ライオンとヴァンパイア
どいつもこいつも見た目で判断しやがる。
外面だけを見て何がわかるというのだ。何が駄目だというのだ。
そうやって人を色眼鏡で判断するのが大人のやり方なのか。
大人とは子供の見本となるべき存在ではないのか。
差別はいけません?
人類皆平等に?
は、差別や不平等を常とするお前らが言えた事か。
馬鹿らしい。
何もかもが馬鹿らしい。
私の何を知っている。
私の何を知っているというのだ。
何も知らないくせに、好き勝手言いやがって。
こんな世の中、狂ってしまえ。
こんな国、滅んでしまえ。
こんな世界は、死んでしまえ。
◆
私がその部活に入ろうと思ったのは、ただ楽そうに見えたからだ。
私が通う高校は生徒全員に部活動に所属する事を義務付けられているので、私は一番楽そうに見えた部活に入部しようと思った。
第一文芸部。
私に最も似合わないと思えた。
部室のドアを叩けば、現れたのはボブカットの女生徒。
スカーフの色が赤色だから恐らく二年。
その女生徒は私を見ると楽しそうに笑った。
―――おや、変わった子が来たみたいだね
と言いながら。
その時点で、私は既にこの部活に居場所はないと思った。
やはり見た目で判断される。やはり私は異端だと思い知らされる。
私の鬱屈した感情がその女生徒に伝わったのか、そいつは笑顔から真顔に変えて私の手を引いた。
―――とりあえず、中に入ろう。君の仲間はもう一人いるよ
と言いながら。
引かれるままに部室に入る。
別にこの手を払いのけてもよかったし、文句を言ってすぐに退室してもよかった。
けど、何故だかはわからないが、この女に逆らってはいけない気がした。
部室の中は色々な物が散乱していた。
机を挟んで両側に置かれた黒革のソファの上にはたくさんの紙が散らばっていたし、その正面に備えられた机の上には得体のしれない道具みたいなのが所狭しと並べられていた。
顕微鏡の様な形をしているが、レンズの部分に鉛筆が刺さっている。文芸部では使わない様な代物だった。
私がそれを見ていると、女は私から手を離し、部屋の一番奥にある机に歩いていった。
―――それは私のオリジナルだ。気にする必要はない。
歩きながらもそれの説明をしてくれる。
女が歩み寄っていった机の上には資料らしきものが山積みになっていた。一突きすれば雪崩を起こしそうな程に。
またもや私がそれを注視していると、女は説明してくれた。
―――ああ、これは先代が残した物だ。私の所有物ではない。しかし、どうにも捨てきれなくてな、と苦笑しながら。
後にそれは嘘で、捨てきれないのではなく、どう処理していいかわからなかったと知るのだが。
女は机に拵えられた黒革の高級そうな椅子に座った。資料の山から顔がやっと見えるくらいだ。
―――私はこの部の部長だ。そこにいるのは君と同じ新入部員。
女が指を差し、言ってくれた事でようやく気付いた。
部室に備え付けられた本棚の前。そこに男がいた。
この部室はそこまで広いものではない。中に入れば全体が視界に入る。
それなのに私は指摘されるまで、そこにいる男に全く気付かなかった。
背が高いのに全く。
―――今年は面白そうなのが二人も入った。さあ、お互い自己紹介だ。そうだな。レディファーストでいこう。君から頼むよ。ああ、勿論、二人は向き合ってね。
女が私を見ながら自己紹介するように促す。
女の顔は生き生きとした笑顔で、楽しくてしょうがないといった感じだ。
促されるままに私は男と向きあう。
男は私を見ても表情を変える事無く、無表情。
こういった反応をされるのは初めてだったので、私は少し戸惑いながら自分の名前を言った。
―――ふむ。良い名前だ。次は君だな。さあ自己紹介を頼むよ。
男は女に促されても口を開かない。
私の事をじっと見ている。感情の読めない目で。
数秒か、数十秒か、数分か。
正確な時間はわからないが、私と男はしばらく見つめ合っていたと思う。
しかし、男は思い出したかのように口を開いた。
―――お前、ライオンみたいでカッコいいな
と言いながら。