最初のバトル
取り合えずね、十話位までは公開しようと思っているんです。
それ以降は反応次第かなって考えてます。
「と、に、か、く! 魔法って言うのが存在するの。詳しくは後でちゃんと説明するから、取り合えずお兄ちゃんは使える所までやってみて」
魔法っていうのは、『自身の中に有るマナを事象に変える事』なんだけど、お兄ちゃんが気付いてないだけで日常的に魔法は使ってたんだよ。一般的には『マナを使った肉体強化』ってやつだね。
そうじゃなきゃ、分厚い鉄の扉を拳でぶち抜いたり、ピストルで撃たれて『痛い』で済む訳が無いんだよ。まぁ、お兄ちゃんの場合は生まれが特殊だから。怪我が直ぐ治ったり、病気にかからなかったりするのは、マナの活性だけが理由じゃ無いんだけどね。
でも、よく『謎修行』って言われたけど、毎日マナを鍛える瞑想をさせてたし。直ぐに普通の魔法も使える様になるよ。寧ろ、なってもらわないとこれから困るんだよ。わざわざお兄ちゃんをこの世界に連れて来た意味が無くなっちゃう。
「先ずは集中して! 火の玉をイメージするの」
「火の玉? 何言ってんだペスカ!」
「良いから、言う事聞いて。私を信じて! 火の玉を具体的にイメージするの」
ペスカの意図が、さっぱり理解できねぇ。火の玉のイメージって言われてもなぁ。ガスコンロ? それじゃあ玉じゃねぇし。たき火? そう言えば、ジャングルの中で火をおこすのはすげぇ大変なんだよ。
いやいや、そうじゃねぇ。火の玉のイメージだ。そう言えば、火山の噴火とか流れるマグマとかも火だよな。
「お兄ちゃん。ちゃんとイメージ出来てないでしょ!」
「いや、ペスカ。いきなり言われたって、直ぐに出来るもんじゃねぇだろ!」
「いいからするの! 余計な事を考えてないで集中しなよ!」
「わかったよ」
何か叱られた――。仕方ない、集中するか。要するに、『燃えるボール』みたいなもんだろ? 余裕、余裕。
「どうやらイメージ出来た様だね」
気が付いた時には、手の平の上に『火の玉』が浮かんでいた。
「うわぁ!」
びっくりして、思わずでっかい声を出しちまった。そしたら、火の玉は消えちまった。
「駄目だよ、集中を切らしたら」
「そうか……」
「慣れない内は、ちゃんと集中する事! 慣れたら考えなくても出来る様になるから」
「頑張るよ」
「次は、手の平に有る火の玉を投げるみたいにして」
「おう!」
何か少し楽しくなって来た。こんな魔法みたいな事が俺にも出来るなんてな。現実じゃ有り得ない事だしな。ここが異世界って所だから、こんな事が出来んのか? すげぇな異世界!
次は火の玉を投げるって言ってたな。先ずは集中して火の玉を作らないとな。燃えるボール、燃えるボール。それが手に乗ってる所をイメージすると、不思議な力が手の平に集まっているのを感じる。多分、この力が魔法の源なんだろうな。
最初の時は良く分からなかったけど。二回目だしな、何となく感覚は掴めたぞ。あれだ、ペスカにやらされた『謎修行』の時に感じるやつだ。
ほら、火の玉が出た。
今度はそれを投げれば良いんだよな。適当に投げたら、火事になりそうだしな。取り合えず、地面に向けて投げてみっか。
火の玉のイメージを崩さない様にして、ボールを投げる様に腕を振るうと、そのまま地面にぶつかって弾ける。火花がちょっと足についたけど、火傷する程じゃないしズボンに穴を空ける程でもない。
「やったぞペスカ」
「やっぱりやれば出来るじゃない」
「すっげぇな! なぁ、すっげぇよ!」
「はしゃいじゃって可愛い」
「だってさ、魔法だぞ魔法!」
「次やる時は、名前を叫ぶと上手くいくよ。頑張れお兄ちゃん」
そうやって、お兄ちゃんは何度も地面に向かって火の玉を投げ続けた。子供みたい。夢中になっちゃってさ。でも、夢中になってるから気が付かない事も有るんだ。
ここに来たばっかの時、動物達はお兄ちゃんを警戒して近付こうとしなかった。圧倒的な威圧感を放ってるからね。極たまに、それに気が付く人も居る。だけど、動物はそういうのに凄く敏感だから。
今のお兄ちゃんは子供みたいにはしゃいでるから、威圧感を全く感じない。だからかな? これだけ集まって来ちゃったのは。十匹は居るね、囲まれてる感じだね。まぁいっか。十匹程度なら何とかなるし。寧ろ、お兄ちゃんの訓練に丁度良いし。流石に、お兄ちゃんも気が付く頃だし。
「どうやら騒ぎすぎた様だな」
「うん。囲まれてるね」
うん。気が付いたね。お兄ちゃんにしては遅いくらい。ザザって音を立てながら、動物達が繁みから出て来る。ざっと見た感じ、角ウサギが多いかな。お肉が少し硬めで食べ辛い。後は双頭蛇か、こいつのお肉も硬くて食べ辛い。後は穴熊だね。お肉が意外と美味しいんだよ。
この森に住んでるのは、大きくても穴熊程度だし。魔法の訓練と今日のお夕食の為に、やられてくれたまえよ、君達。
「さぁお兄ちゃん! いってみよ~」
「何をだよ!」
「火の玉を連射して、奴らを殲滅するのだ~」
「おい! って」
会話を続ける暇は無かった。一匹の角ウサギが真っ先に飛び掛かって来る。スピードはそれ程早く無い。だから、避けるのは訳ない。でも、それじゃあ意味がねぇんだろ? ペスカ。だって、「角ウサギ程度の小動物相手に逃げるなんて、お兄ちゃんらしくないよ」って言うんだろ?
アマゾンで生き残る為の最大のコツは、慎重になる事だ。危険を冒してまで戦うのは、死にたがりがやる事だ。カラフルな蛇は毒を持ってるはずだ。万が一にも噛みつかれたら、そこで人生は終了だ。
それに、周りの木が味方とは限らない。何せ花が牙みたいだしな。襲われてもおかしくない。周りが全て敵みたいなもんだ。ましてや、火の玉を投げるのも安全とは言えねぇよ。木に燃え移って森林火災になれば、一巻の終わりだ。
でも、今回は別だろ? いざとなったら、ぶん殴ればいい。そっちなら、全てを始末するまで五分もかからねぇ。
勢い良く飛んで来るやつは、角を正面にしてる。あの角が刺さったら結構痛いだろ。その『ミサイル』みたいなそれを、ギリギリまで引き付けて火の玉をぶつける。角ウサギは「ギャン」って鳴いて、火だるまになりながら後ろに吹っ飛んでいく。
最初の一匹に続く様に、次の奴等が飛び掛かってる。流石に連続じゃ迎撃出来ねぇ。何匹も一斉に飛んで来る『角ウサギミサイル軍団』を、右に左に早く走って避ける。そんで、一匹ずつ飛んで来る様に誘導する。走りながら火の玉を作って、その内の一匹を丸焼きにする。こっちに飛んで来た所を、至近距離でぶつけたんだから外す方がおかしい。
それを何度か繰り返せば、『角ウサギミサイル』は終わりだ。後は、カラフルな蛇と異様にでかい狸か。ただ、流石にやり過ぎたか? 蛇と狸は俺から少し距離を取ってる。わざわざ出て来やがった癖に逃げ腰とか、やる気があんのかねぇのかわかりゃしねぇ。
でも、火の玉を投げるのにも慣れて来た。それと、今更逃げ様なんて虫が良過ぎじゃねぇのか? まぁ、逃げるんなら追ってまで倒さねぇけどな。後は睨み合いだ、これに負けた方が逃げるってんで良いよな?
じり、じりっと、でかい狸は後退る。カラフルな蛇も俺達を餌にするのは諦めた様だ。体を大きくくねらせながら、器用に方向転換して繁みの中に消えていく。
「お疲れ~、お兄ちゃん。やっぱりやる子だね、お兄ちゃんは」
「あぁ、ありがとうペスカ。怪我は無いか?」
「お兄ちゃんが守ってくれたし大丈夫」
ペスカに怪我が無い事はわかってる。だけど、一応は確認しとかないと。でもな、問題はそこじゃねぇんだよ!
魔法に夢中で囲まれるまで気が付かなかった俺は、最低最悪だ。でも、良く分からねぇ光みたいなので、こんな所に連れて来たペスカの意図がわからねぇ。
俺だって、流石にそこまで馬鹿じゃねぇ。ここが地球じゃない事は理解してる。夢じゃない事も理解してる。VRみたいなゲームじゃない事も、ちゃんと理解してる。
それなら、何でペスカは俺をこんな所に連れて来た? たまたま出くわしたのが、弱そうな奴等だったから良かったけど、夢の中に出て来た様な化け物が相手だったら、本当に命はねぇんだ。
俺が怪我する位はどうって事ない。そんなの直ぐに治っちまうんだから。でも、ペスカは違うだろ? 頭が良くて可愛いだけの、普通の女の子だろ? ちょっと変わり者の所は有るけど、そこも含めて俺の大切な妹だ。だから、ペスカが怪我するのだけは、絶対に無しだ!
「そんで? そろそろ喋る気になったか?」
「いや~、何の事かなぁ?」
「いい加減にしないと、兄ちゃんだって怒るぞ。夕飯はお前の嫌いな、ネバネバ尽くしにするからな」
「ネバネバ嫌いはお兄ちゃんも一緒じゃない。馬鹿なの?」
「じゃあ何なんだよこの状況! お前なにか知ってんだろ!」
思わず怒鳴り散らしていた。ペスカと暮らし始めて十年間、叱る事はあっても、ここまで激しく怒鳴った事は無い。強く言い過ぎた。ペスカは俯いてる。少し覗き込むと目に涙をいっぱい溜めている。やがて、ペスカの目から大粒の涙がポロポロと零れだした。
「ばか~! お兄ちゃんのばか~! そんなに怒鳴る事ないじゃない! 嫌い~! お兄ちゃん嫌い~!」
「ご、ごめんペスカ。兄ちゃんが悪かったごめん」
ペスカが泣き止んで機嫌が収まるまで、色んな手で宥めた。泣いているペスカを見るのが、一番しんどいし辛い。ペスカが落ち着くのを見計らうと、今度は優しく話しかける。
「なぁペスカ。知ってる事があったら、兄ちゃんに教えてくれないか?」
「ぐすっ。良いよ。ぐすっ。何が聞きたいの?」
「ここは何処だ?」
「異世界。ぐすっ」
「それじゃ話になんね~よ。そう言えば旅行、駄目になっちゃったな」
「大丈夫。ぐすっ。目的地ここだから」
「はぁ? 何言ってんだお前」
「だから、目的地はここって言ったの」
やっぱり、ペスカの言葉の意味を理解が出来なかった。この時に、ちゃんと理解していれば良かったのか、それとも……。どっちにしても、俺は不可解な出来事に巻き込まれちまった様だ。
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