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第27話 吸血鬼、ヴェルド



「この先がね、パパの部屋だよ」



 屋敷に住まう吸血鬼のセリザの案内で、オレは客間に来た。階段を昇ってすぐの扉の先がそうだ。すぐここに来ないで正解だったと思う。



「いよいよご対面か……」



「パパー、お客さんだよー」



「ちょっ、心の準備が!」



 邪神の眷属たちを屠った相手だ、オレの心臓は高鳴るがセリザにとっては父、お構いなしに進んでいく。オレは深呼吸をして覚悟を決めて、客間を抜けた。



「……失礼します」



 薄暗い部屋に入ってすく感じた。呼吸すら難しくさせるプレッシャーを。まだ顔すら見ていないのに冷や汗が出てきた。



「セリザ。部屋に入る前には、ノックをするようにって言っただろう?」



「これはうっかり。それよりお客さんだよ。ハルちゃん返してほしいって」



「ああ……知っている」



「あー、セリザも盗み聞きはしないでって言ってるでしょ?」



「これはうっかりだ」



 仲のいい親子の会話って、こんなカンジなのかな。意外と話せそうなのかな?



「ニンゲン、我輩の前に来たまえよ。見境なしに物色したコトは、不問にしよう」



 雷鳴が輝いて、初めて気づいた。部屋に人の遺体が散乱している。そのどれもが夏場のタオルのようにカラカラに乾いていた。これが全滅した邪神の眷属か。



「血袋風情が騒ぐから、処理したまでよ。だが貴公は、これらより礼節を弁えているだろう? 動揺するコトはない、さあ……」



 意を決して声のほうへと向かう。大丈夫、きっと大丈夫だ。強気にいこう。



「いいぞー。あんよが上手、あんよが上手」



 セリザは手拍子しながら言ってる。ダメだ、ツッコむ余裕がない。



「そう、それでよい」



 まるで魔王の玉座のような、長い背もたれにドクロを基調とした装飾のイスに座っているこの男が……。



「我輩は吸血鬼ヴェルド、そこのセリザの父だ。よしなに頼む」



「アヤトです。よろしくお願いします」



「そして娘のセリザです」



「それは知ってる」



 金の髪に赤い瞳、黒いマント、そのどれもが高貴な印象をうかがわせる。



「話は聞いている。貴公、ハーピーを連れ出したいようだが、どういう関係なのだ?」



「……ハルは、オレの娘です」



「えっ、ハルちゃんのパパなの? 似てないなあ、特に顔」



 いや他にもあるだろ。セリザがいると、なんかややこしくなりそうだ。緊張を誤魔化せるのはありがたいけど。



「似ないでよかったね、ハルちゃん」



「どういう意味だ!?」



「身寄りのないハーピーの子を憐れんだ、といったところか?」



「あっ、はい」



「ふうむ……」



 ヴェルドさんは前髪を指でクルクルいじり出した。



「承知か? ハーピーの寿命は、ニンゲンよりずっと長い」



「……そうなのですか?」



「愛したばかりに、失うものは大きいハズだ。彼女のその哀しみは、知ったコトではないのか?」



「独り善がりの関係、と?」



「我輩は、そう捉えた」



「吸血鬼は死なないからね。パパがそう見るのもカンベンしてね」



 永い時を生きている吸血鬼は、どれだけ別れを経験したのだろう。



「我輩も、残された。妻に先立たれてから幾星霜、しかし未だ、忘れられん」



「ヴェルドさんの奥様って……」



「うん、ニンゲンだよ。つまりセリザはニンゲンと吸血鬼のハーフなのだ」



「フフ、おまえは顔つきは妻にそっくりだが、長生きなところだけは、我輩に似てくれたな」



「あとは片方の目と髪の色だけね」



 ヴェルドさんがセリザに向ける眼差しは、過去への憧憬なのか。片方の青い瞳に懐かしんでいるように見える。



「花に嵐の例えもあるぞと、ヒトは言う。貴公はどう思う?」



「言わせておきゃいいと思います」



「言葉だけは立派だな。……だが態度だけではあるまい?」



 肘掛けから手を離し、オレに伸ばしてきた。



「貴公の命の価値を以て、我がチカラを示したまえよ。『荊棘の赫道』(ブラッディ・ロード)



 ヴェルドさんの手のひらから、まるで光線のような多量の血が放たれた!



「逃げるワケにはいかない!」



 オレは叶の字を召喚する。左手を伸ばし、浮く口の字の盾で防ぐ。



「その盾、いいねー。持ってなくても手伸ばすだけでいいんだね」



 直接盾を構えちゃいない。なのに重さが左手に伝わってくる。邪神の眷属の攻撃なんか、これに比べたらなんでもない。



「受けたか! ならばもっとだ!」



 血の勢いが強くなる! 踏ん張ろうにも後ずさりしてしまう。



「部屋が汚れるのを気にしないパパ、久々に見たよ。こりゃ相当気に入られたね」



「殺される一歩手前だけどね!?」



「まだ生きてるんだから、なんとかなるでしょ」



「……そりゃそうだ!」



 叶えるというこの字、叶えたいという思いが強ければ強いほど、効果を発揮するようだ。



「オレはハルの父親だぞ。オレももっとハルに気に入られたいんだ!」



「おっ、押してるぞ、もう一息」



「オレはハルを、ここから連れ出す!」



 オレは左手を思い切り振るい、血の奔流を受け流した。



「パパがホンキじゃないとはいえ、やるねえ」



「なるほど、チカラは伝わった。では次だ。セリザ!」



「はーい。『落血拾い』(ブラッド・スティール)



 部屋中にびっしりと付着した血が、セリザの手に集まっていく。



「血はね、なんでも知ってるの。好きなもの、嫌いなもの。それは思い出も含めてね。……あなたの恐怖、教えてよ。『零れ落ちた血の追憶(ブラッディティアーズ)』」



 両手を勢いよく合わせると集まった血は一点に飛び跳ね、床にこびりつく。それは固まりもせず、沼のようにただそこに溜まっている。



「あなたの血を舐めたときから感じた、味わったコトのないときめき。きっと、すぐにわかるよね」



 セリザは指先をツメで傷つけ、自らの血を沼に垂らすと、幼児のように指をしゃぶりだした。



「この世界の人か、どうかは」



「……どうしてそれを?」



 やがて血の沼から、真っ赤な両手が生えてきた。人のものだ。床に手をつけ、窮屈そうに胴体が現れた。顔がない。



 しかし顔がなくても、その姿に見覚えがあった。忘れたくても脳裏にこびり付いた、その姿を。



「久しぶりだなァ〜。アヤトよう」



 クソ、顔も生えてきやがった。自然と拳に力が入って、息も荒くなる。できれば二度と会いたくなかった。



「あなたの記憶と現在を基に造り出した、あなたの恐怖して憎悪するモノ。そいつはなに?」



「……オレの親父だ」



「うわあ、気の毒なくらいブ男。でも似ないでよかったね」



 真っ赤な親父はオレに目を離さず、ゆっくり近づいてくる。血は垂れていない。固まったようだ。



「異種族の親になりたいニンゲンが、自らの親に、血に、恐れているようではな。皮肉な話じゃあないか。貴公、この状況をどう切り抜ける?」



 異世界に来てまで、なぜ血に追われなければならないのか。だがきっと、向かいあうときだ。紛いものでも、このロクでもない毒親と。



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