始動 be ready
初出 : 2015/11/26 pixiv
当時あった、回想読み比べ遊びに参加してました
頭に走る突然の衝撃。それから
「国広!てめぇ、なんでんなとこいるんだよ!?」
そんな本丸に響き渡る兼さんの叫びで僕は目を覚ました。
「で、夢見が悪かったから、潜り込んだ、と。」
ったく、しょうがねぇやつだと渋い顔で兼さんが呟く。
「驚かせてごめんなさい…」
その場に漂う微妙な空気と四つの生暖かい視線に耐えきれず、言葉がこぼれた。
「堀川は、悪くないよ。
みんなに迷惑かけたのは叫んだ[[rb:兼定 > そこの]]だからさ。」
「とは言っても、僕等ももう実体があるんだから、もうちょっと気を使った方がよかったかもね。」
「そうだぞ。自分以外の体温を起き抜けに感じてみろ、肝が冷えたぜ。」
とたんに飛ぶ和泉守は黙ってて、の声に兼さんは気まずげに口を噤む。
「だいたい、兼定が叫ばなきゃそれで済んだ話なんだしさー。
堀川がくっついてるのなんてずっと当たり前のことだったじゃないか。」
「そりゃあてめぇらにとっちゃそうかもしれねぇが、さ…」
見るからに沈む兼さんに慌てて清光が謝っているのを眺めながら、僕は口を開いた。
「それで…なぜ山伏さんまでここに?」
「む?ああ、朝の勤めを終えて戻ってきたら兄弟の名前が聞こえたでな、様子を見に来たのだ。」
「ってここ僕たちの部屋で、山姥切さんの部屋は向こうですよね?」
とたんにまた呆れたような視線を皆に向けられ困惑する。
「ああ、なんだ、その国広はこういうやつだからさ…」
「あいわかった。気にしておらんぞ。
兄弟というのはそなたのことだったのだが…」
本日二度目の叫びが本丸に響き渡った。
「で、落ち着いたか、国広。」
「まぁ、いちおう…。さすがに、出陣先にまで引きずらないよ。」
初の出陣、ということで僕よりは慣れている兼さんと一緒だ。
二人きりなのは主さんの配慮なのだろう…でもそれにしては、ここは…。
「それに、兼さん、ここは函館だよ!」
振り返り、辺りの景色を確認する。
まぎれもない、あの日、あの場所だ。
忘れもしない、さいごの戦場の空気だ。
「わかってらぁ」
兼さんの手が乱暴に頭をかき混ぜる。
それを感じながらも、僕の口からあふれる言葉は止まらない。
「これはつまり主が、いや、前の主が…!」
いるかもしれない、いや、実際にいるんだ。
「わかってる!」
それなのにそう言って兼さんは、わざと違う方を向いている。
あんな方にあの人は居ないのに…ほら、今でもこの軍勢の向こうで戦っている。
「ひょっとしたら死なないですむかも…」
そうしたら、もっと長く…いや、ずっと兼さんと居られるかも…
「駄目だ駄目だ!
てめぇ言いつけを忘れたか。歴史は歴史、良くも、悪くも。」
思わずこぼれた声を拾ったのか、兼さんが急に振り向き僕の両頬を挟む。
その語気は、強い。
纏った雰囲気はまるで、あの人のようで…それでいて。
「でも兼さん、泣いてるよ。」
それでいて、目の端に、光るモノがあった。
「…うるせえ!
そりゃあ、オレだって思うところがねぇわけじゃねぇ」
だがな、と兼さんは僕から身を引く。
「このオレの有り様を変えてまでとは思ってねぇぞ。」
そういう兼さんの左手は自身の柄を撫でていた。
「オレは、土方歳三の本差で、脇差堀川国広の相棒だ。
なんで太刀だなんてことになってるかはわからねぇが、それがアイツらの歴史修正とやらのせいなら容赦はしねぇ。」
そういう兼さんの目は真っ直ぐ澄んでいて、身勝手な願いを抱えた僕を射抜くようだった。
ただ…今、兼さんは僕のことを変わらず相棒と、呼んでくれた。
僕たちは土方歳三の本差と脇差だと、断言した。
それだけで、僕は迷いなんて吹っ切れる。
「兼さん、行こう、銃や砲のいない僕らの戦場へ。」
…すべては、輝かしい仲間を守るために。