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弐十壱 鈴風の思惑

如月の悩みの種。いざご対面です。

「こんにちは、夜光様。お久しぶりね」

「遠路はるばるようこそ、鈴風様。相変わらずのご様子で」

「もう早くこっちに来たくて一生懸命馬を駆ったから疲れちゃった。今回は最短記録で十五日! 我ながら頑張った~」

「十五日ですか。確かにそれはすごいですね」

「馬車じゃ通れないようなほっそーい道とか、案外近道が多いのよ。もう腰が痛くてたまんない」

「重ね重ねお疲れ様です。休憩なさいますか?」

「いいえ、せっかく来たんだもの、少し話しましょうよ」


応接室で久々に顔を合わせた鈴風は、本当に変わっていなかった。

何故来たのかは、たずねない。

いつも鈴風が明月ノ国に訪問するの理由は無いからだ。

ただなんとなく来たくなったから。

強いて言うならそれが理由であろう。

とりとめのない世間話を鈴風がするのを静かに夜光が聞く、いつも通りのやり取りをした後、鈴風が新たな話を切り出した。


「そうそう。私ここに来る前に佳代に会ってきたの」

「き……佳代殿に。彼女の様子はどうでしたか。元気にしていましたか? 故郷にはもうなじんでいたのですか?」


それまで如才なく受け答えしていた夜光が、如月の話題をうけて無意識に言葉に熱が入る。

そんな夜光の様子に鈴風は一瞬目を細めたが、すぐににっこりと笑った。


「それはもう。元気も元気、最初の方は私のこともなかなか思い出せないみたいでよそよそしかったけど、たった二日で姉さま姉さまって懐いてくれて、可愛いったらなかったわ」


鈴風の言葉に、如月の面影を重ねて、夜光はふっと微笑んだ。


「そうですか」


そんな夜光の様子に鈴風の笑みが深くなる。


「ねぇ、夜光様。それで興味深い話が一つあるのだけど」

「興味深い、ですか?」

「えぇ。貴方があの子にあげたもの、見ちゃったのよねぇ……雪姫の髪飾り」

「っ……」


夜光の瞳がかすかに揺れる。

その動揺を鈴風は見逃さなかった。


「やっぱり、夜光様が差し上げたのは"あの"雪姫の髪飾りだったの。今は亡き貴方の母君の御形見……」

「あれは……」

「弁解はけっこう。それよりもう一つ、面白い話を持ってきて差し上げたのよ。聞く?」


嫌な予感がする。

しかし夜光はうなずくしかなかった。


「……面白いのでしたら、ぜひ」


面白いと言うわりにはそれほど楽しげでもなさそうに、鈴風はすらりと言い放った。


「咲様が佳代に縁談を用意したらしいわよ。お相手は――」

「なんですって!? 如月に縁談!?」

「……」


鈴風の言を遮り、夜光は思わず身を乗り出した。

そんな彼に鈴風は冷ややかな視線を送る。

しかしそんなことには気づかずに、夜光は呆然と机に手をついていた。


如月に縁談……そう、縁談だ。

何故だろう、考えたこともなかった。しかし大いにありうる話だ。

華々しく帰還した葉華国の姫君。

幸い跡取りでもない彼女は"花鳥風月"という強い結びつきを持った団体の一国の姫で、しかも美しさまで兼ね備えている。さらに歳は十七。ちょうど適齢期だ。

数多ある国からしてみてもかなりの好条件。

縁談を考えてもみなかったなんて。自分は手紙さえ出せずに……。


「夜光様、どうかなさった? 佳代に縁談が来るのがそんなに意外かしら?」

「……いえ、意外ではありませんが、しかし――」

「意外でないなら何故かしら。私には夜光様がお困りのように見えるけど?」

「それはそうで……」

「佳代に縁談が来たらどうして困るのかしら?」

「……」


……そうだ、鈴風の言う通り、別に困ることなどないだろう。

如月の好意はごく自然なもので恋愛とかそういった類のものではなかった、それに……。

夜光はじっとこちらを見る鈴風に目を向ける。

それに、鈴風様がいる。


喜ばしいことではないか、如月に縁談。

そもそも彼女に自分の場所を増やせと言ったのは紛れもない己の口である。

ならばなぜこんなに衝撃を受けることがあろうか。


「……あまりに突然のことでしたので。取り乱して申し訳ありません」


静かに一礼して姿勢を正す。

鈴風は優雅に微笑んだ。


「私、今回は少し長い間ここにいることが出来そうなの。一緒に佳代へのお祝いの品選びなどさせてもらえる? あ、それからこの縁談、まだ公のことにはなってないから、内密に」

「……了解しました。では部屋を用意させます」

「ありがとう。お願いね」


鈴風が応接室を去ってから、夜光は再び部屋に戻って欄干に腕をかけていた。

輝く月の泉は相変わらずきらきらと太陽の光を反射している。


如月に、縁談……。


「夜光様」

「……」


辰実の声に、微かに首を動かし先を促す。


「鷹便が届いております」

「……誰からだ」

「葉華国姫君、佳代様にございます」

「なんだと!?」


思わずがばっと振り返ると、そこにはにやにやと笑う辰実の姿があった。


「冷静沈着、何事にも動じないと有名な月の君のこのようなお姿、いったい誰が想像いたしましょうか」

「やかましい、さっさと手紙をよこせ」

「御意」


昂ぶる気持ちを抑えて辰実がうやうやしく差し出した手紙を受け取る。


努めてゆっくりと読み進んでいた夜光の顔からはしかし、いつしか表情が消えていた。

余談ですが、如月はあまり達筆ではありません。なんとなく潰れている字。

そして夜光はすんごく達筆。今でいうお手本のような字を書きます。

耀映は字は上手いのですが、達筆と言うにはまた少し違う……個性的な字。

咲は流麗書体、と表現する感じの字。

鋭空は実はかわいらしい、今でいう丸字を書くイメージです笑

辰実殿はえらくかくかくとした字が好きだそうです。

ちなみに字そのものは私たちでも読める現代風の字、、にちょっと古風を混ぜた感じかなぁと。

さて、次回は如月の想いが語られます。


次話もよろしくお願いします。

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