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兵站将校は休みたい!  作者: しろうるり
第2章

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54/101

【16:ラーゼンにて】

 翌日の昼下がり。

 ベイラムが率いる兵站小隊は、無事にラーゼンに到着した。


 整列した小隊の面々を前に、レフノールが訓示を与える。


「諸君、よく来てくれた。見知った顔もいるようだな。また共に任務に就くことができて嬉しい」


 どうにも慣れない、と思いながら、意識してゆったりとした口調で話す。


「今回の任務は近衛の支援だ。摂政殿下の御子息も陣頭に立たれる。小官も、そして軍団も、諸君の働きぶりに期待している。さて、小官とともに諸君を指揮する将校を紹介しておこう」


 一旦言葉を切り、レフノールはリディアに頷いた。


「リディア・メイオール少尉」


 リディアが目礼して、レフノールが手で示した位置に立つ。


「カミル・ローレンツ中尉」


 ふたたび頷きと目礼が交わされ、カミルがレフノールの隣に立った。


「中尉は今回の任務のために、小官が特に強く要望して我々のもとへ配属された。支援大隊長殿は、転属に当たって大いに苦労をされたと聞いている。諸君もその点については憶えておくように。

 無論、小官から中尉に、諸君の勇猛ぶりも伝えた。兵站とはいえ、不利な状況の戦闘で敵に背を見せなかった勇者たちだと」


 列の中から漏れた失笑を、レフノールは咎めなかった。実際の戦闘がどうであったか知る者たちは、それが事実ではありつつ事実の全てを語っていないことにも十分に気付いている。


「そのようなわけだ、小官を嘘つきにしてくれるな。諸君らの精励に期待する」


 真面目な表情で言い切って、レフノールはベイラムに頷いた。


「敬礼!」


 大音声でベイラムが号令を発し、兵たちは一斉に敬礼した。

 列の前に並んだ3人の将校が答礼する。


「解散。予定の作業が済み次第、今日は休息としてよい。曹長、貴官は残れ」


 兵たちが手を下ろすのを待って、レフノールが告げた。兵たちは任務に戻り、3人の将校とベイラムはそれを見送った。


※ ※ ※ ※ ※


「楽にしてくれ」


 借り上げた宿の1階、まだ店を開けていない酒場で、さっさと丸椅子に腰を下ろしたレフノールは言った。めいめいがテーブルに乗せられている丸椅子をひとつ取って床に置き、座る。


「俺たちの具体的な仕事は近衛の先遣隊が着き次第、ということになるが、まずは俺たち自身を養う必要がある。諸々の準備もあるしな」


 全員が席に着いたのを確かめて、レフノールは前置きなく切り出した。


「まずデュナン曹長、貴官は当面、ローレンツ中尉に付け。輜重の実務、練兵のやり方、下士官や兵の従え方、貴官が教えるべきことはいろいろあるだろう。よろしく頼む」


「承りました、隊長殿」


 笑顔を浮かべたベイラムが応じる。


「中尉、悪いが仕事はやりながら憶えてくれ。君には今言ったとおり、デュナン曹長が付く。彼の助言はここでやっていくために必要なものだと思って聞くように」


「――了解しました」


「構える必要はない。教範と現実は往々にして異なる。そのあたりを教えてくれるのが、こういうときの先任下士官の役回りだ」


 ほんの一瞬、カミルの表情に浮かんだ警戒心を見て、まあ無理もない、と思いながらレフノールは念を押す。慣れるまで、ベイラムの笑顔には「食われそうだ」という失礼な感想しか浮かばなかったことを思い出していた。


「つまり中尉、教範とデュナン曹長の助言が異なるときは」


「――曹長が正しい?」


「そのとおりだ。先任下士官は間違えない。間違える奴は先任下士官になれない」


 そこまで言って、レフノールは肩をすくめた。


「まあ、そういうことになっている。少なくとも兵の間では。そう思って聞け」


「了解しました」


 カミルが頷き、レフノールはさて、と話題を変える。


「将校の配置についてだが、まず俺はここに常駐する。少なくとも近衛の本隊がここから前進するまではそうだ。中尉と少尉は、こことノールブルムを往復してもらう形になる。ここからノールブルムに出る輜重隊とともに片方がノールブルムに向かい、そのままノールブルムに滞在。戻りの便と一緒に、ノールブルムにいた者が戻り、俺に報告。その繰り返しだ。だいたい3日から5日の間で行き来する形になる」


 リディアとカミルがそれぞれ了解の意を示し、レフノールは話を続けた。


「最初は中尉がラーゼン、少尉がノールブルムに向かう形になる。3日かそこらで次の定期便を送り出すことになるだろうから、中尉にノールブルムへ向かってもらい、少尉は戻りの便で戻ってきて俺に報告。あとはその繰り返しだな。場所が変わってもやることがそう大きく変わるわけじゃない」


 一旦言葉を切り、ベイラムに視線を向ける。


「将校はそのようにして回すが、下士官兵も同様だ。あまり頻繁に入れ替えるわけにもいかないから、頻度は半分程度になるだろうが。ここで訓練を行い、ノールブルムに出て、戻ったら少々休養。基本はその繰り返しでいいだろうと思う。皆から意見はあるか?」


 誰からも意見や異論は出ない。それじゃ、とレフノールが、ベイラムに向かって頷いてみせた。


「具体的な差配は曹長、貴官に任せる。下士官と兵の回し方は、貴官なり貴官のかわりにここに置いていく軍曹なりで決めろ。それから、下士官については、貴官の後任を育てるつもりでやってくれ」


「は」


「今すぐどうこうというわけじゃないが、貴官が転属するなり何なり、ということになって困ってからでは遅いからな。当面は貴官も中尉に付いてもらうことになるから、下士官や兵の取りまとめまではなかなか手が回らんだろう。いい機会だと思ってやってみてくれ」


「はっ、了解いたしました!」


 背筋を伸ばして了解の旨を伝えるベイラムに、よし、とレフノールが頷いた。


「皆も特に何もなければ、今はここまでだな。少尉、君は1個分隊とともに、明日の朝ここを出発する。準備をしておけ。中尉への引き継ぎで済んでいないところがあれば今日のうちに済ませておくように」


「はい!」


「よろしい、では、ここは以上だ。各自、仕事を始めよう」

お仕事のターンです。いちばん難しいのが「後任を育てる」というやつだったり。

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― 新着の感想 ―
育つ気のある後任が来てくれればまだマシ……(遠い目)
OJTは「見て覚えろ」って意味じゃないんですよ…! ちゃんと、理屈を納得できるように説明しながらのほうが結果的に覚えが早いですからね。 その分、先輩の負担は増えますが、修羅場本番前にモノにしないとね。
後任を育てるのって本当に難しい。育てれば自分が楽になるのが分かっていても、自分がやった方が正確、迅速となれば尚更。でも育てないとしわ寄せきちゃう。
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