表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナンカヨウカイ  作者: スギヨシ ハチ
「折る」
7/11

第7話

 捜査の基本、現場百回。


 ってことで、俺は虎猫に姿を変え、手始めに花咲プールアイランド周辺で聞き込みを開始した。

 相手はもちろん、近所の野良猫どもだ。


「おはよう、お前ら」

 俺がたまり場に顔を出すと、二匹の野良がニャーとあいさつを返した。


「なんだい赤虎、仕事か?」

「まあな。お前らに聞きたいことがあるんだけど」


 俺は、ラッパみたいな妙な鳴き声を聞いたことがないかと訊ねた。

 二匹は顔を見合わせて、首をかしげている。


「聞いたことないなあ」

「そうか。変な鳥みたいなのは見てないか?」

「変な鳥? 見たぞ」

「マジか、どんなヤツだった?」

「紙飛行機みたいな妙なヤツ。向こうの方から飛んできて、あの建物に入っていくんだ」

 ブチ猫が鼻先で示したのは、やはりプールアイランドの入口だった。


「向こうの方ってのは?」

「町の方。学校がある方向」

「ふぅん、なるほど」

 俺は二匹に礼を言うと、町の方へと歩き出した。




 町へと向かう道すがら、頭上でバサリと羽音が聞こえた。

 見上げると、枝の上に黒い影がひらりと降り立つ。


「旦那、水くせえじゃないですか。調査ならあっしにもお手伝いさせてくださいよ」

「おー、クロノスケじゃねえか! 助かるぜ、お前ら翼のある連中が手伝ってくれりゃあ百人力だ」

「あっしは旦那の片腕、じゃなかった、片翼ですぜ。すぐにここいら一帯を調べてまいりましょう」

「よろしくな! 頼りにしてるぜ」

 カア、と一声残すと、クロノスケは再び空へと舞い上がった。




 古い屋敷が多い住宅地。塀伝いに歩くと、やがて大きな楡の木が見えて来る。木陰には三匹の猫が涼んでいた。

「おっす、久しぶりだな」

「おお、赤虎か。毎日暑いなぁ」

 伸びをしながらそう答えたのは、マルって名前の白黒の猫だ。こいつは近所のクリーニング屋の飼い猫で、俺とは顔見知り。


 ここでも俺は、ラッパみたいな鳴き声の変な鳥を見なかったか聞いてみた。

「その声なら聞いたよ」

 そう言ったのは、ウズって名前の虎猫だった。


「どこらへんで?」

「公園のあたりかな。朝早くに、ぱぁーんって感じの音」

「それ、俺も聞いた」

 もう一匹の灰色猫も顔を上げた。

「先週だよ。えらい騒ぎだったからよく覚えてる」


 ジロンという名前の灰色猫によると、それは早朝、ラジオ体操の際に起こったらしい。


 体操も終わりに近づいた時、突然音楽がぐにゃりとゆがんだようにひずみ始めたという。

 スピーカーからは不気味な不協和音とともに延々と同じフレーズが繰り返され、音源の電源を抜こうが電池を抜こうが、音楽が止められなくなったらしい。

 あまりの気味の悪さに子供たちは泣き出すし、大人たちも怖くなってきたころ、突然ぴたりと音楽が鳴りやんだ。

 そして、あの鳴き声が響き渡ったのだそうだ。 


「そりゃあ、ずいぶんと気味が悪いな」

「だろ? 大人たちもみーんな、真っ青な顔してたぜ」


 そいつは間違いなく、折り鶴の起こした怪異だろう。だが、そうなるとやはり気になるのは動機だ。一体なんのために、そんな怪異を起こすのだろうか。

 俺が考え込んでいると、頭上を黒い影がすいっと横切った。


「旦那、ここにいらっしゃいましたか」

 クロノスケがふわりと地面に降りて来た。


「ごくろうさん。何かわかったか?」

「ええ、例の鳴き声は、やはり花咲町内のみで聞かれてますね。だいたい小学校近くです」

「やっぱりそうか。他には?」

「小学校の校庭でサッカーをしていた子供が数人、軽いけがをしています。サッカーボールが急に変な動きをしはじめて、猛スピードでぶつかってきたと言っているそうです」


 プール、ラジオ体操、サッカー。

 夏休みの楽しい時間。そして、それらをぶち壊すような怪異。


(さて、もうちょっと情報が欲しいとこだが――)


 俺はマルたちに礼を言うと、クロノスケを連れて移動することにした。




 ショッピングモールの屋上。

 昼間はクソ暑いが、隣のビルの影になる一か所だけはまだマシだ。


 立ち入り禁止なので、当然ながら誰もいない。俺は影に潜ると、人の姿に化けた。猫のままじゃ、さすがに携帯電話は使えないからな。


『もしもし、まひる?』

「よう姫子、どうだそっちは。何かわかったか?」

『例の紙くずね、大体解析できたわ。あの【印】は、願いを叶えるまじないよ』

「まじか、俺もソレ欲しい」

『残念でした。これは本人の代わりに依代――つまり折り鶴がその願いを叶えるようにできてるわ』

「なーんだ。じゃあ世界征服とか願ったら、俺じゃなくて折り鶴が世界の帝王になるってことかよ」

『そういうこと。しかも、より凶悪なカタチで叶えるように仕組まれていたわ。世界征服を願ったとしたら、征服するはずの世界を滅ぼされてしまう感じね』

「うへぇ、とんだ開運グッズだな」

『ただ、制限があるの。ひとつは、世界征服みたいな大規模なものは不可能ってこと』

 だろうな。所詮は折り紙なんだし。


「ほかには?」

『もうひとつの制限は、贈られた側の願いを叶えるものだということ。自分で折り鶴を作っても、自分の願いを叶えることはできないわ』

「なるほどね……だんだん見えてきたぜ」


 俺は聞き込みで得た情報を並べてみる。

 プールにラジオ体操、校庭でのサッカーボール。


「なあ姫子。これが折り鶴の暴走によって起きたことなら、鶴を贈られた者の「本当の願い」は何だと思う?」

『それは……「楽しく遊びたい」とか?』

「正解! さすがは補習出席組だな」

『夏期講習だって言ってんでしょ、このバカ猫!』

「何怒ってんだよ。さては本当に補習だったんだろ」

『違うっての! それにしても、もしアンタの推測が当たってたとしたら、鶴に願った者っていうのは……まさか子供?』

「そ。間違いなく小学生――怪異が起こっている範囲からして、恐らく花咲小学校に通ってる」

 

 町のざわめきが、風に乗って聞こえてくる。どこか遠くのサイレンの音。犬の遠吠え、電車の音――小さな町の息遣いが聞こえてくる。

 少しずつ少しずつ、空は夕暮れに向かって傾いている。

 

『で、どうするの?』

「ここまでくりゃ、あと少しさ。明日の朝までには決着つけてやるぜ。ワタルのほうはどうだ?」

『今のところ問題なし、ですって』

「了解。また連絡する」

 それだけ言うと、俺は電話を切った。




「さすがは赤虎の旦那! もう事件は解決したようなものでございますね!」

 クロノスケが目をキラキラさせて、俺の顔をのぞき込んでいる。

「ばーか。これからが本番だっつーの」

「では、旦那。これからどちらへ?」

「タマさんに会ってくる」

 俺がそう言うと、クロノスケはヒェッと言って飛び退った。クロノスケはタマさんが苦手なのだ。

「心配するなよ、お前を連れていったりしないから」

 俺は笑いながら影に身を沈め、再び猫の姿へと身を変える。

「クロノスケ、今日はありがとうな。マジで助かったぜ」

「何をおっしゃいます! また何かできることがあれば、いつでもお声をかけてくだせえ」


 俺は尻尾を軽く振って応えると、柵の外へと飛び降りた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ