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十四 咲の憂い

気付けば一ヶ月以上更新が滞っていたとは……。

すみません、ようやく鈴風の登場です。

寒さでじんじん痛む手に息を吐きかけて、擦り合わせる。


(流石にちょっと寒かったなぁ……)


せめてもう少し温かな格好をして出てくれば良かったと後悔しながら、それでもわくわくする気持ちをとめることが出来なくて、如月はその場でぱたぱたと足を踏みかえていた。


「こら、そんなにそわそわして、はしたないですよ」

「あ、母上……」


城の前の道に身を乗り出さんばかりにしていた如月は、ゆっくりと歩いてくる咲のほうを振り返った。

手には肩掛けを持ちながら呆れたように笑う咲に、バツの悪い微笑みを返す。


堯郷に鈴風のことを聞いてから早四ヶ月、穏やかに吹いていた風は、鋭さを増して、人々が背中を丸めながら慌てて襟元をかき合わせる時期になっていた。

それほどまでになんだかんだと先延ばしになってしまった鈴風の訪問が今日、ようやく叶うのだ。

城の中でじっと待っていることなどできず、門の前で待つと飛び出した如月にそのままついてきた琴音も小さなくしゃみをする。


「ほら、ごらんなさい、こんなに寒いのに琴音にまで無理をさせて……」


そんなことを言いながら咲は手にしていた緑の肩掛けを如月に、青の肩掛けを琴音にかぶせてくれた。


「だって……私の過去に繋がっている人はそんなに多くないから……とても楽しみなんです」

「そうね」


咲はにっこり微笑んだ。

その笑顔に、如月は目を細める。


「母上? どうかしましたか?」

「……どういうことかしら?」

「何か気になることでもあるのかと……」


咲の顔に戸惑いが走る。

母は隠し事が苦手だ。すぐに顔に出るし、上手な嘘をつくだけの器用さも持ち合わせていない。

普段なら追及はしないことにしているのだが、事が事だ。楽しみにしていた鈴風との再開に何かあっては嫌だった。


「鈴風様になにかあるのですか?」

「……何でもないのよ、たいしたことでは……」

「たいしたことじゃなくても何かがあるんですね? 聞かせてください」

「佳代……」


ほっそりとした手を胸の前で組んで困ったような視線を向ける咲。

よほど言いにくいことなのだろうか。如月は少し身構えながら、それでも言いつのった。


「母上。私は鈴風様と会うのがとても楽しみです。しかし何かがあると知ってしまった今の状態では、どうしても偏見が生まれてしまいます。どうか、教えてください」


そこまで言ってもまだ決心がいかない様子の咲に代わって、鼻の先を赤くした琴音が一歩、前に出た。


「私が説明してもよろしいでしょうか?」

「琴音……」

「お願い、聞かせて琴音」


驚いて咲が制止する前に、如月は琴音に詰め寄った。


「鈴風様は夜光様とお知り合いなのです」

「……へ?」


琴音のあまりにあっさりとした答えに如月は目をぱちくりさせた。肩透かしをくらった気分だ。


「殿と知り合いならむしろ良いよ。殿についてもたくさん話が出来るし……」


そうだ。夜光のことを姉のように慕っていたという鈴風様と話ができればそれはさぞかし楽しいだろう。

無邪気に言う如月に、琴音は少しだけ目を細めて、そのまま続けた。


「つまり、鈴風様と夜光様がお知り合いということは、水深国と名月ノ国に深い仲があることを意味します」


話が見えない。如月は首をかしげた。


「それはそうだよ。名月ノ国とは水深国を筆頭に”花鳥風月”が同盟を結んでるんだから」

「……それはそうでございますが」

「ごめんなさいね、佳代。ただ夜光殿のことをあなたが今も懐かしんでるんじゃないかと心配で……。遠いからろくに会いにいかせてもあげられないし、これであなたの精神状態が崩れてしまうのではないかと不安だったの。取り越し苦労だったわね」


咲が琴音を遮った。そこに浮かんでいるのは確かに心配の色で、如月は曖昧に微笑み返した。


「なんだ、そんなことを母上は気にしていたんですか。大丈夫です、殿には会えなくても、ちゃんと殿の言葉は私の中にありますから……」

「そうね。……随分寒くなってきたわ。私は戻るわね」


如月の頭にそっと手を置いてから、くるりと背を向けて、咲は城の中に帰っていった。

不自然に急いでいる。如月はひょいっと琴音に視線を戻した。


「他になにかあるの?」

「いいえ、咲様がおっしゃった、まさにその通りでございます」


そう言って一歩ひいて腰を折る琴音。こうなっては何を聞いてももう駄目だろう。

白い溜息をついて、仕方なく如月は再び人気のない大通りを眺めた。


まだ何かあるのかもしれない。しかし、さっきの話を聞く限りではどうにも咲の心配のしすぎみたいだ。

気にするほどのことでもなさそうだから、如月は再び足をぱたぱたと踏み替えた。


「鈴風様、まだかなぁ……」

「そろそろいらっしゃいますよ」

「鈴風様ってどんな人?」

「佳代様、その質問はもう八度目でございます」

「いいから、聞かせてよ」

「そうですね……奔放な方ですよ、佳代様と似通ったところもございますね」

「うんうん、それから?」

「何事にもまっすぐに向かっていかれる方です。自分の願いはなんとしてでも叶える、そんな強さとしたたかさもお持ちの方です」

「うんうん、それで――」

「――花に例えると、でございましょう。紅蓮でございますよ」

「そっか」


いつものやりとりを繰り返し、如月は満足げに笑った。

琴音もやれやれと言わんばかりだが、それでもきちんとこの問答に付き合ってくれる。


「しっかし寒いなぁ」


再び足を踏みかえて、咲がかけてくれた肩掛けをきつく体に巻きつけて空を見上げる。

再会には生憎の、どんよりとした天気だが、冬なれば仕方がない。


「佳代様、鈴風様です」

「ほんとっ!?」


琴音の静かな声に如月は道に視線を戻した。

しかし、視界に入ったのは道を走る馬が二匹。


「琴音……?」


疑惑の視線を向ける如月に、琴音はかすかに笑いかけた。


「鈴風様は、奔放な方でございますから」



「かーーーよーーー! ひっさしぶりーーーー!」


かすかに聞こえてきた声に道に視線を戻すと、馬上の人影ががぶんぶんと手を振っている。

思わず手を振り返しながら、如月は驚きを隠せずにいた。

お気づきかと思われますが、紅蓮=薔薇です。

薔薇のような人っ! と言われてみたいものですね笑


次話もよろしくお願いします。

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