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ナンカヨウカイ  作者: スギヨシ ハチ
「折る」
10/11

第10話

 影の中で、俺は力を解き放つ。

 人だった「俺」が、ずるりと闇に溶けていく。

 

「なんだ、おい、奴はどこへ行った?!」

 焦りが滲んだ安土の声が、影の中でも聞こえている。ま、焦ったところでもう遅いけどな。


 草木も眠る丑三つ時――真夜中は俺たちの世界だ。

 よりによってこんな時間に妖怪にケンカを売るなんて、こいつ何も分かってねえよな。


 あたり一面は、深い闇。

 俺は黒々とした闇の中を泳ぐと、化け鳥の真後ろから飛び出した。

 

 ――ギャア!

 

 俺の牙が、化け鳥の首にめり込む。

 強く噛みしめると、ゴキリと鈍い音がした。


 ソレをそのまま投げ飛ばす。地面に投げ捨てられ、ぐったりと動かなくなった化け鳥の全身が、砂のように崩れはじめる。

「ああっ、そんな……俺の、俺の折り鶴が!」

 安土がどんなに嘆こうが、化け鳥の消滅は止まらない。

 やがて、ボロボロになった折り鶴が一羽、アスファルトの上にぱさりと落ちた。

 

 呆然と立ち尽くしている安土の背後へと、俺はわざと足音を立て、ゆっくりと歩み寄っていく。


「う、うあ……うああああっ!」

 安土は後ずさろうとしたようだが、足が動かなかったらしい。ただ恐怖の表情で俺を見上げ、わけのわからないことを喚いているばかりだ。


 まあ、それも仕方ねえか。


『その赤毛は夜の帳を燃やすかのごとく揺らめき、黄色い3つの目玉がびかりびかりと睨んでいる。丸太のような尾が3本、まるで大蛇のように(うごめ)いている』


 ……なんて、昔誰かが言ってたっけな。今の俺は、まあそんな感じの姿だと思ってくれ。


 俺が目の前まで顔を近づけると、奴の喉がヒイッと鳴った。

 口をがばりと開けてみせる。のどの奥でチロチロと踊る鬼火が、奴の前髪をジュッと焦がした。


 「ああああああああー!」

 

 派手に叫び声を上げて、安土はその場に倒れた。ごん、と硬い音が響く。後頭部を道路にぶつけたらしい。ざまあみろってんだ。

 奴が白目を剥いて泡を吐いたのを見届けてから、俺は再び影に身を沈めたのだった。



 

 その後、すぐに駆け付けてきた小鬼たちに安土を引き渡して、この場は終幕となった。

 

「ずいぶん手際よく、小鬼くんたちが来たものね」

「所長から連絡がいってたんだとさ」


 この小鬼どもは……そうだな、警察みたいなモン。

 今回みたいに怪異を起こした連中を取り締まるのが仕事だ。


 妖怪には司法は存在しないけど、人との関わりに関するルールはある。

 妖怪が人間を食らうのは現代では御法度だし、安土みたいに外法に手を染めるのもダメ。

 ルールを守れねえようなゲス共は、妖怪だろうが人間だろうが、小鬼どもに捕まっちまうってわけ。

 

 ……え、捕まった後どうなるかって?

 さあ、知らね。どうせロクなことにはならないだろうな。


「いやー! やっとこれで一件落着だね。プールアイランドの管理人さんも喜ぶよ。給料で何買おっかなー……って、痛い痛い! 何すんのさ姫ちゃん」

「バカね。まだ終わってないわよ」

「へ?」

 ワタルは普段と変わらぬアホ面で首をかしげている。姫子は盛大にため息を吐きながら、俺をちらりと見やる。

「まひる、あんたは分かってるでしょうね?」

「まあな」

「ホントかしら」

「おい、河童野郎と一緒にすんな」

 

 ぬるい夜風が、姫子の長い髪を揺らす。

 町はもう真夜中。

 寝ぼけた街灯の下、俺たちの足音だけが静かに響く。

 

「ワタル、ラーメン食いたい。おごって」

「えっ、なんで?」

「働いたら腹減ったんだよ。俺、塩ラーメンな」

「あっ、あたしもー」

「なに便乗してんだよ。お前戦ってねーだろ」

「あんただって大して戦ってないじゃない」

「ねえ。それより、何でおれのおごり前提なの?」

 

 朝が来るまで、まだ時間がかかる。

 俺たちはいつものようにグダグダ言いながら、屋台のラーメン屋へと向かったのだった。

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