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俺は女神の中の人  作者: 千佳のふりかけ
第一章『不具合による転生重複』
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3話『帝国へ帰郷、女帝に直談判』

「あの剣聖を倒すとは。相変わらず良い働きをしますね、女神アレクトラよ」


「あ、はは。それほどでも〜……」



 ロドス帝国の君主、女帝エリザヴェータと会話を交わす。いやはや、果てしない荒野を踏破して帰ってきた疲労でアレクトラロールプレイするのを忘れて素で軍人さんと話しちゃったばっかりに、普段であれば起こりようのなかった女帝との謁見イベントが発生してしまいました。


 記憶を見る限りエリザヴェータと直接顔を合わせた回数はあまりなかったから全然印象に残っていなかったんだけど、直接面と向かって会話すると流石は一国の王、受け答えをしてるだけで喉が詰まりそうになるほどの圧を感じる。



「して、女神よ。話とは?」


「えっ」


「私に申したいことがあるのでしょう? ダゴナから聞かされています」



 おーうまじか。疲労困憊のあまり口から出た『絶対、絶対あの女帝様に一言文句言ってやる!』って愚痴、聞かれてたのか。誰だよダゴナって。この人に直接耳打ちできるってなると貴族的な人か?



「あー……その事なんですけど。えっと、今更聞くのも変な話かなって思うんですけど……」


「良いですよ。申し上げなさい」


「はあ。では……えっと、この国ってなんで色んな国と戦争をしているんですか? 領土を拡大したい、国力を強化したいってのは分かるんですけど、大昔に周辺の小国との戦争で勝利してある程度、というかもう十分すぎるくらい強国に成長出来てますよね。これ以上他の国と争う理由が見当たらないというか……」



 本来の要求を述べる前に、そもそもなんで今現在に至るまで休みなく戦争をやり続けるのか、その理由について問う。


 侵略と征服ばかりやってた血気盛んな国だった、その過去が原因で大陸全土から目の上のたんこぶ扱いを受けている。それは分かる。だが、他国から厄介扱いされておきながら長い事滅ぼされてない辺り既にロドス帝国は屈指の強国と認識され、刃向かっても無駄だから友好的に接するか無関心を貫くかの二択を他の国は選択してると見て間違いないと思うんだよな。


 他の国から攻撃をされたから反抗しているという訳でもない。ロドス帝国側が他国を先に攻撃して戦争が勃発している。それがどうしても分からない。


 世界征服でも目指しているのだろうか? 全世界の民族を掌握して、世界国家でも築こうとしてる? だとすれば益々この国の為に働くのは嫌になるってもんだ。肯定できないもんそんな身勝手。



「聞きたいのはそれだけですか?」


「え。……まだありますけど。とりあえずはそこを」


「であれば貴女の指摘通り、我が国はこれ以上の争いは特に望んでおりません。キリシュア王国を除けば、ですが」


「キリシュア王国とは何かあったのですか?」


「そうですね。強いて言うのではあれば、キリシュア王国は我が一族の宿敵、と言った所でしょうか」


「宿敵……?」



 なんだなんだ? 予想してなかった答えが出てきたぞ。国の、ではなく一族の敵なのか?



「えーと。具体的に何があって宿敵と見ているのか、聞いても?」



 問いを投げたら側に控えていた軍人さん達がジロっとこちらを睨んできた。


 ……なんか、国に帰ってからずっと思ってたんだけど軍人さん達みんな俺を見る目が冷たいんだよな。

 今回の戦争においてアレクトラってかなりの功労者だと思うんだけど、殺した敵の数を考えれば地獄行きは確定してるし。味方から睨まれる謂れはないと思うのですが……?



「……我らドラクール一族はかつてキリシュア王国の王族の正当なる家系でした。ロドス帝国建国の祖、ミハイルもキリシュアの王家の嫡子です」



 あ、説明してくれるんや。周りの反応的に大地雷踏んだのかと思って土下座しながら泣き叫び許しを乞う準備はしてたんだけどな。杞憂でしたか、よかったよかった。出しかけてた涙引っ込めよっと。



「ミハイルは父王の崩御後、当然王位を継承しキリシュア王国の次代の王になる筈だった。……しかし、当時の枢機卿を始めとした保守派貴族、国の重鎮達はドラクール家の直系が王の後継となる事を忌避し、庶子であるエレノアに王位を継がせた。彼女を傀儡とし、国家運営の権限を自らの手に収めたかったのでしょう。そして、エレノアが王位を継ぐとドラクール家は国外へと追放され、ロドス帝国の礎となる小民族の元に流れ着いたのです」



 なるほど? はえー、王様から実質的な権力をぶんどる為に国から追い出されたって感じなのかな? めちゃくちゃあくどいね、その偉い人達。そりゃ恨むわな。



「ミハイル王はドラクール一族の、キリシュアの王家の正当なる後継者として、一族が代々紡いできた権威を取り戻す事を悲願とした。悲願を成すには武力が必要、故に彼は周辺国を吸収し力をつけていった。しかし、キリシュア王国は大陸最大規模の繁栄国であり彼が存命している間にキリシュア王国を打倒出来うる戦力を貯える事は叶わなかった」


「ミハイル王は悲願を成し遂げられなかった、けれどもその願いは一族共通の悲願となり、何代にも渡ってその意志を受け継ぎ武力を蓄え続けてきた。そして今回、十分な力を蓄えてキリシュア王国に攻撃を仕掛けた」


「その通りです」


「なるほど……」



 なんでロドス帝国が諸外国に喧嘩ふっかけてきたのか、キリシュア王国を目の敵にしているのかという理由のあらましは理解した。それらを飲み込んだ上で、重ねて俺はエリザヴェータに話し続ける。



「それでも王国の軍事力は膨大だった。軍隊の規模は同等にも関わらず王国の"騎士"と呼ばれる敵は全体的に練度が高く、小隊規模の敵に対して人数を割かなければ戦闘で優位を取れない。だから、神を蘇生させ兵器として運用しようと考えた。って感じですよね」


「えぇ。その通りです。その件について不平がおありなのですか?」


「平たく言えば」



 そう答えた瞬間周囲から同時に複数の殺気を向けられる。目を向けるとこの場に居合わせたら全ての兵士が剣の柄に手を添えこちらを睨んでいる。


 やっべぇ〜。普通に話してくれるから思いっきり意識の外だったけど君主様なんだったわ、会話相手。あまりにも身分の違う相手に対してまるで対等かのようにやり取りを交わしちゃった。命乞いの文言考えるか、一旦。



「収めよ。相手を誰と心得える、かの神話に語られる女神その人ぞ。本来であれば私とて言葉を交わす事を許されない程のお方なのだ、弁えなさい」


「い、いや。この場合は皆さんの憤りの方が正しいと思います……俺、立場的には国の管理下にある一兵士的なポジなんで……」


「一兵士、ですか。そのように寛大な心で理解して頂いてるとは思いもしませんでした。今まで一度も声を発した所を見た事がありませんでしたから」


「今まではなんというか、物事を判断する力が失われてましたので……」


「というと?」


「あー……端的に言いますと、剣聖との戦闘で本来の人格と記憶を呼び起こされたと言いますか」


「人格と……記憶を」



 本来とって言っちゃったけど、アレクトラとしての自我を取り戻したわけじゃないんだけどね。そこら辺を説明すると話が長くなってしまうので割愛。異世界云々、転生云々とかどう説明したらいいか分からんし。



「……それで。記憶を取り戻した貴女は何をお望みなのでしょう」


「はい。さっきの件に紐付く話なんですけど、要は急に復活させられて人殺しの兵器として運用されるのはちょっとって話なんです。こう、戦争をするのは悪い事だとは思いませんし相応の理由があるから理解もできるのですが、それは当人達だけで解決するべき問題というか……死者を利用してまで国を落とそうとするのは、ちょっと道徳的にどうなのかなと」



 単に『戦いたくないよ!』って言いたいだけではあるのだが、一応それっぽい言葉を並べ立てて少しでも要求を通りやすくする。……って思ってペラついたけど、王様相手に道徳心を説くのってもしかして大無礼なのでは?


 ミスったな、これじゃちゃんと真っ向から王様に文句言ってる図になるじゃん。おとぎ話なら妖精ポジ、現実で考えたら無礼千万でギロチンの未来じゃない? 助けて誰か、時間戻して。



「確かに、当事者である貴女からすればそう思われるのも自然ですね。死者を蘇らせ戦争に利用するなど死者への冒涜も甚だしい。神にそれを行うのは信仰そのものを貶める行為であり、神罰を下されてもおかしくはない。……そう、仰られるのですね?」


「そ、そこまでの事は思っていないですよ! おれっ……」



 やべやべやべ。エリザヴェータ様の目がガッツリ鋭くなった。ちょい空気が悪くなったかも! とりあえず軌道修正しよう!?


 とりあえず、アレだな! 一人称『俺』やめよう、目上すぎる人が相手なんだから私って言おう礼儀を重んじて! 失念してたわそこ!



「こ、この戦争についてまじで思う事はありません! 良いと思いますむしろ! ドラクール家の悲願は尊いし大義の元に始まった戦争だと思うんで! 全然理解の範疇! けど、これ以上私の手で敵国の兵士を殺めるのは……わ、私は皆さんが知っての通り邪神なので、本来あるべき戦とは逸脱した、蹂躙と言いますか惨劇と言いますかそういった類の悪逆非道的な感じになってしまう、ので……人間は人間同士で争うのが道理、ですよね? なので……」



 自分の肩書きもフルで活用してなんとかこの場を切り抜けようと頭を回転させてペラを回すが、もう逃げたいという本心が前面に出すぎてしまった。


 だって女帝様の圧すごいんだもん、周りからの殺気がやばいんだもん。無理やってこの状況で冷静に喋るとか。腹減り限界突破してるライオンの群れと一緒に檻の中に入れられてるみたいなもんでしょ。漏らすって。



「ルキウス」


「はっ」



 エリザヴェータに名を呼ばれた男が一歩前に出る。……あ、この人ルキウスって言うんだ。確か、ロドス帝国の政務官で帝国軍の指揮官でもある人だよね? 何度か顔を見た事あるわ。


 ずっと目を瞑ってるから多分盲目なんだろうな、にも関わらず俺の方を向いて殺気出してるのどういうシステム? 何で俺の位置を特定してるのこの人。



「女神はこう仰られている。この作戦を立案したのは貴方だ。女神の言葉、それを受け止め貴方はどう答える」



 あ、この人が提案者だったんだ。はえー、神の力なんて信じるほどメルヘンな思考回路してるのに見た目上は筋骨隆々なんだもんな。ギャップがすごい。



「私は神の加護によって兵士を鍛え上げられるのではと思い提案しました。結果的にアレクトラ様は加護を与えてくださるのではなく、誰に言われずとも戦場へ赴き自らの意思で戦果を挙げ続けられた。そのような行動を選択したのは、アレクトラ様ご自身の意思であったと考えておりました」


「……よ、蘇らされた時点での俺には自由意志がなかったというか。術者に命じられた通りにそちら側の命令に付き従う事しか出来なかったと言うか……」


「自由意志を取り戻した今、私共と交わした契約は反故になさると?」


「っ! け、契約は結んでましたね、確かに……。で、でもっ、意志のない相手との強引な契約という側面もありましたので、逆らいようがなかったというか……」


「賢聖様は、蘇生術は術者と被術者双方の合意がなければ成立しないと仰られた。故に他の神々は呼び声に応えることはなく、唯一貴女が受肉なされた。こちらの要求に合意し受肉したと考えるのは普通ではないでしょうか」



 そうなの!? 蘇生術って相手の合意がないと発動しないの!? それはちょっと言い訳のしようがないじゃん! なに人に利用される事を是としてるんだこの女神は!? プライドとかないんか!?



 ……ん? あれ、違和感がある。なんだこの記憶? ルキウスさんの顔を見た瞬間、初めて見るアレクトラの記憶が脳裏に突如ポップする。



『数千年ぶりに他人の声を聴いたかと思えば、裏切り者がわたしに呼びかけるとはね。また悪巧みでも企んでいるのかしら。……きひっ、今度はちゃんと魂まで喰らってあげないとだなぁ』



 記憶の中で誰か、大人の女性の声が響く。俺はその声を聴いた事がない、けれども記憶の主である肉体がその声の発信者が誰なのかを俺の脳に囁きかけてきた。


 その声の主は俺の、前世の人格を獲得する前のアレクトラ本人の声だった。

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