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俺は女神の中の人  作者: 千佳のふりかけ
第二章『初めて他人を完全なゾンビにしました編』
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27話『差別とか正直どうでもいい』

 ピックスさんが出会った時から今まで、寝る時でさえもメガネを外さなかった理由がようやく理解できた。



「すげえ。まるで羊だ」



 俺を見上げるピックスさんの瞳。瞳孔が横長で虹彩が濃いオレンジ色になってる、本当に羊みたいだ。これ、視界はどういう風に映っているんだろう? 羊の視野は人間より横に広いけど、同じような視界になってたりするのだろうか。



「……驚いただろう。こんな目」


「ちょい。なんで目ぇ逸らす。もっとよく見せてよ」


「えっ?」



 顔を背けて俺から視線を外そうとしたピックスさんの顎を掴み正面を向かせる。おっ、瞳をじーっと見てたら瞳孔が少しだけ大きくなった。瞳孔の形が違うだけであんまり人間のものと変わらないな。



「ち、近いよっ」



 照れくさそうに後ずさったピックスさんが慌ててメガネをかけ直す。目を隠す必要があるのは分かるけど、正直そのメガネだっさいからかけない方がマシだと思うんだけどな。



「……ギルドの場所は教える。けどこんな気味の悪い奴とはもう関わりたくないというのなら、口頭で場所だけ伝えてもうお別れにしよう」


「かっけえじゃんヤギ目。気味悪いとは思わないですけど」


「かっこいい……? どこがだよ、不気味なだけだろこんな目」


「そんな事言ったら俺のオッドアイもまあまあキモくないですか?」



 そう訊ねると、ピックスさんは難しそうな顔をして首を傾げた。



「左右の目の色が違うだけで気持ち悪いなんて思うだろうか」


「人によっては思うんじゃないですか? 犬猫じゃあるまいし、自然な見た目ではないでしょこれは」


「そうは言っても、瞳の形自体は普通の人間と変わらないし……」


「あんたは瞳孔の形が変わってるだけで瞳の色が揃ってるのは他の人間と同じだ。眼球が二つしかないのも同じ。俺からしたら、何をそんなに気にする必要があるんだって思う」


「ただ造形が奇妙なだけで差別を受けている訳では無いんだよ。この瞳を持つ者は悪魔の末裔と呼ばれているんだ」


「へえ」


「……この瞳はね、獣人ですらないただの獣と交わった女が産んだ子供達に受け継がれている瞳なんだ。悪魔に魂を売り、畜生と交わった女が孕んだ呪われた血の証明、それがこの」

「だから? よくある話じゃないですかそんなの」


「えっ。よくある話? ……動物と交わる事がかい?」


「はい。ガキを産むのは流石に聞いた事ないけど、異種姦なんてフィクションでも現実でも擦られまくってる異常性癖でしょ。理解は出来ないけど、嫌悪するほどのことでもない」


「…………本気で言っているのか?」


「本気で言ってますけど?」



 即答したら面を食らった顔をしてピックスさんが固まった。ひょいっとメガネを奪ってやる。



「あ、こらっ!」


「うん。やっぱ何度見ても気持ち悪いとは思わない。こう言っちゃなんだけど、街中を普通に歩いてるリザードマン? や鳥人間の方がまだ奇妙に見えるぜ。眼球がちょっとくらい変わっててもあんたはそこらの人間と大差ねえよ」



 勝手にピックスさんのメガネをかけてやる。視界が見にくいなあ〜。度は入ってないっぽい、視力は相変わらず若干悪いままか。



「その、あんたの先祖が恐ろしい事件を起こしたとかなら疎む気持ちも理解出来るけどさ。動物と交わったくらいで大袈裟すぎだろ」


「血が穢れているんだよ。半獣人間(ウェアヒューマン)は不浄の生物だと思われている。かつて教会が半獣人間を集めて行った大量殺戮は事件として扱われなかった事例もある。……そういうものなんだよ」


「それはシンプルに世界側が狂ってね?」


「え?」



 またしても間の抜けた顔で疑問符を抱かれていますが、どう考えてもそんなの正しいわけないだろ。なんでそういうものだって割り切れるんだ、頭悪いのか?



「どんな理由があろうと人の形してる生き物を殺すのはただの殺人行為でしかなくね? 相手がどうとか関係ないでしょ。なんで殺人行為を罰しないんだよアホか」


「半獣人間が相手じゃなかったらその理屈も通るかもしれない。でもその出来事は『浄化の儀式』と呼ばれてむしろ……」


「なんだそれ。本当に後ろめたくない事だって思ってんならそんなネーミングわざわざ付けなくない? 虫を踏み潰す行為に名前なんていらないじゃん」


「む、虫?」


「殺しても誰からも文句を言われない生物なんて虫ぐらいだろ。てかそこはどうでも良くて、悪くないって思ってんならその行為に名前を付ける意味が分からん。この行為は間違ってなかった、そうアピールするために分かりやすい名前をつけて自分を正当化してんだろ」


「……」


「迫害した連中がそんな風に自分らの凶行を手放しに肯定できて無いんだから、血が穢れてるとか思わなくてもいいと思うよ。あんたは別に醜くないし、周りの目を気にしてるのに俺を助けてくれたし。さっきだってさ、別れると言っておきながらその後の事を案じて口頭でギルドの場所を教えるって言ってくれたじゃん?」


「い、言ったけどさ」


「そこまで世話を焼いてくれるような人間が悪魔の末裔なわけねぇでしょ」


「……その言葉はありがたく受け取っておくけど、皆が皆君みたいに思うわけじゃない。現実は非情なんだ」


「でも俺は気にしない。……って事で! 先行き不安な俺の将来を安定に近づける為に、俺を冒険者の仲間に」


「それは、出来ない」



 ダメか〜。結構頑張って口説いたつもりだったんだけどな〜。がっくり、メガネを返して項垂れる。



「どうしてもダメなんすか?」


「僕なんかと付き合っていたら君に何の利点もないだろう。むしろ印象が悪くなるだけだ」


「舐められたら殴ればよくないですか?」


「冒険者間の私闘は禁止されてると言っただろうに」


「私闘が禁止にされてるだけで一方的にボコ殴りにするのはおっけーでしょ」


「おっけーなわけないでしょ。とにかく、僕から君に出来ることは冒険者ギルドへの案内まで。一緒に居る所を見られるのはまずいから中までは案内できないよ」


「えー」


「君は成人しているんだろう? それならば問題なく登録出来るはずだ。難しい事は何も無いから安心するといい」



 正直、金策が出来たらそれでいいなって程度のモチベーションしかないから仲間集めとか前のめりにやる気概は無いんだよな。そこが面倒だから手っ取り早くピックスさんに協力してもらいたいんだが、それは難しそうだなぁ。


 人間関係について今まで散々嫌な思いをしてきたんだろうな。人間不信に陥ってるっぽい。根気強く口説くのも面倒臭いし、今回は縁がなかったって事で諦めるか……。




 ピックスさんと別れた後、彼は受けていた依頼をこなしにラトナ水没林に一人で向かっていった。その背中を見送り、一人で冒険者ギルドの中に入る。


 はえー。木造の西洋建築に絵画がめちゃくちゃ沢山飾ってある。造りを石に変えたらまんまホグワーツみたいだ。入り組んだ階段も今に動き出しそうだ、全部で何階層あるんだろ。



「お? なんだなんだ、ここはガキの来るところじゃねぇぜ嬢ちゃん」



 入口の近くで酒を飲んでいた冒険者のおっさんに声を掛けられた。なるほど、随分と愛想の悪い連中なんだな冒険者って。みーんな冷たい視線で俺をジロジロと吟味してやがる。



「随分でかい斧を背負ってんな。土産屋で売ってる装飾品かなんかか? そんな玩具じゃゴブリンすら倒せねえぞ〜」



 無精髭を生やした冒険者が俺の事をからかってきた。馬鹿にされてんなー、何がそんなに面白いのかねぇ。



「あはは。出来がいいでしょ、この斧の模型。持ってみます?」


「そうだなあ、こんな大斧を持つのなら俺ぐらい鍛えてないとサマにならないもんな。どれ、貸してみ」



 酒を飲んでいた冒険者がグラスを置き、座ったままこちらに手を伸ばしてきた。俺は背中に背負った斧を掴み、片手で軽やかにそれを持ち上げると柄の部分を男に向ける。



「どうぞ」


「あいよ……いぃっ!?」



 相手が斧を掴んだのを確認した瞬間に手を離す。男は柄を掴んだままバランスを崩し椅子から崩れ落ちた。



「いっ、いでででででっ!? なんだこれ、持ち上がらねえ!?」



 落下した斧の柄と床に手を挟んだ男がもがくも脱出できず喚くだけ。持ち上がらないよな〜。子供の体よりも巨大な鉄塊だもん、多少鍛えた所で持ち上がるわけが無いんだよな。



「くそっ……!? そんじょそこらの大剣よりずっと重いぞこれ! 模型じゃないのか、本物の金属!?」


「そんなそんな、大袈裟な〜」



 斧を掴んで軽々と持ち上げることで呻く男の手を救出する。あらら、挟んだ所が青くなってるや。内出血してそう、痛そうだ。



「なんでそんな軽々と、化け物か!?」


「フリでしょ、あんたの言う通りこれはただの模型なんだから。俺を怪力キャラにしたいんですか? ひょうきんな人だなぁ」



 そう言って指先に斧を乗せてよろよろとバランス遊びをしてひと笑いを誘い、その場を後にして受付まで歩く。


 さてさて。冒険者になる為には受付嬢さんに声掛けして血を検査用の紙に垂らすんだっけか。机に置いてあるあの針で指を刺せばいいのかな? ちゃんと消毒してるんだろうな……。




「すいません、今なんて?」


「これで三度目の説明になりますが。他の冒険者から仲間としての推薦を受けていない場合、冒険者登録は満13歳以上の方に限定しています」


「俺、こう見えても成人してるんですけど!」


「血液検査の結果によるとお客様の肉体は10歳と2ヶ月に相当するみたいで。必要項目を満たしていないので単身での登録は出来ませんね」


「そんな馬鹿な!? くっ、アレクトラは見た目に違わないロリ女神だったというのか……ロリババアとかそういうのでは無いのかよ!?」



 現実にロリババアなんて概念が存在するかって考えたらそりゃファンタジーの産物すぎるし自然ではあるけどさ! そこは都合のいい感じに融通効かせてくれたっていいじゃない!? 話が始まる以前の段階で行き詰まるのなんて見た事ないんだけど!?



「物語のスタート地点から遠く離れた土地にすっ飛ばされて話が再開するし! スライムにはストレート負けした挙句何度もリスキルされるし! 冒険者とかいう異世界あるあるな職業も門前払いされるし! なんっにも上手くいかんなぁ俺の異世界ライフ!」



 ギルド前にある階段に腰を下ろし、両手で顔を覆って嘆く。思ってたんと違う! 今の所俺、ピックスさんにラッキースケベを提供しただけじゃあんっ!!!



「どうしたものか。俺一人じゃ冒険者になる事は叶わない。俺の身分じゃ安全に就職できる職業なんて残りは修道女くらい。修道女? なんだよ修道女って。何する人達なん? 漫画じゃよく見るけどさ、あの人らイマイチ何をしてる人達なのか知らないんだよな……」



 聖書を読み込んで事ある毎に聖書の文章を口にするみたいなキャラ付けしときゃいいのか?


 俺の中での聖職者なんてヘルシングとかジョジョとかソウルイーターのせいでろくなイメージ付いてないんだけど。

 戦闘者のイメージがくい込んでるわ、そのおかげでぜんっぜんなりたいと思えない。どの作品の聖職者も対人バトルしてるもん。悪魔を退治せぇや。



「人間に手をかけるくらいならモンスターを退治した方がマシ。だが一人じゃ冒険者にはなれない。うーむ……やっぱピックスさんに頼み込むしかなさそうだな」



 ちゃんと事情を説明したら何とか理解は示してくれるかもしれない。てか、冒険者にさえなっちゃえば後から仲間契約を破棄して他の人と組めばいいだけだし、とりあえず登録する時だけ声を掛けておくのは悪手ではないよな?



「行くか、ラトナ水没林。スライムには最大限警戒しつつ、キモめの虫連中は……なんとかなるだろ」



 スライム以外のモンスターに関しては特に苦戦した覚えは無いからな。とはいえ巨大な虫とかにしか遭遇してないから実際はどうか分からないけど、まあなるようになるでしょう。経験の多いピックスさんと再会出来れば安全に水没林を脱出できるだろうし。



「そうと決まれば早速……」


「お嬢さん。こんな所に一人で何をしているのかな?」


「あ?」



 立ち上がろうとしたら小太りのおじさんに声をかけられた。近くには鎖の音が中から響いてる馬車が停まっている。



「こんな時間に一人で外出とは感心しませんな。その服、もう長い事洗濯していないように見える。もしや君は、孤児なのかな?」


「だったらなんすか」


「当たりか! それは良くない、子供が一人でこんな所をうろつくなど。こちらへおいで。君のように身寄りのない子供達を保護している場所があるんだ、悪いようにはしないよ。えぇ、君のような顔の良い子供は……ふふっ」



 絶対奴隷商人だろ。怪しすぎる。


 男に腕を掴まれる。力が強い、ただの子供ならきっとこの手を振り払う事は出来ないだろう。



「ほら、おいで。抵抗しても良い事は無いぞ。痛い思いはしたくないだろう?」


「……」



 普通の子供なら抵抗は出来ないけど、俺ならこの手を掴んだまま男をどっかにぶん投げる事は出来る。でもそんな事をしても、見せる人間が居なきゃ俺つえーアピール出来ないしなぁ。


 無駄な事はしたくない。ピックスさんがスライムと絶賛戦闘中な時に鉢合わせするのも悪いし、少しだけ時間を潰してから水没林に向かうとするか。



「さあ、行くよ!」


「痛っ! 痛いですよ! 分かったから、逃げないからもう少し優しく……!」


「ん、その斧は……?」


「お母さんに買ってもらった斧の模型です。お母さんの形見なんで、これも一緒に!」


「……いいだろう。ほら、着いてきなさい。痛い目に会いたくなければ大人しく」


「着いていくから! あんま引っ張るなよデッ」



 あぶねっ、デブって言いかけたわ。既で止まれるなんて素晴らしい自制心だな。




「こ、こんなことをしてタダで済むと思っているのかーっ!?」



 大人しく奴隷商人の後を着いていき、裏路地にある古小屋に捕らえられていた奴隷達を繋げていた鎖をパクパクモグモグしていたら商人にバレてしまった。


 黒い布で顔を隠した怪しい人達が俺を取り囲んでいる。全員刃が湾曲した剣を携えて俺を睨んでるわ。



「お、お姉ちゃん……」


「大丈夫、大丈夫。お姉ちゃんが全員守ってやるからなー」



 解放した奴隷の少年少女達が俺にしがみついてくる。臭いなー! 何日お風呂に入らずここに閉じ込められてたんだろう、鼻がツンってするなぁー!



「奴隷を助けて正義のつもりか!? 奴隷にだって需要はある、奴隷商人にも意義はあるのだ! それをよく知りもせずにお前はっ!!」


「普通に奴隷として販売してるんじゃなく、食事を制限して弱らせて無理やり魔力を絞り取ってるんだろうが。事前に奴隷についてはある程度調べてんだ、あんたらのやってる事はただの違法行為だろ」



 ロドス帝国に戻った際に自分の身分を再確認するために、個人的にこの世界の奴隷の扱いについては調べていた。ロドスで学んだ知識は世界共通の法律として統一してあるはずだ。


 労働力として奴隷を売らず、魔力を生み出す装置として虐げているこいつらのやっている事は国際法違反の犯罪行為に過ぎない。初め、俺を見る時の目付きからしてなんとなく怪しいと思ってたんだよな。



「真っ当な奴隷商人ならあんな街中で子供に声掛けなんてしねぇんだよ。人攫い紛いな事をして奴隷を集めてる商人には要注意、これ世界の常識だぜ。魔力装置として子供を酷使してるんだろうから消費も激しいだろうしなぁ? 何が目的で子供達の魔力を絞り上げてんだァてめぇらは?」


「お前ら、奴を捕らえろ!」


「都合が悪くなったら暴力かよ。せこいぞ」



 俺を取り囲んでいた男連中が一斉にこちらに飛び込んでくる。


 守るとは言ったけど、流石に誰かを守りながら多数を相手にするのは簡単じゃないよな。戦闘行為自体不慣れなわけだし、困っちゃった。


 斧は小屋に入る前に取り上げられてしまった。魔法による中・遠距離攻撃は刻印のせいで使えない。肉弾戦は俺がド素人な上相手がプロっぽい動きをしてるから敵うとは思えない。


 勝ち目ないかぁ一旦。



異状骨子(グラトニクス)



 嫌で嫌で仕方ないが、君麻呂式の不意打ち攻撃で初撃を凌ぐことにした。


 両腕の手首から骨が延びて二人の男を串刺しにする。痛い痛い痛い、リストカットレベル100みたいな痛みが両手首に走る。


 相手の急所は刺してない、無理に引き抜こうとしなければ死なないはずだ。延びた骨を手首から引き抜き、ビビり散らかしてる正面の男達に噛み砕いた鎖の破片を吹き付ける。



「隙を見せたなこのガッ、なにぃ!?」



 俺が吐き出した破片を躱した男が切りつけてきたのでその刃を噛んでやる。そのまま歯に力を込めると容易に刃が破砕する、相変わらず自分の咬合力には驚かされますね。


 刃を咀嚼しながら男に回し蹴りしたらボキボキと音が鳴った後に男が壁まで吹っ飛んだ。



「軽いなぁ。その筋肉は見せかけか?」


「な、なんだコイツ……っ!? 撤退だ、全員下がれ! 我々の手には負えん!!」



 武装した男達は剣を仕舞って後退した。雇われ傭兵かなにかだろう、思ったよりあっさり矛を収めてくれたな。



「お前ら、どこへ行く! 戻れ! 金は払ったんだ、依頼分の仕事をしてから下がれよ! おい!」


「こんな得体の知れない化け物と戦うなんて当初の依頼にはなかっただろう! 我々の仕事はあくまでここの番をする事だ、厄介を持ち込んだのはあんたなんだから自分で何とかしろ!」


「ふざけるな! 契約を反故にする気か!? おい、おーい!!!」



 傭兵達が小屋から出ていくと、ただ一人残った奴隷商人を睨む。



「なんで魔力を搾り取ってるのか、もうそれはどうでもいいや。どうせ人工的に魔石を作って儲けてたとかそんな理由だろ」


「なっ!?」


「当たりかい。どうなってんだ俺の勘は、冴え渡りすぎだろ。奴隷をどこにも売り付けずに魔力を絞り出して人工的に魔石を生み出させる。違法行為のオンパレードだな」


「ぐ、こんな……こんな片田舎で捕まってたまるかぁ!」


「あっ!」



 奴隷商人は俺から背を向けると一目散に小屋を出ていって馬車の荷台を外していた馬に跨りあっという間にどこかへ逃げていってしまった。太ってる癖に随分と逃げ足の早い事で。



「おじさん、どっかに行っちゃった……?」


「ぼくたち、助かったの?」



 解放された子供達がまた俺の元に集まってきた。手首足首に痛々しい鎖の跡がある、可哀想に。



「わ゛っ!? 誰か異様にアンモニア臭い子が居るなぁ!? ちゃんとおしっこ拭きなさい! 病気なるぞ!」



 さて。解放したはいいもののその後はどうしようか。これだけやってあとは放ったらかしってのは無責任に過ぎるよな。ふーむ。



「お姉ちゃん」


「うむ。考えているから少し待ってね」


「やーん! お姉ちゃん、やめてー!」



 乱暴に扱ったバービー人形みたいなキシキシの髪質の幼女の頭を揉みながら考える。


 正道を攻めるのならやはり孤児院の門を叩くべきか。でも街ブラしてる時に見た感じここら辺に孤児院は無さそうだった。


 ピックスさんは当初俺を孤児院に預けさせようとしていた。歩いて行ける距離に孤児院があるのは確かっぽいけど、肝心の目的地が分からないとただ迷うだけになりそうだしな。


 この街の地図を入手するにもタダで手に入るかは分からない。少年少女は全員で6人、引き連れながら街を彷徨うには向かない人数だ。



「孤児院の場所は分からないけど修道院の場所は分かる。修道者が共同生活する場所と孤児を保護する場所は似てるけど実情は全然違いそうだよなぁ」



 シスターさんの仕事って人々への奉仕活動も含まれてるんだよね? だったらワンチャン、この子供達を見せたら孤児院まで連れて行ってくれるかもしれない。顔を出す意味はありそうだな。



「よし、決めた。修道院に行きましょう皆さん!」


「お、お姉ちゃん! わたし、もうどこにも行きたくないよ! お姉ちゃんの所に行く!」


「うーん根無し草。さりとて俺もホームレス」


「お姉ちゃん!」


「臭めのラクトンッ!!?」



 頭髪を長らく洗っていない幼女の頭が鼻先に接近して鼻腔をぶん殴られた。勘弁してね、涙が出てきちゃうから。



「もう、大人の道具にされるのは嫌なの……大人は信用できないよ、怖いよ、お姉ちゃん……」


「やめてね。そんな事言われると抱きしめたくなっちゃうでしょ」



 かりんちょりんにやせ細ったロリからの必死の訴えは心に来るって。大人の道具、ねぇ。


 何の変哲もないただの子供なのに今までずっと魔力を、つまり生命力を搾り取られてきたんだもんな。そりゃトラウマにもなる、当たり前だ。


 こんな痩せ細ってなかったら俺の判断なんて仰がずにそのまま逃げ出してたんだろうな。最早そんな元気もないか……。



 小屋を探索して発見した食料を軽く調理し、暖かい食事を子供達に出す。食事を行っている間に俺は小屋から離れ、大通りにある修道院までダッシュで向かい中に居た修道女さんに奴隷小屋まで着いてきてもらった。



「なんて酷い……」


「この子達を孤児院まで送ってもらうことって可能ですか? 俺は子供だし、孤児院の手続きとかよく分からないから代わりにそこら辺もお願いしたいんですけど」


「あなたもこの子達と同じ、身寄りのない子供なのでは……?」


「俺は大丈夫っす。とりあえずこの子達の安全が確保出来ればそれで。お願いしますよ、シスターさん」


「……分かりました。あなたも、助けが必要になればすぐに私達を頼るのですよ? 教会は救いを求める方の為にあるのですからね」


「あ、あはは。了解っす」



 それらしい事を言った後、修道女さんは子供達を伴い小屋を出ていった。


 助けが必要になれば、か。現在進行形で助けが必要ではあるんだよな、『俺と一緒に冒険者しませんか!?』って言ったら首を縦に振ってくれるだろうか。振るわけないね。



 ちょっとした道草を食うつもりが大分時間を掛けてしまった。もうとっくに太陽が沈んでる、日を改めて探しに行った方がいいか?


 ……いや、どのみちホームレスだしどこで暇を潰すって話になるか。


 一度ギルドに戻ってピックスさんが帰ってきてるか確認して、街に戻ってきてるなら強引に彼の下宿先を尋ねて戻ってきてないなら水没林まで捜索しに行こう。



「げ。人様の道具を勝手に売っぱらおうとしてたのか、悪い奴らだなー」



 綺麗な木箱に収められていた初期装備の大斧を発見し、他の木箱に入っていた心ばかりの装飾品を拝借しつつ斧を担いで水没林へ向かう。すれ違いになってなければいいな〜。

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