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俺は女神の中の人  作者: 千佳のふりかけ
第三章『異端審問官になるぞ編』
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53話『苗床回避ウーマン』

 どうも。私の名前はセーレ・アイゼントゥール、ルルノラという田舎町で育ったちょっぴりドジな女の子です!



「アホか」



 ゴンッ。と鏡に頭突きして間抜けなモノローグを強制終了する。


 テストロッサとの小競り合いでコテンパンにやっつけられた俺は、彼女の言っていた通り正式に彼女の妹になる手続きを踏み姓を授けられた。


 セーレという名もアイゼントゥールという姓も全く俺に関係の無い純度100パーの偽名である。

 ついでに、個人情報の獲得と共に得たルルノラという故郷に関しては行ったことないし聞いた事すらない。大陸の西部にある街なんだって。西の方とか未踏の地なんですけどね。





「はあ……」


「どうしたのセーレ、ご飯が進んでないわよ? あら、お母さんったら。もうセーレも10歳なんだから自分でご飯食べられるでしょー? いつまでも幼い子供じゃないの。末っ子だからって甘やかすのも程々にしなよー?」


「怖い……」



 現在俺は、テストロッサが住んでいる借家にお邪魔し彼女に手料理を振る舞われている。彼女の両親を混じえた4人で食事をするというのがここ最近に日課になりつつあり、毎日就寝時間前に繰り返しているルーチンワークだ。


 家族、なぁ。

 ぬいぐるみなんだよな、俺の真正面に座っているお父さん。俺の隣に座っているお母さんもぬいぐるみなんだよ。人じゃなく、綿が詰まった布のお人形さん。


 どうやらテストロッサはこのぬいぐるみ達を家族として認識しているようだった。クマのぬいぐるみがお父さんで、うさぎのぬいぐるみがお母さん。

 最初はふざけているのかと思っていたが、彼女の様子を見るにふざけてる雰囲気もなく本当に心の底からこの二つの真新しめなぬいぐるみを家族だと思い込んでいるらしい。


 ま、狂気でしかないな。やはりというかなんというか、テストロッサさんは著しく心を病んでいるというか、精神に異常を来していたという話。


 テストロッサの過去については深く知らないが、多分ファンタジー世界によくあるような惨憺たる悲劇が起こったんだと思う。てかそういうバックボーンがなけりゃ、そもそもボーッとした性格のテストロッサが悪魔ぶっ殺しマンになろうと思うはずもないしな。


 何らかの悲劇があって残された家族は姉一人。その姉とも離れ離れになって、孤独から現実逃避する為にお人形を用いた家族ごっこをしていたって所か。そこに、性癖バチコンハマった年下の少女が現れて、家族ごっこに新しい風を吹かせようとしたと。


 こちらからしてみればはた迷惑な話だが、どうしてもその感覚を理解できないって程でもない。

 テストロッサって、役職の割に年若くて異端審問官の中でも年少組に位置するっぽいしな。

 それなりに優秀な能力保持してて自分より年下の少女が現れたら、そこに過去の自分を投影したくなるのも理解はできる。共感は出来ないけどね。



 とはいえ俺は俺でやる事はあるし、テストロッサの現実逃避おままごとに時間の大半を割ける訳でもないので接する時間は最小限に抑えているのだが。


 俺がここに来た目的はあくまでピックスさんやぷるみちゃんと一緒に大陸を自由移動できる地位を確立する事であって、家族ごっこしたい訳じゃない。そこはちゃんと線引きしておかないと、変な依存のされ方しそうなのでビジネスライクな距離感は何があっても崩したりはしない。


 ボコり合いに負けたから名字の変更と夕飯の家族ごっこには付き合うが、それ以上関係を進展させるつもりは無い。

 飯を食い終えて食器を洗ったら、テストロッサさんとぬいぐるみ達に挨拶だけしてそそくさと借家を出てルドリカ堂の所までスタコラサッサだ。



「ただいまー……寝てるか」



 ルドリカ堂の私室に戻ると既に同室者のミルスさんは寝息を立てていた。

 彼女は絶賛妊娠中で、戦闘訓練に参加出来ないから一日の半分を座学に費やしている。

 今日も就寝前に習った事の復習をしていたらしい。紙にひたすら同じ文言が下手っぴな文字で書かれていた。



「妊婦さんなんだから夜更かしせずとっとと寝りゃいいのに。努力家なんだなぁ」



 机に突っ伏した状態で寝ているが、そんな姿勢でもし床に落っこちたらキルポイント1個加算されちゃうでしょうが。

 ミルスさんは何気にこの世界に来てから一番付き合ってる時間が長い相手だ。半年以上同居してる相手だからね。そんな人に赤ちゃん殺しのキルリーダーなんて最悪な実績を解除してほしくないので、彼女をそっと抱き抱えてベッドに寝かせ毛布を被せる。


 彼女の様子をしばらく見届けた後、服を着替えて静かに部屋の扉を閉める。



 手燭に灯った小さな炎の明かりを頼りに暗い廊下を歩く。


 床が古い木で出来てるせいで歩く度ミシッと音がするが、この時間帯に廊下を巡回してる人には俺が夜な夜な何してるかなんて透けてるだろうしもう気にしない。他人の目を気にしがちな現代人にしてはかなりの進歩である。諦めとも言うけどね。

 まあ、元より良くない印象を抱かれてるのには慣れてるから今更ってだけなのだが。特に親しい間柄、それこそミルスさんやピックスさんに嫌悪感を抱かれないのならもう何も気にはならない。



『はぁんっ! あんっ、んんっ!』


「……」



 てか、俺みたいな事を完全に性欲に支配されて行ってる連中もそこそこ居るしね。そういう人らに比べたら俺のしてる行動なんてちゃんとした目的があった上での行為なのだから、まだ、ギリギリ、自尊心は保たれるさ。


 偶然男が好きそうな顔面引っ提げて生を受けてるんだ、ならそれを利用するのも賢いやり方だろ。事実それのおかげで若干のスピード出世は出来てるわけだし。と、必死に自分を肯定しながら目的地まで辿り着き、扉を控えめにノックしてからノブに手をかける。



「こんばんは。シスター・セーレ」


「……こんばんは」



 飾りのない部屋着を身にまとった痩せぎすの男と挨拶を交わし、扉を閉めて手燭を置く。

 聖ルドリカ堂に勤務する神父、グラニウス司祭。俺が目を付けた地味で無欲そうな、悪く言えば女の誘惑に弱そうな風貌の男だ。


 俺は彼に気に入られた事で同期の異端審問官候補生の中でも特別な扱いを受けている。上層部とのパイプを担う人間との仲介も担ってくれているし、ここでの生活において彼の存在はちゃんと都合よく作用してくれている。



 ……都合よく。都合、いいのかなぁ。うーん…………相対的に見たら都合良くはないかもな。うん。後々のことを考えたらなんだかんだで厄介な事してくれたなって感じの人ではあるか、間違いなく。



「……っ」



 少し間を置いて彼の目を見た後、零れかけたため息を飲み込んで彼に背を向けて前屈みになる。その姿勢のまま、ネグリジェのスカート部分を捲り、臀部をグラニウスに見せつける。



「ちゃんと言いつけは守れているようですね。今日もよく頑張りました」


(うるせぇよ)



 まったく。まじでこう、まったくだわ。


 別に他人の性的な癖にとやかく言うつもりは無いけどさ。無いけどもだよ。ここは本来出す穴であって、入れる穴ではないんだよ。ましては物ぶっ刺してぶら下げる穴では絶対無いからね、異常な趣味だよ。



 聞く所によると、異端審問官は成り立ちが特殊だからルドリカ堂では風紀が乱れまくってるけど、他の地区なんかじゃ修道女の処女性は絶対冒してはならないとされてる影響で若い修道士が神父に確定ぶち込まれるなんてのはよくある話らしい。男色については特に禁止されてる訳でもないっぽいしね、ミルティア教は。


 その延長線なのかもしれない。普通に意味わからんけどもね、ここ愛好してんの。

 俺も前世が男だったから、男の性欲がバグった時にどれだけIQが下がるかについては理解しているが、それはそれとしてもう楽しみすぎてるじゃんか。倒錯趣味。便通狂うんで本音を言うならやめたいです、当方の性癖はノーマルですしね。



「……っ!」



 背後から足音がして、恥ずかしさとこれから来る感覚に対する心臓のバク付きを感じ目を閉じる。


 行為を行う準備段階としての引き抜き作業が終わる。膝が笑って、肩を上下させるくらい息も絶え絶えになってるのにそんな俺を見てグラニウスは歪な笑みを浮かべて俺をベッドに引き寄せる。



「おや。耳を怪我していますね。それにこの痕は……」


「い、痛いっ、です……っ!」



 衣服を脱ぎ、全裸で胸とか弄られてる時に腰に出来た青たんを発見したグラニウスが指で少し押してくる。テストロッサとバトった時にぶつけた所だ。

 明らかに押したら痛いってわかるのになんで押してくるのかな。この人のサドさにいい加減苛立ってくる。



「珍しいですね。普段の訓練ではあまり負傷をしないのに」


「……姉とちょっと揉めまして」


「そうですか。シスター・テストロッサ、でしたっけね。まさか身内に上位の審問官がいるとは思いませんでしたよ。わざわざ私の元へ尋ねてこなくとも、お姉さんを頼れば良かったのでは?」


「……」



 そりゃ、実姉だったらそうしたけども。あの人は単なる異常者であって姉じゃないし、そもそも出会った順番的には新しめの知り合いだからね。

 そういう指摘されると、俺の判断は早計に過ぎたかって後悔しそうになるからやめてほしい。身を切ってる自分が情けなくなる。



「シスター・テストロッサも優秀な子でした。彼女との縁には恵まれなかったですが、もし良ければ今度」

「……お姉ちゃんの話はやめてくださいよ。私だけ見ててください。女の前で他の女の話するとか、サイテーですよ」


「そうですね。失礼しました」



 うげぇ。我ながらきもっちわるいセリフ吐き出しちゃった。でもこの人、あわよくばテストロッサの体にも興味を示し始めてたから先んじて釘を刺しておかないと危なっかしいしな。


 童貞拗らせて階段飛ばしで変態に進化した輩ってのはかなりの危険人物になる可能性を秘めてるからな。

 俺のせいで間違った自信を身につけて他の人にまで被害が広がる事だけは避けたい。あんなんでも一応は俺の師匠ポジだしな、テストロッサは。



「っ、な、なんか今日乱暴じゃないですか……? いきなり広げないで……」


「ここ数日予定が合わなかった分溜まっていましてね。何をしていたのですか? セーレ」


「…………あ、姉と久しぶりに、家族としての親睦を深めてたと言いまっ、いぃぎっ!?」


「そうですか。微笑ましい事ですね」


「だからそのっ、いきなりは痛いっ……」


「家族との関わりも大事ですが、己の立場をお忘れですか? 私はあなたの何ですか? その口で言ってみなさい」


「………………ご主人様」


「そうですね。であるならば、主人の元から勝手に離れた駄犬には仕置きが必要でしょう」



 きっしょいなぁ本当に。運悪すぎる、今日めちゃくちゃ性欲メーターぶち上がってる日だったのかよ。うぎぎ……ひぃ〜……、ガッツリ後ろから抱きしめられて呼吸しづらくなる。勘弁してほしい本当に。



「家族との時間を過ごしている間も入れたままにしていたようですね。悪い子だ」


(殺すぞ)


「それとも私と円滑に交われるよう常に準備していたのかな。もしそうだったのなら考えも改めましょう。どうです?」


「……ま、まあ。いひっ!? そ、そんな感じっすね、ハイ」


「……」


「いいぃぃぃっ!? そ、そうだって言ったじゃないですか今! ちょ、ちょっと力弛めてくださいよ!」


「駄犬を躾けるつもりでしたが、抱きしめるとついその愛くるしさに力が入ってしまいました。相変わらず、簡単に壊れてしまいそうなくらい繊細な体をしてますね」


「……人間なんてそんな簡単に壊れないでしょ」


「そうでしょうか? ここから少しでも腰を動かせば、またあなたはすぐ壊れたように乱れるでしょうに」


「……」


「私もこれまで何人か相手にしてきましたが、あなたほど快楽に弱い女性は他にいませんでしたよ。相性が良いのか、それともあなたが特段肉欲に弱い体質なのか」



 グラニウスは、耳元で怖気立つような言葉を囁きながら指で股に触れてくる。

 キモイなぁ。なんでこんなのが聖職者やってるんだろ。聖職者やる前に生殖器官潰しといた方がいいと思う、マジで。



「ほら、すぐに甘い声を出す。腰が引けていますよ? ははっ、今度は獣じみた声を出して。良かった、日を置いても性感帯が鈍ったりはしなかったようですね」


「ッ、……ぐ、ぅ……はぁ……っ」


「始まって数分もしないうちに床が汚れてしまいましたね。……そうだ、久しぶりに」


「あうぅっ!? い、いきなり抜かないでって……んぅうっ!?」


「ふふ。可愛らしい」



 グラニウスが俺を抱きしめたまま激しめに動く。クッソ、変態フルスロットルに加えて今日はなんか愛情多めの日だったっぽい。嫌な事あったんだろうな、どんまい一人で発散してくれって感じすぎる。俺にぶつけてくんな、マジで。クソが。



「そういえば、最近少し胸が育ちましたね。いや、全体的に肉が着いたのかな。十分な食事が出ますからねぇ、異端審問官にもなると」


「んい゛っ!? んお゛おぉっ……いっ、待っ」



 苦しむ俺を見て優越に浸っていたグラニウスが俺の体の向きをグリっと半回転させて胸に吸い付いてきた。



「いたっ!?」


「……ッ?」



 突然胸の先端に鋭い痛みを覚えた。噛まれたのかと思ったが、何故かグラニウスの方も俺の胸から口を離し不思議そうな顔をしていた。


 動きを止めてくれるのは非常にありがたいのだが、じーっ、と胸を凝視するのはやめてほしい。こんなちっちゃい胸をガン見するとかいよいよ女に飢えすぎだろ。



「な、なんだ、今のは……?」


「はい? ……えっ、不穏なこと言おうとしてます? もしかしてなんか、ゴリゴリしました?」



 よく知らないのだが、胸とか乳首がゴリつくのって乳癌の人の特徴なんじゃなかったっけ? こんな形で判明するのは不本意だし、癌になるなんて思ってなかったから顔青ざめちゃうんですけど?


 グラニウスは自身の喉元を指で触りながらなにか感触を確かめているようだった。彼は困惑した様子で俺を見下ろし口を開いた。



「ゴリゴリというか……なにか柔らかいものが……」


「そりゃ胸なんで柔らかいでしょ」


「そうではなくて……母乳?」


「え!? …………いや、えっ!? 嘘、出たんですか!? 俺の胸から!?!?」


「……ふむ。そんな小さな胸から出るとは思えませんがしかし。ふーむ……液体、ではない?」


「別に出ますよ貧乳でも! てか液体では無いとするとなんですか、なんかゴミでも着いてました? ちゃんと身は清めたんですけど」



 …………乳首噛みちぎられた!? 咄嗟に嫌な予感がして自分の胸を見る。


 ……無事、か? いやでもなんか穴空いてね!? めっちゃちっちゃいけどなんか乳頭に穴っ!?



「ちょちょちょっ、何やってるんですかあんた!? 胸、これっ、おぉい!! エグゥイ!! これ血とか出るやつじゃないですァ!?」


「今の感覚は一体……ぐぅっ!?」


「えっ。待っ!? んお゛お゛おおぉぉぉっ!?」



 いやいやいやいや。素っ頓狂間抜けに過ぎる絶叫をあげてしまいましたけども。でもそれはそうなるよ、駄目だろ人の穴に突っ込んでるもんいきなり引っこ抜いたりしたら。そりゃ悲鳴も上がりますよ。


 しかも両肩を突き飛ばされたせいで思いっきり後頭部から床に落っこちたわ。やばいって、仰向けでビックンビックンして吠えながら大放水してるって。

 これ、エグめのAV描写じゃない? 無様ちゃんねる一発目の動画? なに、俺の尊厳そこまで貶めたい?


 突然抱いてた女を突き飛ばしておきながら、グラニウスは俺を心配する素振りもなく自分の股間を抑えながらベッドの上で蹲っていた。人として終わってます。死ねや、シンプルに。


 ……? なにしてんだろ、アルマジロの真似?


 こちらもこちらで突然とんでもない事をされたせいですぐには動き出せないので、腹の奥のズクズクと体の震えが収まるまで安静にした上で呼吸を整えて立ち上がる。



「えー……っと、なんすか? やめてくださいね、実は性病持ちだったとかいうオチは」


「ぐああぁぁあっ!? う、ぐううぅぅぅぅっ!?」


「叫びが迫真すぎる。これか、あんたがいっつも私の事笑ってた時の気持ち。なるほど確かにおもろくはあるな」


「た、すけっ……ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?!?!?」


「…………えぇ? 神父様? えっと、大丈夫ですか? なんかガチめに、やばそう……?」


「あぐうあああぁぁぁっ!!!!」



 ……???


 え、なんでずっと股間抑えてんのこの人。もしかして無意識に下半身の筋肉に筋力バフかけてた? めっちゃおもろいなそれ、息子を圧殺しちゃった感じか。ギャグじゃん。


 いやこれアレか。グラニウスがってより俺が性病持ってたパターンか? だとしたら謝罪するのもやぶさかでは無いが、俺の身に異変が起きてないのが辻褄合わなすぎる。

 ……自分じゃ気付けないだけで、実は激クサ下半身だったりするのか? 俺って。軽く首吊りますけどその場合。



「よく分からんけど……うぅ、まだズクズクする……はぁ。ちょっと待っててくださいね、なんか薬とか……へぶっ」



 よく分からんけど、性病で息子が嘆き叫んでるのなら軟膏かなんか塗ればいいだろ、そう考え棚の方に歩いていたらびっちょびちょの床のせいで足を滑らせて転倒した。


 ん? 転倒して視点が低くなった事で、立ち姿勢だと見えていなかった物が視界に映った。


 蹲っているグラニウスの喉元。喉仏の僅か下あたりがモコモコと蠢いている。発声によって動く感じじゃなく、別個の意志を持っているかのように不規則的な揺れ方をして、それがゆっくりと首の側面へ移動していくのが見えた。


 皮膚の下を蛇が這っているように見える。その膨らみは彼の首の後ろまで到達すると、深部に潜るかのように平らに均されていった。



「うぐっ!?」



 突如グラニウスの体が硬直する。彼は全身を緊張させた状態のままピクピクと微細な振動をし、瞬きもせずにベッドから崩れ落ちる。



「うわぁ……あ?」



 倒れ込んできたことで彼の息子を思い切り見ちゃう羽目になったが、そんな事も気にならなくなるくらいに異様なものが目に止まる。


 息子の先端からピロピロ激しく動く小さな尻尾のようなもの。彼が抑えるのをやめたせいでそれはどんどんと息子の中に侵入していき、通過した跡には紫色の跡を残していた。


 息子から股関節、腹へと膨らみが動いていく。……今の尻尾の色、模様。どこかで見たような気がする。どこだっけ。



「……あっ!」



 アレだ、数日前にテストロッサと戦った寄生型悪魔! レウコ悪魔に寄生された人間の変貌した皮膚の色や模様なんかがまさにあんな感じだった!!!


 俺もミリ寄生されたし、指とかあんな感じになってたから間違いない! 確かあれ、腕の皮膚を突き破って肉を食い泳ぐようにして指先に収まって勝手にビロビロ動かしてやがったな!? あれと動きが全く一緒だった! え、もしかしてあの悪魔の仕業!?



「……ワァ」



 もう一度自分の胸を見る。……乳首に空いた穴から予想した通り紫色の液体が垂れていた。じゃあと思い股に手を添えてヌルッとした感触をすくってみるとやはり、紫色の液が指に付着していた。


 おっかしいな。テストロッサに解呪してもらったはずなのにまだ寄生虫が体内に残ってたっぽい。それが濃厚接触を通じてグラニウスに移ったって感じか。


 やばいじゃん。完全に俺の不手際じゃん。

 じゃあ今のグラニウスはあのグロキモ悪魔憑きと同じ状態ってことか? 逆になんで俺は無事だったんだよ?


 ……あぁ、あの悪魔と戦った時に能力で汚染し返して無力化したんだっけ。それをしなかったら今頃俺もデュルデュルのナメクジ人間になってたのか。危ねぇ〜。



「セーレ……!」


「! 神父様っ!」


「光、魔法で」


「い、いや。私らってその……コソコソ変態な事してるんで、多分制約を解除出来ないです……」


「ぐあぁっ!? 肉が、体が、食われっ……なんでもいい、から、はやくこいつ、らをっ!」


「儀礼詠唱で」


「間に合わ、ないだろうっ!? そんな悠長な事してる、と、私が……っ」


「じゃあとりあえず聖水ぶっかけるしか! 聖水ってどこに置い」

「ぐあああぁぁぁっ!!!?」


「神父様!?」



 突然グラニウスが雄叫びを上げ、首や手足の間接をグニングニンと動かしながら部屋の中を蜘蛛のように這いずり回った後窓を割って屋根の上を走りながら逃げて行った。



「大分まずいことになったのでは……」



 どーうしましょ。今のグラニウスを放置したら無関係な人達まで巻き込まれる可能性が高いか。流石に無視は、出来ないよなぁ。


 でもこのままアレを追いかけても俺とグラニウスの関係上光魔法は使用出来ないし、手足を切り落としても肉体そのものを芋虫みたいに変えられたら無力化するのは困難になる。儀礼詠唱は使えない。


 やるとしたらガチ抹殺するしかない。でもそれだと事情を知らない人から同業殺しと思われる可能性も捨てきれないんだよな……。



「俺のせいで寄生されたわけだし、今回は俺一人で戦わなくちゃか。……今からァ? 戦えるコンディションでは無いんだけど……」



 とっくに息も絶え絶えだし、体力かなり消耗した後なんですけど?

 クッソ、なーにがハニートラップだよ。パパ活ってマジで賢い行為じゃね? なんて思っちまった過去の俺を思い切りぶん殴りたいわ。人生そう甘くねえわって説教したい、説教欲溜まりまくってるわ今。



「ダッシュで斧を回収して追跡だな。あの人の安否は、助けられそうなら助けて、無理そうならもう今回はごめんの気持ちでブロック肉にしちゃうか? …………あークソッ! この場にピックスさんかテストロッサが居ればなぁ! 最適解提示してくれんのになークソー!!!」

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