼントする如月は……?

"殿"なる者の反応はいかに。。。

「ほう、如月。お前は俺に死ねと言うのか」


殿の城"月ノ宮"の、小さな池のある裏庭。

いつも通りそこに通された如月は、縁側で座って待っていた殿に満面の笑みで持ってきた称華をさしだした。

あまり感情を表に出さない殿だけどきっと喜んでくれる、そう思ったのに……殿の口から出た意外な言葉に如月はただただ首をかしげた。


「へ? どうして?」


殿の眉間にしわがよる。


「何故土産に称華を持ってくるんだ」

「綺麗でしょ?」


邪気の一片も感じられない笑顔で如月が言う。殿は溜息をついた。


「あのな、如月。称華は死者に手向ける花なんだぞ?」

「そうなの? こんなに真っ白で綺麗なのに……」


如月は殿の隣に腰掛けながら不思議そうに称華に目を向ける。


「純白で綺麗だからこそ、だ。人々が死者を悼んで手向ける称華は、死者の道標となると言われている。

死後の世界へ向けた長い旅、美しい称華は魔除けとなって、死者を"悪しきもの"から守る役目を果たすんだ。……如月には話したことなかったか」

「うん。初めて聞いた。じゃあ称華がないとどうなるの?」

「称華を持たない死者は"悪しきもの"に闇にひきずりこまれて、死後の世界へと着くことも出来なければ、そこからまた我々がいるこの世界に戻ってくることもできなくなる」

「そうなんだ……」


如月は改めて殿の手の中にある称華をまじまじと見つめた。

さっきまでただただ綺麗だった花が突然神々しく見えてきて、如月は称華を抱えていた腕をそわそわとこすった。

そんな如月を見て殿は微笑む。


「如月の腕がどうにかなったりすることはないから、大丈夫だ。これは後で父君と母君にでも手向けるとしよう。で、近頃どうだ、如月。森の生活に不便はないか?」

「うん、いつも通り、楽しく過ごしてるよっ」


ぱっと顔を輝かせてここ一ヶ月に起こった出来事を殿に報告しようとした如月は、ふと目を細めて殿を見つめた。


「殿、どうしたの?」

「うん?」

「元気……ないね……?」


殿はふっと肩の力を抜いてやれやれと笑った。


「如月にはすぐにばれるな」

「何かあったの?」

「……あぁ。如月、折り入って相談なんだが」

「なぁに?」


殿は少し迷うようにじっと池を睨んでから、ぼそりと呟いた。


「お前、今いくつだ?」

「私の歳? そんなのわかんないよ。殿だって知ってるでしょ? 私は……えーっと、そう、『みなしご』なんだって」

「……そうだったな。とにかく、だ。お前が見た目から判断して俺と同じか少し下の十七だと仮定しよう。いい加減いつまでも森で暮らしてないで、都市に入って、人並みの生活をしたらどうだ」


殿の言い方は如月の気持ちを黒くした。


「なに、それ。私が人間らしくないみたいな言い方。私には私の暮らしが……」

「この"月ノ宮"で働かないか、と聞いている」


如月の言葉を強引に遮って、殿は言った。


「へ? 月ノ宮って……この、殿のお城のことだよね?」


怒っていたことも忘れて首をかしげる如月。


「あぁ。俺の宮で、働かないか?」

「ここで……? 殿の、ところで……?」

「そうだ」

「……ずっと、ずっと殿の近くにいれるの!?」

「今の生活に比べれば、そうだろう」


殿の返事を聞いて、嬉しさに舞い上がりそうになりながら、すぐにでもやると言いかけた如月の脳裏にしかし、森の生活が思い浮かんだ。

小さいけれど快適な、日当たりの良い小屋。

毎日一緒に走り回るたった一人の家族、奈津。

夜になると月をたたえる綺麗な月の泉。

その他にもたくさんある思い出の詰まった森。それらを全て捨てなければならない……。



如月は手足が震えるのを感じた。私はどうしたらいいの……?



殿からの提案に悩む如月。

果たして彼女はどんな決断を下すのか……。

しかしそれは少し先のお話。

次話では如月を傍目に、殿がメインで動きます。


次話もよろしくお願いします。

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