十伍 自由奔放 鈴風
亀更新……です。
あっけにとられていた如月の前にあっという間に到着した鈴風は、見事に馬を御し着地するとすぐさま如月に飛びついた。
「やぁっだもう、佳代ってば全然変わってないじゃない!」
「ちょ、鈴風様……!?」
突然の抱擁に手をじたばたさせながらくぐもった声で必死に如月は叫ぶ。
鈴風は如月から体を離すと口をとがらせた。
「えー、ちょっと昔とおんなじ顔のくせに”鈴風様”なんて呼ばないでちょうだい。小さいころみたいに”鈴風姉さま”って呼んでくれて構わないんだから!」
「あ、えーっとじゃあ……鈴風姉さま……」
なにやら急に恥ずかしくなって視線をそらした如月に、鈴風は再び飛びつく。
「なに照れてるの、照れてるの!? 赤くなっちゃってやだ可愛い、なにこの可愛い生き物!」
言われてさらに赤くなりうつむく如月の頭を無造作にぐりぐり撫でまわしながら、鈴風は琴音に視線を移した。
「琴音も、久しぶりね」
「はい、お待ち申し上げておりました、お久しぶりでございます鈴風様。遠路はるばる、ようこそいらっしゃいました」
如月から手を放し、腰に手をそえて呆れたように鈴風はため息をつく。
解放された如月はそっと息を吐いた。
「相変わらず型っ苦しいわねぇ、琴音。まぁそんなところがまたいいんだけど。……うぅ、汗が冷えてきちゃった。中に入れてくれるかしら?」
「あ、気が付かなくて……どうぞ」
鈴風の前を城に向かって歩き出しながら、なんとも暖かい気持ちが胸に湧き上がってくるのを如月は感じていた。
さっき頭をなでてくれた鈴風様の手が、ふと別れ際の殿の手を思い出させて、なんだか鼻の奥がきゅっと痛くなったのは、気づかないふりをして。
「あぁ……この城は本当に、いつ来ても落ち着くわね……まぁ、言うほど来てないけれど」
如月の部屋の縁側。
そろそろ雪も降ろうかという時期寒いことは寒いのだが、如月のこじんまりとした庭は、なぜか殺風景な冬の景色のほうが映える。
「ところで鈴風さ……鈴風姉さま、今回はどうしてこちらに? また巡回ですか?」
縁側に立って伸びをする鈴風を、隣に座って見上げながら如月は問いかけた。
「どうしてって……何を言っているの? 佳代……」
何気なく投げた問いに、しかしひどく真剣な顔で返事を返されて、如月の胸には一抹の不安。
それと共に門の前での咲の様子も思い出してしまう。
やっぱり……何かあるの?
「あの」
「まさか佳代にそんなことを聞かれるなんてねぇ……」
「鈴風様……? いったい何が……」
すっと衣の裾をはらって座ると、鈴風はじっと困惑する如月の目を見つめた。
「あのね、佳代。私がここに来たのはね」
「は、はい……」
静かな時が流れる。如月は手汗をかくほどに緊張していた。
そんな中、突然鈴風がはじけたように笑い出す。
「あっはは、おっかしい! 佳代ったらそんなに張りつめた顔しちゃって! 私がどうしてここに来たかなんて、そんなのあなたが帰って来たって聞いたからにきまってるじゃない! 心配した? 何かあったんじゃないかと思った? 素直なのね、相変わらず。変わってないみたいで安心したわ」
「え? えっ……!?」
「どんな顔しても可愛いのね。本当の妹にしたいぐらいだわ。あぁー堯郷様が羨ましい!」
そこでようやくからかわれていることに気が付いた如月はあまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にした。
「す、鈴風様! 悪趣味ですよ!」
「あー、ほらほらまた戻ってる。"姉さま"ってお呼びなさい。気分だけでも味わいたいもの」
「こんなに意地の悪い姉さまなんて知りません!」
顔をそむけてみても、顔のほてりがおさまらない。
からかわれたこともそうだが、如月にとって鈴風の訪問の理由があまりに嬉しく、顔が熱いのだ。
そんな如月を見てけらけら笑って、鈴風は如月の頬をつついた。
「そんなこと言わないでちょうだい、佳代。でもむくれているのもまた愛らしいからよし!」
「よ、よしって……」
「ね、ね、冗談はこれぐらいにして、明月ノ国でどんなことがあったのか私に教えてちょうだい。なんでも夜光様にお会いしたんでしょう? 夜光様はお元気?」
「もぅ……」
困ったように笑いながら、如月は鈴風に向き直った。
「と……夜光様はお元気ですよ。どこから話せば良いのか……長くなりますが」
「かまわないわ……あ、でもお腹が空いたかも。夕餉をいただいてから、のんびりお茶をして聞かせてもらおうかな」
「わかりました。琴音、準備出来てる?」
「はい。ご案内いたします」
「さっすが琴音。出来る人は違うね~」
鈴風の軽口に一礼してから、琴音は静かに襖をあけて如月と鈴風を食事の間へといざなった。
微妙なところで切ってしまいました。
鈴風さん、テンション高いですね笑
次話もよろしくお願いします。