魔法の存在
二話目です。やっぱり違和感があるかな? どうかな?
それと、五千文字って長いよね~って事で、少し短めにしました。
面白いって思ってもらえると良いな。
段々と光が消えていく。目の前の風景が明らかになっていく。そんでさ、目の前に広がってるのは、見慣れた住宅街では無いんだよ。鬱蒼とした森の中だよ。家はさ、一応は東京都に有るけどね。閑静な住宅街に建っている普通の家だよ。確かにさ、『自宅を出たら森の中なんて有り得る訳が無い』と思うでしょ? それが有るんだな~。
お兄ちゃんは口をあんぐりと開けている。目をまん丸にしている。それにしても、目をまん丸って相当びっくりしたんだね。フフフ、やったぜ!
お兄ちゃんは直ぐに振り返ったけど、もう私が玄関のドアを締めちゃったからね。もう帰れないんだよ。三百六十度見渡しても、ここは日本じゃないからね。勿論、白昼夢でもないよ。お兄ちゃん、目をパチクリしても何も変わらないんだよ。
でもさ、こういう時って普通の人ならどんな反応をするのかな? ドッキリだって思い込んで、隠しカメラを探すのかな? それとも慌ててスマホを取り出して、電波が通じるか確認するのかな? 「やったぜ異世界! これからチート能力でやりたい放題だぜ!」とか言って意気揚々に探索を始めるのかな? いや、流石に最後のは無いか……。直ぐ冷静になって行動出来る人なんて居ないよね。あのお兄ちゃんですら、一度振り返って以来まったく動かないんだもん。
ボケッとしているお兄ちゃんを眺めてるのも楽しいけどさ。何なら、ずっと眺めてたいけどさ。流石にこのままって訳にはいかないかな。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃんってば」
サプライズのつもりだったんだけどさ、ちょっとやり過ぎちゃったかな? お兄ちゃんは何度呼びかけても反応しない。
「お~い! おに~ちゃん~! おにいちゃんや~い。聞こえてますか~?」
「あ、あ、あぁ! ペスカか? ちゃんと居るのか?」
「居るよお兄ちゃん。さっきからず~と呼んでるのに」
「それよりペスカ! 痛い所無いか? 苦しいところは? 頭とか大丈夫か?」
「平気だよ。ってゆうか平気じゃないの、お兄ちゃんでしょ? 何度呼んでも無視するし」
ようやく反応したかと思ったら、最初に私の心配するのはやっぱりお兄ちゃんだね。妹ラブだね。私ラブでも良いんだよ。でも、堅物のお兄ちゃんには酷な話かな。その辺りはまだまだじっくり攻めた方が良さそうだね。
会話が出来る様になったけど、まだまだ現実を受け止めるには時間がかかりそうだね。そりゃそっか、この森に生えてる植物は地球にないから。毒々しい色の実を付けた木とか、牙みたいな花弁の花とかね。
ちょっと脳筋よりのお兄ちゃんでも、イチョウや楓の木くらいは知ってるしね。何度もパパリンにアマゾンへ独りで取り残されてたし、アマゾンの植生の方が詳しいかもね。だから、やっぱりビックリだよね。
キョロキョロして、その度に目をまん丸にして。お兄ちゃんってば可愛い。フフフ、これを見たかったんだよ。でも、暫くしたら深呼吸して落ち着こうとする所は、やっぱりお兄ちゃんだね。ただね、何度見ても玄関はもう無いからね。
「なぁペスカ、玄関無くなってねえか? ってかここ何処だ?」
「う~ん。異世界?」
「はぁ? 何言ってんだペスカ! 異世界なんて有るわけ無いだろ!」
「じゃあ、お兄ちゃんは何処だと思うのよ」
「アマゾンなら行ったことが有るし、東南アジアとかアフリカの奥地とか?」
「馬鹿だな~、お兄ちゃんは。こんな変な植物が、地球に生えてる訳無いじゃない!」
ペスカは人食い植物みたいなのを指さした。いや、あんなのは地球の何処かを探せば有るかも知れないじゃねぇか? それよりも何かしっくり来ねぇのは、ペスカが呑気過ぎる事だ。
そう言えば、玄関を開ける前にブツブツ言ってやがったな。それと、玄関を開けた瞬間に、ビカって光ってすげぇ眩しかったな。今のこれは、それが関係してんのか? それなら、ペスカが何かしやがったのか?
だからと言って、『開けたら別の場所なんて扉』なんてのは、アニメの中だけのモンだろ? この世に存在してねぇって位は俺でもわかる。それなら、ペスカは何をしやがったんだ?
「ペスカお前、なんか冷静だな」
「う~ん。お兄ちゃんが役立たずだしね」
「何か隠してるのか? 怒らないから、全部話してみろ」
「あはは、やだな。お兄ちゃんってば、アハハ」
「話す気はねぇのか? でも、場所がわからないなら帰る事もできねぇんだぞ」
「だから、異世界って言ってるじゃない。信じてないお兄ちゃんが悪いんだよ」
ペスカの言っている事が全然理解出来ない。異世界なんて有るはずが無い。もしかすると、俺がずっと感じてた不安ってのは、これの事なのか? 流石に無い無い。でも、顔に当たる生暖かい風は本物だ。VRとかじゃ感じられないリアルだ。匂いもだ、ここは間違いなく本物の森だ。俺の五感が、嫌って程に現実を突きつけて来る。
ただ、理解出来た事は有る。この森から出ない限り、帰る事さえ出来ないんだ。もう旅行どこじゃねぇ。せめて、人が居る場所に辿り着かねぇと。こんな訳の分からねぇ場所で遭難なんて冗談じゃねぇぞ。
「まあ、此処にいても仕方ないし、取り合えず森を出るか! そうすれば帰る方法も見つかるかも知れないしな」
「そうだね、お兄ちゃん。レッツ異世界!」
「元気だなペスカ。隠し事は今の内に話せよ。そうじゃ無いと、すげぇ痛いお仕置きするからな!」
そうは言っても、どちらに進めば良い? アマゾンに取り残された時は、川をさがしてたな。下流に向かって下っていけば海に辿り着くしな。それに水の確保も出来る。俺の場合は生水を飲んでも、変な物を食っても、多少腹が痛くなるだけで直ぐに直るしな。でも、今回はペスカが居るんだ。慎重に進まなきゃな。
ただよぉ、殆ど光が差さないから方向がわからないだよな。
「こっちだよ、お兄ちゃん」
「はぁ? お前、どっちに行けば森を抜けられるかわかってるのか?」
「そりゃね。ここに連れて来たのは私だし」
「あのなぁ、そういうのは先に言えよ」
思わず溜息が出る。いや、仕方ねぇだろ。この現実をイマイチ受け止められてねぇんだ。でも、やっぱりというか何というか、ペスカは何か隠してやがる。ここが異世界ってのは、一先ず置いといて。
暫くペスカに従って歩いていると、やっぱりアマゾンとは違うのはわかる。ジャングルだったら、大体生えてる植物は似るもんだろ? 理科で習った熱帯雨林何とかってやつだ。だけど、ここは明らかに違う。それに一メートルを超えるデカさの蜘蛛なんて地球に存在すんのか? 足だか毛だか触手だか、よくわかんねぇのがいっぱい生えた生き物も見た事ねぇ。それなら、本当にここは地球じゃないのか? それなら帰る所の話しじゃねぇぞ。
辺りの気配を探ると、動物の気配らしきものは感じる。だけど凄く遠い。襲って来るって感じでもねぇ。でも、絶対に油断はしちゃいけねぇ。ここは見知らぬ何処かなんだから。
「ペスカ、止まれ」
出来るだけ静かに言ったつもりだ。近くの繁みに何かが居る。流石に虫か動物かまではわからないけど。俺はペスカに目くばせをした後に、気配を消して足音を立てないように繁みに近づいた。
そして、繁みに右手を突っ込んで何かを捕まえた。それを繁みから引っ張り出す。そいつは、ウサギに似てる。でも、ウサギじゃない。グルゥ~と低い声を上げて、鋭い歯をむき出しにしてる。頭には刺されば致命傷が確定じゃないかって思える様な、尖った角が生えている。
「ウサギ? それにしちゃあ角が生えてるけど」
「いや、流石はお兄ちゃんだね。怖いとかないの?」
「この位は捕まえられねぇと、生きていけなかったしな」
「パパリンのおかげだね」
「おかげとか言うな。それよりこいつ、焼いたら旨そうだな」
「美味しいよ。この辺に生息している小動物だし」
「何にせよ、この角だけは折っとくか」
左手に力を込めて砕くようにして角を折った。バキッと大きな音が辺りに響き渡る。ペスカが「お~」と言ってる。
「まさか角ウサギの角を、道具も使わずに折る人は初めて見たよ」
「それなりに握力はあるからな」
「因みに何キロ?」
「右が百位で、左は百二十位は有ったかな?」
「もう、一般人じゃないね。元々、野生児そのものだけど」
「まぁでも、無事なら良いじゃないか」
「お兄ちゃん! 甘い! 甘すぎるよ!」
「何がだよ?」
「だってさ、もうわかってるよね。ここは日本でも地球のどこかでも無いんだよ。お兄ちゃんの常識は通用しないんだよ!」
「それで?」
「だから、お兄ちゃんが今までしてた狩りの方法は一旦忘れてね」
「どういう事だよ?」
「だからさ、この異世界にふさわしい戦い方を、私が伝授してあげよう」
「胡散くせぇなぁおい。お前が教えてくれる戦い方ってのはどんなんだよ!」
「ふっ、青臭いガキに教えてやるのは勿体ないが」
「いいから話せ!」
ちょっと悪ふざけが過ぎたかな? でもさ、お兄ちゃんが驚いた顔をもっと見たいんだよ。滅多に見れるもんじゃないんだしさ。でもさ、頭をゴツンってするのは良くないよ。お兄ちゃんの馬鹿力でゴツンされると、すっごく痛いんだよ。涙が出て来るんだよ。ジンジンジンってしてるよ。お兄ちゃんの馬鹿!
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