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十九 咲の真意

今後の展開によってはもしかしたらこの回は編集することになるかもしれません。

よくよく考えて作ってはおりますので、そうならないことを願うばかりですが……。

未熟者で申し訳ありません。

ここから展開は加速していく予定なのでお付き合いくだされば幸いです。

足元がふらついていたのかもしれない。

如月はそんなことも分からないまま、何度も壁や人にぶつかりながら、ようやく部屋に帰りつく。

そして何かが切れたようにその場にへたりと座り込んだ。


「佳代様……」


遠慮がちな琴音の声に、ゆるゆるとそちらを向いた如月の目からふと涙がこぼれた。


「琴音……縁談だって……私に」

「……泣いておられます、佳代様」

「……」


ゆっくりと目を見開いて頬に手をあてた如月は、じっと涙の残るその手を見てから再びよろよろと立ちあがった。


「……どちらへ?」

「兄様のところ……」


ぼそりとそれだけ呟くと、如月は幽霊のような足取りで部屋を出た。

立ち上がった琴音についてこないで、とささやくように言ってから、歩き出す。


堯郷の部屋の前に立つと、取次ぎの人が取り次いでくれるのも待たないうちから、如月は声をかけた。


「兄様……佳代にございます」

「佳代?」


反問があって足音がしたかと思うと、堯郷が自分で襖を開けた。


「兄様……」


涙でぬれた如月の顔を見て、堯郷が眉をひそめる。


「佳代……どうしたんだ?」


如月を招き入れ、座らせて、堯郷も如月の前に座った。


「すみません、兄様……」


うつむいたままの如月に、使えと手拭いを差し出しながら、堯郷は答える。


「なにを謝っている。どうしたんだ? いったい。お前が泣いてるなんて……」


少し間があって、如月はぼそりと呟いた。


「兄様……私に、縁談が……」


予期していなかった話に少し言葉を詰まらせてた堯郷だったが、すぐに持ち前の柔らかい声で応じる。


「縁談だって? それは驚いたな……。でもいいことじゃないか。お相手は?」 

「よくなんて、ないです……」

「ん? どうして?」

「私は……殿が……夜光様が……」

「あぁー……そうか」


ようやく事態を飲み込めた堯郷がなるほどとうなずく。

如月はぐっと息をつめて顔をあげた。


「兄様、私は知らないところになど行きたくはないのです! 殿……夜光様は私に約束してくれました。待っててくれるって。私のことを。結婚とかそういう約束じゃないと思います、でもっ……!」

「あぁ、あぁ、佳代。分かっているさ。でもな、父上も母上も焦っておいでなのさ」

「焦って……?」


うーむ、と考えてから、堯郷は説明し始めた。


「"花鳥風月"は明月ノ国と同盟を結んでいて、その筆頭が水深国、というのは分かっているな?」


突然の話に戸惑いながら、如月はうなずく。


「ゆえに水深国は明月ノ国と深い仲を持っている。その水深国の姫は鈴風様だ」


同じような話を聞いた。たしかあれは鈴風様を待っているときに……。


「"花鳥風月"にとって大国である明月ノ国とのつながりは必要不可欠なものであり、切ることの出来ない生命線でもある。逆に明月ノ国においても、"花鳥風月"からの生産物を関税を通さずに仕入れていることから、大切な取引相手とも言える。そのことはお前も学んだな? つまるところ明月ノ国との絆は深ければ深いほど良いということだ」

「そうですね……」


それでもまだぴんとこない如月に、堯郷はため息をついた。


「つまりだ、佳代。絆を深めるもっとも有効で手っ取り早い手段は、縁談なんだよ。"花鳥風月"筆頭、水深国の姫君である鈴風様と、明月ノ国の殿方、夜光殿との縁談だ」

「えっ……」


殿と姉さまの縁談……?

殿と、姉さまが……?

二人とも如月にとってはかけがえのない大切な人だ。その二人が結婚するならそれほどいいことはない。

ない、はずなのに……。


「許嫁という形こそとっていないが、鈴風様はずっとそのおつもりでいらっしゃっただろう。何分あのご気性だ、何度も夜光殿のところには行っておられるし、熱をあげておいでだというお噂もある」

「そんな……で、でも耀映様がいるじゃないですか! 水深国と明月ノ国との縁談ならなにも殿じゃなくても……」

「あのな、佳代。鈴風様は水深国の一人娘、つまりは跡取りだ。彼女が他国へ嫁ぐわけにはいかないんだよ。婿養子にとれる人間を迎えなければならない。長男であってはならないんだ」

「そんな……」


呆然とする如月の頭に手を置いて、堯郷は続けた。


「でもお前と夜光殿がとても親しくなってしまった。お前がこの前話していた髪飾り、俺にもよくは分からないが、おそらく夜光殿のとても大切なものであるかなにかなのだろう。それがお前に送られたということに、そしてそれを運悪くよりにもよって鈴風様に見られたということに、危機感を感じた母上が父上にも相談して取りまとめた話なのだろう。

夜光殿に他意はなかったのかもしれない。しかしこのままいけば万が一の可能性として、水深国との関係が悪化して葉華国が"花鳥風月"からはじかれることだってありうる。鈴風様はまっすぐなお方であるからそのようなことはないと信じたいが……。

そこでお前の縁談だよ、佳代。早々にお前を他の殿方にめあわせて、水深国を安心させるつもりでおいでなのだろう」

「……」

「厳しい言い方をするとな、お前と夜光殿が一緒になることは、国と国とのバランスからありえないということだ。思い焦がれるだけなら自由だ。だがそれ以上は許されない。酷なようだが佳代、お前も早々に身を固めてしまったほうが楽だと思うぞ。それですっぱり、夜光殿のことは諦めろ」


頭が痛い。目の前がくらくらする。

如月は両手で顔をおおった。

殿と結婚するだなんてそんな大それたことを考えたことなんてない。

でも、他の人のところへ嫁ぐのも考えられないのだ。

殿のことを諦める? 殿へのこの気持ちを忘れる?

そんな、そんなこと……出来るわけがない。


「む、無理にございます、兄様……」


ようやく如月が絞り出した声に、堯郷は深いため息をついて如月の頭をゆっくりなでた。


「今すぐに、そんなことを言われても無理だと思うだろう。当然だ。でもな、よく考えろ。お前一人のわがままのために、この国を危うくすることがお前には出来るか? 今までお前が訪問して、関わってきた人々のあの顔を貧困の苦痛や悲しみに歪ませてまで、お前は自分の意志を貫きとおすことが出来るのか?」

「それは……」

「ゆっくり考えろ。あまり時間はないが、そこまで焦らせないように俺から母上に話を通しておく。いいな? それで今日はゆっくり休め。頭をすっきりさせて、また明日考えればいい。さ、自分の部屋に戻れ」

「……」


促されるまま如月は立ち上がって、かろうじて一礼すると堯郷の部屋を後にした。

部屋で待っていた琴音は、如月の様子を見て一瞬顔を歪めたが、てきぱきと動いて就寝の準備をすると、如月を布団に入れて、下がった。


ひんやりと冷たい布団にくるまり、如月は考えていた。

夜光のこと、鈴風のこと、咲のこと、この国の人々のこと、森のこと、奈津のこと、泉のこと……。

とりとめのない思考はなんのまとまりも持たないままやがては夢の中へと入り、如月はそこで久々に、森で奈津と共に暮らしていたころの生活を夢見ていた。



如月は知る由も無かったが夜の闇が濃い夜更けすぎ、そっと彼女の部屋の襖を開き、様子をうかがっている人物がいた。

少しして部屋に戻った彼は難しい顔をして考え込んでいたが、やがて紙と筆と硯を出すとさらさらと何かを書きつけ始めた。

如月、人生の岐路再び、です。

それにしても最近鋭空さんが活躍しない今日この頃……。

大丈夫、この後に彼にも出番がある! ……はずなのですが。

なんて言った矢先に次回はお久しぶり、月の君のご登場です。

この後! この後頑張るから許して鋭空、ごめん……笑


次話もよろしくお願いします。

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