十 如月の正体
更新滞りました、すみません……。
ようやく明かされる鋭空と咲、そして如月の正体――
「如月が怯えています。そろそろ確認は良いのではないですか?」
夜光にぴたりとくっついて離れない如月を見て、耀映の発した言葉に鋭空はうなずき、如月の事をじっと見つめた。
「単刀直入に言おう。如月、君は私達の娘だ。名前は、佳代」
「人違いだよ」
頭が理解する前に口が動いていた。
少しして言われた事を理解してからも、如月は自分の言葉にうなずいた。
そう、私の口が言うとおり、人違いだ。だって、こんな偉い人たちが私なんかと関係があるはずがない。だって、だって……。
「佳代、思い出して。昔、今から十年前も前のこと……」
咲様が身振り手振りをまじえながら、必死で何かを話し出した。
それは、鋭空様と咲様と佳代という少女と彼女の兄にまつわる思い出話で、如月は心の底がざわつくのを感じていた。
それは、知らない。それは、覚えてる。それも覚えてる。それも、それも……。
聞きたくなかった。
何故かは分からない。でも何か、自分がこの人達の娘であると認めてしまったその先にあるものが怖かった。
「思い出さない? 佳代……」
一通り話し終えて、咲様はすがるように如月を見た。如月は目を合わせなかった。
「私は、如月だもん……」
精一杯言った言葉に、咲様がどれだけ傷つくか、考える余裕はなかった。
息を呑んで黙ってしまった咲に代わり、鋭空が話し出す。
「如月、混乱するのも無理はないと思う。だが、ようやくここまで私たちは辿り着いたのだ。十年前、お前がたった七歳のころ、隣国の暴動が私達の国にまで影響を及ぼし初めて、それにお前が巻き込まれて姿を消してから、咲と私がどれだけ心を痛めたか……」
如月は昨夜の事を思い出していた。近づいてくる不気味な足音。
――かつて、十年前に、私を暖かな幸せからひきはがしたのと同じ足音。
「どんな経緯があって君がここまで遠い国の森に暮らし始める事になったのかは知らない。だがたまたまこの国の近くに訪れていた私達が昨日の事件を聞いたとき、若い娘が――一人森に住んでいる身寄りのない若い娘が事件に巻き込まれたと聞いて、一縷の望みにかけてここまで来たのだよ。最初に君を見たとき、心臓が跳ね上がった。確認する必要もないと思った。だって、君は本当に昔の面影をよく残していたから。なぁ、如月、本当に、今咲が話した事に覚えはないのかい……?」
「……」
如月は俯いたまま、夜光の袖をかたくなに握った。
鋭空の想いも咲の想いも、痛いほどに伝わってきて――伝わってくるからこそ、どうしても認められなかった。
自分にまっすぐに向けられるその強い想いを、受け取ることが怖かった。
「如月」
しかし、夜光が静かに如月の名を呼ぶ、その低い声を聞いた途端に、ふと力が抜けた。
それでも顔をあげることはできなかったけれど。
囁くような静かな声で。
「……覚えてる。咲様が言った事、私、覚えてるっ……」
ようやく思い出されたようで。
果たしてここから、親子、感動の再会っ!
……と、いくのでしょうか笑
次話もよろしくお願いします。