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俺は女神の中の人  作者: 千佳のふりかけ
第一章『不具合による転生重複』
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12話『子供って思ったより頭良くて引く時ある』

「保護した市民は皆ここの階段を降りた先に避難させてある。敵国に攻め入られた時の為に陛下が作るよう命じた地下施設だ」


「そうだったのか。はえー……」



 ロットの案内で修道院奥の部屋の更に奥、隠し扉で隠蔽されていた地下階段を降りる。


 地下施設と言われると、この世界の時代感も相まって炭鉱みたいな感じなのかと予想していたが、実際は想像していたよりもちゃんと天井や壁床が木で補強されている小綺麗な空間になっていた。



「街の地下にこんな広大な空間なんて作れるもんなんだな。潰れないのか?」


「そこに関しても問題は無い。陛下は建築の技術にも精通しているからね、直々に建設現場に足を運んで指示を出していたから設計上の欠陥はないはずだ」


「なんで一国の君主が建築技術に精通しているんだよ。俺が歴史に疎いだけで、それがノーマルなのか?」


「陛下は勉強熱心なお方だからね、歴史上でも彼女に匹敵する王はそう居ないだろう。故に戦争が停滞していた間も多忙だったのだけれどね」



 俺を拷問にかけたままほっぽってたのはそういう理由か。納得は出来ないけど、ギリ理解は出来るな。クソムカつくことに変わりはないが。



「本当に大丈夫なのであろうなロット。此奴は人喰いの怪物なのだぞ」


「会話に関係ない茶々入れてんじゃねえよモブ。黙って先導してろ小間使いが」


「醜き怪物の分際で儂を小間使いと呼ぶか。身分を弁えられない貴様に口は必要ないようだな」


「何故すぐに小競り合うのだ貴方達は。まったく、子供の前なのだから少しくらい仲良くしたらどうだ?」



 先を歩くダゴナが立ち止まって俺の顔先に杖を突き出す、俺も手のひらをダゴナの胸に当てて一呼吸の内に心臓を潰せるよう魔力を込めていたらロットにまた怒られた。



「……先に舐めた事言ってきたのはこのクソジジイじゃん。俺が反論するのは間違ってないだろ」


「ダゴナ殿」


「儂はロットに確認をしただけではないか。挑発をしたわけでない」


「あ? 人喰いの怪物って言葉吐いといて挑発したわけじゃないだと? 愉快な頭してんな、歳に比例して脳みそ腐ったんか?」


「事実だろう。貴様は敵兵のみならず我が国の兵までもを喰っていた。人喰いの怪物、誤りはあるか?」


「……」



 反論できない所を刺されちゃった。それを言われたらもう何も言えない、自我がない間にやった行いとはいえ、犠牲者からしたらそんなの何の関係もないもんな。



「……ふんっ、気味が悪い。なんだその顔は、過去の行いを反省してるとでも言うつもりか? 物憂げな顔をすれば許されるとでも思っていたか。あまり人間を舐めるな、獣風情が」


「ダゴナ殿!!」



 俺が強く出れない代わりにロットがダゴナを怒ってくれた。けど、そんな風に庇われる資格は俺にはない。事実ではあるからな、飢えを満たす為に自軍の兵士を喰っていたのは。



「ダゴナおじさまは、おかあさまの事が嫌いなのですか……?」



 重苦しい空気の中、ずっと俺の着ていた布を掴み歩いていた少年がおずおずと声を上げた。



「ウェイン。これは好きか嫌いかという単純な話では無いのだ。お主の母親は…………その、なんだ。お主の母親はな?」



 急にダゴナの歯切れが悪くなる。子供の前で母親を罵倒するのは流石に気が引けたのか。そうでないにしてもアレクトラがしてきた行いを子供にそのまま伝えるのは如何なものかと思いとどまったのかな。



「……きらい、なのですか?」



 いつまで経っても言葉の続きが出てこないダゴナに対し、ウェインは再び問いを投げた。ダゴナは困惑した後、俺のほうをチラッと見て前を向いた。



「……行いが許せないだけで、個人としては……虫が好かんだけで他はなんとも思っておらんよ」



 嫌いって言ってるようなもんじゃねえか。難しい言葉を言えばこの話を有耶無耶にして終わらせられると思ったのか? 卑怯な大人だな。


 そこからは特に会話もなく保護された市民達の様子を見回り、特に異常がないことを確認した俺達は最後に俺の子供達が保護されているという区画まで来た。



「この女の子がアルカ、4歳だ。こっちの寝てる子がヘンドリックで3歳。そして、この赤子が私との子で名前はガレン。抱いてみるか?」


「い、いいよ! 俺赤ちゃんを抱いた事とかないし! お父さんと一緒に居た方が安心出来るだろ!」


「何を言う、君は母親なのだ。一度くらい抱いてみても」


「いいって!」



 断っているのにロットに押し切られてガレンとかいう赤ちゃんを抱く事になってしまった。ひえー、手を滑らしたら床に落っこちてお陀仏ですよ。怖い!



「ごらんよ。この子、乳母やダゴナに抱かれるとすぐ泣き出してしまうのに君が抱いたら嬉しそうにしているではないか」


「そ、そうなのか?」


「そうだとも。なあ、ダゴナ殿?」


「ふんっ。……そうだな、ガレンは貴様の産んだ子の中でも特に世話がかかる。ロット以外の者に抱かれて泣き出さないのは、物珍しくはあるな」


「へぇ。ダゴナさんに抱かれて嫌がってたのは、単純に加齢臭が嫌だからって理由だと思いますけどね」


「何!? そんな馬鹿な、儂、臭いか!?」


「何故私に聞くのですか。共に仕事する時間が長いのですから臭いなんて気にしてませんよ」


「なっ……ウェインはどうだ!? 儂、臭いか?」


「他の人とはちょっと違う匂いがするな〜とは思ってました!」


「なぬっ!? アルカはどうだ!?」


「? おじいちゃん、くちゃい!」


「!!!!」



 あら。アルカって名前の、俺の娘? に臭いって断言されて落ち込んじゃった。ダゴナって子供達の世話係もしていたんだっけ。孫のように思ってた相手、それも女の子の口からってのでかなりのダメージを負ったみたいだな。普通にざまあみろで笑える。



「……アレクトラよ」


「っ! な、なんだよ。謝れって言われても謝らねーぞ。あんただってさっき事実を陳列してきたんだからな」


「そうではない。その……そこそこの歳を生きた女性として忌憚なき意見を聞かせろ」


「は?」


「儂は、どのくらい臭いのだ? 不快になるほど臭いのだろうか」


「……」



 えぇ……。そんなに気にする事なの? あんだけ嫌ってた俺から意見を募るほど?


 まあ修道女が他の子供の世話をしに行ってるからこの場に女性なんて俺か、まだ4歳のアルカしか居ないから消去法で聞いてきたってのは分かるけどさ。必死すぎるだろ。



「……ガレンにはロットの遺伝が強く残ってるんだな。綺麗なブロンドの髪しちゃって、将来イケメンになりそうだなあ」


「何故無視をするのだアレクトラ!」


「ちっ、うるせぇな。子供達がびっくりしちゃうだろ。別に不快とまでは思わないから安心しろ」


「ほ、本当か? 本当であろうな!?」


「俺があんたに気を使うわけないだろ。尿切れの悪さと頭の悪さが比例してんのか、普通に考えてみろや」


「アレクトラ。ウェインとアルカは言葉が分かるのだ、あまり下品な事は言うもんじゃない」


「う…………ごめん」



 言葉遣いについて注意を受けてしまった。ロットのやつ、すっかり親になってるな。こっちには母親の自覚とかそういうもんは一切ないのに。やりにくいわ……。


 しかし、アルカとヘンドリックは俺の遺伝が強く残ってるんだな。赤い髪と、小さいながらも鋭い歯。歯に関してはウェインもガレンも鋭いが。


 未だに自分の姿をちゃんと見た事は無いのだが、少なくとも今の自分がロリの体型をしてるって事くらいは分かる。という事は、アルカの歳を少し成長させたのが今の俺の姿になるってことか。



「……もしかして俺、めっちゃ可愛くね?」


「今更かい? 君はかなり整った顔立ちをしているとも。その容姿の可憐さから女神と呼ばれていたのでは、と思うくらいにね」


「内面は邪悪そのものだがな」


「何故そのようなことを言うのですかダゴナ殿。また二人とも睨み合う……まったく、しょうがないな貴方達は」



 ムカつくわ〜このジジイ! 何を言うにしても茶々入れてきやがって! ガチでロットの目が離れたら顔面に一発パンチしてやる。鼻ぐらいならへし折っても問題ないよな? それくらいの嫌がらせを受けてるもんな俺。



「お、おかあさま」


「ん?」



 それまで大人しく座っていたウェインがまた俺の服の布を掴んできた。ガレンを抱くのに慣れたので腕の感覚を忘れないよう注意しながら顔をウェインの方に向ける。



「どうした? ダゴナが臭くて不快か? ボコってやるから待ってな」


「氷漬けにされたいのか貴様」


「そうじゃなくて、あの……」


「……?」



 何を言い出したいのか、まだその欠片さえも出てきてないのにウェインが俯き閉口する。推理のしようがない。どうしたというのだろう?



「……アレクトラ。そろそろガレンを抱くの、交代しようか」


「いいのか? ってかお前、こんな所まで来ちゃってるが大丈夫なのか? 修道院の中が本来の持ち場なんだろ」


「問題ないさ、代わりに腕の立つ兵士を数名立たせておいた。腕も疲れてきただろう、代わりなさい」


「分かった」



 内心確かに腕が疲れてきたな〜って思ってたから助かった。彼にそっとガレンを預ける。おっ、人差し指握られた、可愛いな。



「この子、お前より俺の方が一緒に居たいらしいぜ。お母さんっ子だな」


「子供の見た目をしておきながら母親らしき事を言うとは。なんとも奇妙な光景だ」


「ダゴナ、ダゴナ。それだけは絶対に言っちゃダメだよな? 危ないって、色々」


「齢10前後の少女が母親か」


「ダーゴーナ。わざとなのか? 一旦黙ろう、な? 子供の前でそういう事を言ってはいけない」



 そう見えたとしても、ウェイン達も俺の事を自分らと同じ子供じゃないかって思っていたとしても。さも当然のように少女が親をやってるみたいなことを言ってはダメだろう。教育に悪すぎるぞ。


 どうするんだ、それが普通だと思った子供達が同世代の子とそういう行為をしちゃったら。終わりですよそんなの。



「俺は成人してるから。それはロットもダゴナも理解してるよな? 蘇生されてから何年経つと思ってるんだ、少なく見積っても20歳以上なのは確実だろ?」


「何をそんなに慌てているのかは分からんが、安心せい。子供達にはきちんと教育を施し、貴様のような堕落した人生は歩ませないつもりだ」


「誰が堕落した人生だいい加減にしろよジジイ。頭蓋骨ひん剥くぞ」


「アレクトラ。そのような言葉遣いは」


「俺が悪いな! クソッ! ごめんなさい!」



 なんなんだこれ。集団で俺をいじめようとしてるのか?


 ガレンをロットに預け、改めてウェインの方を向く。……5歳の子供って結構体大きいんだな、座り姿勢だともう俺とあんまり身長差ないじゃん。なんか変な気分だ。



「で、どうしたの? ウェイン」


「その……ぼくも、おかあさまに抱きついてもいいですか?」


「え、い、いいけど」


「! やった!」



 ウェインは歓喜の声を上げると俺にギュッと抱きついてきた。う、うーん。やっぱり体格差があんまりないなあ。


 立って歩いてた時はもう少し身長差があったと思うが、もしかして俺座高低い? つまり足が長いってこと? 美脚で売っていく線あるな、これは確実に。



「おかあさま、ずっと会いたかったです!」


「お、おう。……なにジロジロ見てんだよジジイ」


「こうして見ると、姉と弟にしか見えぬな」


「なあ。だから、そういう事言うのやめろって。教育に悪いだろ!」


「おかあさまとこんな風に抱き合える日が来るなんて、思ってませんでした……!」


「そ、そうな。ちょっと力強いかもな、ウェイン。お母さん、ちょっと痛がってるかも」


「おかあさま、おかあさまっ!」



 聞いてないや。ウェインは俺に甘えるようにギューッと抱きしめて頭を擦り付けてくる。



「おにいちゃん、わたしも!」


「んぇ? どふっ!?」



 いつの間にか俺に抱きつきながら泣いちゃっていたウェインの隣にくっつくように、アルカも俺の服を掴んで抱きついてきた。勢いが猪だった、変な声出しちゃったわ。



「わたしのおかあさま? おかあさま、すき!」


「い、痛い痛い! 力強いな〜アルカは!? お兄ちゃんより力強いとは思ってなかったかもな〜!」


「アルカちからもちだからね!」


「うんうん服が破けちゃってるな!? 少し力緩めてくれないかな、変態ジジイに背中見られちゃってるかも!」


「そんな貧相な体を見て興奮するわけがなかろう。自分に自信を持ちすぎではないか? マセた童女め」


「殺すぞ」



 とりあえずダゴナはこの後絶対に処刑するとして、ウェインもアルカもすごい甘えん坊だな。ずっといびきをかいて眠りこけているヘンドリックとの対比がすごい。ヘンドリックはアコーロンさんとの子供なんだっけ、父親の性格が遺伝したんだなぁ。


 ロクに顔も合わせたことがないのにここまで好かれてるとは。無理やり産まされた子供だし、二度と会話する事なんてないだろうなって思ってたから余計に感慨深くなる。



「二人とも、元気に育っててよかった。いじめられたりしてないか?」


「んーん、みんなよくしてくれます! とっても良い人達ばかりです!」


「ダゴナおじいちゃんはくちゃい! ロットおじちゃんはこわい、うるちゃい! きらい!」


「な!?」「えっ、アルカ……?」


「あはは、そっかそっか。アルカの気持ち、俺にもよく分かるぞ。アルカは間違ってない! 賢い子だな〜!」


「えへへ〜」


「ぼ、ぼくはっ」


「ウェインも賢い子だな、言葉遣いちゃんとしてるし。流石俺の子、遺伝するんだな〜」


「どの口が言うのだたわけが」


「黙れボーケすっこんでろ」


「アレクトラ……」



 ロットからの呆れの目線を無視して二人の頭を撫でる。


 うんうん、好いてくれるのは嬉しいけど二人とも力強く抱きつきすぎだね。もう俺、服が破けて背中丸見えになってるよ。変態ストリッパーみたいな格好になってるよ。どうしようねこれ。


 ……子供達が自分を好いてくれて、甘えてきてくれるのは素直に嬉しい。けど、この嬉しさを噛み締めればかみ締めるほど、死んでしまった赤ちゃんの事を思い出してしまう。


 本来ならあの子も、この輪に加わっていた筈なんだよな。


 名前すら与えられず、誰かに愛される前に死んでしまった。

 この子達になんの罪もないし、というか関係すらないのだからこんな事を言うのも変なのかもしれないけど、これじゃ不公平だ。あの子があまりにも浮かばれない。



「アレクトラ? どうしたのだ、険しい顔をして」


「いや……こうしている間にも、地上では何人もの命が奪われてるんだよな」


「そう、だな」


「……少ししたら俺、地上に戻るわ。ロットもダゴナさんもずっと戦ってたんだろ? 代わりにガキどもの世話をしててくれ」


「!? な、何を言っているのだ君は! これは我々の戦いであって、君が出る必要はっ」


「単純に、生物として雑魚いあんたらが出向くより俺が戦った方が犠牲は少なく済むって話。俺一人なら騎士数人を同時に相手できる、死にそうな兵士も拾ってまたここに戻ってくるよ」


「そういう事では無いだろう! 私達は君を、利用していたのだぞ?」


「待て、アレクトラ。貴様の言い分を鵜呑みに出来ると思うてか?」



 言葉で俺を踏みとどませようとするロットとは違い、ダゴナは杖を出して俺の背中にその先端を突きつけた。



「……ウェイン、アルカ。1回俺から離れて」


「え。で、でも」


「いいから。また後で抱きついてきていいから1回だけ。ね?」


「……分かりました。ほら、アルカ」


「んぃー! おかあさまのおっぱい、ちっちゃい? うばさんと違うー?」


「いだだだっ!? アルカッ、そういう風に女の人の胸を握っちゃダメだから! ずっと痛い事しかしてこないなこの子!?」



 俺の胸を鷲掴みにしてきたアルカをウェインが引き剥がしてくれた。痛かった〜……。


 さて。子供達も離れた事だし、これで安心してダゴナの方を向けるな。



「こんな狭い場所で魔法を使う気か? そんなに俺の事が怖いかよ、宮廷魔術師殿」


「……今はロットがいるから貴様の行動にも目を瞑るが、地上に出て自由になる貴様を野放しにするわけにはいかん。我が軍の兵士を連れ帰ってくるだと? ふざけるな、敵味方関係なしに虐殺をしたいだけであろう」


「過去の事を水に流せとは言わねえけど、いつまでも昔の話を引きずって怖がるのやめにしてくれねぇか。そんな事するわけないだろ、する意味がない」


「貴様の言葉を信じるに値する根拠を述べよ。でなければ、信用出来るわけもなかろう」


「……子供達がいる」


「子供達とその他の兵士に何の繋がりがある」


「ちっ! 根拠なんてねぇよ! あんたの言う通り、俺を信じられないってのは至極当然だろうな! でも俺の言い分だって間違っちゃいないだろ!? あんたらは死んだらそれっきり、でも俺には複数回蘇生できる余裕がある! 適材適所ってものを考えれば、俺が戦った方がいいに決まってる!」


「ならぬ。貴様はここに居ろ」


「なんでだよ!?」


「何故か分からぬ時点で貴様はまだ人になりきれていない獣のままだろうが! ……いや、獣ですらないな。貴様は生き物として大切な物が欠落しているのだ」


「はあ? ……んだそれ、喧嘩売ってんのかよ」


「どうしようもない阿呆を諭しているのだ。よく考えろ、貴様はこの子達の、母親なのだぞ」


「だからなんだよ」


「……本気で言っているのか?」



 ダゴナの杖の先にわずかな光が灯る。魔法を発動するために魔力を集めているようだ。


 今の会話のどこに魔法をぶちかまされるような要素があった? 理性的に会話する事もできないのか、この老人は。



「百歩譲って貴様が我らに助力したいと言うのであれば、貴様の魔力を我々が徴収する。それが貴様にできる最大限の助力だ」


「ああ、それでもいいよ。魔力なんて有り余ってる、いくらでもやるよ。でもそれは最善とは言えねえ。あんたらが取れる最善はここで子守りをすることだ、外に出て命を賭して戦う事じゃない」


「……帝国に魂を捧げた我らを愚弄するか」


「わざわざ死にに行くような奴らに誇りもクソもねぇだろうが」


「貴様っ!!」


「! 待て、二人とも!! 静かに!」



 感情が高ぶりそうな所をロットが一喝して抑えられる。


 静かに、の一言で全員が口を閉じる。すると、遠くの方から何か爆発するような物音が聴こえた。



「っ、いかん。結界を破られたか……!」


「結界って、修道院を囲ってたやつか?」


「いや、これは地下階段に張っていた結界だ!」


「!? 侵入されてるって事じゃねえか!? クソッ」


「待て、どこへ行くアレクトラ!」


「地下階段の方に決まってんだろ! 迎撃してくる、あんたらはここを守ってろ!」


「逆だ馬鹿者! 貴様がここを守れ、迎撃には儂とロットで向かう!」


「てめえまだそんな事言ってんのか!? もう考える力もろくすっぽ機能してないんだから黙ってろよ!!? 急がないと被害がっ」


「私も、ダゴナ殿の意見に賛成だ」


「は? ……っ!?」



 ロットが俺の後頭部をトンっと叩いてきた。いや、そんな事をされてもアニメみたいに気絶したりしないが。でも一瞬四肢が麻痺してその場に倒れ込む、なんだこれ!?



「待てって! 止まれ、お前ら!」


「複数回に分けて結界を張っていく。その際に敵の横槍が入ればロット、頼むぞ」


「了解」


「止まれって……言ってんだろ……!」



 麻痺している手足を強引に動かし二人の後を追うが、一定の所まで進むと結界によって遮られてしまった。修道院に入る時よりも強固な結界だ、今の俺じゃこれは壊せない。



「アレクトラ」


「っ! 戻ってこいって! あんたら二人で殺到する騎士を倒すのなんて無理だ! アイツらと戦って理解してる筈だろ、この国の兵士なんかとは比べ物にならない練度まで鍛え上げられてる!」


「……ありがとう」


「ありがとう!? 会話が下手なのは相変わらずだな!? こっちの話をちゃんと聞け! 戻ってこいって、おい!!」



 意味の分からない事を言ってロットは去っていった。行くならせめて、俺の魔力を奪ってからにしろよ! 補給もせずに何敵の前まで出ようとしてんだ、アホかあいつらは!?



「おかあさま……?」


「っ、どのみちここも完全に安全地帯って訳では無いか。……ああくそっ! ウェイン、それとアルカも!」


「は、はいっ!」「なにー?」


「移動出来る範囲の人達をここに集めてくれ、防護壁を作る。鎧を着てる奴や剣を持ってる奴がいたらすぐに逃げろよ、話しかけられても無視! いいな?」


「分かりました!」「うぃ!」



 ウェインは気持ちいいくらい礼儀正しく返事して、アルカは分かってるかどうか不安な感じで相槌を打った。……ちょっとアルカが不安だな、アルカの見える範囲で声掛けするとしよう。


 ウェインは賢いっぽいから大丈夫だと思うけど……一応、俺の魔力を多めに渡しといて自己治癒能力に大バフを掛けておくか。



「早い所アイツらん所に合流しないとだな……」



 地上での光景がフラッシュバックして嫌な想像してしまいそうになるのを頭を振って辞めにし、麻痺が取れた足で結界で遮られていない区画を走る。


 遠くから猛り叫ぶ男達の声が聴こえ、怒りに拳が震える。既にここは市民を守る避難所の役割を失い、人々が命を奪い合う戦場と化していた。

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― 新着の感想 ―
子供たちは可愛いですね。アレクトラちゃんの子供たちがもう死なないでほしい。
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