籠の鳥 fear
初出 : 2015/10/24 pixiv
かなりの自己解釈入ります。
堀川がかなり拗らせてます。
長義所蔵元の見解にたっています。
それから、と続けた清光の顔はこの場には似つかわしくなかった。
まるで、切り合いの場にいるような…
「わかってる?堀川。
ここに、之定がいるっていう、その意味。」
反射的に頷きかけて、その言わんとすることに気付いて思わず固まる。
昔は、見栄や外聞なんて気にせず、自分のやれることをやっていることに誇りを持てていた。
仲間たちも、そんな僕を認めてくれた。
でも、一歩外に出れば周りの認識は、噂や憶測となって僕を襲いに来る。
それらから目を逸らして、耳をふさぐために僕は兼さんの手伝いに熱中した。
そのことで余計に兼さんとの差を実感しても、外の知らない奴らにやられるより、ずっと安心していられた。
兼さんは、僕を傷つけることはないから。
けれど、ここは、もう、あの居心地の良い場所ではない。
僕を守ってくれる仕切りは、もうない。
「それって、さ…。
つまり、堀川、国広、の…」
「そ、いるよ。
山伏国広に山姥切国広。」
押えきれなかった怯えが滲む僕の声とは裏腹に、あくまでも明るいその声。
でもだからこそ、まだ前を向いていられる。
「顔をあわせないで…」
「無理。食事は広間だし、厠に風呂はどうする気?」
「…だよね。
うん。言ってみただけだから、そんな怖い顔…」
「というか、俺たちがお前のこと、話しちゃってるから、無理だね。」
僕の言葉にかぶせた清光はさっきまでの真剣な表情が嘘のようにすがすがしい笑顔で言い切ってくれた。
「清光、お前、他人事だと思ってっ…!」
「実際、堀川の問題だし?」
いや、まぁ、そう、なんだけども。
「よくも逃げ道ふさいでくれたね?」
「仕方ねーだろ。
国広って言われりゃ、オレたちにとっちゃおめーなんだからよ」
「そういうこと。
だからさ、潔く諦めなよ、堀川。」
「そんなに簡単な問題じゃないんだってば…。」
之定さんから解放されたらしい戸口にいる二人を半眼で見上げる。
と、安定が決定的な一言を口にした。
「…堀川には悪いんだけど、戦場で堀川見つけてきた部隊、
隊長は清光だったけど、山伏さんもいたんだよ。」
え。なにそれ。
思わず清光を振り向く。
「あーうん。そう。
しかも、俺、見つけた瞬間にあ、堀川だって言っちゃった。」
目を逸らして気まずげに告げる清光に、僕はちゃぶ台に顔をうずめるしかなかった。
しばらくして部屋を訪れたのは、山伏っぽいの姿をした男と、その後ろをついてくる布、だった。
というより、一瞬だけ見て、すぐに顔を伏せたので印象に残ったのがそれだっただけだけど。
布って。
「和泉殿、ようやく相棒殿が来られたとか。」
「ああ、こいつが堀川国広だ。
国広、こっちが…。」
「山伏国広と申す。」
「山姥切国広だ。」
兼さんに背中を押されしぶしぶ顔をあげる。
「僕は、堀川国広、です。
と言っても、本当にそうかは、わからないんですけど…。」
自分の声が小さくなっていくのに気付いて、また目線が下がっていく。
「…俺は、」
短い沈黙を破った声の主は、一斉に集まった視線に唇を噛んだが、また口を開いた。
「国広の最高傑作とか言われてるんだが、
国広が長義の刀を写したものでも、あるんだ。
だからこの名前だって俺のものではないというやつが多いんだが、」
一瞬、耳を疑った。
最高傑作を冠する刀の名前が、そのように言われているなんて、信じれなかった。
「ここの主は変わり者でな。
多くの者が名前も写したのだというのに、今の長義の刀の持ち主が
『この刀は山姥を切ったという伝承はこちらでは伝わってない。
むしろ国広の刀が切ったからこそこちらもそう呼ばれるようになった可能性がある。』
というのを信じてるんだ。」
その上で、こうも言っていたと続ける。
「大事なのは、生まれではなく、そのありようだと。」
静まった空気の中、山姥切の声が響く。
「それから、喚ばれた刀の中には、その来歴と名前のみで喚ばれたものもある。
その名はそれぞれの所以にすでになっているからそれが可能なのだ、とも言われたな。」
語られた内容は、僕には無視できるものではなかった。
「だから、なんだ。
あんたがその名で喚ばれたんだから、それがあんたなんだろ。」
俺たちがどうこういうことではない。
そう言って、口を噤み、布を引っ張って顔を隠してしまった。
ちらりと見えた頬は、赤かったような…。
「カカカ!全て言われてしまったようであるな。
我らは、そのようなこと気にせぬ故、安心せい。」
その言葉に、余計な力が抜けていくようだった。
でも、まだ、緊張してしまうのは、許して欲しい。
「これも何かの縁、同じ名を持つ者同士、よろしくお願い申す。」
「だぁから、言ったろ、国広は国広だって。」
「兼定、その言い方おかしいよ。
まぁ、僕も同じ気持ちだけど。」
「堀川ー。いい加減、機嫌直してくんない?」
しばらく話をして、二人が帰ったあと。
僕はまたちゃぶ台に伏せていた。
「向うは気にしないだろうってこと、先に教えといてくれたっていいじゃないか、清光。」
ため息を吐かれた。
「お前さー。言っても信じたわけ?」
「無理。」
「即答かよ。
とにかく、信じるどころか余計警戒しそうだったしさー、言わなかったの。」
「あー…。
迷惑かけて、ごめん。」
「水くせぇこと言うなよな、国広。」
「兼さん、ごめん。ありがとう。
あと、清光と安定も。」
なんだよー。俺たち、ついで?とか言ってる清光は放っておいて、縁に出る。
これから、ここを案内してくれるらしい。
最初はどうなることかと思ったけど、なんとかやっていけそうだな、と思う。
仕切りがないことに不安は覚えるけど、頼りになる仲間もいる。
それに、これから、その範囲は、広がっていく気も少ししてきた。