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【12:帰投】

 翌日の帰路も往路同様、復路も昼食の大休止を挟んでおおよそ3刻の行程になった。

 ラーゼンに帰着したのは午後もやや遅くになってのことだ。

 戻ったレフノールたちを、ベイラムと本部要員が出迎えた。


「なにか変わったことは、曹長?」


「ございません、中尉殿」


「冒険者連中は戻ったか?」


「はい、中尉殿が戻られたならばいつでも御報告できます、と」


「わかった。彼らは例の酒場かな?

 あとで顔を出すとしよう。

 ああそれと、少尉を天幕へ案内してやってくれ。

 あとは今後の打合せだな。四半刻後、俺の天幕へ来るように」


「かしこまりました、中尉殿」


「少尉、君はひとまず四半刻で自分の天幕を使いやすいよう整理しておいてくれ。

 その後は俺の天幕へ来てくれ。曹長を交えて今後の打合せをしたい」


「はい、四半刻後に出頭します」


 天幕に戻ったレフノールは、書状をひとつ書き上げた。

 冒険者たちへの依頼として、王都へ届けてもらう予定の書状だった。



※ ※ ※ ※ ※



 四半刻後。

 レフノールの天幕を、リディアとベイラムが訪れた。


「ご苦労。

 さて、集まってもらったはいいが、まともな椅子もない。

 悪いが適当にかけてくれ」


 会議を持つならばどこかもう少しまともな場所が要るな、と思いながら、レフノールがふたりに声をかける。

 椅子と机と、そしてできれば明かりが欲しいところではある。

 とはいえ、今はそのような場所も道具もなかったから、天幕の入口近くの一画が、そのまま会議の場になった。

 めいめいが木箱やら樽やらに腰をおろす。


「メイオール少尉、大まかな状況は昨日砦で説明したとおりだ。

 襲撃で焼かれ、今後不足が見込まれる物資もいろいろとある。

 ここの領主殿――ラーゼン子爵からある程度の物資は買い入れるが、それを前線へ送る算段が必要だ。

 計画の素案は俺が作成する。君はその計画の確認をやってくれ。漏れや遅れがあっては困るからな」


「かしこまりました」


「実際の作業の流れはデュナン曹長、貴官が見るように。

 二人とも遠慮はするな。何かあって困るのは前線の連中だ」


 はい、と2つの声が揃う。


「それから、現状でもノールブルムで不足が生じているものはあると聞いている。必要であればアンバレスなり王都なりから運ばねばならん。

 メイオール少尉、君が現時点で足りていないと考えるものについては、全てを並べあげてリストにしてくれ」


「全てを、ですか?」


「そうだ、全てだ。どんなものであれ。

 君はノールブルムでいろいろと見てきただろう。グライスナー少佐から、不足している品の一覧も受け取っているな?

 であれば、それに君が把握している分を足して書いてくれればいい」


「予算や調達の手間は――」


「まず足りないものを挙げる。それが先決だ。足りないものが解らないでは補給のしようがないからな。

 要不要や優先順位はリストを見てから判断する」


「はい」


 リディアが頷く。

 それを確かめて頷き返したレフノールは、ベイラムに水を向けた。


「曹長、リストについては君からも意見をくれ。

 ここの兵の間で足りていないものについては君の方が詳しいだろう」


「いちばん足りておらんのは将校ですが」


「無理と知っていてわざわざ口に出すのはどうかと思う」


 しかめ面を作りながら、レフノールが肩をすくめてみせる。

 軽口の応酬に、リディアの表情がふっと緩んだ。


「まあ、俺だって将校が足りていないのは承知だ。補充の要請はするよ、強めに」


「どれだけかかるものでしょうな」


「俺にもわからん。兵站の将校は絶対数が少ない。

 軍団内部で人を出そうにもかつかつだろうし、代理とはいえ分遣隊長もいる。

 1人の欠員は現場でどうにかしろ、となるかもしれん」


「ありそうな話ですな」


「いずれにせよ、残念ながら俺にどうこうできる話じゃない。

 夕食の後にでもリストを見てくれ。修正するなら今日中にやらねばならんからな。

 曹長、君は下がってよろしい。何かあればここか酒場に来てくれ」


「了解しました、中尉殿」


 天幕を出ていく曹長を見送り、レフノール自身も立ち上がる。


「少尉、君にはもうひとつ、普段やらない仕事に付き合ってもらう」


「と、いいますと、中尉?」


「前任の隊長が戦死されたのは、ここが妖魔の群れに襲われた際に、という話はしたと思う。

 その折には頭を――つまり、妖魔のリーダーを潰して押し返した。とはいえ、全滅させたわけではないから――」


「また襲ってくる可能性がある、ということでしょうか?」


 リディアが小さく首を傾げた。

 疑問の形を取ってはいるが、理解していない口調ではない。

 この村がまた襲われるのか、という確認のようなものだろう。


「理解が早くて助かるよ、少尉。平たく言えばそういうことだ。

 できれば機先を制したいところだが、あちらの拠点も定かにはわからない。

 というわけで、デュナン曹長の意見もあって、偵察を出した。正確には、村にいた冒険者に偵察を依頼した」


「さきほど『冒険者連中』と仰っていた方たちですね」


 納得した表情でリディアが頷く。

 レフノールも、砦でグライスナー少佐に言われたことについて――この少尉が有能だ、ということについて、改めて納得した。

 会話の端に出ただけの一言を覚えている記憶力。

 別の話とその一言を即座に結びつける洞察力。

 どちらも将校には必要な資質で、この若い女性少尉はそれを持っている。


「うん、その連中だ。

 これから彼らの報告を受けに行く。君も同席してくれ」


「はい。なにか気を付けておくことはありますか?」


 もともとレフノールとしては、冒険者たちをリディアに引き合わせ、顔を繋いでおければよしという程度の目論見だった。


 ――だが、これだけ頭の回りが速いのであれば。


 同席には、おそらく別の意味が生まれる。得られた情報を検討する際、上官であるレフノール自身が見落としたなにかを、リディアは拾ってくれるかもしれない。


「報告を受けて疑問があれば遠慮なく言ってくれ。

 それと、君は自由に口を挟んでくれて構わない。検討して理解したこと、あるいは推測できたことも」


「はい、中尉」

社畜あるある:だいたいリーダー級がいちばん足りない。

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― 新着の感想 ―
毎回毎回最後の一言が、こう、なんだ。 お互いうまくやりましょう、としか言えなくて染みる。
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