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俺は女神の中の人  作者: 千佳のふりかけ
第二章『初めて他人を完全なゾンビにしました編』
26/61

25話『なーんか煽りたくなる顔してる』

 神話マニアのピックスさんの琴線に触れてしまい、彼の神話ウンチク話に付き合うこと数時間経った。長かったなぁ。


 誠に申し訳ないのだが、俺、まじで神話とか興味無いんだわ。だから話の内容ぜんっぜん覚えてない。貪食の貴婦人ってあだ名に関してはこう、『こんなガキみたいな見た目してるんだから貴婦人ではなくね?』という疑問点を抱く事が出来たから記憶できたけども、他は印象ないや。


 あと『荒銅鑼アラクドラ』ってドラえもんかアラクニドの親戚みたいなあだ名もあったな。極東の島国ではそう呼ばれてるらしい。ゾンビ集団引き連れて海の向こうまで行ったんだな、やってる事まんま地均しやん。


 てか、印象には残らなかったものの異名多いって。ニャルラトホテプを初めて知ってインスパイアぶち食らった中学生が真似て作ったオリキャラみたいな異名の数してる。


 程々にしてほしいよなぁ、呼び名を増やすにしても。


 ……まあ、こんだけ有名になってるって事は大層迷惑極まりないやらかしをしてたんだろうな。立ち寄った国全てから危険人物認定されて後世まで語り継がれてるって相当だもんな。じゃじゃ馬すぎるね、目立ちたがり屋だったのかな。



「ーーで、今語った三姉妹、メイリスとテルシフォンとアレクトラはそれぞれ吸血鬼(ヴァンパイア)搾精鬼(サキュバス)屍喰鬼(グール)の祖にもなってるんじゃないかって説があってね! というのも」



 まだ続く? まだこの期に及ぶの?

 せっかく口が止まったと思ったのに『で、』で話を続けることあるんだ。なにそれ、あんま仲良くない異性のクラスメートと同じ委員会活動に従事する時の会話じゃない? 間を埋めようとする最低限の努力の表れじゃん。


 熱意すごいなぁ。博物館の音声ガイドでもこんな長尺聴いたことない。



「あのー……」


「! うん、質問かな? なんだいなんだい、僕が知ってる事ならなんでもーー」



 違うよ? ヴァンパイアとかサキュバスとかの話に関しては何の意見もないよ? やめてね、勝手に昔話だいすきクラブに組み込むのは。



「いや。もういいです、ウンチク。十分」


「えっ」



 あ、目に見えてピックスさんが俺の言葉に食らった表情をした。痛いかも、心。


 でもなぁ。長いって。なんで大昔の人が作り上げたライトノベルの考察を聞かされなければならない。そういうのは動画でも撮影して不特定多数の相手に伝えてやってくれ。



「つまるところさ、アレクトラはハチャメチャに悪い奴だったって話でしょ? それだけ聞ければ満足というか」


「人間視点で見れば悪神なのは間違いないけど、一説によるとね」


「一説多すぎ。叢説って言うんですよそういうの。もうお腹いっぱい、これ以上聞いてたら脳みそショートするマジで」


「そ、そっか。……ごめん、つい喋りすぎたな」


「えっ。なんで急に鬱屈とした影を顔に漂わせ始めた? 神話語りそんなにしたい???」



 知識をひけらかしたいって気持ちは理解できるけど、そんな目に見えて悲しそうな顔するとは思わないじゃん。



「えっと……好きな事を語れる時って自然と饒舌になるのは分かりますけども」


「普段人と話さないから、一方的に喋りすぎてしまった。相手の事も考えずに暴走して、君みたいな幼い子に気を使わせて」


「俺は幼女じゃねえ。気を使ってもない。そんなチャチな事で下向くなよ、メガネズレてんぞ」


「っ!?」



 ん? メガネの下りは冗談なんだけど。そんな気にすることか? 動きに焦りが見えたぞ。



「そんな事よりも、ですよ。一体何があってロドス帝国は滅んだのか。それを教えてください」


「ロドス帝国ねえ。どうしてそんなに気になるの? ここら辺じゃ名前すら聞かないような遠方の国なのに」


「えっ。遠方の国?」



 予想はしていたがやはり。生えてる植物や気候、空気感が全然違うからまず間違いなく近場ではないと睨んでいたが大当たりでしたね。



「広大な砂漠地帯、凍てつく山脈を越えて、陸の海を迂回してようやく辿り着けるほどの遠い国だからね。様々な民族の神話、伝承が集まっていて魅力的だから知ってただけで、本来なら僕も他の人も知らないような遠く彼方の地だからね?」


「砂漠を越えて山脈を越えて……。そんな遠くなんだ」


「うん。それと、旧ロドス帝国領はキリシュア王国の管理下にあってね。現在は全体的に立ち入り禁止区域になっているんじゃないかな」


「立ち入り禁止、ですか?」



 戦争に敗れて国が滅ぶってのはまだ理解できるが、その土地を植民地にするわけでもなく立ち入り禁止にするのか? 国として運営されていたほどの広々とした土地を? 勿体なくないですかそれは。



「ふむぅ。じゃあ元々ロドスに居た人や生き残った兵士はどうなったんです? ロドスに隔離されてる、或いは皆殺しか奴隷としてキリシュアにご招待?」


「いや。戦争終結後のロドスの生き残りは奴隷としてではなく市民としてキリシュア王国に受け入れ、移民したと聞くよ」


「えぇ〜? あんな苛烈な戦争の着地点がそんな綺麗なオチ〜? 眉唾〜」


「魔獣災害が起きたせいで人間同士で争っている場合では無くなったんだよ。因縁の敵同士も手を取り合わざるを得なくなった」


「ほう。魔獣災害とな? なんですかその興味湧くワード」


「!」


「簡潔に説明お願いします。簡潔に」



 危ない危ない。瞳の形がキラキラのしいたけ型になりかけていたので予め釘を指しておく。



「ロドスとキリシュアの戦争の終盤、ロドス帝国領にて突如人を喰らう屍人(アンデッド)の軍勢と皮膚を剥がされた巨人のような怪物が出現。これらの魔獣達はロドスの人間もキリシュアの人間も、それ以外の人間に対しても牙を剥き数万人にも及ぶ犠牲者を出した。ロドス帝国はこれにより事実上の壊滅、キリシュア王国も甚大なる被害を受けたと聞いたよ」


「ほーう?」



 アンデッド。巨人。そんなのもいるのか、異世界やってるなぁ。

 でも巨人が人類の敵サイドにいるの結構まずくない? 厄介極まりないでしょ、大概のファンタジー作品で切り札的な助っ人として扱われてるじゃんね彼ら。



「巨人ねえ。実物を見た事はないが、戦ってた人らの苦労が伺えるわ。巨人にとって人間なんてハエみたいなものだもんな」


「そうだね。ただ巨人は当時の剣聖が倒したおかげで何とかなったみたいだけど」


「剣聖……」



 ……剣聖って、もしかしてあのめちゃくちゃすばしっこいおっちゃん剣士か? まだ戦えたのか、俺が目覚めた時には既に虫の息だった記憶あるんだけど。



「剣聖の手によって巨人が倒されると同時に各所で破壊活動していた屍人達も停止し、魔獣災害は終息した。そのおかげで人類は滅びずに済み、剣聖は人類を救った英雄として持て囃される事となった。ロドスの人達の行く先を案じキリシュアに保護するよう口利きしたのも剣聖だと聞くよ」


「そうなんだ。めちゃくちゃ良い人じゃん剣聖。勇者と呼んでもいいレベルだなそりゃ」


「だね。それ以降彼は表舞台から姿を消したんだけどね」


「すげぇ〜、全てが謎に包まれた伝説の勇者ってところか。それも神話?」


「これは史実だよ。ほんの数年前の出来事だしね」


「痺れるな〜! 折角異世界転生するなら俺もそういう活躍してみたいわ」


「異世界転生……?」


「なんでもないです」



 いかんいかん、口がすってんころりんしちゃった。巨悪を倒し戦争を終わらせ平和な世に導くとかかっこいいじゃないですか、主人公じゃん。そりゃ口も滑らしたくなるよ〜!



「ん、でも結局のところそれならなんでロドスは今でも立ち入り禁止になってるんです? 魔獣災害とやらが終わったのももう何年も前の話なんでしょ?」


「前触れもなくそんな災害が起きたわけだし、土地に良くないものがあるのかもしれないと思う人は少なくないって事だよ。魔獣災害の原因が判明するまでは、封印区域指定も解除されないだろうね」


「へぇ〜」



 なるほどねぇ。魔獣災害の原因、か。魔獣ってそんな、何も無い所からいきなり大量出現するものなのか? そんなもん、一回その土地を焼き払っちゃえば解決出来そうなもんだけど。



「ロドスの話についてはそんな感じ。で、今度は僕から質問いいかな?」


「どうぞ」



 大体何を聞かれるかなんて予想ついてはいるけれど、こっちの聞きたいことは教えてもらったし質疑応答に応じましょう。



「君は、帰る家のない孤児だと言った。それなら、これから先どうやって生きていくつもりなんだい」


「えっ」



 予想してたのと違ったな? てっきり、なんでロドス出身とか口走ったのかって質問をしてくると思ってたのに。今後の歩み方を問われたわ。



「う、うーん……そうですねぇ。実際問題、そこは俺もちょっと決めあぐねているというか」


「剣聖ローゼフのおかげで世界はかなり平和に近くなった。人族と亜人族の種族間の溝はほぼ無くなったと言っても過言では無いし、人間同士が争うということに関しても全ての国家が好ましくないと思うようになった。……でも、その平和を享受できるのはあくまで一定の地位を持つ人達に限った話で、未だに奴隷は存在するしそれ以下の存在だって……」



 重々しい口振りでピックスさんは言葉を紡ぐ。彼曰く、俺みたいな親無し身寄り無しの孤児は奴隷商人や盗賊に遭えば捕まって売りさばかれてしまうらしい。


 ぶっちゃけて言うと、魔力や能力の使い方に慣れた今ならそんじょそこらの連中蹴散らすなんて造作もないと思うんだけど、そんな事をしたら自衛手段とはいえ傷害や殺人の罪に問われるのは俺側だもんな。人権がないって事は、抵抗する事さえ許されないって事とイコールなんだもん。一種の詰みだね。



「うーん。何とかならないもんなんですかね。とりあえず働き口さえあれば、自分的にはそれで十分なんですけど」



 市民権なんかなくても、最悪街での生活を諦めて、最低限の日銭を稼いで人里離れた郊外でひっそり暮らすという手を使えたらそれでいい。誰にも邪魔をされず、文句を言われず、自堕落にマイペースに生きていけるのが俺の理想だ。



「僕としては、どこか空きのある孤児院のお世話になるのが一番良いと思うんだけど」


「それは却下で。ルールも同居人も多い共同体で生きていくのは性に合わない。協調性が欠けてるんすよ、俺」


「しかし……」


「大体、一見子供のように見えるかもですけど俺成人してますからね? 保護される立場じゃないんですよ、本来」


「そうなの? どこからどう見ても」

「子供のようにしか見えないですよね。でも事実成人してます。ピックスさんより歳上っすよ俺」



 ピックスさんは体こそ大きいものの顔はあどけないし多分まだ未成年っぽいしな。



「体力の面で見ても(能力のおかげで)そこら辺の男に劣りませんし、単純な力仕事であれば問題なくこなせると思うんすよね〜。なんかないですかね? 力仕事ジャンルの日雇い仕事みたいな」


「力仕事って……」


「ほれ」



 ヒョイっと大斧を指の上に乗せて見せる。ピックスさんはそれを見て引き気味に笑った。



「た、確かに君の腕力は凄まじいが……」


「飯代さえ何とかなればあとはどうとでもなるんですよ、多分。人の寄り付かない森で木々を伐採してテキトーに掘っ建て小屋作ればいいし。ただし金をまるで持たずに生きるのは文明人として不安が残る。どうか知恵を貸してくださいな」


「……日雇い仕事を求めていると言ったが、そういった類の仕事でもやはり身分の証明は必須になるからね。最底辺の仕事をするにしても奴隷として誰かの所有物になる必要がある」


「げぇ。まじか……はぁ。親無し、身分を証明できるものもなし。そんな孤児が0から身分証を手に入れる術って無いんですかね」


「そういう子供の将来を守る為に孤児院があるんだけれどね。その孤児院の世話になりたくないと言われると……」



 ピックスさんは難しそうな顔で腕を組み考える。無理難題を押し付けた自覚はあるが、頼れる人間が今のところピックスさんしか居ないから仕方ない。



「……例外的に一つだけ、市民権を持たない者や経歴に傷がついた人間でも仕事にありつける職業というのは存在する。君の言う事が真実で、実年齢が仮に僕より年上なのだとしたら君でもその仕事は出来るけども……」


「あるんじゃないですか救済措置〜。なーんだ、恥を忍んでロリのフリしながら孤児院の門を叩かずに済みそうだ! それってなんです?」


「冒険者、だけど」


「冒険者かぁ」



 ……冒険者、かぁ。


 どうだろう、異世界にやってきた者として喜ぶべきなのだろうか。やったー、夢の冒険者だーって両手を上げるべきなのだろうか。


 別に、冒険がしたいわけでもなければ素材集めや魔物退治で経験値積むみたいなやり込み要素をしたい訳でもないんだよなあ。


 そりゃ初のスライム遭遇の時にはやっとこさイメージする異世界物っぽくなってテンションも上がりはしたけど、あれもライブ感で喜んだだけで実際は『キモ〜……』っていう印象が一番強かったのが本音だしな。


 冒険者なあ、モチベーションはない寄りだなぁ。


 てかさ、華々しい初陣でスライムに散々リスキルされた俺が冒険者なんて努まるのかね。死に覚え感覚で力押しする事は可能かもしれないけど、それって修羅の道だよな。死ぬの痛いし、苦しいし。


 向き不向きで言えば絶対向いてはいないもんね、冒険者というか戦う系の職業全般。冒険者という択は正直あんまりかな……。



「えー……冒険者以外にそういう仕事ってあります?」


「修道女とか?」


「修道女! 修道女っ!? こ、こりゃまた興味を示しづらいお仕事だなぁ……」


「ただ教会の庇護下に入るんじゃなくて聖職者として属するってなると試験はあるらしいけどね。試験資格は誰にでも平等にあるけど、入れるかどうかは別って所かな」


「尼さんになるのはちょっとアレなんで、パス」


「となるといよいよ冒険者ぐらいしか」


「そんな幅狭い事ある? 選べる仕事が少ない所の話じゃないんですけど」


「残念ながらそれが現実だよ。……やっぱり、ここは大人しく孤児院を探した方が」


「比較すると孤児院生活よりかは心持ちマシではあるんですけどね。修道女……はどうせ試験受かるとも思えないし、ならやっぱ冒険者か」


「……冒険者は、正直他の市民からはあまり良い印象を持たれていない。所属してる人間のほとんどが元荒くれ者みたいな連中だからね」


「あー。どんな素性の人間でもなれる職業なんですもんね。そりゃイメージ悪くもなるか」


「だね。だからこそ逆にある程度外からの干渉を受けづらくて安心出来るという側面もある」


「人攫いで生計を立ててる連中や、そうでなくても差別意識や見下してる相手への攻撃で石を投げられたりって事は無くなるって話ですか。なんだろ、普通の社会人をやる傍ら緊急事態時の身の安全を担保する為にギャングに所属しとくアメリカ市民みたいな認識なのかな。どこの世界でも人間は強かだ」


「冒険者間での私闘は原則禁止されているし、冒険者は互いに互いの事をうっすら警戒してるから仲間を集めればそれだけ安全に立ち回る事も出来る。君ほどの容姿なら仲間もすぐ集まるだろうからそこに関しては心配しなくていいと思うけど、仕事内容がなぁ……」



 仕事内容はさっきチョロっとピックスさんに聞いた。大体がアイテム採取やモンスター討伐ばかりで、本当にたまに人の護衛や要人警護や店の手伝いなんてものもあるらしい。でも襲われるリスクが少ない依頼は年内に数件あるぐらいだし、人気が殺到するから中々取れない依頼だとも聞く。


 冒険者になるんだったらモンスターとの戦闘は避けて通れないんだろうな。



「……ちなみに参考までに聞くんですけど、俺一人だとスライム相手に結構苦戦したんですよね。なれると思います? 冒険者」


「なれないことはない、けど。厳しいんじゃないかな」


「うぐ。こんな大斧を振り回せるとしても?」


「スライムに苦戦したんでしょ?」


「いやアレに苦戦しない方がおかしい!? こっちの攻撃効かないじゃん、ツキノワグマの方がまだ勝てる見込みあるでしょ普通に」



 大袈裟じゃなくマジでそう思います。絶対この斧を胴体にぶち込んでやればツキノワグマなんて一撃だもん。スライムには何発刃を叩き込んだとしても勝てないもん。単純な相性ゲーで天敵だわ、あの巨大プラナリア。



「まっ、現状可能性があるとすれば冒険者くらいで、それになるのだとしたら仲間集めをしなきゃなのか」


「そうだね。オススメはしないけど……」


「ピックスさん」


「うん?」


「ピックスさんってソロプレイヤーなんですか?」


「ん、うん? ソロプレイヤーとは?」


「単独で活動してる冒険者なんですか?」


「僕はそうだよ。なんで?」


「仲間がいた方がいいって話なんで。それならピックスさん、俺を仲間に雇ってください」


「それは出来ない」


「即答!?」



 微塵も迷わずに申し出を断られてしまった。そんな迷わずな事ある? そ、そりゃ子供みたいな見た目の奴を仲間にしても足でまといだろって思われても仕方ないけどさ! 見ての通り力には自信ありますよ!?



「お、俺実は結構戦闘には自信ありますよ!」


「でもスライムには苦戦するんだよね?」


「それは初見殺しに遭ったというか! なんだかんだ倒しましたし、一人で!」


「僕だって一人で倒せるよ。特に危なげなく」


「ぐぬぬぬぬ」


「ごめん。僕は仲間は持たない方針なんだ。……それと、もし仮に君が冒険者になるとしてもこれからは僕とあまり接点を持とうとしない方がいい。その方が君の為だよ」


「なぬっ。なんで! いきなり距離を置こうとしてくるのなんで!」


「あはは……まあ、その。僕も人には語れない過去の一つや二つあるって事さ。君は僕なんかと関わらず、新しい人脈を築いて仲間を集めた方がいい。駆け出しの冒険者には優しくしてくれる人達も多いからさ」



 そうなのか。何かしらの事情持ちなんだな、この人も。そうは見えないけどなぁ、出会ってからここまで優しくしてくれたし。



「冒険者になりたいのなら、今日はラトナの街まで送って冒険者ギルドの場所を教えとこうか。ギルド自体は夜までやっているけど冒険者受付は18時で閉まるから、冒険者登録は明日起きた時にすればいい」


「む。親切にどうも。明日か、じゃあそれまで一晩野宿だなぁ……」


「いやいや。女性一人に野宿なんかさせるはずないだろ。折角の縁だし、僕の泊まってる宿まで案内するよ。今日はそこで休むといい」


「…………! なるほど、そういうことか」


「うん?」


「どういう事情持ちのコブ付きなのか、今理解しましたわ。ピックスさん、あんたそうやって困ってる女に優しくして部屋で強姦する常習犯だろ! 悪い男だ! 狼だな!!!」


「さて。もう遅いし僕は一度宿に戻るよ。それじゃ、達者でね」


「冗談ではあるよ? ねえ、冗談でしかないじゃんか今のは。やめて、手を払わないで。謝るから連れてって」


「見た目が子供なだけでもう良い歳した大人なんだろ? ならば僕が憐れむ必要も無い。娼婦の集まる店か路地裏にでも赴き、君も彼女らと同じ方法で路銀を集めればいいじゃないか。世の中甘くないよ」


「ごめんなさい!!! もう二度と舐めたこと言わないからもう一度だけ情け容赦して! 旅は道ずれ世は情けでしょ!? 後生だから同じ部屋に泊めて!!」


「……よく考えたら、あんな狭い部屋でベッドも一つしかないのに大人の女性を招待するのは適切じゃなかったね」


「床にでも寝転がっとくから! 外で寝泊まりする方が遥かに危険だって流石に自分でも分かってるから! ピックスさん!」



 考えてみれば10歳そこらの見た目をした少女が野宿するのは危険に過ぎる。拐われて強姦された挙句内臓バラされて全国に売り飛ばされても全然おかしくない。そんなの嫌だ、せめて鍵付きの一室にでもありつけないと落ち着いて眠る事なんて出来ない! ここが日本ぐらい治安良い国なら良いんだけど絶対そんなことないしなー!


 完全にへそを曲げたピックスさんの前で土下座をし、出せる限りの大声で謝罪の弁を高速詠唱したらようやく機嫌を直してくれた。


 少しくらい打ち解けたかなって思う相手だったとしても、軽口は時と場合と相手の性格をよく考えて発しましょう。今日得た教訓である。

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― 新着の感想 ―
そのスライムはスライムキングだと私は思います。
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