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俺は女神の中の人  作者: 千佳のふりかけ
第二章『初めて他人を完全なゾンビにしました編』
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38話『冒険者への道』

 いくつか分かったことがある。


 復活させたピックスさんは俺と触れている間、自動的に魔力を微量吸い上げてくる。

 そして興奮状態になると吸い上げる魔力量が増大し、供給する魔力量を絞ると彼の瞳が若干発光し心拍数が上昇。発汗、筋肉の震えが起きて脳みそのリミッター? が解除されるっぽい。


 彼が手で触れていた浴槽の壁面に凹みがある。俺を抱き締める力も、軽くと言ったのにかなり強かった。強く感じた、と言うのが正しいか。



「俺の魔力が尽きると人喰いの化け物になるっての、アレクトラの記憶にあった漠然とした情報だったけどああいう事なのか……」



 あの時のピックスさんには、自分の筋力にバフが掛かってるのに気付いてる様子は無かった。無意識のうちに力が増し、無意識のうちに人を食糧のように見てしまうのだろう。俺を見る目もそんな感じだった。ちょっと怖い。



 ただ、それとは別に俺からの命令に無意識に従ってしまうという状態にも陥っているらしい。

 これは興奮状態の時限定なのかも分からんが、今までのピックスさんなら多分俺の『抱いてくれ』という言葉には最後まで抵抗していたはずだ。


 なんのかんの言いながらアッサリと言う事に従ってくれたという事は、無意識のうちに俺の言葉に従ってしまう本能が理性に組み込まれてしまっているのだろう。


 今のピックスさんは本人が気付くことなく脳みそを弄られてる状態に近い。マイルド催眠洗脳状態だな。で、それは終生解ける事は無いと。


 うーむ、後味の悪い能力だなやっぱ。場合によってはこれからも使っていく機会があるかもしれないと思っていたが、しばらく封印だ。



「ただ、傀儡を作る事で俺の魔力生成量にもバフが掛かってるんだよな。魔力供給して体外に出ていく魔力量と恐らく同量の魔力が作られてる。結果的に、傀儡に触れていない時の魔力生成量にバフが掛かってる状態か。システム面で考えりゃ、死体奴隷を増やせば増やすごとに俺が強くなる仕組みになってる。寄生虫と共存してる宿主みたいなもんか」



 食事で得られる魔力効率も良いし、とにかく喰って傀儡を増やすのがアレクトラの強化方法っぽい。とことん他者を殺して屍人(アンデッド)を増やす事に特化したスキル構成だ。


 捕食者として完成されちゃってる。そりゃ、他種族からしたら邪神扱いされるのも納得がいくわ。



「はぁ」



 自分以外無人となった浴槽に深く体を沈め、顔だけ出した状態でため息を吐く。



 ピックスさんがいる前では性的趣向は男のままと言った。そこは間違いじゃない、事実通常時の俺はピックスさんに対して何も感じることがなかった。


 だが、厄介な事にこの肉体は性を貪る行為そのものに強い感心を持っているらしい。


 なんでそうなるのか、理屈は分かる。屍人はあくまで死体であり、生きている生物が存在しなければ作れない怪物だ。


 子供を産んで、子孫が増えれば必然的に屍人の素材は多くなる。滅ぼす事に特化したスキル構成をしながらも、それだけではいつしか立ち行かなくなる。

 だからこそ感情や本能とは別に"機械的に子を成そうとする意志"が介在しているらしかった。


 ……まあ、これはピックスさんと密着する事で感じた漠然とした虚無感をそれらしく定義した過程に過ぎないが。

 もしかしたら他の事情であの感覚を抱いている可能性もあるが、生物として考えた時にそれらしさがあったので今はその説を信じておく事にした。



「……」



 自分の下腹部を摩る。


 ピックスさんに、というか男体に密着した時に変な疼きが下腹部にあった。


 発情しているわけではない。恐らくこれは肉体の記憶、俺が覚えてない時系列で起きた何かしらの出来事の追体験なのだ。



「……処女じゃねえな、この肉体」



 そんな確信があった。そういう行為を行ったのはアレクトラの生前である数千年前とかの話ではなく、ここ数十年の間での出来事だという確信すらある。


 痛み、快感、嫌悪、多幸感。そういったものが未経験であるはずの俺の腹に残留していた。それを知った時、深い絶望を抱いたがあの二人にはきっと気付かれていないと思う。



 記憶を弄られている。これは確実だ。俺がアレクトラとして目覚めて、ロドス帝国に帰って、いきなり十五年の月日が経っているのもおかしな話だしな。


 それに、転生してからの事を時系列順に思い出しても何故か穴が空いている。


 アレクトラを蘇生させた魔法使いの貌と名前、転生直後に会話していた剣士の貌と名前、謁見の場に列席していた兵士複数人の貌、アレクトラとして接してくる町民の貌や話してる内容、そういったものが黒塗りになっていて不自然に思い起こす事が出来なかった。


 女帝と会話した後の記憶も不自然にブツ切りになっている。まんま忘れているのではなく、こう、確かに十五年分のデータはあるがその上にモヤを掛けられて何が起きているのか認識する事が出来なくされてるような、そんな気がする。



「何かしらの事件の渦中に居たことは確かだろうな。それはきっと、めちゃくちゃ悲しい出来事だったんだろ。まるで何も思い出せないが……」



 手掛かりは何も無いが、肉体の記憶が呼び起こす感情は『悲しい』だとか『憎い』だとか、そういった負の物しか無かった。


 思い出そうとすればするほど、胸の痛みは強くなる。何に対してそう思うのか分からないのに泣きそうになる。何かを取り戻したくなる。そんな不確かな感覚に蓋をして、ため息を吐く。



「これ、知ったら絶対ろくでもない気持ちになる奴だ。知らなかった方が良かったジャンルの真相だわ絶対」



 ゆらゆらと揺蕩う髪を手で纏め上げ、そろそろ出ようかと思い身を起こす。


 俺はエリザヴェータに、一体何を命じられたんだろうな。ノイズになって聴こえない彼女の言葉を耳にした瞬間、心臓を杭で貫かれるような衝撃と恐怖、絶望や後悔があった。


 黒塗りの記憶を早送りで再生している時、あまりにも強く『死にたい、殺して』と願った瞬間もあった。それに気付いた辺りから目の前のピックスさんに抱き締めてほしいと感じ、あんなホモみたいな要求を口にしてしまったんだよな。



 記憶巡りなんかするんじゃなかった。今でも人恋しさが心臓に残留してる。気味が悪い。



「最悪すぎる。あのままピックスさんが外に出てなかったら多分、寂しさに潰されてそのまま体許してたよな。終わってる。何があったんだよマジで、以前のアレクトラにさ」



 浴槽から出て、鏡に映る自分の顔を見つめながら問い掛ける。当然鏡の中のアレクトラは何も答えない。ただ、寂しさに揺れる瞳で何かを俺に訴えかけてくるだけだった。



「思い出すのは怖いが、知っておかないとこの蟠りも解消しねぇよな。……やっぱそのうち行かなきゃだな、キリシュア王国に」



 全てを知ろうとするのは人間の傲慢だと思うし、そんなものに自分が支配されるとは思ってもなかったが。ここまで感情を掻き乱されたんだから知らないまま生きていける気もしない。


 俺としては気が進まない。だが肉体がそれを求めている。肉体の意志は精神の有り様すら捻じ曲げてしまう、俺にその意志を黙らせる事は出来ない。



 パンっと頬を叩き、気を取り直して浴室から出る。


 これは俺の問題だ。最終的には彼らにも同行してもらう形にはなるが、それまでは彼らに心配させるわけにはいかない。



 タオルで水気を拭き取り、脱いでいた服に袖を通す。

 ……当然っちゃ当然だけど、ドライヤーなんてないよな。どうすればいいの、このべらぼうに長い髪。タオルで拭くにしては量が多すぎるんですけど。



「お風呂上がったよ」



 仕方ないのでタオルを頭に巻き脱衣所から出ると、ピックスさんに「ちゃんと髪は乾かしなさい」と言われた。

 毛量馬鹿すぎてタオルじゃ無理と言うと、どうやらそれ専用の魔道具があるらしい事を聞いた。あるんかい、ドライヤー。





 バスタイムを終え、身を清めた俺らはラトナの街を散策する事にした。



「あふっ!? あっつい!?」


「ちゃんと冷ましてから食べなよ。いきなりかぶりついたら火傷しちゃうぞ」


「たこ焼きがあるなんてまさか思わないじゃんかー! そりゃかぶりつきますよ! この感覚なつかし、はふっ、あぢゅー!?」


「水を飲みなさい水を」



 たこ焼きに似た異世界料理、『クラーケンの粉包』を注文し恒例のハフハフタイムを久しぶりに味わう。


 これだよこれ、時間を置いて食べるたこ焼きの予想外の暑さに口の中灼熱地獄と化すやつ。ノスタルジーだわぁ、ふらっと立ち寄った祭りとかで度々味わうんだよなーこの感覚!



『プッ、プルッ!? プルゥーッ!!!?』


「ほらぷるみちゃんも真似しちゃうから! ……いや、ぷるみちゃんは熱いものなんて食べちゃダメでしょ火が弱点なんだから。なに普通に与えてるのさ!?」


「ばっかお前、美味しいものはみんなでシェアハピするのがセオリーだろ。仲間外れは良くないぞ? なぁ、ぷるみちゃん」


『プルーッ!!!?!?』


「仲間外れというか! 犬に玉ねぎを食べさせるようなものだからこれ! ぷるみちゃん、苦しかったら吐き出して! こっち食べようこっち!」


『プ、ルル……!』



 ぷるみちゃんはピックスさんの言葉に首を振り断ると、気合いで体内に突っ込んだクラーケンたこ焼きをジュワァと溶かし吸収していた。健気だなぁ、頭を撫でてあげよう。



 しかし、クラーケンの粉包か。クラーケン、クラーケン……なんかどっかで見覚えがある気がする。以前にも食べた事があるのかな? 俺じゃなくてアレクトラが。なんか不思議な感覚だ。



「なあピックスさん。これってさ、ロドス帝国となにか関係ある?」


「え? これって粉包の事? どうだろう、ロドスも海沿いの国だから出されてたとは思うけど……」



 海沿いの国なのか。ふむふむ。


 ラトナから見たら北側の国だってのは知ってるけど、結構寒めの国なのかな。俺がこの世界にポップした時期は夏っぽいからあまり寒さは感じなかった記憶がある。



「クラーケンってのはどういう海に生息するもんなの?」


「??? どういう海とは」


「ほら、暖かい海とか冷たい海とかあるだろ」


「主に食用とされてるクラーケンは温帯海域から亜寒帯海域に分布してるよ」


「ここって海沿いの街じゃないよな? 腐海とやらにも生息してんの?」


「ヌトスの腐海に食用の魔獣は生息してないよ。ラトナというかアルンガ共和国はリチュアっていう島国と貿易を行ってるから海産物の流入が多いんだ」


「ほえー」



 アルンガ共和国、それがこの国の名前なのか。初耳情報だな、異世界地理の知識が増えたぜ。



「思ったんだが、国外に移動する場合はパスポートを取得しないといけないよな。冒険者ってパスポートも取得出来るの?」


「パスポート、という単語には覚えが無いけど、金級冒険者になれば大抵の国には行き来できるよ。冒険者証が身分証明になるからね」


「きんきゅーぼうけんしゃ?」


「冒険者の序列の一つだよ。冒険者は基本、試用期間の一ヶ月依頼をこなした後に段階的に格付けがされるんだ。試用期間中に目立った成績を収められなかった冒険者は青銅級、魔獣の討伐経験があれば銅級からのスタート。そこから依頼をこなしていく事で銀級、金級まで上り詰めていって、魔金鉱(ミスリル)級に到達すると超一流の冒険者とされ各国の召集を受けたりギルド運営の権限を得られたりする」


「へぇ。ピックスさんは何級なの?」


「僕は銅級」


「めちゃくちゃペーペーじゃん」


「単独で依頼をこなしてたからね。討伐依頼なんて危険すぎて本来なら受けないよ」


「なるほどね。しっかし金級かぁ……」



 魔獣をぶっ殺した経験自体はあるから今から冒険者になるとしたら銅級スタート。そこから二段階昇格しないと外国に行く事は難しいと。先が長くなりそうだな……。



「ちなみに、飛び級制度みたいのはあるの?」


「あるよ」


「あるの!?」



 あるのかよ。あ、青銅級と銅級の違いも言ってしまえば飛び級みたいなもんか。



「どんな事をすれば飛び級出来んの?」


「その序列に相応しい実力を持ってると示せれば飛び級は出来るよ。僕から見たらセーレは最低でも銀級、巨大虫型魔獣を複数撃破した点から見れば金級以上の実力を持ってるとも言えるかな」


「ほう!!!」


「だが、僕らは討伐した魔獣の戦利品を持ってないからね。それを示すのは難しいかも」


「よーし今からあの森に直行だ!」


「言うと思った。何も今から行かなくても、冒険者に仮登録して適当な依頼を受けつつ戦利品を持ち帰れば一石二鳥だと思わないかい?」


「えっ。やばそれ賢すぎない? ぷるみちゃん、我々三人の司令塔が生まれたぞ」


『プル!』


「あ。てかそもそもぷるみちゃんは古代水王種(エルダースライム)、特別危険指定魔獣なんだからそれを使役してる時点で僕らは金級相当の実力があるって主張出来るんじゃないかな?」


「!!!! なんと!!! ここにきて一条の光が差したな! ぷるみちゃんの存在が俺達の希望だったって事か!? 偉いぞぷるみ〜!!!」


『プルゥ〜』



 そうか確かに、魔獣を使役してるのならその魔獣に強さを認められたと主張しても何もおかしい事は無いもんな! 思わぬ所で幸運を拾ってしまったようだ、ぷるみちゃんが金の卵に見える。なでなでなで、もう膜から火が出るくらいにぷるみちゃんを撫で尽くす。



「ぷるみちゃんのおかげで異世界作品御用達の飛び級イベントが生じたぞ! まじ偉すぎるな〜キスしちゃうぞ〜ぶちゅちゅっ!」


『プルッ!?』


「やめなさい驚いてるから。今の所持金じゃ斧のカバーをオーダーメイドするのは難しいから、手っ取り早く依頼を受けて報酬を受け取ろう」


「そうな。あ、その前に一個お願いしたい事があるんだけど」


「なんだい?」


「えーと……所持金に余裕はある?」





「ただいま」


「おー。バッサリ切ったねぇセーレ」



 行動を起こす前にどうしてもやっておきたかった事があった。

 散髪だ。あまりにも髪が長すぎて戦う時も邪魔でしかなかったからな、散髪屋に赴き肩に掛からない程度の長さまで切ってもらった。所謂ボブカットである。



「これで首元が涼しくなったわ。さっきまで蒸れて蒸れて仕方なかったからな〜」


「短くするだけじゃなく髪質も変えたんだ。さっきまで癖が強くて毛先が跳ねてたのに」


「それは切ったらなんか勝手に直毛? ストレート? になったわ。単に伸ばしっぱなしの髪を放置してたから傷んでたっぽい」


「なるほど」


「髪質が一気に変わるから癖を付けるか訊かれたけどあんまり無駄金は使えないしな。はいピックスさん、お釣り」


「別に使っても構わなかったのに」


「人の金だしそんな好き勝手できないっての。なに、ピックスさんは毛先跳ねてる方が好きだった?」


「!? い、いや、僕は別に……その髪型も似合ってるよ」


「どうも」


『プル……』



 む? 俺の髪型を見たぷるみちゃんが納得のいっていないような鳴き声を発した。似合ってない?



「どうやらぷるみちゃんはセーレの髪を弄るのが好きだったみたいだね」


「そうなんだ。散髪屋戻って髪の毛取ってこようか?」


『プル! プル!』


「そういう事ではないらしいよ」


「むず〜。じゃあくつろいでる時とかに頭触っていいよ。移動中は人に見られるから勘弁な」


『プルッ』



 短く鳴いたぷるみちゃんがピックスさんの腕から俺の腕に飛び移った。納得してくれたのかな。



「しかし髪型が違うと印象も変わるね。どこか不気味な雰囲気があったのに大分明るい見た目になったよ」


「不気味な雰囲気??? そんな風に思ってたのかよ」


「前髪で表情が隠れてる時とか、口元だけ見えてる時とか不気味に感じても仕方ないでしょ」


「やばこいつ、今ふつーにコンプレックス指摘されたんですけど。まじか、デリカシーないのまじか」


「えっ!? ご、ごめん! 傷つけるつもりじゃなかったんだ!」


「歯なぁ。ギザギザしてるもんな。ほんで俺の笑い方も汚ったないもんな。そりゃ不気味な化け物に見えても仕方ないわな」


「化け物だなんてそんな! セーレは可愛いよっ、だからそんなに気にしなくても……」


「ほう。可愛いと。ならお前は大衆の面前で俺に抱き着くことが出来るのか?」


「えっ。何故そのような事をしなければならない?」


「可愛いって言ったじゃん。それが口から出たまことなら恥を忍んで俺にハグすることも出来よう」


「それとこれとは」


「関係あるね。機嫌を直すため口から出任せを言ったんだとしたら相当最低だぜ。モテないぞ」


「ぐぬぬぬ……」



 ピックスさんは迷いに迷った末、こちらに接近してきた。彼から背を向け、困惑し立ち止まったであろうピックスさんに向かって後ろに下がり衝突する。



「ほら。腕を前に回せよ」


「えぇ……?」


「これだとただ俺の背中にあんたがぶつかってる構図にしかならないだろ」



 そう指摘すると、おずおずとピックスさんの腕が動き俺の胸の前で手が組まれた。


 ふむ。平常時でも洗脳効果は効いてるのか。考えてものを言えるだけで、俺に対しては自動的に絶対服従みたいな感じになっちゃうんだな。


 能力が発動した時点で、術者である俺から離反するという選択肢は潰えちゃうと。やっぱ悪趣味な能力だわ。



「も、もういいかな」


「いいよ、離しても」



 そう言うとピックスさんはバッと腕を離し俺から離れた。……なんか失礼じゃね? まるで汚物を触った時の反応みたいじゃん。



「どうだった?」


「どうって……?」


「ドキドキしたか?」


「っ!? き、君みたいな子供にドキドキなんてするわけないだろ!!」


「残酷〜。自分の意思じゃないのにこんな典型的なリアクションを強制させるのか」


「え?」


「なんでも。とりあえず今のであんたから魔力を徴収した。提供ご苦労」


「えっ、いつの間に!?」


「ふはは。ぷるみちゃんにお手手タッチしてもらうことで俺のベロの感触を誤魔化したのだ」


「舐めたのか!?」


「舐めたよ。ちゃんと拭いときなね」


「本当に何がしたいんだ君は!?」


「ぷるみちゃん、さっき火傷してダメージ負ってただろ。ちゅっちゅした時にそこそこの魔力を消費したから徴収させてもらった。あんたの魔力は元を正せば俺の魔力だからな、文句はあるまい」


「そういう事は先に言ってくれ……」



 それはごもっとも。まあ屍人の生態について色々確かめたいからこういう手段を取ったのだが、これからは前もって『あんたの肉体で実験してもいいか?』って訊くことにしようかな。断ったら強制執行という事で。



「さて。ほいじゃ早速冒険者ギルドに殴り込みに行こうや。ぷるみちゃんを見せて金級なってパスポートをゲットするぞ!」


「ちなみに僕の冒険者証は失効してるから、再登録出来るまで依頼は受けられないけどね」


「出鼻じゃない??? くじかれたくない今?」


「術者ギルドで聞いてただろう君も。今日出来るのは再発行手続きとセーレの仮登録だけだよ。本契約してる僕が居ないと依頼は受けられないから、一旦はそれで帰宅だね」


「足踏みさせるなぁ。ん? てか仮登録って事は、俺金級冒険者とやらになれなくね? なれるの?」


「なれないよ」


「詰んだじゃん」


「そもそもぷるみちゃんを使役してるのは僕なんだから、金級に上がれるとしたら僕だよ」


「え??? 一人で甘い蜜啜るつもりなん? エグくない? 度し難い裏切りじゃないそれは」


「落ち着きなさい。僕が金級冒険者になれば同行者として君も連れて行けるよ。最初からそのつもりで話していたのに、勝手に誤った認識を持ったのは君だぞ」


「む!」



 なんか遠回しに『人の話はちゃんと聞け』と言われた気がしますが? 事細かく説明された訳じゃないんだから認識を間違えても仕方ないだろ! 俺この世界の事なんにも知らないんだもん!



「なんかムカつくな……ぷるみちゃん、これからもコイツが風呂入ってたら侵入しちまおう」


『プルッ!』


「ん? 待って待って。なんでそうなった? 何の話???」


「こんなガキの身体に興奮する度し難変態野郎中々居ないからな。丁度いいわ、理性ある屍人がどこまで我慢出来るか焦らしまくって実験してやる」


「頭のおかしい事言ってます???」


「常に監視するからな。隠れてシコれないようにしてやる。ほんで、襲われそうになったら即時あんたを死体に戻す」


「頭のおかしい事言ってます!!?!?」



 驚愕顔で喚くピックスさんを無視して冒険者ギルドの方へ歩く。


 日数はかかるがこれでなんとか働き口とキリシュアに行ける手段を得た。ピックスさんは瞳が変質したことによりもう差別を受ける事もないだろうし、当面は何事もなく冒険者業を営む事が出来るだろう。


 時期尚早ではあるが、ようやく得られた異世界を自分なりに生きられる権利に胸が踊る。目覚めてからというもの、戦争の兵器にされたりジャングルに投げ出されたりサバイバルをさせられたりと散々な目に遭ったからな。


 谷が深ければ山も高くなる! これからは自由気ままに、何事にも縛られずに生きていくぞー! 腕を掲げる、やるぞー! おー!

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