表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/42

第3話 ハーピーの娘・ハル



 背の高い草原を抜け、また歩くと、立ちはだかるのは立派な門。高く積まれた石作りの壁と相まって、この先に栄えた街があるのは想像に難くない。



 だからこそ考えてしまう。こんなところで見つかってもいいのか?



「はら、へった!」



 ハーピーとゴブリンを。ゴブリンは気絶してるから今オレが着てるパーカーの中に隠せばいいとして、ハーピーはどうなんだろう。人間とモンスターの関わりを知れるチャンスと考えるか。



「ハル、他の人間に会ったコトってあるのか?」



 ちなみにハルというのは、今オレの肩に乗っているハーピーの名前だ。名無しだったみたいだから、呼びやすいように名づけた。



「おはなしだけなら、きいてた」



「んじゃあ、直接はないんだな」



「おまえが、はじめて!」



「ちゃんと名前で呼びなさい。オレは綾人あやと。いい?」

 


「アヤト!」



「うん。そうそう」



 ハルは明るく接してくれるが、親から離ればなれになってしまって寂しいハズだ。なんとかしてあげたいが……。まずは腕、というか翼の治療をしてからだ。



「よし、行くぞ。おとなしく肩に掴まっててな」



「あいあい!」



 で、このデカ門、どう開けるんだろう。見張りとかいないんだろうか。困ってウロウロしていると看板を見つけた。



『ご入用の方は、ゆっくりと3回ノックしてくだい』



「どういうセキュリティしてんだ!」



 いや、スルーするとこだったけど、見たコトない文字なのにすんなり読めたぞ。ありがとう女神様、異界語召喚士バベルサマナーのスキル、最高っす。



 看板に書いてあるように、大きな門にノック3回すると、すんなりと門がせり上がるも、途中でピタリと止まった。隙間から足だけ見える門番の声が聞こえる。



「ワーロ・ハーク門前街へようこそ。神殿への巡礼をご希望でしょうか?」



 ちゃんと言葉も理解できる。ところで神殿ってなんだろう。遠目から見えたヤツがそれか。



「まあ、そんなところです」



「ふむ。しかしその履き物を見るに、遠くからおいでになったのでは?」



 そりゃスニーカーなんて見ないだろうなあ。かといって違う世界から来たなんて通用するだろうか。あまり喋らないほうがいいな。



「ええ。思えば遠くまで来たものだ……」



「長旅お疲れさまです。それでは、ここに名前と要件をサインしてください」



 きれいな石畳に紙と羽ペンが置かれた。異世界の文字、読めるし話せるが、書けるのか?



 そんな懸念は杞憂だった。以前から知っていたかのように文字が頭に浮かんだ。自分の名前と、それに建前上の要件である神殿への巡礼と書いて、紙とペンを返却。



「クサビ・アヤトですね。結構です。くれぐれも面倒ごとは起こさぬように」



 門が徐々にせり上がっていく。そうだ、街に入る前に、これだけは正直に訊いておかなきゃ。



「あ、すみません。子供のハーピーを連れてるんですけど」



 門は再び上がるのをやめた。



「ハーピーを、ですか?」



「街に入れて大丈夫ですかね?」



「念のため確認します」



 門番ふたりが半開きの門から潜り抜けてきた。



「ホントだ、珍しいな。翼をケガしている」



「ハーピーちゃん、こんにちは。言葉はわかるかな?」



「ちわわーっ!」



「うん。元気なあいさつだ」



 ハルの言葉が通じているみたいだ。



「ハル、はらへった!」



「そうか。じゃあ、これを」



「えっ! コレ、おカネ……?」



 門番はポケットの中から小銭を取り出した。銅貨が4枚。オレが手ぶらなのを見兼ねてか? だったら長旅をしてたなんてウソもバレてるな。



「ハーピーの保護、お疲れさまです。これで宿をとって、薬草を買って治療してあげてください」



「あ、ありがとうございます」



「これ、くえる?」



「これ自体は食えないけど、これでご飯と引き換えできるんだ」



「まわりくどいっ」



「ハーピーちゃん、元気でね。アヤトさん、よい旅を!」



「ばいばい!」



 門番がいい人で助かった。だがハーピーにはこの対応なら、ゴブリンが見つかったらどうなる。リーダーが直々に目の上のたんこぶと言っていたが。



 整然とした街並みには多くの人間に混じって、爬虫類と人間のハーフみたいなヤツもいる。休憩時間のようだ。大きな荷物を傍らに、人間のおっさんと談笑している。彼らは人間といっしょの扱いなのか?



「アヤトー、どうしたー?」



 そうか、言葉か。意思の疎通、これが重要なんじゃないか。ゴブリンたちだって言葉が通じたら引くくらいのテンションで驚いてたもんな。



 現にいろんな人からチラチラ見られるけど、嫌悪感とかではなく好奇の眼差しってカンジだ。オレが思っている以上に、種族の境目は薄いらしい。



「アヤトー! はらへった!」



「あー、わかったわかった。いろいろ考えてたんだ。大声出すなよな、耳元で」



 だからこそ、言葉の壁が大きいのだろう。あの便利スキルをくれた女神様に感謝しなきゃ。



「まずは薬草とかを買ってから、宿に行こう。ご飯はそこで食べられるからな」



「ごはん、たのしみ!」



 しかしオレは土地勘がない。どこになにがあるのかもわからんが、こういうところにはいるんだろう。



「おや、お困りですか?」



 カネを巻き上げようとする、善人ぶった初心者狩りが。あんのじょうやってきたな。ハルも唸って警戒してる。



「まあ、そうですね。宿ってどこにありますかね?」



「ここは初めて? 結構、結構。いやあなたは運がいい、私に会えるなんて。それならね、いい安宿を知ってるんですよ。着いてきてください」



 後ろに着いていくと、薄暗い路地裏に入っていった。途端に男が振り向いて悪い顔をする。



「へへっ、ダマさ――」



 話を聞くのも面倒なので『へ』の字を召喚して殴った。もうひとりの男に挟み込まれたので、そいつも殴る。



「宿、知ってるんだろ? あと薬草に包帯も買いたい。案内してくれ」



「へ、へい……」



 そんなこんなでスムーズに街を巡れた。薬草と包帯は銅貨1枚、宿でふたり分の料金である銅貨3枚を払って、やっと横になれた。



「うで、スースーする!」



「ムリに動かしちゃダメだぞ」



 ご飯を食べたあと、薬草をすり潰してハルの翼に塗った。包帯も巻いた。日も落ちたし、これでぐっすり寝れば明日には治っているといいな。



「むねのほうたいもー」



「えっ。お、おう……」



 こんなトコ、あの母親に見られたら、ぶち殺されるぞ……。



「あんがと!」



「よし、じゃあおやすみ」



 ちなみにゴブリンはベッドの下にいれた。まだ伸びてる。



「アヤト、いっしょにねよ」



「いいけど……翼、平気か?」



「へーき」



 ハルはベッドに入ると、翼を丸めた。



「あとねー、うたって? ちいさいとき、かーちゃんがよくうたってたんだ」



「子守唄か? ごめんな。ここの歌をよく知らないんだ」



「ちぇー」



「しっかり布団をかけてな。おヘソ丸出しなんだから、風邪引いちゃうぞ」



「あったかいね。……おやすみ。どこにもいかないでね」



 やっぱり寂しいのか。なら今だけは、オレが面倒みてやらないと。



「ああ。……行かないよ」



「んがー! ふごごー!」



「いびきうるせえ!」



 期待と不安の異世界転移初日、無事に生き延びたぞ。明日は神殿に行ってみよう。……オレが寝付けるのかわからないけど。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ