第6話 ゴブリン掃討戦採用試験!
酒場の外に出て、オレとルークと呼ばれた鎧を着た少年は向かい合う。ケンカの雰囲気を感じとってか、野次馬が増えてきた。
「アヤト、がんばれー!」
ハルは相変わらず肩に止まりながら、励ましてくれる。だがオレの思いは複雑だ。
「なあ、なんでゴブリンハントの参加を返事したんだ。見ただろ? ゴブリンだって怯えてるのを」
「そいつはゆるす。でも、ほかのゴブリンはゆるさない!」
「手厳しいな。気持ちはわからんでもないけどさ……」
「あっ、あいつ、くるぞ!」
「えっ?」
ハルと話していると、視界に木刀の剣先が横切った。ルークの不意打ちだ。
「うおお、びっくりした!」
「ちっ、風でズレたか。そこのハーピーに感謝しろよ。おかげで目を潰さずに済んだからな」
「ルーク、卑怯なマネはよしなさい! 彼はまだ武器を持っていない!」
受付嬢のミオンが叫ぶ。すごい剣幕だ。たぶん怒らせたら怖い。しかしルークは聞いていないようだった。
「……オレは戦力としてお呼びがかかってるんじゃないのか?」
「おれは虫の居所が悪いんだ。掃討戦にてめえなんざ必要ねえよ、余所者。とっとと消えやがれ!」
背は小さいが態度はデカい。ルークは木刀を大きく振りかぶって、攻撃しようとしている。
こんなときこそ思い出し、実践するんだ。神殿で女神様に戦いかたを聞いた、異界語召喚士の戦いかたを。
「簡単にやられるワケには!」
オレは『ハ』の字を召喚して、1画目で攻撃を受け止める。
「なんだコイツ、急に武器を出しやがった!?」
「メルの言っていた黒鉄の得物を振るう男……。やはり彼だったのか」
このルークという少年、木刀を両手持ちしているのにピクリとも動かない。女神様は言っていた。「あなたの言葉は意志とともに硬く、そして重くなる」と。
どうやらホントみたいだ。この字、扱っているぶんには軽いのに。
「硬すぎる……。なんでこんなに動かないんだよ! 戦の神ガルクレスよ、どうかおれにチカラを与えてください……!」
ルークはわかっているだろうか。オレの右手には、まだハの字の2画目が握られているのを。女神様も言っていた異界語召喚士の戦い、その真髄は!
「硬く、重ければ、振るうだけ。ただそれだけでよい!」
ルークの肩にそれを当てる。もちろん手加減して。鎧の上からだったけど、それでも痛そうに短く叫んで倒れた。
ちなみにカタカナのハの字、その2画目の終わりは『とめ』だ。なので斬れる心配はない。めっちゃ痛いだろうけど。
「アヤト、やった!」
ハルの声を皮切りに、野次馬たちも歓声を上げた。ケンカを売られたのも初めてだし、勝ったのも初めてだ。まあ借りもののチカラだけれども。
「お見事です、アヤト殿」
ミオンさんが拍手しながら近づいてきた。その眼差しは依然として鋭い。
「拝見しました。やはりそのスキル、信頼に足りうるものですね。どのような神と契約したのでしょう?」
戦の神ガルクレスとか言っていたな。じゃあ名前あるのがふつうなんだ。
「……そういえば聞いていませんでした。女神様って呼んでたから。スキルは異界語召喚士っていうんですが」
「バベルサマナー? 王国お抱えの冒険者を含めたくさんの人間を見てきましたが、聞いたコトがありませんね」
「うう……」
倒れていたルークが痛そうにうめきながら、もぞもぞ動き出した。
「アヤト、とどめー!」
「いやそこまでやらねえよ!?」
ミオンは見兼ねたといった顔つきで屈み、ルークの顔を小気味よく叩いた。改めて思うけど、怒ると怖そうだ。
「不意打ちした挙句こうなるとは。鍛錬が足りないから……そんなだからガルクレス様に呆れられる」
「姉ちゃん、早く治して!」
「口の利き方には、気をつけたほうがいいと思うけど」
「な、治して、ください」
「はいよくできました」
姉弟の上下関係を垣間見たところでミオンは親指と中指を合わせると、指先が光り出した。
「調和と癒しの神ロウハイレンよ、どうかチカラを!」
そしてくっつけた指を勢いよく弾くと、その音の反響とともに、伸びた人差し指から光がルークの肩に向かって放たれた。
「ハルもあれ、やってみたい!」
「指パッチンをか? ハルは手が翼だからなあ。難しいんじゃないか?」
「んー、できないかー」
ルークは急に立ち上がり、肩をブンブン振り回しながら睨みつけてきた。
「んんんんんー、許るさーん!! ガルクレス様の加護があればなァ、おまえなんてなァ!」
「ルーク、甘えるな。そんな腐りかけの性根じゃあ、あこがれている雷騎士レーンに届くハズもないぞ」
「はい……」
これっきり黙ってしまった。てか震えてるし。オレは勝者の余裕からか、なんとなく彼を不憫に思う。
「見苦しいものを見せてしまい、申し訳ありません。ルークはガルクレス様にそっぽを向かれたとイラ立っていまして。けれど悪気はないのです。私の能力があれば、治せるとわかっての行いですから。あとで折檻します」
「ああ、いえ……」
同じ真顔のハズなのに、今はどうしてこう、怖さがないのか。ミオンさんにはなるべく逆らわないでおこう。
「さて、テストを済ませたところで、ゴブリン掃討戦に登録させていただきます」
「それって、いつ実施されるんで?」
「野暮ったい質問だな。冒険者たるものいつでも用意はできているモンだろ?」
そう言うルークも、たしかに呼ばれてすぐにオレと戦ったな。まだまだ子供のようだけど、大人のオレ顔負けの覚悟を持っている。冒険者とはこういうものか。
「それってつまり……」
ミオンさんが酒場を覗くと、待ってましたと言わんばかりに冒険者たちが出てきた。その目つきは勝負師のそれだ。
「そう、今からです。皆、よく聞きなさい。我々はこれよりゴブリン掃討戦に赴く!」
ミオンさんの冷静な口調が熱を帯び、野次馬たちもさっきとは比べものにならない歓声を上げる。
「相手はゴブリンなれど、数は未知数。死と隣り合わせの戦いになるだろう。しかし信じて待っていてほしい。私、ギルドマスター・ミオンは、ここにクエスト、『大草原の小さな戦争』作戦を決行し勝利するコトを誓う!」
「おーっ!」
ボルテージは最高潮だ。ハルも釣られて右翼を上げてるし。
「さあ行こう、これより歩む道は英雄としての第一歩だ。全員生き残り、勝ち鬨を上げるぞ!」
総勢6人とパーピーひとりでダダッピロ草原へと向かう。女神様に誘われて冒険者ギルドに行ったら、ゴブリンとの戦争に参加させられたんですけど。オレ、不安です。これでいいの、女神様!?




