表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナンカヨウカイ  作者: スギヨシ ハチ
「折る」
6/11

第6話

 翌日、俺は朝早くから事務所へと向かった。

 事務所の中ではワタルがひとり、ヘッドフォンで音楽を聞いていた。なんだよこいつ、早起きだな。


「あ、まひるっち。おはよー」

「おっす。姫子いる?」

「まだ来てないよー」

「ったく、肝心な時にいねえんだから。補習だかなんだか知らねえけどさ」


「補習じゃないわよ、()()()()!」


 りんと響いた女の声。

 振り向くと、背の高い女が事務所の入り口で仁王立ちになっている。


 こいつが本城姫子(ほんじょうひめこ)。うちの事務所で唯一の人間だ。


 姫子は長い黒髪をさらりと揺らすと、つかつかと俺に歩み寄った。

「で? あたしに何の用?」

「おー、追試の合間に悪いな」

「だ、か、ら! 夏期講習だって言ってんでしょ!」

「そんなどーでもいいことは置いといて。お前、今回の事件の話聞いてる?」

「ええ、聞いてるわよ。あんた、溺れたんですって?」

 姫子は意地の悪いツラでニヤリと笑った。


「……おい、ワタル」

「おれ、言ってないよぉー!」

 ということは、俺の汚点をバラした奴は……。


「おっはよー! おっ、今日は全員集合じゃないの?」

 へらへらと手を振りながら、所長が姿を見せた。

「おいコラ、何が『おっはよー!』だ! このクソ親父! 余計なことバラしやがって!」

「なんだヨ、まひる。朝から機嫌悪いんじゃないの?」

 所長はおちゃらけたしぐさで自分の椅子に座る。

 俺はずいっと顔を近づけて、思いっきり睨んでやった。


「アンタ、知ってたんだろ」

「ん? 何のこと?」

「俺たちに依頼押し付けた時点で、プールで怪異が起きてるって知ってたんだろーが!」

「知ってたに決まってるだろ。そもそも、その怪異を解決してくれっていう依頼なんだから」

「だったら何で最初から言っとかねえんだよ!」

「最初から知ってたらつまんないだろ? 実際に怪異を体験したうえで、調査したほうがいいじゃないの」

「よくねえよ! こっちは死にかけたんだからな!」

「お前はそんな簡単にくたばらないだろ。オジサンはね、これでもお前たちのことを信頼してるのよ?」

「こっちはアンタのことなんて全く信用してねえけどな!」

 俺の文句もなんのその、所長はウシャウシャと笑っているばかりだ。あー! マジでむかつく!


「そんなに怒るなヨ。じゃあまひる、お前の見解を聞こうか。お前は今回の怪異について、どう見る?」


 はいはい。

 俺はポケットから例の紙くずを取り出して、テーブルの上にぽんと置いた。


「今回の犯人は、こいつを使って怪異を起こしてる」

「これは……?」

 姫子の視線が鋭くなる。

「みゆは折り鶴じゃないかって言ってた。ほら」

 俺はもう片方のポケットから、みゆの作ってくれた折り鶴を取り出した。

「みゆちゃんと晴一さん、これに触れたりしてないわよね」

「大丈夫。あいつらも分かってる」

 姫子はほっと息をついた。


「やっぱり何かの呪術?」

 ワタルが聞くと、姫子は頷いた。

「ええ。もう効力を失っているけれど。みゆちゃんの言う通り、これは恐らく折り鶴だと思う。見て」

 姫子は指を伸ばすと、紙くずの端っこを軽くつついた。

 そこにはかすかに、黒っぽい汚れがついている。

「これは墨で書かれた【印】よ。もしこれが折り鶴だとしたら、折りあがって初めて効力を持つように仕掛けられている」

「どういう効力なんだよ」

「そんなの、調べてみなきゃ分かんないわよ」

「ハア? 使えねーな」

 

 ――バチン!


 俺の目の前で火花が爆ぜた。 

 凍てつくような笑顔で、姫子が「雷撃」と書かれた札をこちらに向けている。


「てめぇ、何しやがる!」

「いちいちうるさいわね、この化け猫! 生意気言ってると祓うわよ!」

「ほー? やれるもんならやってみろってんだ。このポンコツ巫女が」

「なんですってぇ?」

「ちょっと、ケンカはやめてよー。それよりプールの怪異だよ!」


 おお、そうだった。俺は所長に向き直ると、改めて口を開く。


「犯人が誰なのか、何が目的なのかは分からない。分かってるのは、折り鶴が怪異を起こしているってことだけ」

「ってことは、犯人は――」

「ああ。妖怪じゃない。人間だ」

 

 犯人が妖怪なら、自分の妖力で怪異を起こすはず。

 呪術や依代を使うのは人間だけだ。

 

「じゃあ、あのラッパみたいな音はー?」

「それは鶴の鳴き声じゃないかって、ハルが言ってた。鶴はラッパみたいにでかい音で鳴くんだそうだ」

「でも、それは本物の鶴でしょ? 折り鶴は鳴かないじゃん」

 ワタルが言うと、姫子が首を振った。

「いいえ、呪によってはありえるわ」

「なるほどねぇ」

 所長がニヤリと笑う。


「犯行の目的なら、本人を締め上げて聞き出せばいい。犯人は誰なのか――こいつを徹底的に絞っていこうじゃないか」

 所長の言葉に、俺たちは顔を見合わせて頷いた。

 

「ワタル、これをプールの出入り口に貼っておいて」

 姫子がカバンから一枚の札を取り出す。

「これは?」

「呪術のかかったモノの侵入を拒むよう、呪がかけてあるわ。折り鶴が原因なら、これでひとまず防げるはず」

「おっけー、任せて!」

 無駄に張り切っているワタルに続いて、俺も立ち上がる。やることは決まった、あとは動くだけだ。

「姫子、お前は折り鶴にどんな呪術がかけられていたのか、詳しく調べといてくれ」

「わかった。まひるは?」

「俺は聞き込み」

「了解。そっちはよろしくね」


「ウチの社員は皆優秀だねえ」

 所長がそう言って、再びニヤリと笑う。

「笑ってねえで、今度こそクーラー直してくれよな!」

 俺はそれだけ言い残すと、気温の上がり始めた町へと飛び出していった。


 やれやれ、今日も暑くなりそうだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ