54話『追いかけっこ』
グラニウスの姿が遠くに見える、走り出しのタイミングが送れたせいでかなり距離が開いちゃった。なるだけ傷をつけずに身柄を確保したいのに一向に距離が縮まらない、困った困った。
「斧ぶん投げて狙い撃ち……は出来たとしてグラニウスが真っ二つになっちゃうか。ふーむ、かめはめ波的な遠距離攻撃使えればなぁ〜。…………ファイアーボール!!!」
とりあえずよく聞く火の玉飛ばしの魔法をノリで叫んでみるも俺の掌からは何も出なかった。
「……」
無言で走る。なんだかなぁ、こんな純粋に追いかけるしか能がないとか馬鹿みたいじゃん。なーんなのこれ。
てかさ、俺の使える魔法? 異能? って地味なのしかなくね? 派手目なエフェクトが出る魔法とか何一つ持ってなかったよね。
「むーん……」
一応、斧を噛ませれば電気系のエフェクトを出すことは出来るけど、武器ありきで演出できるだけで自分の能力って訳でもないしな〜。出せる雷も普通の雷と何ら変わりなくてアニメ的な素敵挙動しないから利便性うんちっちだし。
電気を扱えるならさぁ、コイン弾いてめっちゃ高威力のレーザーみたいにしたりピンポイントで離れた地点に雷落としたり瞬間移動したりしてみたいよ。俺が出来る事って凡そデンキウナギだもんな。それか落下地点ランダムのテキトーな雷落とすだけ。終わってるよ、マジで。はぁ〜……。
はてさて、そんな事を考えていても萎えるだけなので置いとくとして、だ。あのちんちん振り回しながら逃げ惑う素っ頓狂な悪魔憑きにどうやって追いつこう。
「この斧を避雷針代わりにして雷落とすか? ……いやそんな事しても相手の体が焦げ肉になっちゃうか」
殺さず生け捕りにってのがミッションの難易度を上げている。俺が謀略に秀でたタイプならそのままグラニウスをぶっ殺して有耶無耶に出来たが、そんな頭使うタイプでもないし殺すのはナシだな。
生け捕って悪魔ぶっ殺して『俺が救ってやりましたよ!』と恩を売る。それが最適解。それくらいしか思いつけない。
全身に大バフかけてダッシュするってのは、強化量と魔力・ダメージストックの消費量が比例するから斧を振り回せる筋力との兼ね合わせ的にあまり期待できない。ガス欠起こして怪力モードが解除されたら追いついても返り討ちにされるだけだし。
それに筋力は上げられても認識速度までは上がらんしな。無茶に大バフ盛っても目が追いつかなくて壁にめり込むのがオチだ。トムジェリみたいでオモロいが普通に命ストック1個消費するので絶対却下ですね。
「じゃあどうするかという話で。あの悪魔憑きがバテて片腹押さえるまで追いかけるか? 俺のが先にギブアップだわな……うーむ、一か八かで雷落とすか? ミスって民家にぶち落としたらギロチンですね、大火事起きるだろうし。むむむ………………あ! ピラメキーノ!」
ああでもないこうでもないと脳みそこねくり回していたら一筋の閃光が俺の脳内に迸った。あったぞ、俺のピッチング次第で相手を足止めできる能力!
真夜中の静まり返った路地。音ひとつ無い場所でこれをやると騒ぎになる可能性もあるがそこはもう考えないことにした。はい、という訳で1発俺に向けて雷を落とす。
「しびびびびびびれびれびれびれ!!!?!?」
雨雲は無いので周囲の静電気? 的なものを集めて斧を中心にそこそこの大放電。
人体に有害なレベルの電気が流れて皮膚に網目状の火傷跡が出来るわ筋肉が緊張と弛緩を繰り返して視界が点滅するわでちゃんと拷問級の苦痛を味わうもこれくらいならもう慣れた。無理に動こうと思えば動ける。
感電ランニングゾンビマン状態で体表に流れる雷の魔力を汚染し自身の魔力に変換、手のひらに集中させる。
「カーッ! 痛い痛い痛いッ! 筋肉がピクピクするぅ〜クソォ〜!」
鼓膜が吹っ飛んだ右の耳を手のひらでぶっ叩き、ダラダラと流れる鼻血を親指で拭う。そして以前回収していた『知らん冒険者の切除された指』を取り出す。
カッチカチの指を握り込み、俺のエイミング力を信じてグラニウスの後頭部に焦点を合わせる。……いや見えっない。元々の視力の悪さと感電の影響で視界に靄がかったみたいになってる。
なんとかちょこまかと移動するグラニウスらしき点は見えるものの、明るい所に出ないうちはしっかり位置を特定できないっぽい。
「ええいままよ!」
仕方ないのでとりあえず握りこんだ指を全力投球する。
まあまあ、俺ってばこの世界に転生してから今日に至るまで中々に類まれなるスペクタクルな経験を経てる訳ですし? その境遇を考えればちょっとした主人公張れるポテンシャルあると思うんですよ。てかただの一般人が異世界に来れる時点で主要人物っぽい動きなワケで。
という事はだ。この世界は俺を視点主として、俺中心に世界が回ってると考えてもおかしくは無いわけで。ほなら主人公補正なるものも持っているだろうと、そういう理屈になるのできっとこれも当たるでしょう! 当たらなきゃさっきから俺間抜けなことしてるだけのただのアホンダラになってしまうからね。
「あっ」
力みすぎた。うんぜんっぜん狙い逸れたわ。かすりもしなかったわ、俺の一縷の希望。
俺が投げ放った指は真っ直ぐ真っ直ぐ斜め下の地面にぶっ刺さった。一直線過ぎた、本当に狙ってたのか疑わしいくらいの綺麗な一本線描いてたわ。
アレやね、ドッジボールで力みすぎた時と同じ軌道だったね。運動音痴が過ぎる。体育の授業だったら味方からはブーイングの嵐、敵からは鼻で笑われるムーブでした。
「今のがラスイチだったらまじ終わってたわ……」
気を取り直してもう数個持っていた指を握り込む。……主人公補正云々言っていたが、ラスイチじゃないって心の余裕のせいでそういうのが発揮されなかったのでは? なんて考えを排しつつ、再び投球フォームを取る。
落ち着け、落ち着くのだセーレ。力みすぎるな、力みすぎたら指を離すタイミングがゴミになるからな。今の俺なら多分メジャーリーグ出場できるくらいの肩を持ってるはずだ。持ってなきゃ怪力キャラは名乗れない。遠投力は十分、だからそこまで力を入れすぎる必要は無いんだ。
冷静に、相手の頭の高さを意識して指を離せ。野球の授業を思い出せ。集中集中っ!
…………いや、駄目だわ。よく考えたら試合形式で授業行なったことないな、延々と千本ノック取らされてたの思い出した。なんで? 2クラスぶっこ抜きで合同授業していた筈なのになんで試合やらせてもらえなかった? 今更になって過去担当してくれていた体育教師にクレーム入れたくなったわ。
「バッセンに行った記憶……もバットしか振ってねぇな。父親とのキャッチボールなんて素敵エピも勿論ねぇし……クッソもう勘でいいわ! ぶち当たれっ、ワンダーワイドホワイトボールッ!!!」
手の中で指の塊をギュッと握り込み、絶対的当てに向かない必殺技を叫びながら投擲する。筋力バフがかかった俺の膂力によって投擲された数多の指は散弾銃のように様々な方向に飛び、その多くが近くの木の幹や地面に突き刺さっていたが、程なくしてグラニウスが倒れて足を押えながら呻き出した。
やったぜ、どうやら命中したらしい。ナイスピッチング!
「シャオラッ! 行くぞコラッ!!!」
今がチャーンス! 脚力のバフ効率を更に上げ、ツッタカツッタカ短い足をばたつかせてグラニウスに接近する。
第三者視点で見たいわ、今の俺の姿。高速で走り回る10歳児とか絶対滑稽で面白いもんな。
「肉喰囚魂!」
ついでに必殺技を叫ぶノリで単語を吐き出し、遠隔で投げ放った指に向けて魔力行使する。
俺の魔力に充てられた死体の指が蠢き、グラニウスの肉を餌にして巨大化し肉の怪物と化す。
アレクトラマジックのひとつ、意志なき異形屍人を作る能力だ! どういう使い方をするんだろうってずっと考えていたがなるほど、逃走者の足止めにぴったしな能力だな!
素材となるのが死体の肉片と生者の肉ってのもシナジーが生まれている。そのまま殺し尽くしたりしないところもナイスだ、より長く相手を苦しめる為だけに開発された能力なんだろうな〜これ!
肉の怪物は足の抉れたグラニウスに追い打ちをかけるようにのしかかり猫のしっぽのような形状の肉触手でベチベチ叩き始める。水気が多い分質量があって中々に痛そうだ。グラニウスも不愉快そうな喚き声を上げながら抵抗している。
……なんかエロいな。ナメクジの交尾みたい。
「どりゃああああぁぁぁっ!!!」
肉塊とくんずほぐれつしているグラニウス目掛けて思い切り拳を振り下ろす。怪力と言ってもテストロッサのようなアホみたいな筋力は持っていないので、胴体や頭部にさえ当たらなければ即死させることは無いだろう。
俺の放った拳は真っ直ぐグラニウスの土手っ腹、に向かいそうになっていたので少し位置を下にズラす。
「あっ」
やっべ。胴体の下って、それ即ち股間じゃん。
俺の拳は丁度グラニウスの金的にヒットしていた。
コリっとした感触の直後、俺の拳の先から『ぷちゅんっ』という小気味の良い音が鳴った。
「ゴギャアアアアァァァァァァァッ!!!?!?!?」
「あっっっとナッツクラック……」
この世のものとは思えない大絶叫が残った鼓膜を震わしてきた。男の象徴、ちんぐちんぐ棒とオタマジャクシ製造用らっきょうを殴り潰された男の絶叫だ。うーん、甲高い。
「ア、ガガ……」
股間が弾け飛んだグラニウスは体の向きを横にして幼子のように丸まった。痛みに堪えるように唇をすぼめるグラニウスを見てると俺にまで痛みと悪寒が伝わってくる。幻肢痛、と言うより幻玉痛に襲われる。痛いよなぁ、俺もかつて男だったから共感できるよ……。
「グガガガッ、アガアアァァァッ……」
「…………あー、まあ。ほら、現代においてはユニセックスな容姿してる人がモテるとされてる側面もあるし。ユニセックスというか、ちんこ失ってるだけの無性になっちゃったのは置いといて。需要はあるんじゃないかなって」
「ガアアアァァァッ……」
「……今は痛いかもしれないけど今後さ。不意に出っ張りとかに股間をぶつける事故とか起きなくなるのは結構いい事なんじゃないかなって。いい事……っしょ。多分」
「ガ、ガ……」
「あー……えっと、腰叩きましょうか?」
「こんガキャアアァァァッ!!!!」
おっと? 悪魔が人間語で非難するような咆哮を上げた直後、彼の指が裂けてそこから膨大な量の芋虫? 寄生虫? を繰り出してきた。その攻撃もその攻撃で指が裂けちゃってるから痛いんじゃないかなって思うんだけど、股間を潰された時以上の反応はなかった。大は小を兼ねる、か。
芋虫の群れはその強靭な口で俺の生み出した肉塊モンスターを喰い始め、続いて俺にまで牙を剥く。ヤツメウナギじみた牙をカチカチ言わせながらこちらににじりよってくる虫の大群。キモいなぁ。
「戦える状態まで持ち直したってことでいいんだよな。なら俺も罪悪感で優しく接するの打ち止めにするけど」
初見だったらサブイボもんだが、この悪魔に関しては以前にも戦闘した経験があるから特にこの状況には驚かない。コイツの概要は頭に入っている。
この悪魔の本体はレウコクロリなんたらって名前の寄生虫にそっくりで、宿主の頭部を破壊すれば活動出来なくなる。逆に言うと頭部を破壊しない限り活動をやめない。心臓を抉ろうが首を切り飛ばそうがコイツは襲いかかってくる。そんでもって、下手に宿主の肉体を破壊したら異形の虫を生やして肉体を補完してくる。
綺麗な人型に収まってるうちは常識の範疇にある行動しかしてこない。虫を召喚してくるのが今の攻撃手段だ。
コイツの脅威は簡単に言えば手数の多さ。私兵を沢山生み出せる、数で圧倒するのがコイツの強みだ。だがコイツの生み出す虫軍団は個体で考えたらそこまで強くもない。長期戦だとコイツのペースになってしまうが、短期で決着をつけるのならコイツは大した脅威にならない……筈だ。多分。
「ちょいやっ!」
「ッ!?」
今回は俺のメイン武装である戦斧を携えてきてるからな。虫がどれだけ群れようと、この巨大な刃で蹴散らしちまえば関係ない。前回の戦闘で手間取ったのは単に慣れない武器を使わされて範囲攻撃出来なかったからで、今の俺は本来のポテンシャルで戦える。このレウコ悪魔は取るに足らない存在だ。
「う、ゔううぅぅぅっ!!!」
「霊体が取り憑いてるタイプじゃないから詠唱も聖水も効果ないんだっけな。まずは人のガワから本体を引きずり出して、直接ぶち込まないとか」
「うがあああぁぁっ!!!」
がむしゃらに襲ってくる悪魔の攻撃を躱して顎を殴り砕いたら獣のような雄叫びを上げ始めた。裂けたグラニウスの指そのものが変異してマダラ色の芋虫じみた触手に成り代わる。
触手の先端には鋭利な爪の刃がついており、鞭のようにしなるこの触手の破壊力は粗悪な鎧程度なら紙のように切断するだろう。
俺は鎧など身にまとっておらず単なるネグリジェ姿、直撃したら黒ひげ危機一髪みたいに上半身がポーンと飛んでいってしまう。映画テケテケの死亡シーンみたいな感じだ。
テストロッサにしごかれたおかげで鞭みたいな挙動する武器の対処には慣れている。振るわれた触手を戦斧で受け流し、刃の返しを使って巻き上げてグラニウスをこちら側に引き寄せる。
「歯ァ食いしばっ、ぎゃはっ! さっきのパンチでバキバキになってるから食いしばれないかぁ!」
「あがぐっ!?」
グラニウスの髪を掴んでそのまま円を描くようにぶん投げて地面に叩き付ける。背中を強く打ち付けたグラニウスは血の混じった息を吐き苦しそうに呻いた。
そのまま口内に腕を突っ込む。急にそんな事をされたせいでグラニウスは目を向いて苦しそうにもがくが関係ない。俺のちっこい手で喉奥にまで指を侵入させて悪魔本体の体を探し続ける。
「脳みそに絡みついてる寄生虫って口ん中から引きずり出せないんかな? 頭蓋骨ひん剥いて脳みそ直接グチュグチュした方が良さげか? 治癒術師の所まで連れてって脳みそモミモミした方が良かったかな〜」
「あが、ぐぁっ」
悪魔が指を蠢かせて触手の刃先を俺に向ける。
「追従残滓」
「ぎゃがっ!?」
グラニウスの口内から直接彼の魔力を汚染し俺の魔力として強奪。それをそのまま利用して古傷を開く魔法を使う。
二重三重に喉奥を荒らされる苦しみをグラニウスに重複させる。相手が悪魔だとか関係ない、この魔法は種族間を越えて直接『人間として受ける苦痛』を相手に叩き込む。人智を超えた存在だろうが等しく苦しめる為の魔法だ、抵抗なんて出来るはずもない。
「あ、が……がああああぁぁぁぁぁっ!!!!」
「大人しくしろや!」
「ゴアッ!?」
尚も悪魔が抵抗の意思を示してきたので口内に突っ込んでいた腕を少しだけ引いて喉奥をそのままぶん殴る。ズボッと今までより奥に腕が沈み込みグラニウスの目がギョロっと真上に向いた。苦しそう。でもこれで大人しくなった。
「ガ……か……っ」
「あ。レウコなんたらって元はカタツムリの眼球に寄生するやつなんだっけ」
「ガッ!? アギャアアアアアァァッ!!!?」
不意にレウコって寄生虫についての雑学を思い出せたので、試しにグラニウスの片目に指を突っ込んでみる。グラニウスの両目は本来の色とは異なり緑やオレンジ、黒が入り交じったマダラ色になっていた。ここに本体がいるのだとしたら、そう祈りを託し潰した片眼球の奥の眼窩に指を突っ込むと、何やらビロビロと動く何かが指先を掠めた。
「ッ! 見つけたァ!!!」
それらしき芋虫を指先で捕まえた。一気に眼窩から指を引き抜くと、そこからズロロロロッと鰻みたいな規模感の芋虫が引きずり出された。
「ようやく顔を合わせたなァ。その体で外気に触れるのは初めてか? 随分苦しそうじゃねえの」
俺に引きずり出された芋虫は『ギィギィ』と鳴きながら激しく体を捻り震えている。立ち上がり、木の幹に芋虫を強めに押し付ける。それだけじゃ潰れはしなかったが、全身のまだら模様が薄く点滅し色が薄くなった。
「おい。おいって、芋虫。聞けよ。てめぇさっき俺に対してガキって言いやがったよな。人間語理解してるんだろ? お話しようや」
「ギ、ィ……!」
「喋れって、人間語。人と同じ構造の発声器官がないと喋れないか? ならその点滅でYESかNOか答えろ。ほら、YESなら二回点滅してみろ」
「……」
「殺されかかってるのにシカトは一番の悪手じゃ無いかなァ〜」
こちらの要求を呑まずそのままビチビチと動くだけの芋虫。一発膝蹴りをお見舞したらつい勢い余って頭部と思しき器官が破裂してしまった。
「コイツが本当に本体なのか問い質すつもりだったんだが……まあ、グラニウスが再び動き出したらもう片方の眼球も潰せばいいだけか」
とりあえずグラニウスの身柄は確保出来た。動き出す様子はない、脈はまだある。生きてる。この状態のまま治癒術師の元に連れていけば一旦は解決か?
「一応暴れ出さないか監視しとかなきゃだから今日はオールだな……はぁ。毎日忙しいってのになーんでこんな厄介な事に。……ん?」
動かなくなったグラニウスをおぶろうとした所、近くの茂みから物音がした。
深夜のこんな時間に人か? 野犬か野良猫辺りなら良いが、何も知らない一般人にこんなところ見られたら説明が面倒くさいぞ……。
「異端審問官も一緒か。面倒だな」
「あれ、異端審問官なの? 子供だよぉ?」
「子供の異端審問官も何人かいるって話だ。悪魔の被害に遭う家庭は大抵子持ちだからな。悪魔に家族を壊されたってんで悪魔を憎むガキが多いんだろう」
「へぇ。大変だねぇ〜大陸の人達って。悪魔ねぇ……」
「い、痛いですっ!」
なんだなんだぁ? 動物の類かと思っていたらゾロゾロと人が出てきたぞ。ほんで女ばっかだな。男1人だけじゃん。
てかあれ? なんかこの人らの服……めちゃくちゃ既視感あると思ったら俺の元居た世界で見た服装だ。漫画とか映画とかで見た事ある服装してる。
スリット入ったボディライン丸わかりのチャイナドレスが2人、カンフーしてそうな服着た男が1人、男物っぽいズボンタイプのスーツを着た女性が1人、他の連中よりかは地味だけどチャイナっぽい服着た女が1人の計5人。なんの集団? 中国産の戦隊モノか何かかな。
「……にーはお?」
「ん? なんかこの子、今よく分からない言葉を喋らなかった?」
「にーあお? 何それ、どこかの方言かな」
「聞かない単語だな」
ありゃ。ノリで中国語っぽく挨拶してみたのだが空振りだったか。そりゃそうか、ここはあくまで異世界。何故か意味が通じてこっちも異世界語を喋れるから自然と話していたが、元いた世界とこの世界では言語の発音がどことなく違うもんな。
「あー……ごほん。えっと、あなた方は一体どういう要件でここに? 一応見てわかるとおり、こちとら修羅場の真っ最中なんでスルーしてもらいたいんですけど」
「あっ、アレじゃない? さっきの言葉ってさ、ご主人様と炬吏が時々交わしてる挨拶? に似てるかも!」
「確かに。炬吏の同郷か?」
「……分からない。ここの人でしょ、同郷違う思うよ」
「そっかぁ」
気持ちいいくらいこっちの問いかけ無視されたが。そんで約1名、スーツの女だけ発音たどたどしすぎるな。てか1人だけアジア人顔すぎ。もしかしなくてもこの人に関しては普通に中国人じゃね? 俺がかつて居た世界のチャイニーズガールじゃん絶対。
ここに来てまさかの自分と同じ境遇の人発見か。俺の特別感が揺らぐから辞めてくれ? そういうキャラ被り。
なーんか服装といい顔面といい、少しこの人達について興味が湧いてきたのだがそこはそれ。今は手が離せない状況なのでこの場からは立ち去ってほしい。絶賛お仕事中なのだ、出来れば邪魔は入ってほしくない。
「それで? 悪魔の反応とやらはどこを指してるのさ。やっぱしあの子に拷問されてたあの男から出てる感じ?」
「は、はい。そうです……」
「なるほどねぇ」
「きゃんっ!」
む。登場してからずっと1人の女のツインテールを掴んでいた奴がこっちに近付いてきた。引っ張られてる方は痛い痛いと悲鳴を上げているが気にする素振りすら見せず、そのいじめっ子女は俺の前まで来ると手のひらを顔に向けてきた。
「? あの」
「魃灼」
「えぇ……?」
静かに女が技名らしきものを呟いた瞬間、手のひらが鈍く光り始めた。
……あっ。これ攻撃されるわ。そう気付いた時には既に能力は発動準備段階を終え、俺の顔面に向けて高密度の魔力が放たれるのであった。




