9話『退屈な日々』
アレクトラと共同生活を初めて1週間経った。当初は弱々しい口調でこちらを窺うように話していたアレクトラも泣いて感情を吐き出して以降は大分素の自分を出して話すようになった。
私も私で、アレクトラに対する接し方がかなり軟化してしまった。アコーロンやイアンも私のように彼女が実は普通の少女なのだと気付き、彼女を助け出したいと思うようになったのだと思う。
……これが計算された事なのだとしたら確かにアレクトラは魔性の女であり怪物だ。しかし、接している内に分かってきたが彼女は決して他人を操ろうとしているわけではない。本当にただただ普通の少女なのだ。
まあ時折少女というより男のような発言をする事も少なくもないが。変な女だ、自分の事を『俺』などと呼ぶし。
「ロットさんはどんな食べ物が好きなんですか?」
「大抵の物は食べられるな」
「好きな食べ物を聞いてるんじゃ。食の好みを答えてよ、会話下手かあんた」
「ぐっ。そ、そうだな……猪の肉を焼いたものとかだろうか」
「焼肉か。そういえばこの世界に来てから一回も焼肉食べてないなぁ。てかロクな食事を取ってない。焼肉食いてぇー!」
「アレクトラはどんな食べ物が好きなんだ? やっぱ人肉か?」
「なわけあるかぁ。俺は……麻婆豆腐とか好きっすよ!」
「マーボー? なんだそれは」
「熱々でめちゃくちゃ辛い中華料理っす。めちゃウマですよ、唐辛子が与える舌への暴力的な刺激と花椒が与える爆発的な刺激! その二つが合わさって麻痺した舌に流れ込まれるソースの芳醇な香りとひき肉の旨み! 豆腐の繊細な食感も加わり腹に十分な満足度を齎してくれる至高の料理です!」
「説明の前半が全く美味そうに聴こえないが」
「味わってみれば分かります! まあこの世界に存在してる料理かどうかは分からないですけど」
「その、君は時折"この世界"などという単語を使う事があるがそれってどういう意味なんだ? ロドス帝国を指して世界と言っているのか?」
「うーん。そんな感じっす!」
「なるほど。アレクトラは元々異邦の神だったと聞いた事があるしそういう事か」
「う、うーん。そういう事っす!」
曖昧な返事をするという事は今の憶測は的を外れていたか。ふむ。よく分からん。
「てかアレっすね〜。こう、何もしない暇な時間を過ごしてると無性にタバコが吸いたくなるというか」
「煙草か? あるぞ。吸うか?」
「え!? あるんですか!? この世界にもタバコ!」
「そりゃあるだろう。アングラバット・アスバール社はロドス帝国が吸収したアスバール辺国由来の煙草会社なのだから」
「ちょっとよく分からない」
「ほれ。コレだろ? 君の言う煙草って」
胸ポケットから煙草の包装を取り出し見せるとアレクトラは目を輝かせた様子で「それだー!」と喜びの声を上げた。
「しかし、何千年も前に死した君が生まれてまだ三百年程度しか経っていない煙草の存在を知っているとは。戦争中に誰かから貰ったのか?」
「そんな所です! 一本ちょうだい!」
「子供なのに煙草を好むとは変わっているな。ほれ、咥えなさい」
アレクトラの口元まで煙草を持っていくと、彼女は私の指を誤って噛まないように慎重に唇を突き出して煙草を咥えた。火を付けると、彼女は気持ち良いくらいに息を吸って煙草の煙を肺に満たし、ゆっくりゆっくり吐き出してその味を楽しんでいた。
「おー、タール重っ……久しぶりの喫煙だからそう感じたのかな、ヤニクラしちゃった」
「ふん。……ふぅー。結構強い煙草だからな、最初はそうもなるさ。気分は大丈夫か?」
「わ。何も言わずに関節キスした」
「何を言っているのだ君は」
「俺が吸ったタバコを自分も吸いましたよね。スケベだ」
「何の問題があるんだよ……まあ子供なのだからそういう事に過敏になるのも無理ないか」
「む。俺の事子供子供言ってますけど、見た目はこんなんだけど普通に大人ですからね。なんならロットさんと同世代まであるんですけど」
「同世代なのか? 数百倍歳が離れた老人かと思っていたが」
「誰が老人じゃ!? まだピチピチの20代なりたてだが!?」
「歳下じゃないか。私は今年で36だ」
「え? 見えね〜、23歳くらいだと思ってた。赤ちゃん顔なんですねぇんにっ」
「赤ちゃん顔ではない。見た目が若いと言え」
「ふぁい」
アレクトラの頬から指を外す。ここに来る前は口元に物を近づけるなと口酸っぱく忠告されたが、もう当たり前のように顔に触れたり物を近付けたりしているな。食事の際も普通に器を口元に持っていってるし。
アレクトラと打ち解けたのはいいのだが、任務の内容的に彼女が私の子を身篭るまでここに居なければならないのだよな。
外の様子が気になる。私が抜けた今、帝国軍は機能しているのだろうか。だがそれを確認するにはアレクトラと交わらなければならないのだよな……。
「……」
「? なんすか?」
「いや……」
親しくしすぎたせいで、完全に彼女を自分と対等な人として見るようになってしまった。流石にここから彼女を意志なき家畜同然に思えるわけが無いし、ともなると任務の遂行が難しくなったな……。
「ロット。聴こえるか?」
アレクトラと共同生活を始め、交わる事が出来ないまま半年という長期間この屋敷の地下区画に居着いてしまった。
およそ3ヶ月ぶりに宮廷魔術師ダゴナから連絡が入った。緊急の知らせを示す赤の魔力反応を感知した為、私はアレクトラの元を離れて休憩室にて魔石を起動させる。
「お久しぶりです宮廷魔術師殿。どうかなされましたか?」
「近頃、キリシュア王国に不審な動きが見受けられた」
「不審な動き、ですか?」
「うむ。王国周辺に基地を構えていた先遣隊からの報告なのだが、巨大な魔力を有した者がキリシュアの王都を出入りしているのが目撃されたそうなのだ」
「巨大な魔力を有した者……」
「恐らく、賢聖ウルの魔力反応であろうな」
「!」
賢聖ウル。アレクトラを蘇らせたとかいう大賢者か。彼女が何故キリシュア王国に……?
「まさか、キリシュア王国側もアレクトラの時と同じく、神や伝承に語られる英雄を蘇らせようとしていると?」
「いや。その線も考えてはいるが、それよりも現実味のある可能性が他に一つある。剣聖を覚えているか?」
「剣聖ローゼフですね。直に会った事はありませんが、アレクトラが退けたという話は聞きました」
「あぁ。ただ、その剣聖はまだ生きておってな。アレクトラとの戦闘から撤退して以降、奴はキリシュア王国に居着いていたというのだ」
「! という事は剣聖は、完全にキリシュア王国側の戦力となったと言う事ですか!」
「であろうな。聖人はそれぞれが個人主義の集団ゆえ一時的な介入かと推察していたが、賢聖が絡んでくるとなるとその可能性が高い」
「では、彼女は剣聖に何を……」
「恐らく満身創痍になった剣聖の肉体を完治させ、奴を再び戦場に送り込もうと王国側は画策しているのだろう」
「……剣聖ローゼフは、どれほどの相手なのでしょうか」
「人類最強の剣士、という異名は耳にした事があろう。伝え聞いた話では災厄の獣を単騎で屠る程の実力を持つらしい。女神のいる戦場でも彼女以外の全帝国軍兵士を殺めた実績を持っておる。もし奴が戦場に戻ってくるようなことがあれば、こちらが苦境を強いられるのは必定であろうな」
「なんて事だ……私が戦場に立ちます。すぐに軍の編成を行いましょう」
「待て。ロットよ、任務の進捗はどうなっておるのだ?」
「っ!」
「半年間もの間この屋敷でアレクトラと過ごしていたのだろう。妊娠の報告を待っていたのだが、一向にその報告もなし。……もしや、未だ着手していないとでも申されまいな?」
「……今はそんな事よりっ」
「ローゼフは肉体の大凡が破壊し尽くされた状態で回収されたとの報告が上がっている。いかな賢聖であれど、すぐに全快させることは不可能であろう。或いは賢聖の魔法を駆使しても数年は戦える状態に戻れない可能性もある」
「……しかし、近いうちに敵が攻め入ってくるのは確実な筈です。こちらも迎撃の準備をしなければ」
「先に役目を果たせ、ロットよ。貴方が戦場に出て死ぬ事があれば、我が国の先の戦力が危ぶまれるのだ。貴方も、陛下の為に魂を捧げた兵士なのであろう? であるならば、その心血全てを以て陛下に尽くすのが本分である筈だぞ」
「…………分かり、ました。忠言痛み入ります、宮廷魔術師殿」
ダゴナとの通信を切り、魔石を置く。
私と、アレクトラの子。私が死ねば、確かにこの国の武力は一気に低下してしまうだろう。だがしかし、私の代わりを作るためにアレクトラに痛い思いをしてもらうというのが、どうしても受け入れられない。
「ん。おかえりー。なんだったの? 連絡」
「あ、あぁ。……もしかしたら近々、キリシュアが攻めてくるかもしれない」
「そうなんだ。……まだ、終わってなかったんだね。戦争」
「長い事停戦状態だったのだがな」
「そっかぁ。戦争なぁ。また大勢の命が奪われる。嫌だわ、ホント」
「嫌なのか」
「なんじゃその疑問。戦争大好きーって人なんかそんなに居ないでしょ」
「君はこの国を憎んでるだろう。戦争によってこの国の民の命が奪われる事を望んでいるとばかり」
「どんだけ屑だと思われてんの。そんな事望んでるわけないでしょ」
「……我々は、君を家畜同然のように扱っているからな」
「だからといって死んでほしいとは思わないよ。だし、あんたみたいな善良な国民がいることも理解してるって前に言ったぜ? 出来れば平和に終わってくれればな〜って思うよ。血の流れない戦争、そういうものがあってもいいと思うね。俺は」
「同感だ。おとぎ話にしかないような話だがな。血の流れない戦争など」
アレクトラは身体を拘束されたままの状態で大きく欠伸をした。何の気なしに彼女の尖った歯に指を近付ける。
「う。危なっ」
口を閉じかけた際にアレクトラが異物感に気付き顔を後ろに引いた。指の皮膚に歯の先端が引っかかり、線を引くように切れた指の腹からプツプツと血が流れでる。
「ごめん! てかなんで指突っ込もうとした今!?」
「すまん。歯が気になってな」
「歯ァ磨いてくれてる時に散々見てんだろ! あーもう、血が出てるぞ!」
「本当だな。どれだけ鋭いんだ君の歯は。軽く掠ったぐらいで皮膚が切れるなどよく手入れされた剣でも中々起きない事態だぞ」
流石にここまで切れ味が良いとは思っていなかった。困ったな、血が止まらない。当てる布かなにか探してこようか。
「……ロット」
「なんだ?」
「指、噛まないから口の近く持ってきて」
「分かった」
彼女の言う通りに切れた親指を近付ける。すると彼女はそっと私の親指を咥え、舌で傷跡を舐めてきた。
「……指をしゃぶりたかったのか?」
「ひゃまへ(黙れ)」
アレクトラは指を咥えたまま私を睨むと、血液を吸い出しながら舌でしきりに傷跡をなぞる。
……? 舐められているうちに痛みが引いてきたような気がする。彼女の舌が私の傷跡を擦り、皮膚の断面がめくれる度に走っていた鋭い痛みがもう感じられない。それに、なんだか指先が彼女の体温とはまた別の要因で温まっているような……。
「何をしているのだ?」
そう問いかけると彼女は私の親指から口を離す。ちゅぷっと音を立てて唾液に濡れている指が現れるが、すぐに彼女は「その指拭いて」と私に言ってきた。
唾液を見られるのが恥ずかしいからという理由ではないみたいだ、少し焦らせるような口調で言っている。あえて無視すると、彼女は冷たい目で私を睨んだ。
「おい。……ちっ。俺の唾液、放置してるとミイラみたいになっちゃうんで。さっさと拭いてください」
「む、そうなのか? 特殊な体質なのだな」
「人型なだけで人間ではないんでね」
「そうだったな。なるほど、この程度の傷なら若干ミイラ化? させる事で強引に癒着させられるという事か。考えたものだね」
「え。いや違くて、今のは単に俺の魔力を分けただけですけど」
「魔力を? どうりで指に熱が……しかし何故そのような事を?」
「この世界の動物って生命力と魔力が必要不可欠ってレベルで結びついてるでしょ。自然治癒力とか、魔力を集めるだけで勝手に活性化されるじゃん。それを応用しただけですけど」
「……即興で回復魔法を使って見せたと?」
「回復魔法とは言わないでしょ多分。俺の持ってる魔力が人間基準だとバグレベルだから、使うあてのない魔力を無理やりあんたの指に捩じ込んでやっただけですよ」
「そうか。すまないな、アレクトラ」
「あい。……んで? あんたは行くの、戦場に」
普段よりも少しだけ低い声でアレクトラが言う。その表情は暗い、不安げな目をしている。
「なんだ。私の身を案じてくれているのか?」
「ちっ!? 違うが!?」
「今の行動もそうだが、君は私に随分と優しくしてくれるのだな。光栄だよ」
「だから違うって! 馬鹿なんか!? ロットがいなくなると、こう……話し相手が居ないから、暇だろ。ただそれだけだし」
「寂しいのか」
「言ってないだろそんな事」
「言ったようなものだろ」
「ぐるるるるっ!!!」
こちらを睨みながらアレクトラが歯を剥き出しにして唸る。相変わらず子犬のような性格をしているな。
愛くるしいな、歯並びの凶悪さを抜きにすればだが。少し見た目が怖いんだよな、このノコギリじみた歯。
素のアレクトラと話していたら、ここに戻ってくる前に固めていた決意が揺らいでしまった。
私はこの少女に辛い思いをしてほしくない。好きでもない男と行為をするなど、普通の女性にとってかなりの苦痛だ。そんな事を強要し、彼女の笑顔がまた曇るのなんて見たくもない。
しかし、任務は任務だ。それにもう、時間が無い。
……二つは選べないのだ。私は帝国に魂を捧げた。アレクトラの事は好ましいと思うが、それと使命とを天秤にかける事など出来ない。
「……アレクトラ」
「ん? なに」
「……」
「……? どうしたんだよ?」
「その……」
彼女の純粋な瞳に見つめられると、話を切り出せない。後ろめたい。
彼女は私の事を気安い友人という風に思ってくれている。その信頼が、この長い共同生活によって培われた絆が、たった一言で終わってしまう。
葛藤する時間が延びる毎に、アレクトラが訝しむような表情に移行していく。
「……あっ。そういう事か」
何かに気づいたアレクトラが声を上げる。
「上から言われたんだ。さっさと仕事を終えて戻ってこいって」
「……」
「そっか。指揮官なんだもんな。あんたが居なきゃ戦争は始められない。至極当然な流れってわけだ」
「アレクトラ……」
「いいよ、別に」
「えっ……?」
普段会話する調子と何ら変わらない声音でアレクトラが『いいよ』と言った。顔を上げ彼女を見る。
アレクトラは、表情に僅かながらの悲哀を滲ませながらもぎこちなく笑顔を作っていた。
私の葛藤をアレクトラは理解していた。一線を越えてしまったら、もう二度と気安く話せる関係性には戻れないのだと彼女も悟っていた。その上で、彼女は言いあぐねていた私の代わりにその言葉を口にする。
「抱けよ。そうしなきゃロットは仲間の元へ戻れない」
「……私は、君に嫌な思いをしてほしくない」
「もう散々嫌な思いはしてきた。……それに、俺だってあんたが苦しそうに葛藤してる姿なんて見たくない。そんな顔されるくらいなら、この場にいない方がマシだ」
冷たく突き放すように言うが、その表情には慈愛が浮かんでいた。決意が固まらない私の不甲斐なさを庇うように、自分も辛い筈なのに彼女はそれを隠して受け入れようとしてくれている。
……一人だけ苦しもうとしているのか。自分だけが辛い思いをすれば、全部丸く収まるとでも思っているのだろうか。
「妊娠したら、君はまた1人に戻ってしまう」
「……」
「自分を人間扱いしない下衆共に犯されて、誰にも頼れず、縋れず、孤独な生涯を送る事になる。それでも君は」
「じゃあ、さっさと戦争を終わらせてまたここに戻ってくればいいだろ。ロットが」
「私が?」
声を震わせながら、それでも泣きそうな思いを必死に喉の奥に抑えながらアレクトラが私の名を呼ぶ。
「確かにまたあんな日々を送るのは嫌だ。死んだ方がマシとさえ思える。自殺だって試みるだろうな。何度も何度も絶望の淵に追い込まれて、それでも死ねなくて、仕方ないから運命を受け入れた気になって、全てを諦めて。そうやっている内に自尊心や人間性が削がれていって、俺はまた、相手が求める言葉や反応を発して赤ん坊を吐き出すだけの畜生に成り下がっちまうだろう」
「……」
「嫌すぎる。死にたい、なんて思いすら生易しいくらい絶望するよ。気丈に振る舞える今でさえ本当は今すぐ泣いて喚いて助けてって縋りたくなる。でも、そんな事言っても何も変わらない。あんたは俺を助けて、国を裏切るなんてことは絶対しちゃダメだ」
「……っ」
思い至りかけていた言葉を先にアレクトラが拒絶する。彼女は私の胸の内を見抜き、自ら救いの手を払って言葉を続ける。
「……でも、ずっとこんな地獄にいるのも嫌だ。だからさっさと戦争なんか終わらせてここに戻ってきてくれ。また俺の話し相手になって、あわよくばめちゃくちゃ昇進しまくって、俺に人権を与えてくれ」
「……戦争が終わるまで何年経つか分からない。その間君は」
「それはま〜しゃーない! ロットがめちゃんこチートな能力を持たない限りは戦争なんて長引いてなんぼみたいな所あるし! 待つっきゃないわな!」
「……」
「そんなわけだからもうパパっと終わらせちまおう! あ、ロリはお好みではないって言われても急に成長とかは出来ないからな。しばらく成長してないから向こう10年は多分ロリのままだわ。諦めな〜」
普段通りのおちゃらけた口振りで笑いながら言うアレクトラを見て胸が痛くなる。虚勢を張っているのが見え見えなのだ。もう少し巧く嘘を吐けないのだろうか、この少女は。
「私しか居ないのだから、強がる必要もないだろ」
いつかしたように彼女の頭に手を置き、優しく撫でる。
「……あんたが居るから、強がってるんだろ」
「必要ない。泣きたいのなら泣けばいい」
「泣くか。クソだせーだろそれは。指噛みちぎるぞ」
「せっかく治してもらったのにか?」
「……いいから、さっさと始めろよ」
「……本当に良いのか? 私と一緒に、逃げようとは思わないのか」
「思わない。そんな自己中働いたら何人死ぬと思ってんだ。……今まで産んだガキどもまで死ぬだろ、それ」
「そうか。私を選んでくれたのなら、おとぎ話のような逃避行ができると少し胸が踊ったのだがな」
「はっ。こんな子供と恋物語紡ぎたいのかお前。きっしょいな」
「……すまない」
謝りながら彼女の服を脱がせると、彼女はギリギリ聞こえる程度の小さな声で「謝んなよ」と呟いた。




