31話『招雷』
「あのスライムに自由になってほしいか。なら、俺が取るべき行動はしっぽ巻いて逃げる事じゃないよな?」
『え? ……え!? 何をする気だセーレ!?』
斧を帯電させたらピックスさんが再び俺の前に立ちはだかった。
『今のやり取りはなんだった!? この期に及んでまだスライムをッ』
「馬鹿なの? なんでスライムを襲うって流れになるんだよ、そっちじゃないだろ」
『オークと戦うつもりなのか!? な、なんで!? それは意味分からなくないか!?』
「そうかな。別にこのまま帰ってもいいけど、そうしたらあのスライムはオーク達に殺されちゃうよ?」
『ッ!』
「あんたはもう死人だから何も出来ないだろ? スライムの事を助けてやれるのは俺だけだ。それを分かっててあんな必死にお涙頂戴な裏話をきかせたんだろ、下心は無かったなんて言わせねぇぞ」
俺の言葉を聞くと図星だったのかピックスさんは申し訳なさそうな顔をして『……そうだね』という言葉を口にした。
気にしなくていいのに、何をしおらしくなってるんだか。バレちゃったかーくらいのノリで笑って誤魔化せよ。
「ただ、オーク達を殺すのも忍びないからあくまで脅かして撤退させるだけに留めるからな」
『な、何をするつもりなんだ?』
「まあ見てなって。あ、強い光と大きな音に注意してくださいね。気分が悪くなったら画面から離れる事」
『画面……? 何を言っているんだ?』
先程の捕食攻撃をする際に退かした雲はもう元の位置に戻って空一面が曇天になっている。今にも雨が降り出しそうな鈍色の空からはゴロゴロという音がずっと鳴り響いていた。
水の多いラトナ水没林の天候は気まぐれで移り変わりやすいのだろう。それが俺にとっては都合が良かった。音が鳴るほどに静電気が蓄積した積乱雲の下で、戦斧から魔力を引き出し続け電流を増幅させる。
落雷のメカニズムについてはよく知らない。電荷とか、そういうものも正直よく分かっていない。
けど、俺は実際にこれを試した事がある。以前スライムと戦った後に溺れかけた時、偶然引き起こした現象だ。
『セーレ!? その斧、持ったままで大丈夫なのか!? 凄まじい電流を放ってるけど!?』
「一応言っておくと大丈夫じゃない! グロいからこっち見るのはやめといた方がいいよー!」
戦斧で起こした放電現象を呼び水とし、戦斧そのものを避雷針にする事で落雷を人為的に起こす。
当然、避雷針となった斧を掴んでいる俺は感電して即死するのだが、これだけ大規模な雷雲から放たれる落雷は脅しとして十分な威力を発揮するだろう。
……少々怖くて体が震えるが、あの屈強そうなオーク達に恐怖を与えるのなら生半可な事は出来ない。
『セーレ!? こ、こんな天気の日に雷属性の攻撃はまずい! 予期せぬ事故が発生するかもしれないぞ!! 危ないから攻撃を中止しろ!』
「大丈夫! スライムにもオークにも当てないんで! 要は俺自身を避雷針にするだけなんで!」
『……ん? 避雷針? 避雷針って』
「おりゃっ!!!」
バチバチと。激しく発光する斧を地面に叩きつけた瞬間視界が白んだ。
ドジャアアア! という轟音が途中で途切れる。鼓膜が焼けたのか、溶けたのだろう。
発光からの轟音までのタイムラグはなかった。まさに同時だった。頭上から聴こえてくる轟音と共に俺の肉体は巨大な光の柱に呑まれ、稲妻は一瞬で空気に分解されるように消滅した。
アニメのようなコミカルさはない。事故映像よりも悲惨な光景だ。
無音の世界で、一瞬の放電現象にも関わらず俺の両腕が弾け飛んで、体の前面と背面が剥がれて少女の焼死体が地面に倒れる。
倒れると同時に分かたれた足の背面が丸く縮こまり、足の前面は枯れ木のように呆気なくポキッと折れて炭になる。皮膚の内側が燃えて体内で火事が起きる、眼球はあぶくとなって口や耳からは白い蒸気が漏れ出てるのだろう。
「……はぁっ!! 生き返ったァ!!」
というグロゴアな状態になった肉体が一度赤い液体に溶解し、五体満足な状態で蘇生される。いやはや、終わった後なのに未だに手足が震えてるや! 流石は自然界の暴力の象徴、凄まじい威力ですな。
巨大な積乱雲から発生した特大雷は一帯の森林を焼き潰し、ちょっとした森林火災が起きていた。だがここは水没林、湿度が高くて木々は軒並み湿っているから火災は思ったよりも広がらなかった。
「な、なんだ今のは?」
オーク達は今の落雷によって弾き飛ばされた木に下敷きになっていた。しかしそこは流石の筋力、幸い今ので死亡した者は居なかったらしい。よかったよかった。
さて。もう一度斧を帯電させてっと。
「今のは貴様がやったのか、セーレ!」
「あわわわわわわっ!? ご、ごめんなさいごめんなさい!! やばいやばい、もう一回雷落としちゃいそう〜〜〜!!?」
「!? 今のをもう一度だと!? やめろ! 二度もあんなものを落とされたら甚大な被害がっ」
「わ、私の力じゃ制御出来ないんですこれ〜〜!!! やばいやばいっ、皆さん逃げてー!!! 出来るだけ遠くに逃げて〜〜〜!!!」
「制御出来ない!?」
「頭! 雲がまた光始めましたぜ!?」
「ブモーッ!? あれはヤバくないすか!? さっきよりも広い範囲が発光してる、あれが落ちてきたら一溜りもないっすよ! てか森ごと焼かれそうな勢いですけど!?」
「くっ! 総員撤収!!! 基地まで避難しろ!!」
「わひゃ〜〜〜っ!!!?」
斧をわざとらしく発光させ、バチバチといった音を鳴らして脅かしたらオーク達は揃って逃げていった。逃げ惑うオーク達の背中を見送り、汗を拭って一息つく。
『ピ、ピギ……ッ』
む? そういえばスライムのやつ、俺がオークを追っ払うまで何もしてこなかったな? 観察されてる?
触手を見つめてたらビクってなった。ふむ……?
「よお、えるだーすらいむとやら。お前も人間語が分かったりするのか? 分かるなら一度だけ鳴いてみろ」
『……ピ』
「ん、ん? 今のは鳴き声? それとも膜が木に擦れた音? どっちか分かんねーよ、鳴くなら分かりやすく鳴いてくれ」
『怖がっているんだよ。あまり彼を脅かさないでやってくれ』
「あ? 怖がってる?」
『雷を落とすなんて無茶な事をするから怯えてるんだよ』
ふーん、雲を見ればもう大丈夫だって安心できそうなもんだけどな。
雨も降らずに色も薄くなってるぜ? さっきのはあくまで人為的に静電気を集めただけで、そもそも今日はただの曇りだったんだろ。こんな天気で落雷なんて起きるかよ。
でもそうか、怖がらせちゃったのか。あれだけ暴れ回っておきながら怖がりなんだな。斧の帯電を解いて地面に置く。
「驚かせて悪かったな。安心してくれ、俺はお前を殺すつもりは無い」
『ピギッ』
「俺は死人の声を聞く事が出来る。まあ、死人なら誰とでも会話出来るってわけではないが、とりあえず今はピックスって冒険者の声にチャンネルを合わせてる感じだ。んで彼が言うにはお前、そこに封印されてるらしいな?」
『ピ。ピギッ、ピッ』
肯定、なのだろうか。スライムはしきりに触手を上下させる。なんか動きが卑猥だ。
「お前の身の上話も聞いた。悪い人間に封印されたんだって? そのせいでここら一帯の空気が汚染されてしまったと。確認だが、お前は他の生物を害したいとか、生態系を崩したいって意思は無いんだよな?」
『ピ! ピ!』
「……わかんねぇ。ちょっと待ってろ、通訳をこっちに移動させるわ」
俺は戦闘を中断し脇に控えていた二人の屍人と協力してピックスさんの死体をスライムの前まで運び出す。
「ふぅ。疲れた」
『な、なんて格好をしてるんだ君は!?』
「は?」
『前隠せ、前!』
一度死体の中に引っ込んでいたピックスさんの魂が外に出てくると同時に俺の姿を見て赤面しながら怒ってきた。
……あぁ、落雷を食らった時に服も一緒に吹っ飛んじゃったんだったな。
一々オーバーリアクションするなぁ、こんな子供の裸を見て何を動揺してるんだか。
「って、あぁっ!!? 俺が集めた硬貨が! 金がァ!!!」
自分の裸体を見て初めて異常事態に気付いた。俺が冒険者の死体から頂戴した金目の物品を詰めた袋が、腰に巻きつけていたベルトごとなくなっている!!!
「雷食らった時にどこかに吹っ飛んだんだ!! セレナさん、ガイルスさん! 探してぇ!!」
『集メタッテ、冒険者ノ死体カラ集メタノ? ソレハチョット、倫理的ニドウナノヨ……?』
「駄目なの!? いいじゃん別に、あんたらもうお金使わないだろ!」
『死体カラ物ヲカッパラウノモ冒険者ノ醍醐味ミタイナ所ハアルガ……自分ガサレルトナルト複雑ナ気分ダナ』
「経済難なの! 俺ホームレスだから! 仕方ないだろ、生きていくためには金が必要なんだからさぁ! 大目に見てよ!」
俺の能力で蘇らせた冒険者達に難しい顔をされる。腕を組んで「デモソレハナァ」と二人から引かれた様子で言われてしまった。
この人達、俺の傀儡なんだよね? 忠実に従う死体兵なんだよね? ポジション的には俺の部下なんだよね?
なんで俺、自分の部下にドン引きされてるの? 聞いた事ないけどな、手下のアンデッドに引かれるネクロマンサーとか。
「けっ。あんたらが魔力切れで死体に戻ったらもう一度金を集めてやる」
『イヤイヤ。ソレ一番引クヤツダカラ』
『本人達ノイナイ所デ持チ物ヲ漁ル、カ。コソ泥ノ手口ダナ』
「うるさすぎ!? そこら辺テキトーにぶらついててください!」
二人に暇を与えたらセレナさんは母親に手紙を送りたいと言って紙に文字を書き始めた。
……それ、渡しに行くの俺だよね? どんな顔して渡しに行けばいいんだよ。
謎すぎるだろ、生前の知り合いでもなんでもないのに手紙を渡しに来るとか。
『会話出来るアンデッドか……不思議な感覚だな』
「あんたも似たようなもんですからね。死人なんだから」
『あはは。そうだね』
ピックスさんは寂しい笑みを浮かべて俺の意見に同意した。
折角人がコミカルに場を和ませてるんだから、そんな寂しげな表情しないでほしいものだ。意識しちゃうだろ、この人もう死んでるんだよなあって。そういう悲しいのは好かないんだよ俺。
「さて。ほんで、どうしようか」
『待った。セーレ、何か布を羽織ろうか』
「もういいよそのくだり。ガキの真っ平らな胸見て興奮してんじゃねーよ変態」
『興奮はしてないが!?』
「はいはい。とりあえずスライムの封印をどうするかだよ。その封印とやらを解いてこの場から離れさせないと、また命を狙われる事になるぜ」
『そう、だね』
「あんたの要望を聞いてオーク達に退いてもらったんだ、手立て無しってなったら死んだ奴らも報われない。ここまで首を突っ込んだんだ、やれる事ならやってやる。なんでもいい、案を出してくれ」
ピックスさんは腕を組み思考を始める。スライムとアンデッド二人組はピックスさんと会話している俺を見て不思議そうな反応を示した。
スライムは分かるが、アンデッドにも霊体って見えないんだね。意外だ。
『オ前サン、スライムノ封印ヲ解除シタイノカ?』
む。考えていたらガイルスさんが声を掛けてきた。
「そうですけど。なんです? 自分を殺したスライムを助けるとか馬鹿げた事するなって怒りに来ました?」
『イーヤ。ソンナ事ハ言ワナイサ。今ハオ前サンノ奴隷ミタイナモンダカラナ』
「奴隷じゃない。やめてくださいね、そういう風に言うの。俺はあんたらに手伝ってもらいたかっただけで、こき使いたい訳じゃないんだから。で、なんです?」
『主人ガ考エ事シテルンデナ。知恵ヲ貸ソウト思ッテヨ』
ほうほう! 主人と呼ばれるのはこしょばゆいが、そういう事なら有難い! ガイルスさんの提案に耳を傾ける。
『封印ヲ解除スルッテンナラ解呪師ニ頼ムノガ一番手ッ取リ早イダロウ』
「解呪師。そういう人が居るんですね」
『アァ、知リ合イニ腕ノ良イ解呪師ガイル。俺ノ冒険者証ヲ出シテ、俺ノ知人ダト言エバ手ヲ貸シテクレルハズダ』
そう言ってガイルスさんは自身の冒険者証……ドッグタグの様なものを渡してきた。
気持ちはありがたいんだけど、そんなに上手くいくかな。俺、冒険者ですらないから不審がられないか? 一応預かってはおくけどさ。
『解呪師に頼るというのは、正直意味がないと思うな』
「と言うと?」
『? 誰ト話シテルンダ?』
「こちらの死人、ピックスさんと話してるんですよ。俺、死者と会話出来るんで」
『死者ヲ蘇ラセル以外ニ死体ト会話モ出来ルノカ!? スゴイナオ前サン! 気味ガワリィ! 不気味ナガキダ!!!』
「ぶん殴りますよ? なんで主人を敬えない? アンデッドってみんなそうなの???」
蘇生する時に自由意志にロックをかけずに復活させた事を軽く後悔した。クソが、実はスライムと戦いたくないってのが本音だったら強制するのも悪いなって思って気を利かせてそのまま蘇生させたのに好き放題言いやがって! 冗談だって笑いながら背中を叩いてくるのも鬱陶しいし!!!
『彼に掛けられた封印は到底人間に解除出来るものでは無かった。僕も封印術にはそれなりの知見があるから分かる。アレは竜や邪神を封印する類の術だよ。呪いと言ってもいい』
「呪い……」
『呪イ? 何ノ話ダ?』
「どうやらスライムに掛けられてる術は人間が解除できる類のものでは無いみたいです。竜とかを封印する類の術で、呪いと呼べる代物なんだとか」
『ナルホド? ソチラノ御仁ハ封印術ニ精通シテイルノカ』
「それなりに詳しいみたいですよ。邪神ってワードが出たんで、神話繋がりで調べてたんでしょうね。この人、キモいレベルの神話マニアなんで」
『キモいとか言わなくてもいいだろ!? 神話から学べることは沢山あるんだぞ!』
「はいはい。解呪師に頼む以外で言うと、なにか他に案はあります?」
うーん。ゾンビと、霊体と、三人で並んで腕を組みを考える。
俺とガイルスさんの様子を見て完全に敵意がないと察したのかスライムは体を大きく見せるのをやめて地面にへたりこんだ。戦闘で大分体力を消耗したのだろう。
「元気無いな。先にスライムの傷、治した方が良さげか? セレナさん、スライムの傷って治せます?」
『治シタ事ガナイ……トイウカ負傷シテイルノ? 少シバカリ小サクナッタダケニシカ見エナイケド』
「分からないですけど、あんだけ攻撃を受けて無傷ってことも無いでしょうよ。俺がパックンチョしたのもあるし。おいスライム、体調はどうだ? 死にそうなら一回だけ鳴いてくれ、まだ元気なら二回鳴いてくれると助かる」
『ピ、ギィ……』
「分かんねぇよ。二回なのか途切れかけの一回なのか」
『体調は優れないみたいだね。だが、治癒魔法で回復出来るかも分からないらしい。損傷が激しい体膜は動物の皮膚とか構造が異なるからな、魔法をかけるより魔力を吸収した方が確実だよ』
「魔力か。それなら俺の出番だな」
どっこいしょ。重い腰を上げてスライムの方に歩み寄る。
『ピッ!?』
「待て。攻撃はしないよ。魔力が欲しいんだろ? ほれ、俺の魔力吸い取っていいぞ」
俺を見て怯えた様子でスライムが触手を立ち上がらせるが、もう武器は手にしてないし攻撃の意図はないと手を振ってアピールするとスライムは恐る恐る俺の胴体に触手を近付けた。ピトッと胸に触手が当たる。
「そこから吸収するのか……」
『魔力供給の効率が良いのは心臓近くだからね。くすぐったいなら手先から吸収してもらうと良い』
「いや。手先から魔力を引き出されるのはまずいな、停止の能力が作動しちまう。授乳っぽくて気ぃ悪いが仕方ない、そのまま吸っていいぞ。あとガイルスさん」
『ナンダ?』
「なんだじゃないが。なに人の裸じろじろと見てんだよ。ピックスさんを見習って目を背けるくらいしたらどうなんだ。あんたもロリコンか?」
『体ニハ微塵モ色気ヲ感ジナイガ顔ガ良イカラナ。ツイツイ見蕩レテタヨ』
「あっそう。裸体に見蕩れられても毛ほども嬉しくないからな。首から下に目線向けるのやめてくれ」
強めの口調で注意してスライムの魔力吸収に身を委ねる。あ〜、魔力を吸われて力が抜ける〜。これ、絶対胸に吸盤型の跡がつくんだろうな〜。
『……従魔契約』
「あ〜、いいぞピギ丸。そこそこ……」
『従魔契約だよ、セーレ!』
「ピギ丸って名前はぶっさいな。ぷるみちゃんの方が可愛いか。どっちがいい? スライム」
『ピギッ!』
「だよな。ぷるみちゃんの方がいいよな。本名はプルミエール十二世、通称ぷるみちゃん。ここは大陸の南部に位置するから南方の流星王の渾名をそなたに授けよう」
『ピギッ! ピギーッ!』
『あれ? セ、セーレ? 僕の声聴こえてない!? おーい!』
「聴こえてはない、メッセージウィンドウシステムだからな。なに? 従魔契約?」
『そう! 従魔契約だ! 契約すれば彼の封印も一時的に無効化出来るかもしれない! 君はアンデッドを使役出来る! という事は使役術も使えっ』
「使えない」
『へっ?』
「使役術とやらは使えない。俺は死者を使役してるんじゃなくてあくまで協力してもらってるだけだからな」
ガックリ。霊体のピックスさんは項垂れた。
『なんて事だ……生きてさえいれば、僕がその子と契約する事が出来たのに』
「ふむ。ピックスさんは使役術っての使えるの?」
『術式は知ってる、ゆくゆくは移動用の魔獣を使役しようと思っていたからね……』
「じゃあピックスさんが契約すればいいじゃん。蘇れば解決じゃね、俺の能力で」
『え?』
「なーんて、不謹慎すぎたな。ごめん、真面目に考え」
『頼みたい』
「うん?」
『僕の事を蘇らせてくれ、セーレ。自我のある屍人になれば魔術を行使することも可能なはずだ。現にそちらの女性は治癒魔法を使っていたし! だから頼む!』
「え、えっと。冗談のつもりだったんだけど……」
『僕は本気だよ』
……えぇ?
ピックスさんは再び強い意志を宿らせた瞳で俺の事を真っ直ぐ見つめてきた。
冷や汗が滝のように流れる。やっちゃった、悪い癖だ。TPOを弁えず馬鹿げたジョークを口にしちまった……。




