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俺は女神の中の人  作者: 千佳のふりかけ
第二章『初めて他人を完全なゾンビにしました編』
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21話『初めてのモンスター遭遇!』

 で、どうするかね。まず何から手をつけたものか。


 ステータスオープンの下りは冗談として、俺の頭の中に記録として残っているアレクトラの記憶を見るにこの世界は普通にモンスターとか亜人とかうじゃうじゃいる世界っぽいんだよな。


 モンスター、魔獣。ふーむ。実際この目で見た事がないからその脅威がどれほどの物なのか分からないが、多分普通の獣より強いよね? 名前に"魔"って付いてるし。


 そんでもってここは陽の光が遮られるほど生い茂った森の中。蒸し暑くて地面はジャブジャブの……腐葉土? みたいになってる。高温多湿ですな。


 てかマングローブっぽい木があるんですけど。なにここ、ジャングル? 熱帯雨林? 水没林的なやつではない?


 あまり生態系とかには詳しくないけど、なんとなく熱帯雨林とかって毒性生物の温床なイメージがある。てかジャングルって特に生物の多様性に富んでる地域なんじゃないっけ。

 それってつまりモンスターハウスそのものみたいなものよね? スポナーがそこら中に設置されまくってるみたいなもんよね? スタート地点として終わり散らかしてるロケーションなんですけど。



「やっべ。斧が沈んじゃ……重おぉぉっ!!?」



 俺が目覚めた時に頭の上に降ってきたギンギラな巨大斧が腐葉土に沈みかけているのを見掛けて慌てて引き上げようと柄を掴むも重すぎて全然持ち上がらない。そりゃそうだ、鉄の塊だもんなーこれ!


 あれれれれー? れのれのれ。レ点付けますよこれは。記憶の中で見たアレクトラはそれはそれは剛力無双で戦場を駆けずり回ってたはずなのに、意外と筋力自体はそんなに強くないのか?


 いや、でもこんな危険生物で溢れかえってそうな場所で武器を失うのは流石に痛手だぞ? 痛手すぎるぞそれは。なんとかならないかなこれ!



「む……この刻印がある限り魔力を体外に出すことは出来ないのか。でも魔力を皮膚表面に張ることは出来る。手に魔力を張って使う能力は……なんじゃこりゃ? 物を停止させる感じのやつ? 停止させた後に握りこんだら壊せるんだ。死柄木弔じゃん、つよ。でも今回に関してはまるでゴミでしかない能力だ」



 手で触れば実質勝ち確な能力であるけど毒を飛ばしてくる敵に関しては全くなんの効果も発揮しないな。


 他に何かないか、アレクトラの便利能力!

 死者を甦らせる、古傷を開く、他人の魔法を勝手に利用する、骨を出す。


 何一つ有用な奴がないや! ぜんっぜん生活に役立ちそうな能力がない! 戦闘特化ではあるけど本体の戦闘能力が伴ってないと使えないものばかり! かーっ! これだから戦闘狂は!!!



「お! 期待値ありそうな能力発見!」



 脳内検索エンジンをフルスロットルでぶん回してたら一つそれらしきものがヒットした。


 この身で受けた熱エネルギーとか力学的エネルギーとか、とにかくダメージを蓄積して自分の肉体を硬くしたり攻撃にダメージを上乗せできる能力か。

 分かりやすい強化能力だな。ダメージの上乗せって部分が利用できそうだ、それってつまり筋力にバフかけるってことだもんね?



「物は試しだ。これなら体外に魔力を放出する系統の能力じゃないし多分使える。重奏凌積(リフレクション)! おりゃああぁぁぁっ!!!」



 技名を発して能力を発動させて自分の腕から肩、背筋にかけての筋肉に強化をかける。いけ! いけ! 持ち上げろおぉぉぉぉぉぉ!!!



「いやぜんっぜん持ち上がらない!? おっかしいな! 蓄積させてたダメージが小さいのかな!? 木の上から落下する程度のダメージしか蓄積してないからなぁ……仕方ない」



 発動条件的に、自分の手でバフ量を引き上げることは可能だろう。理屈的には俺が痛い目に遭う度に強くなるって能力だもんね。馬鹿馬鹿しいけど、やりようはある。



「ふんぬっ!」



 近くの木に頭を思い切り打ち付ける。痛い! もう一回! 痛い、痛い!



「溜まれ痛みよ、ストレスよ! リ・デストロの戦い方を思い出せ! うおりゃああぁぁぁぁっ!!!!」



 その場でめちゃくちゃに転げ回って全身を木々や石にぶつけまくる。アホやね、傍から見たら。



「耐えろ! 耐えろ! 溜まれ! 溜まれ! おりゃああぁぁぁぁどふぁっ!?」



 一心不乱に転げ回っていたら木の上から重めの木の実が顔の上に降ってきた。



「ごふっ!? つぁっ、ちょ待って! 死ぬっ、死ぬぅっ!!?」



 立て続けに多くの木の実が落ちてきて普通に死にかける。今ので骨折してないとか奇跡すぎない? 人体の頑丈さに驚きです。


 神秘だね。マッハの戦闘機に突っ込んだ程度じゃ多分死なないわ今の俺。この痛みに耐えられるならもう普通にビッグバンにも耐えうるよ俺の肉体。



「痛かった〜……てかよっしゃ! 早速食料ゲットじゃん! 幸先良いな〜、普段の行いが功を奏したな!」



 ふへへへへ。丁度お腹空いてた所なんだ、木の実を思い切り石に打ち付けて中身を……。



「……うわぁ」



 食べようと思ったけどやめた。なんか蛆虫みたいのが沢山湧いてたんだもん。キモすぎる。ゴーストシップって映画で似たようなシーン見たわ、それフラッシュバックしちゃった。



「やべっ、そうこうしてたらもうほとんど沈んでんじゃん!? 待って待って!」



 蛆虫パラダイスな木の実をぶんなげて柄に手を伸ばす。うぉっ!? 俺まで下に引っ張られる! なにこれ、底なし沼かなにか!?



「今度こそ! 重奏凌積! おわっ!?」



 有り余るエネルギー量を強化に回して斧を持ち上げると今度はさっきとは打って変わって羽のように軽く持ち上げることが出来た。



「とととっ!? いってええぇぇぇっ!?」



 それでそのまま背中側に斧を持ってかれて転倒してしまった。運悪く尻の骨を石に強打、痛みに悶える。


 足にもバフを掛けなきゃバランスを取れないのは当たり前か。全身に均一に強化が分配するよう能力を発動しなくちゃいけないのか……今は考えながら発動してるから面倒だけど、いつか慣れたら自然にできるようになるのかね。


 戦場を駆けてたアレクトラは多分無意識のうちにそういう処理を行ってたと思うけど、俺には到底出来そうにない。

 難しいな〜魔法って。魔力操作はなんとなく体が使い方を覚えてるから簡単に出来たけど、能力の使用に関しては頭を使わないと。



「ふむ。それにしても凄いな。こんな鉄の塊でペン回しまで出来るとは。アレクトラボディ、恐るべし」



 全身に均等に強化を張り巡らせてから巨大斧、武器っぽいから戦斧? を振り回したら驚くほど手に馴染んでブンブン振り回すことができてしまった。


 この『重奏凌積』って能力、効果時間はどれくらい持続するんだろう? 一回バフかけたらずっとそのまんまって話だとしたら結構チートじみた性能してるよな。



「……あ、違うわこれ。能力を解除するまで蓄積したダメージが消費され続けるのか。ふむぅ、エネルギーの貯蓄が終わったら持ち上げられなくなっちまう。あんまコスパ良くないんだなぁ」



 怪力を維持するにはそれ相応の痛みを伴うって事か。

 なんというか、『復讐の女神』の名に相応しいねちっこい能力だな。痛い思いをした分だけ報復に費やせる力量が増えると。漫画とかに出てくるとしたら間違いなく敵サイドの能力だろ。



「屁理屈でデメリットを打ち消す事って出来るんかなぁ? 受けた力量をそのまま貯蓄するってんなら、重い物を持ち上げた際の重量を力量として蓄積できそうなものだが。それが出来たらどんな重いものでも軽々振り回せるしマッチポンプすぎるか。そこまで融通は効かないわな」



 それらしいアイデアを思いつくも、バランスを考えた結果さすがにそれは無法だろうって事で考えを改める。


 だって防御力も上げれるんだよ? 受けた力量を何でもかんでも吸収するってんなら、攻撃を受ける度に防御力が増すからほぼ無敵じゃん。初撃で倒さないと攻略できないギミックボスみたいな性能になってしまう。



「でも自分の意思で受けた痛みをエネルギーとして貯蓄できるのに気付けたのは収穫としてデカイな。移動する際にはわざと地面を強めに蹴るようにしてチクチクとエネルギーを蓄積させておこう。そんなもん微々たる量しか加算されないだろうけど、ないよりかはマシだしな」



 で、武器はとりあえず扱えるようになったとして次にどうするべきだろう。規模がどれほどかも分からない熱帯雨林を抜け出す為に俺がする事……。



「ふーむ。森林伐採はあまり褒められた行為じゃないけど。進むにしても斧が木に引っかかって動きにくいだろうし。……そいやっ」



 戦斧を振るって目の前の木に打ち付ける。おぉー! いとも簡単に幹の太い木を両断できてしまった。さすが木を伐採するために作り出した道具、気持ちいいくらいに一刀両断です。



「とりあえず一直線に進んでいくか。木を切り倒していけば道が分かりやすく開けるから迷子にもなりにくい。ごめんね、森の精霊達よ。人間のエゴを許しておくれ!」



 居るかも分からない精霊達に謝罪を告げてもう一本木を切り倒す。目指すは治安良さげな文明都市だ!!!





「ぜぇ……ぜぇ……」



 目指すは治安良さげな文明都市だ! と息巻いて進んだはいいものの、行けども行けども生い茂った森から抜け出すことが出来ずに体力の限界が来てしまった。



「ふいー……ちょっと休憩……」



 戦斧を切り株にぶっ刺して別の切り株に腰掛ける。めちゃくちゃ歩いたなぁ、背後の光景を見て自分の進み具合を再確認する。

 すごいなこれ、ちょっとした滑走路みたいになってる。小さめの飛行機ならここに着陸できるんじゃないだろうか。この世界に飛行機なんて存在するかも疑問だけど。



「水飲みたい。こんな濁った泥水じゃなくて透き通った綺麗な水……ん?」



 喉の乾きが限界に近付き、都合よくウォーターサーバーでも設置されてないかと周囲を見渡していたら太めの切り株に透き通った水が貯まっているのが見えた。



「おぉー……これ、さっきまで生えてた木だから雨水ってことは無いよな?」



 向こう側が透けて見えるほどの美しさに魅了されてその切り株のそばまで駆け寄りよくよく水面を観察する。……うむ、変な生き物が浮かんでいる様子もない!


 聞いた事があるぞ。竹の中に貯まった水は清潔な飲料水として飲むことが可能であると。


 俺が切った木は決して竹では無いのだけれど、それにしたってこれもきっと根っこから水分を吸収し余計なものを濾過して貯まっている水に違いない! 違いなくあって欲しい! とにかく喉が乾いたのだ、少しでも飲める可能性があるのならごくごくといきたい!!!



「ひんやりしてて気持ちいい……これなら、飲めるんじゃないか? の、飲める。きっと、多分!」



 もう水を欲しすぎて半ば思い込みに支配されているが、兎にも角にもこの水を飲んで喉を潤したい!


 切り株に顔を近づけ、念の為微細な寄生虫らしきものが浮いていないか確認しながら唇を尖らし水に近づける。


 大丈夫、大丈夫! ほら、ジャングルとか熱帯雨林にも居を構えてる民族だっているし! 彼らも雨水だけで凌いでるわけじゃないだろ? きっとこういう、現地人しか知らない湧き水とかを飲料水にしてるはずだ。きっとそう、信じろ俺!



「……う?」



 尖らせた唇が水に触れた途端、不自然に水面から柱のような物がたった。なあにこれ? 茶柱の親戚?


「ゔっ!? うがああぁぁぁっ!? 目が、目がぁ!?」



 急に立ち上がった水の柱はピロピロと先端を震わせながら俺の顔に近付き、不意に勢いをつけて両眼球にパンチしてきた。目を押えてのたうち回る。何事!?



「いってぇえええっ! んだよクソッ……スライムゥ!?」



 目潰しをしてきた水を睨みつけてやろうとしたら、ただの貯水だと思っていた水がぐにぐにと動き出して切り株から這い出てきた。


 それは形容するとしたらまさしくアニメやゲームに出てくるスライムそのまんまだった。姿形を自由自在に変えながらこちらに近付く液体。明らかに意思を持った動きをしてる、それも恐らく敵意に類する意思を俺に向けてきてる!



「げげっ!さっきは木の模様のせいで気付かなかったがよく見たら内臓らしきものがある! きも! 切り株の中で休んでいた所を邪魔された上に飲まれそうになって怒髪天って事か……!」



 慌てて戦斧を切り株から引き抜き構える。そのうち何かしらモンスターが湧いて出てくるんだろうなとは思ってたけど、最初の相手はスライムか! ははっ、雑魚の代表格みたいな敵で助かったぜ!



「飲水じゃ無かったのは心の底から口惜しいが、モンスターとの戦闘かぁ! ワクワクしてきたわ、恨むなよ雑魚スライムッ!!!」



 スライムの動きは酷くノロマだ。どういう身体構造をしてるのかは全く分からないが、内臓の位置が変わらない辺り一見不定形に見えて上下左右の感覚はあるのだろう。


 ヒトデみたいに底面にびっしり触手がついてるとか? 何にせよ、最低限維持しなくちゃいけない形状があるのだとすれば物理攻撃が効かないなんてことも無さそうだ! 明らかに内臓が弱点だしね、そこを狙う!!!



「食らえやおらああぁぁぁぁっ、あ?」



 勢いよく内臓にズドンと斧刃を落とすが、まるで手応えがなかった。あれー? 内臓が分裂してるー? なにそのプラナリアみたいな。そんなのアリ?



「やっべ」



 二体に増えたスライムが両側から俺を挟み込むようにしてくっついてきた。え、え? 膜に当たったと思ったら急にスライムの内側の水中部分に放り込まれた。やばくない? 普通に口の中に水が入ってくるんだけど?



「ぼばばばっ!! あぶぶぶっ!!!」



 必死に戦斧を振るうけど全然スライムの体を引き裂けない。水の膜を突き破ろうとしても体を伸ばされて無効化される。もがけどもがけど脱出できない。てかもう足が地面についてない、スライムの中で浮遊してしまっている。


 詰んでない? てかこんなに体積あったっけ? なんか質量増してないかこのスライム……地中から水分を吸い上げて体積を増幅してるの!? せっっっっこ!!! 水辺にいたら無敵じゃんそんなの!? 誰だよスライムを雑魚って呼んだやつ、お前現実を分かってなさすぎ! こいつマジで無法な殺人能力持ってんぞ!!?



「ぼばばばばばばっ!!! ぶぶぶぶぶあぼぼぼっ!!!」



 やばい、ちょっと内心でふざける余裕もなくなってきた。これは本気でやばい。


 呼吸が出来ないのはもちろんのこと、コイツ意思を持って動きやがるから俺の鼻の穴とか耳の穴とかにも入ってくる。……痛っ!? や、やばい痛みが頭の中に走った。透明のスライムの体内に赤い液体が混じってる。これ、鼓膜をぶち破られっ。



 やばい、やばいやばいやばいやばいっ!!! 鼻の中から入ったスライムも喉の下を伝って、これ、肺の中に……っ!? あ、頭の中にもっ。やばいやばい本気でやばい。殺される、漫画みたいな展開になって浮かれてたら殺されかけてる! 冗談じゃないって! こんな死に方、死ぬの、怖い! 怖い、怖い、怖い! 誰か助けて、誰か……っ!



「がぼっ!?」



 ……あっ。今やばい感覚がした。


 痛みとかそういうのじゃない。これ、脳を食われて……っ。

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― 新着の感想 ―
スライムを雑魚扱いするのは日本人特有って聞いたことあるけどド●クエのせいだよなぁ
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