51話『枕営業による出世力は実際すごい』
悪魔祓いの実績と、そこに来る道中気まぐれで子どもを助けた話が上層部の耳に入ったようで、ジュエルとテストロッサと別れた後すぐに俺は異端審問官になる事が出来た。
俺の現在の肩書きは三等審問官、所謂見習いだ。仕事内容は主に二等以上の審問官の補佐や下級霊、下級魔獣との戦闘及び退治。冒険者で言うなら銅級冒険者くらいの立ち位置かな。
一応、三等審問官の中にも団体から独立して個人で活動している人はいるらしく、やろうと思えば手続きだけ踏んで一部の地域で自由に活動することは可能らしい。
その場合はフリーの異端審問官という扱いになるそうで、冒険者ギルドに登録してる戦闘職の聖職者はそれにあたるとのこと。
……思ったより早く目標をクリアしてしまった。1年はラトナに戻れないと踏んでいたのだが、8ヶ月程度でなれてしまった。
どうやら神父に媚びを売りまくったのが上手く作用したらしい。キャリアとプライドを天秤にかける価値はあったようだ。俺ってば敏腕! バリキャリ! 自分の世渡りスキルに惚れ惚れしちゃうぜ。
と、喜んでいたのも束の間。昇進出来たはいいものの、媚び売ってた神父のお気に入りになってしまったせいで聖ルドリカ堂周りの地区を担当する羽目になった。フリーの異端審問官の道を選ぼうとした矢先にその選択肢が除外されちった。うーん、本末転倒。
「詠唱拘束が終わりました。セーレ、とどめを!」
「分かりましたっ!」
湾岸都市ヒベリウスの町外れの森にて。レウコクロリディウム(検索しない方がいいよ、ネタ抜きで)に寄生されちゃったような姿に変貌した悪魔憑きの胴体……と思しき縞模様のニュルニュルの部位をハンマーで叩き潰す。悪魔憑きは奇っ怪な声を上げて絶命した。
「うひぃ〜! キモかったキモかった! シスター・テストロッサ、解呪をお願いします!」
「テストロッサ? 違うでしょ、セーレ」
「お姉ちゃん!! 私もちょびっと寄生されてんの! さっさと解呪してくださいっ!!! 指がもう勝手に動いてるからっ、目ん玉飛び出ちゃうよ!?」
「ふふっ。はいはい」
呑気にくすくすと笑いながらテストロッサが光魔法で俺に掛けられた呪いを解呪してくれる。おー、体の色が元通りの肌色になってく。良かった良かった……。
「こんなおぞましい存在までいるとは。異世界恐るべし……」
「こんなのまだマシな方ですよ。中にはもっとグロテスクな見た目に宿主を変貌させる悪魔も居ますからね。例えば全身から触手が」
「要らないですその補足説明。でも、殺しちゃってよかったんですか? 悪魔祓いって、あくまで取り憑いた悪魔を追っ払う行為なのでは」
「こんな状態の人間が普通に生きていけると思います?」
テストロッサが絶命した宿主の死骸に手を差し向ける。
……まあ、目ん玉とか耳の穴とか頭からニョロニョロ出してて全身ナメクジみたいになっちゃってるからもう再生出来ない段階まで来てるってなのは分かるけどさ。それでも一応生きてる人間には変わりないわけで、殺すってなるとそれなりに心が痛くなるってもんだ。
「寄生型は宿主を新たな本体にすげ替える性質上、完全に倒されたらもう二度と復活出来なくなります。悪魔を一体明確に討滅したのです、喜ばしい事として受け取りましょうよ」
「だからあんなに強かったのか……よく2人だけで倒せましたよね」
「私たち仲良し姉妹が揃えば倒せない敵などいないのです!」
「仲良し姉妹て。あの、普通そういうのって冗談のノリで済ませるべき事柄ですよね。なに他の方にも吹聴してるんですか。顔合わせの時に『テストロッサの妹さんなんですってね!』とか『あまりお姉さんと似てないんですねぇ』って言われて気まずい思いしたんですけど」
「ねー? 不思議ですよね、私たちこんなにそっくりなのに」
「寄生されてます? ちゃんと目ぇ見えてんのかな。瞳の色確認するのでそこでジッとしてください」
「私はまともですよ!」
「まともな時なんて片時もないですよ。常に狂ってますよあんた」
テストロッサにツッコミながら死骸に聖水をふりかけて魔滅の詠唱なるものを口にする。悪魔と化した宿主の肉体から焼けるような音がして、完全に消滅するのを確認し立ち上がる。
「お仕事完了ですね。お疲れ様です、セーレ」
「お姉ちゃん。ひとつ尋ねたいことがあるのですが」
「なんでしょう?」
「仕事をくれるのは有り難いんですけど、なんで毎回強めの悪魔憑きと戦闘する羽目になるんですかね。聞く所によると私に割り振られてる仕事って危険なものばかりだと耳にしたのですが」
「だ〜って。私一等審問官ですし、私に割り振られる仕事を紹介してる関係上それは仕方ないでしょ?」
「なんか半ばニコイチみたいな感じでずっと一緒に居ますけど。別に私、1人でも真面目に仕事しますし」
「やだ。妹と離れ離れ禁止です。寂しいもん」
「妹じゃないんだよね、ちなみに言うと」
「恥ずかしがり屋め。まだそんな事を言うのですか? 外堀はもう完全に埋めましたのに。マザー・リエルだってあなたと私が血の繋がった姉妹だと信じて疑っておりませんのよ?」
「おりませんのよ? じゃないですよ。なんて事してくれたんですか本当に」
「まあまあ。早く二等審問官に昇格したいって申したのはあなたの方ではありませんか。一等審問官の補佐をして実績を積み上げる、そうして上層部の目に留ればすぐにでも昇格できます。大変だとは思いますが、そこは気合いで乗り越えましょう!」
それはそうなんだけどさ。さっさと二等審問官に上がって、媚びへつらってる神父より上の役職になって自由を獲得するために奔走してはいるけどさ。でもなぁ。俺の事を実妹扱いしてくる狂人とタッグを組むのはなんか、なーんか嫌なんだよなぁ……。
今日の仕事を終え、次の仕事までの空き時間が大きく空いたので俺はテストロッサの案内でヒベリウス一と称されているご飯屋さんに来ていた。
教会で出されるご飯も美味しいには美味しいのだが、健康的な料理のメニューには限りがあるし同じような料理ばかりだと舌が飽きてしまう。
たまにはジャンクなフードを嗜むのも心の潤いには不可欠だ。テストロッサもそこに関しては同意見だったらしい。お堅いシスターさんじゃなくて良かったと思った。
「そのお洋服、もう慣れました?」
「慣れたとは?」
「ふふっ。最初あなたに着せた時は『肌面積広くない!?』と抗議していたではありませんか」
「あー……」
確かに。異端審問官になった際に日を置いて用意されたこの服を初めて見た時は色々文句を言った記憶があるな。
異端審問官は修道女と違い、個々人で仕事内容も変われば戦闘スタイルも大きく異なっている。故に同じような作りの服を量産しても、人によっては扱いづらいという問題も出てくるため訓練成績や本人の希望に沿って少しずつ戦闘服のデザインを変更しているらしい。
俺はとにかくでかい武器を振り回す近接戦闘タイプだ。剣や槍も習いはしたが、一撃が軽い武器は手応えがなくて動きがぎこちなくなってしまう。
日頃からバットを振り回してる不良が、急な喧嘩に勃発した時咄嗟に中身スカスカの軽い長物を武器にしても気持ちよく相手を殴れないみたいな理屈だ。
でかい武器を扱うって事はそれだけ動きも大きくなるし武器が服に引っかかってしまう恐れもある。だからあまりフリフリしたものは着れないし、布面積が広くなると腕の動きで破けてしまったりする可能性もあるので、極力俺の戦闘服は布を少なくしていると説明された。
異端審問官の戦闘服の統一デザインとして、腰の位置にベルトがあるフード付きの白いダブルブレストタイプのジャケットワンピースなのは他の異端審問官と変わらない。左胸にミルティア教徒である事を示す紋章と、三等審問官である事を示す1つの円環の刺繍があるのも同じだ。
でもワンピースのスカート部分の丈が膝上までしかないし、袖がバッツン切られたノースリーブなのも最初は気に入らなかった。聖職者のはずなのに肌色見えすぎだもんね。
オマケにワンピースの下に服を着るのは推奨しないとか言われてるし、下着は何故か布面積の小さい下着を指定されたし。まあこれに関しても、俺が自己申告した『骨を体外に剥き出しにする能力』を考慮した結果なんだろうけどさ。
なんだろうな、裁縫担当の人らは俺が服の前部分を開け放って戦うとでも思っていたのだろうか?
そんな事したら上着羽織っただけのマイクロ下着姿の幼女が誕生するわけで、シンプル露出狂でしかないのよ。やるわけないだろそんな戦い方。
「いいと思いますけどね、そういう薄着なの。この街とっても暑いですし」
「でも一年中これなんですよね私。冬とか地獄見る気しかしないんですけど」
「最悪火の魔術でどうにかなるでしょう。私たちの戦闘服はめちゃくちゃ丈夫だし燃えない性質になってるので!」
「燃えない性質になってるので? その言い方だと自分の体に火をつけろって言ってるように感じますけども」
「回復魔術とかあるし、多少の火傷程度ならどうとでもなりますよ!」
「多少では済まないな? 体に着火したら骨の芯までこんがりだな???」
「意外とよく燃えますよねぇ人の体って」
「でしょうよ。だから火をつける案は無しとして、真面目にどうしましょ。戦闘服って二着目以降も用意してもらえるんです?」
「それなりのお金を積めば」
「金かい」
結局は金なのかい。影響が凄まじい宗教って時点で莫大な金が集まりそうなもんなのに、身内からも徴収するんか。何に使ってるんだよ、そのお金。
「要望があれば仕立て直すための資金はお渡しできますが。どうします?」
「うーん……まあ、ちょい恥ずかしい衣装だなぁとは思ったけどもう慣れましたし、確かに機能面で困ることも無いですし仕立て直しは大丈夫です。敢えてあげるのなら首から下げてる十字架ネックレスが邪魔なくらいですかね。戦う人間がチャラチャラアクセサリーを下げるのはどうかと思います」
「それは異端審問官の証になるので外せませんね〜」
「服の中に入れておくのもダメなのは意味分からなくないですか?」
「身分が分かるものを見えやすい所に置いておくって側面もあるので仕方ないかと。それに、その十字架は周囲の魔力を吸収して呪いを緩和する加護と痛みを留める加護を付与する効果もありますし。外に出していた方が有用だと思いますよ」
なるほどね。その効果のおかげで俺がナメクジもどきにならずに済んだのか。ふーむ、ならめちゃくちゃありがたアイテムではあるな……。
「手袋と太ももブーツには身体強化の加護が付与されてるんでしたっけ。ほんで服には物理耐性の加護があって、衣装全体に属性耐性の効果も付与されてると。アレっすね、着てるだけでめちゃくちゃ強くなれるチート装備ですよねこれ」
「チート装備? とは」
「規格外にズルっこいって意味です。こんなもん、身につけるだけで誰でも手軽に戦闘力アップしますやん。パワードスーツですやん」
「そうですかねぇ。確かに付与される加護は様々ですが、それでも悪魔の呪いは完全には防ぎきれませんし、竜種のブレスを受けたら一瞬で炭になりますよ?」
「ドラゴンブレスを無効化したらガチチートでしかないんですよ。丁度やり過ぎない程度に法外性能してんのがまた姑息な感じしますわ」
「戦闘職である以上、不意の攻撃を受けて戦闘続行できなくなるなんて事は極力減らさなければなりませんしね。元々はキリシュア王国の騎士の戦闘服を参考に作られたと言いますし、ずるいという程でもないと思いますよ」
「キリシュア王国?」
ここで出るとは思わなかった単語に目を丸くする。ミルティア教って、キリシュア王国と何か繋がりでもあるのだろうか? 若干国名と宗教の名前が似てんなとは思ったけど……。
「キリシュアの王国騎士団、その第七師団は別名『第七修道騎士団』とも呼ばれていましてね。一等審問官の殆どはそこに属しているのですよ」
俺が問いを投げる前にテストロッサが自分から補足説明をしてくれた。へぇ〜と相槌を打ち薄切りになったハムを野菜と一緒に口に突っ込む。ん〜、美味いっ!
「テス「セーレ。怒りますよ?」……お姉ちゃんはその第七騎士団とやらに所属してないんですか? 毎日私の所にやってきてプラプラしてますけど」
「所属してないです〜」
「そりゃなんで? 明らかにエリートコースじゃないですかそこ、実力不足とか?」
「失礼な! 1人を除けば、万全の状態ならあそこの誰よりも強いと自負してますよ! お姉ちゃんは時々最強になるので!」
「分からん分からん。時々最強ってなんなんすか。てか1人を除いてる時点で最強ではない」
「第七騎士団の団長やってるのはミルティア教最大戦力の人ですし? 人類最強の一角『闘聖』とか呼ばれて持て囃されてますし? 私の方が強い、なんて言ったら皆から鼻で笑われちゃいます」
「ほえーそうなんだ。人類最強ねぇ」
元剣聖がシルバーファングのおっさんなんだっけか。その人も人類最強とか言われてなかったっけ? 剣士の中で人類最強、なのかな。部門ごとで分けるんだ、そういうの。正真正銘人類まるっと括って最強みたいな人は居ないのかな。
「じゃ、最強自認を誇示できないから騎士団には属さなかったって事でいいですか?」
「なーんでそんな曲解の仕方するんですかぁ。別に私、自分の強さを鼻にかけてなんかいませんし。入らなかった理由は全く別ですよ」
「なんで入らなかったんです?」
「嫌いな人がいるからですかねっ!」
「わぁ」
めちゃくちゃ分かりやすい理由だったわ。なんでそこでニコッと微笑む、なんか圧を感じて怖いんですけど。
「にしてもお姉ちゃんが最強かァ。うーん」
「なんですか。思ってる事を素直に言ってみなさい」
「いやぁ。確かに夕方とか早朝の仕事の時は戦闘を手伝ってくれますけど、昼ぐらいになるとほぼ何にもしないじゃないですか。やって詠唱を唱えるか光魔法を数発撃ち込むかくらいでしょ? 最強と呼ぶには程遠い活躍じゃないかなーと」
「あれ? 言ってませんでしたっけ、私『日没の加護』という物を持ってまして。深夜に近付くほどに強くなる、逆に遠のくほどに弱くなるって体質なんですよ」
「概念的な話ですか? てか日没ってネーミングなのに最強形態は深夜なんだ。アーサー王伝説に居ましたね、昼になるとべらぼうに強くなるみたいな人。それのパクリ?」
「なんですかパクリって」
「真似っ子って意味です」
「真似というか偶然賜ったというか。……てかセーレ、その顔信じてませんよね?」
「効果だけ聞くとあまりにもフィクション能力すぎて。魔法を使える時点でファンタジーだけども、そんな限定的な詳細説明をされると流石に」
「ふーむ、よろしい。セーレも中々の戦闘力を有しているので久しぶりに少しだけ真面目に戦闘訓練しましょうか。そこで実力を見せてあげましょう!」
「厄介な流れ来たか? 私、戦闘訓練とか嫌い寄りなんですけど。面倒臭いし痛いし」
「異端審問官らしからぬ発言ですね……とりあえず今夜、休息を取ったら森の方へ行きましょうか。民間人を巻き込むわけにはいきませんし」
「や。結構です。私ロングスリーパーなので。寝ます」
「じゃあ4件目の依頼を挟みますけども」
「張り切ってボコり合いましょう! 手加減はしませんよ〜!」
流石にこれ以上馬車に揺らされたり歩き回る羽目になるのは御免だ。気は乗らないが、戦闘訓練の方が移動の手間がないから楽だしそちらを選択しよう。
「あ、それと」
「?」
「戦闘訓練の際には可変聖器ではなくあなたの戦斧を持ってきても構いませんよ。ほら、あの戦斧は狭い場所が使えないからってずっと使用を渋っていたでしょう?」
ふむ? 俺の初期装備であるあのつよつよ戦斧を使用しても良いと。あれを使う事を想定してずっとハンマーを使用してたんだし、本来の得物を使って戦えるのはありがたい。
「あれ、魔道具なんで。あれを使うって事は私が使用できる魔力も大幅に向上するって事なんですけどそれでも大丈夫ですかね?」
「ふふっ。お姉ちゃんは妹よりも強し! 何を使ってくれても構いません、なんなら今から霊薬をガブ飲みして魔力を溜め込んでもらってもいいですよ?」
「しませんよ、あれ不味いし。私は素で魔力量がバグってるので、特に準備無しで訓練に臨みますわ」
「あら。大した自信ですね」
そりゃ、古代水王種や巨大虫と戦った経験があるのでそこらの人間相手にゃ負けるわけないしな。
ここに来てから学んだ事だけど、俺が倒してきた魔獣ってそれこそ冒険者のトップ層が束になってようやく倒せるレベルらしいじゃん。そりゃもう自信ありありよ。
日が落ち、深夜に回った辺りでパチッと目が覚めた。俺の体内時計はやはり優秀だ、指定された時刻の30分前に起床出来たぞ。
「セーレ? どこか行くの?」
身支度を整えていたら同室者のミルスさんに声をかけられた。彼女のお腹は以前と比べるとかなり大きくなっているがそれでもまだ出産は出来ていないため修道女を続行している段階である。
こんな時間まで真面目に読み書きの勉強をしていたミルスさんに感服しつつ、長い事壁に立てかけていた戦斧を掴む。
「先輩に呼び出されたのでしごかれに行きますわ。でも私の方が強かったら返り討ちでボコりまくれるぞ〜。楽しみ楽しみ!」
「先輩ってお姉さんの事? なに、姉妹喧嘩でもしたの?」
「サラッと姉妹認定された事に引っ掛かりを覚えつつ。姉妹喧嘩というか、まあ腕試し? みたいな感じです。あの人、自分の事を最強だと思ってるみたいなので。その鼻っ面をへし折って自信喪失させてやろうかなと」
「なんで??? 普段あんなに仲良さそうにしてるのにお姉さんの事嫌いなの?」
お姉さんでは無いんだよね、訂正したらどこからともなくそれを聞き付けたテストロッサの理不尽説教を受けるからもう何も言わないけどさ。
「嫌いじゃないけどさ。おっぱいデカいし良い匂いするし顔も良いから大好きな見た目ではあるけど、見た目は良くても中身が残念すぎるから好きにもなれないって感じですわ」
「……血の繋がった相手の体見て興奮してるの? しかも同性相手に? きもちわるっ」
「違う。それは違う」
「神父様に調教されて変態になっちゃったのは可哀想だなぁって思うけど、根幹の性癖がそれだともう関わり方を考えるかも。流石に」
「何もかもが違う……! とんでもない誤解してますミルスさん。その目やめて」
「気持ちよさそうに毎晩喘「ほんっとーーーにやめて!?」美味しそうに「やめて!!? 黙れない!? やめてと言われてるのに黙れないの!? 別に喜んでやってないから! 頭脳派だから演じてるだけだからね!? やめて!!!」……お尻「やめてね!!!!?!?!?」うるさいわね。分かったから。行ってらっしゃい」
小一時間コンコンと俺の真意を叩き込みたい所だが、流石に先輩の呼び出しをすっぽかすわけにもいかないので後ろ髪を引かれまくる思いで私室を出る。
……この教会さ、部屋の壁が薄すぎるんだよ。防音遮音がしっかりしてないから余計な誤解が生まれるんだ。廊下を歩いてたら行為中の声とか音とか聞こえるし、だから誤解が生まれるんだよなー!
「あ、セーレ。待って」
「うひゃっ!? ミルスさっ……シスター・ミルス。こんな時間に部屋を出たらマザー・リエルに怒られますよ……?」
「それはそうなんだけど、その……」
「?」
「……えっと。要は今からお姉さんと戦闘訓練するんでしょ?」
「はい」
「…………戦うのなら、そのお尻のやつ。抜いといた方がいいんじゃない?」
「!!!!?!!!?!?!?!? や、あのこれっ、は、違くてっ。あくまであのっ、神父様の興味が逸れたら出世街道からドロップアウトしそうだから仕方なく本当に仕方なく指示に従ってるだけで深い意味はなくてっ。てかなんでバレっ……」
「……床汚れてるし」
「死にたい」
「時々見えてたし。足開いて寝てる時とか」
「死のう」
「……えっと。見ないでおくから」
「……耳も塞いでいただけると」
「ああ、うん……」
言い訳ではなくこれは本当に仕方ないのだ。俺がハニトラ仕掛けてる神父は冴えない男の割に他所に顔が効くし上層部とのコネクションも持ってるから利用するのに丁度よすぎるしさ。
俺はロリボディであの神父はロリコンじゃなく普通嗜好だから興味を引くには更に踏み込んだ性癖を満たす必要があるわけで、だからつまり望まないにしてもこれは仕方ない事なので決して俺が変態とかメス堕ちしたとかそういう訳では無いのだ。これはガチで。
「……免除になったってのに、結局そのうち赤ちゃん産みそうだね」
「産まないから! ……産まない! から!!!」
「はいはい。声でかいな、時間考えなさいよ……」
「くぅ……知られたくなかった……耳塞いでください! 私が肩叩くまで!」
「嫌だなぁ。同じ部屋で……」
「ねえ。そろそろ泣きますよ。現段階で半泣きなんですけど、自分」
「……行動力はすごいと思うよ。そこは素直に尊敬してる。やってる事はさておいて」
そう言ってミルスさんが俺に背を向け耳を塞いだ。あぁ……鏡に映った自分の情けなさすぎる格好にため息がこぼれる。
本当はこんなはずじゃなかったんだけどな。ハニトラ仕掛けるも失敗し、諭されて、放っておけない少女って印象植え付けて関係値を築こうとしたのに完全に裏目ったんだよな。男は性欲の獣だ、教訓になったわ本当に。




