つくも recall
初出 : 2015/10/31 pixiv
当時の実装状況に基づく話です。
「兼さん!」
伸ばした手は届かないで闇が紅を呑み込んでいく。
その闇に、呑まれつつあるのが実は自分であることに唐突に気づいて背筋が凍りついた。
これがなんなのかわからないけれど、闇…みたいな黒に呑まれてなんともありません、なんてことはないに違いない
それでなくても、また真っ暗闇にひとりで放り込まれるなんて…
って、また?
自分の思考に驚いて思わず目を開く。
薄暗いなか、天井に向かって突き出した自分の右手が見えた。
ぼーっとする頭で周りを確認する。
白い布団、畳、左手に兼さん、頭上に刀掛。
夢、ということがわかって一気に脱力した。
パタリと右手が布団に落ちた。
今更のように嫌な汗が滲んでくる。
額の汗を拭おうとして、右手が冷え切って感覚がほとんどないことに苦笑する。
いうことを聞かない右手を苦労して寝間着の懐に突っ込み温める。
体は右手とは裏腹に暑くて仕方ないから起き上がって掛け布団を蹴飛ばす。
大して位置が変わらない布団に背を向け、刀掛に向き直って胡座をかく。
僕の方が背丈が小さいから、とこちらに置かれたものは懐かしい姿でありつつも違和感を覚えるものだった。
さっきの夢を見た理由はコレかなと思いながら指を伸ばす。
「どうして、今の兼さんは太刀なんだろうね…」
左手が辿るのは、記憶とは逆の曲線を刀掛の上で描く相棒の鞘。
武士の正装、二本差は、本差…打刀と脇差であって、脇差の片割れは太刀ではないし、太刀は片割れを持たない。強いていえば、懐刀の短刀だろうか。
そして…刃を下にするのは、刀の中でも、だけだ。
だから、今の僕は、兼さんの相棒なんて名乗る資格なんて無いのではなんて寝る間際に刀掛を見て思ってしまった。
それであんな夢を見るなんて、我ながらわかりやすいにもほどがある。
あれは、使われなくなり、その存在も、名前も忘れられたものの成れの果て。少し前まで僕もその一部で、それでも完全には取り込まれなかったもの。
取り込まれてたら、僕はきっと今ここにいない。
兼さんにまた会って、山姥切さんから主さんの言葉を聞いて、漸くこの僕の名前が守ってくれてたことを知ったんだ。
兼さんや、あれから今まで生きてきた人たちが、前の主と僕らのことを想ってくれていた。それがあれと僕の唯一の違い。
だから、この名前とも、ちゃんと向き合わないといけないとは思うけれども…
「また眠くなってきたし、明日でいいよね…」
先延ばし、逃げてるだけ、だけれども。
伸びを一つして、ふと、また変な夢を見たらどうしようと思う。
ちらりと右を見て…一瞬迷ったけれど、兼さんの布団に潜り込む。
「おやすみなさい、兼さん」
兼さんの右腕を抱えて、目を閉じた。
てことで、兼さんって最初太刀だったよね、という話でした。
このネタわかる審神者今はどれだけいるのか……