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阻害 estrange

初出 : 2016/6/27 pixiv

その日、政府からの通達を受け取った主さんは清光と鯰尾君…と、何故か安定まで呼んでしばらく部屋にこもっていた。鯰尾君に清光はよく近侍を任されているから当然なんだけれど、安定まで呼ばれていたのは不思議だった。安定よりは、僕か骨喰君を呼ぶ。主さんはそういう人だ。…まあ作戦会議とかになるとあの二人の意見はだいたい同じだからどちらかが居ればいいってのが大きいと思う。


しばらくして、主さんがみんなを大広間に集めた。

政府からの通達は、刀種の違う二振りで連携した攻撃ができるようになる、といったものだったらしい。


「さて、江戸の武士と言えば。」


そこで言葉を切った主さんは僕達を見て困ったように笑った。

つまり、

「二本差の二振りでってことか。政府の奴らもわかってんじゃねーか」

上機嫌に兼さんが言って僕の頭をかき混ぜる。

ただ…それだと主さんがなんで困った顔をしてるのかわからないんだけど…。


「兼定。あんたわかってる?二本差は、脇差と本差…打刀だ。太刀じゃない。」


口を開きかけた主さんを制して清光が放った言葉に空気が凍りつく。

…常日頃、僕達が口にするから僕達が前の主の元で対として扱われてたことはみんな知ってるし、それが何を指すのかも今わかったに違いない。


「僕も最初に主から聞いた時にすぐ兼定と堀川のこと思い出したんだ。だからこそ、不可解なんだけれど」


眉根を寄せて呟く安定の言葉が、やけに響いた気がした。















「…せっかく、兼さんの役にたてると思ったのにな。」


「…大丈夫。そこまで政府も悪辣なことしないと思うわ。」


そのまま解散となり、辺りに満ちたざわめきに紛れるよう呟いた言葉に応えがあり思わず目を見開く。

問いただそうとは思ったけれど、主さんは悪戯っ子のような笑顔を残して去っていった。






「国広、ちょとついてこい。」


次の日、僕を引きずるようにして兼さんが向かった先は、


「打刀の…広間?」


もちろん、打刀全員がここで寝泊まりするわけでなく…刀種が同じならば戦術の話など交流することが多いだろうと主が用意してくれた談話室、とでもいうべき場所だ。


「之定ー!いるだろう?頼みがあるんだが…」


「だから、君はもう少し言い方ってものを覚えろといつも言っているだ…おや、珍しいね。

いつも一人で来るから連れてくる気はないのかと思ってたよ。」


文句とともに現れた之定…歌仙さんは僕を見て目を丸くしていた。


「あー…その、国広をあいつに会わせたくなくてな…

悪い奴じゃねーのはわかってんだが…」


珍しく兼さんの歯切れが悪い。こんな風にさせるあいつって誰なんだろう。


「蜂須賀君のこと…かい?

僕は君たちから聞いた話しか知らないけど確かに進んで引き合わせようとは思わない人選だね。」


加州君や大和守君もそんなこと言っていたし。


「まあ、最も矛先は長曽祢さん(あの人)に向かってるようだけどね。」


歌仙さんが出した言葉に釣られたようにひょこり、と安定が顔を出す。


「まあな。

ほんとあの人が今来てなくてよかったのか、悪かったのか…」


「兼さん、さっきからなにを話してるの?」


羽織の裾を引いて聞けば、困った顔で見下ろされた。


「なんつったらいいのかね…。」


「ひとまず、堀川連れてきたのは顔合わせみたいなもんでしょ?ここじゃなんだし入ったら?」


顔合わせって…?


「挨拶周りの真似事なんて、君も結構過保護だよね。まあそうしたくなる気持ちはわからなくもないが。」


「…挨拶周りですか?いったい誰が」


「そりゃ、そこの僕の同派にして君の相棒に決まっているだろ?」


「兼さん気づかいできたんだ…」「おい、そりゃないだろ…」


一時貸し出しだって釘差しにきたの間違いじゃないかな、との安定の呟きは幸か不幸か誰の耳にも届いていなかった。






「っつーわけで、国広のこと頼むな。

いいか、()()()()、俺が隣に立てない間だけだからな!」


最後の言葉さえなかったらいい話、ですんだんだけどなと少し現実逃避をしてみる。

というのも、みんなの前でまた挨拶なんてさせられてるからで。


「うん、任されたぞ、かねさん」

「っだからお前はそれで呼ぶな、山姥切!」


「ほかでもない和泉の頼みだからねぇ」


「同派の奴らが甘い…」

少し引き攣ったような声で清光が呟く。歌仙さんはともかく山姥切はいつもあんな感じだと思うけど、と口を開きかけ





「…同派、なのかい?じゃあ、やっぱり君は堀川国広の真作なんだね。」





声が喉で、凍り付いたのを感じた。



なかなか答えない僕にしびれをきらしたのか彼はまた口を開き、





「…それとも、贋さ「わりぃが、こいつはそのあたりがはっきりして無くてな。今となっては本体も行方知れずだしな」…ふん」




僕の肩を抱えた兼さんが遮ったけれど、彼の眼はありありとその本心を写していた。







―そんなものほとんど贋作(そう)だと言っているようなものじゃないか、と







「蜂須賀、他派のことにまで口を挟まないでくれ。

俺たちは堀川は兄弟だと思ってるんだぞ。」



それとも、お前は写しである俺のことも贋作だとでも言うつもりか?



「っ俺はそんな、こと…!」



確証もないのに言うのは写しの知識なく贋作だと言うのと同じだろう




常になく怒りの籠った声音で紡がれた言葉は冷たかったはずなのに僕の凍り付いた躰を溶かしてくれた。







それからしばらくして、僕たちはまた広間に集められた。

今度は直前に大倶利伽羅さんと同田貫さんが呼ばれていたけど何だったんだろう?


「今日から、脇差と打刀で連携攻撃できるようになったわ。」


それから、と言葉を切った主さんは青江君のような笑みを浮かべ。


「大倶利伽羅に同田貫、そして和泉の刀種は太刀から打刀に変更、ですって。」





ね、大丈夫だったでしょう?


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