表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/40

第四章−9:理事長の密命


 深夜。理事長宅の一室。

 窓の外には月の光すら届かず、重たい雲が空を覆っていた。室内では、理事長がひとりデスクに向かっていた。机上のホログラフが静かに光を放ち、そこに映し出されるのは組織の通信網から切り離された専用回線――外部には決して知られてはならない「裏の経路」だった。


 扉がノックされる。

 「……入って」

 返事と同時に現れたのは、無表情のまま歩み出るN−4だった。


 「報告に来ました。三人は現在、安定しています」

 「そう。ありがとう」

 理事長はペンを置き、彼女を見上げる。


 その眼差しには穏やかさがあったが、N−4は一歩も気を緩めない。彼女は知っている。理事長が見せる微笑の下には、冷徹な計算と長期的な布石が隠されていることを。


 「あなたには、特別な任務を与えるわ」

 理事長の声は、囁くように静かだった。

 「三人を“安全に”保護すること――ただし、私たちの手の届く範囲でね。組織の一部が暴走するかもしれない。アルセーネがそれを利用する可能性もある。あなたの判断で抑えなさい」


 「……命令として、了解しました」

 N−4は感情を表に出さないまま答えたが、内心は揺れていた。


 “安全に保護”――その言葉の裏にどれほどの含みが潜んでいるのか。理事長が「安全」という語を使うとき、それは決して「平穏」を意味しない。

 彼女の中に湧き上がるわずかな疑念は、機械的に訓練された理性によって押し殺された。


 理事長は立ち上がり、机越しにN−4へ近づく。

 「ねえ、N−4。あなたは私を信じている?」

 「信じる、という言葉の定義によります」

 「ふふ……答えになっていないわね」


 理事長は軽く笑うと、彼女の肩に手を置いた。

 「あなたは私の目であり、耳でもある。私たちの“計画”が世界の形を変えるの。そのためには――裏切り者がいないことが、何より大事」


 その瞬間、N−4の瞳がかすかに揺らいだ。だがそれを理事長が見逃すことはなかった。

 「安心して。あなたを疑ってはいない。ただ……もし、あなたの中に迷いがあるのなら、それも“観測”の一部として利用させてもらうわ」


 冷たい微笑とともに放たれたその言葉は、忠誠という名の首輪だった。


 やがてN−4は静かに一礼し、部屋を出ていった。

 扉が閉じる音が響いたあと、理事長は小さくため息を漏らす。


 「――やがて、誰もがこの月の裏側を見ることになる」


 独り言のようなその言葉は、通信端末の光の中に消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ