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第9話 種族の壁を越えて!



 オレも異世界に慣れたものだ。いや、元いた世界の常識がマヒしたというか。こんなモンスターが現れても、なんの疑問も抱かなくなった。



 ゴブリンイーター。胴も足もない代わりに丸い顔面を異様に発達した腕で支えるソイツは、まばたきもせずゴブリンたちを、オレたちを白目だけで睨みつけている。



「こんなときに出くわすなんて、いよいよ運の尽きゴブか……」



 リーダーゴブリンの震え声とヤツの名が示すとおり、ヤツの生態は間違いなくそういうコトなのだろう。



 サラマンダーと同じで、その咆哮に意味など見出せなかった。話が通じなければ、結局戦うしかない。



「弱点とか知らないのか?」



「知ってたらここまでビビっちゃいないゴブ!」



 目を離さずに観察していると、ゴブリンイーターは片手で顔を支えた。



「アイツの手は伸びるゴブ! 距離をとっても危ないゴブ!」



 ゴブ夫の言ったとおり、ヤツはその伸びた腕はオレのすぐ横を通りすぎ、逃げ惑うふたりのゴブリンを掴んだ。



「助けてゴブー!」



 爪が残酷なまでに身体に食い込み、静かになったゴブリンを三日月のような裂けた口の中に運んだ。



「は、早い!」



 咀嚼が終わると、爪を歯の間に滑らせながら大きなゲップをした。屁までした。てかこの全身顔面モンスターのケツはどこにあるんだ。



「こんなおっさんみたいなヤツにやられたくねーよ!」



「ゴブリンは、うまいから、しょうがないな」



「ハル、共感するなよ……」



 突破口としては、片手で顔を支えているときに攻撃をすればワンチャンあるか、といったカンジだ。



「あっ、また、くるぞ!」



 再びヤツは腕を伸ばしてくる。真っ直ぐ来たのを避けるのはワケない。



「でも一撃当たれば終わりだな」



「ゆだんだめ、うしろ!」



「えッ!?」



 振り向くと、避けたハズの腕がこちらに向かってくる。カーブしていた。ヘビのように自在にうねり、そして穿つ。避けきれない。その爪は脇腹を掠めた。



「アヤトーっ!」



「いっ……たくナーイ?」



「よかったー!」



 たしかに目の前で血が舞った。服も赤いが、痛みはすぐ引いた。そのまま後ろを見ていると、ミオンさんが指を弾いていた。



「アヤト殿、経緯はルークから聞きました。私は後方から援護します!」



「ミオンさん、ありがとうございます!」



「者ども、ゴブリンたちは後回しに、まずはゴブリンイーターと戦うのだ! 危険は膨らむが報酬も上がるし、なにより私もいる。恐れるコトはないぞ!」



 ミオンさんが激励すると、冒険者は応えるように吼えた。そのあとすぐミオンも吼える。



「……イ゛ィ゛ーッ! 伸びる腕がミミズみたいで気持ちわるいーっ!」



「言ったそばからなに驚いてんの!?」



「このボール野郎、姉ちゃんをビビらせてんじゃねえぞ!」



「どこにキレてんだおまえ!」



 ルークが盾を捨てて剣を両手で握りしめ、ヤツに向かって走る。



「アイツは殴る準備をしている! やられるぞ!」



「ガルクレス様、姉ちゃんのため、おれに力を与えて下さい」



 そのつぶやきに応えるように、剣が光りだした。ルークを目掛けて拳が伸びる!



「これでも食らえ!」



 愚直なまでに真っ直ぐな太刀筋は、正面からの拳を両断した。トドメといわんばかりの横なぎで、腕は宙を舞った。



「もう一発、これで終わりだぁ!」



「ルーク、下がりなさい!」



「はい下がります!」



 もう少しなのに、なぜ退かせたのだろう。



「あれで倒せたら苦労はしないゴブ」



 まさかと思ったが予感は当たった。ヤツの切断面から、すぐに腕が生えてきた。より一層太くなって。



「気゛持゛ち゛わ゛る゛い゛!゛」



「怯えてる姉ちゃんもしゅきぴぃ!」



 パワーアップしてしまえば、ゴブリンと協力してやるしかないじゃないか。



「ミオンさん、ゴブリンたちと協力してアイツを倒しましょう。倒せた暁には、ゴブリンたちを見逃してやってもらえませんか?」



「いくら対話できるとはいえ、それは敵対勢力との共謀を意味します。もう街にはいられなくなりますよ」



 どうでもいいけど、ミオンさんの切り替えが早い。



「構いません。オレは元よりはぐれ者……生きてりゃなんとかなるでしょう」



「……わかりました。約束します。その心意気に、全霊を以て応えます!」



 ゴブリンイーターは今にも飛んで行きそうなくらいに腕を振っている。向こうもやる気満々のようだ。



「ゴブリンをかばうなんて、ホントに変わってるな。どういう立場なんだ?」



「さっきからオレは中立だって言ってるだろ?」



 そう言うと、目の前に文字が召喚された。中の字だ。なにも念じてないのにでてきた。



「ハンマーだ!」



「そう見えるのか?」



「逆にこれなんなんだよ?」



 なるほど、ハンマーか。硬くて重いハンマー。うん、期待できそうだ!



「さあ、かかってこい!」



 中の字を持ち、腕での攻撃を待つも、中々こない。警戒している。



「ブブ……仕方ないゴブ。ここはゴブが囮になるゴブ! きっと、アイツはまだ腹空かしてるゴブ!」



「ゴブ夫、危険だぞ!」



「少しは役に立たせてゴブ!」



「……よし、わかった」



 オレの前でゴブ夫は飛び跳ねる。するとすぐに腕を伸ばしてきた!



「ハル、ゴブ夫を持ち上げるんだ!」



「あいあい!」



 飛び跳ねるゴブ夫を、ハルが空中でつかむ。そして攻撃はオレの元へ!



「オッケー。これを待ってたんだ!」



 伸びた手を中の字で押し潰す! そうすれば切断しない限り再生はしないし動けないだろう。



「んでもって、支えているほうの手を斬ればいいってワケだな!」



 ルークは素早くもう片方の腕を切断し、すぐに引いた。そして腕が再生する前に大火力を浴びせれば!



「ゴブリンたち、今だ! その大砲、コケおどしじゃないだろうな!」



「まさかゴブ! 同志たちの屈辱、ゴブたちが晴らすゴブよ。サラマン大砲だいほう、よーい!」



 ゴブリンたちが大砲を持ち上げ、導火線に火をつけた。



「てぇーっ! ゴブ!」



 リーダーの号令で大砲が放たれた。砲口から放たれた火球は宙を舞う。



「え? ウソだろ?」



「おっきいー。たいようみたい」



「ハル、後ろに下がってろ……」



 身動きの取れないゴブリンイーターに直撃すると、巨大な火球は火柱に変わり、尋常じゃない熱波を放つ。



「熱っ、アツゥイ!」



 ヤツの伸びた腕が導火線の役割になって、火が襲ってくる。さすがにもういいだろう。オレは中の字から手を離し、身を退いた。



「アヤト殿ー!」



 ミオンさんの癒しのチカラがなければ大ヤケドだ。だが命を賭けただけのコトはあった。



 熱された空気により上昇気流が発生。そして雲を作り、雨が降ると、火柱があっという間に消えた。そこにはなにもなくなった。影も形も、皮も骨すらも。



「いなくなったゴブ……!」



「ああ。オレたちの勝ちだ!」



 オレが拳を上げると、ゴブリンも冒険者たちも拳を上げた。痛みは伴ったが勝利だ。雨の降りしきる灰燼かいじんと帰した草原で、今このときだけは、言葉など関係なく団結していた。



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