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兵站将校は休みたい!  作者: しろうるり
第3章

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【8:手配と伝手】

 翌日の午後。

 ブラウエル少尉や部隊付きの軍吏員と打ち合わせをしているところへ、当番の下士官が現れた。


「アルバロフ大尉殿に御来客です。アーデライドという女の剣士……冒険者? なのですが」


 ああ、とレフノールは頷いて席を立った。


「会おう。執務室の方へ通してくれ」


 はい、と一礼した下士官が廊下を早足で歩み去る。


「すまん少尉、昨日の連中と少々話してくる。君らは戻るまで休憩としよう。一息入れていてくれ」


 折よくと言うべきか、午後のお茶の時間が近かった。もちろん、軍にそのような休憩の規則はないが、レフノールがなにかと口実をつけて設ける短い休憩の時間の評判はよい。

 執務室、とは言っても、打ち合わせをしていた会議室は隣の部屋だ。廊下に出ることもなく行き来ができる。レフノールがあてがわれた席へ戻ってすぐに、廊下に続く扉がノックされた。


「大尉殿、ご案内いたしました」

「通してくれ」


 案内された客は4人。冒険者たちは揃って出向く、と決めたようだった。


「よく来てくれた。かけてくれ、話を聞こう」


 執務机から少し離れた小さなテーブルと椅子を手で示したレフノールに、アーデライドがああちょっと待って、と応じる。


「まず結論だけ言うよ。例の話、あたしたちは受けることにした」

「ありがとう。君たちが引き受けてくれて助かる」


 そう答えて、レフノールはもう一度、テーブルと椅子を手で示す。


「じゃあ、条件は昨日話したとおりだが」


 席に着いた4人に書面を示し、


「そこの下の――そう。目を通して問題がなければ、ひとりずつ署名を頼む」


 署名が済むと、レフノールは右手を差し出した。4人がそれぞれに手を握り返す。


「改めて、よろしく頼む。話したとおり、君らは下士官――軍曹待遇の軍属、ということになる。配置としては俺の下だな。軍規には従ってもらうことになるが、今までとそう大きくは変わらない。辞めたくなったならば、手続きを踏めばそれで辞められる」

「路銀だの食事だのは持ってもらえるんだよね?」

「もちろんだ」


 アーデライドの質問に、レフノールが頷く。


「君らは装備も自前だろうが、必要なモノがあれば言ってくれ。特殊なモノでなければ調達できる」

「差し当たっては何すればいいの、大尉さん?」

「例の、地図と地誌の作成だなあ。こっちの準備はもう少し時間がかかるが、その間に先行して色々見ておいて貰えると、その後の話が早くなるからな」


 実際的な質問を飛ばしたヴェロニカに、レフノールは即答した。

 任地の詳しい情報がないままでは、補給の計画を立てたとしてもすぐに修正が必要になる。着いてみてから調べて修正して、といったことをするよりは、必要な情報を先に調べておく方がいい。


「橋があれば、そこは特に念入りに調べておいてくれ。馬車を通せないような橋じゃ役に立たんし、場合によっては工兵を出して補修なり補強なりをさせなきゃならん」


 レフノールの言葉に、コンラートが、ああ、と頷く。


「逆の話かと」

「それもある。――そっちはあまり大っぴらに口にするなよ」


 手の入れ方次第で、橋は馬車が通れるように整備することもできるが、コンラートが言うのはその逆、つまり『落とせそうな橋を見繕っておく』という話だ。ある意味で撤退戦の常道で、だが、それは自分たちが負けることを前提にした下調べでもある。大っぴらにしない、というのはそういうことだった。


「リオン、君にも頼みがある」

「神殿関係で、ということですか?」

「そうだ。本部を置くパトノス、駐屯地になるアトルスとエディル。少なくともその3か所の神殿には、俺からの書状を届けて、世話になることがあるかもしれない、という話を通しておいてほしい」


 怪我人や病人は部隊で抱える療兵に任せるにしても、死人が出てしまえば神殿の世話にならざるを得ない。そうでなくとも繋ぎを取っておくに越した話はなく、神官であるリオンはその使者としては適任なのだった。


「もちろん、お引き受けします」


 リオンが笑顔で頷く。


「じゃあ君たち、近いうちに早速、調査に出向いてくれ。必要な路銀は渡す。念のため、うちの隊長から第4軍団への協力要請の手紙も出せるようにしておく。出立までに、何日必要になるかな?」


 そうね、と指を折りながら、アーデライドが首を傾げた。


「今日を入れて3日、準備に貰おうかな。明後日までね。明々後日の朝に、出ることにするよ」

「わかった。明後日の夕方までに、路銀を受け取りに来てくれ。こっちで調達すべきものがあれば、明日の昼前までに」


 了解、と答えて、アーデライドが席を立つ。3人の仲間もそれに倣った。


「ああ、大尉、出来上がったものは、いつどこで渡せば?」


 立ち上がってしまってから、コンラートが尋ねる。


「君らが発ってからひと月後、パトノスで。緊急の用件があれば、第4軍団経由でこっちに伝えてもらえるように手配しておく」


 わかりました、とコンラートが頷く。4人の冒険者たちは、改めて挨拶をして退出した。


※ ※ ※ ※ ※


 短く、そして無事に済んだ話に安堵しながら、レフノールは会議室へと戻った。


「すまん、待たせた」


 何やら雑談をしていたらしい吏員たちとブラウエル少尉が立ち上がろうとするのを、いいよ、と手振りで制して、レフノールは元の席へ座る。


「どこまで話したかな」

「職人たちの人数までです、大尉」


 少尉の返答に、ああそうだった、とレフノールが頷く。

 軍の兵站には、様々な種類の職人が必要になる。武具の補修には鍛冶師や革工職人、駐留する兵舎や建具は木工職人や左官。街道の整備までを考えるなら、石工も必要になってくる。

 最低限、どのような職人がどこで必要になるかをレフノールたちは議論し、取りまとめていたのだった。


「第4軍団で抱えてる連中は、頼んでも出しちゃくれないだろうなあ」

「まあ、そうなると思います」


 レフノールが愚痴のようにこぼした言葉に、ブラウエル少尉が相槌を打つ。この類の職人は不足気味なのが常態だった。新設された部隊からの依頼があったとして、はいそうですかと必要な人数を派遣してくれるとも思えない。


「エリムスかパトノスのギルドに、派遣を依頼しよう」

「常道ではありますが、伝手が――」


 職人たちの同業組合であるギルドは、同業者の保護のために成り立っている組織だ。だから当然、外部の、それも新参の客に対してはあまりいい顔をしない。相手が軍であっても同様だ。適当な人物なり組織なりからの紹介がなければ、なかなか取り合ってはもらえない。

 ブラウエル少尉の指摘に、レフノールはにやりと笑ってみせた。


「伝手なら、俺に心当たりがある」


信頼できる外注業者に、契約社員になってもらいました、的な。

こんなとんとん拍子に話が進む世界なら、中の人はどんなに楽ができるか……(澱んだ目

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― 新着の感想 ―
予算という壁 そも適切に信頼できる相手の確保という深淵の断絶 飛び越えることを切望するも我が背に翼はなく、雨は礫のごとく身を打つなり
個人の伝手が、光る!
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