再会 restart
初出 : 205/10/20 pixiv
「すみませーん。こっちに兼さん…和泉守兼定は来てませんか?」
舞い上がった桜の花弁が空気に溶けていくと、僕を持って目の前に立つ女性の表情が見えてきた。
えーと、これは驚いてる?
「和泉なら、来ているわ。
ほんと、かしゅ君の言った通りね。」
そう言って微笑む彼女の隣に佇む、ずいぶんと懐かしい姿。
「でしょ?ほんと、口開けば兼さんなんだよなー
で、堀川。他に言うべきことあるんじゃないの?」
そう言って彼はジト目でこっちを見てくる。
他…?なんかあった…?
首をひねっていると彼の視線がだんだん冷たくなって行くのがわかって少し焦る。
「…あ。僕は堀川国広です。よろしく。」
途端にその場の空気が生暖かいものになった。
あ。ってなんだよ、堀川と笑いを含んだ声で言われる。
二人の視線から逃げるように下を向く。と見計らったように僕が差し出される。
「…これを。
私は小狐と言います。
これからよろしくお願いしますね、堀川君。」
それを受け取ると、で、こっちが加州清光、ってもちろん知ってるよね。と主さんは笑う。それから…と続くはずの言葉は、縁を駆けてくる足音に遮られた。
「いやぁ…早いわねー」
「ねぇ、あいつら、後で之定か光忠さんあたりに怒られるんじゃ「清光!堀川来たってほんと!?」…ほんともなにもそこにいるし。
ほら。って兼定!?」
見覚えのある羽織が2つ翻るのを見た次の瞬間には、僕の視界は紅に覆われた。
「…見えないんだけど、清光。」
「あー…でも、兼定のあの反応見ればわかるだろ」
「わー和泉ったら熱烈ー(棒読み)」
好き放題に言う三人の声だけが聞こえてくる。
僕を拘束している彼の顔を見ようと目の前の紅を手で押すと、余計に力を込められて、息が詰まった。
「って和泉ストップ!堀川君窒息させる気!?」
「!?わりぃ、国広。大丈夫か?」
主さんの声にようやく腕が緩む。けど、放してくれる気は無いみたいだ。見上げた顔は、なんだか泣きそうで。
「僕なら、大丈夫だよ。
…ずいぶんと久しぶりだね、兼さん…」
「っとになぁ…。
もう、会うことはねぇんじゃねーかと思ってたぜ…。
なぁ、国広。」
おかえり
と兼さんはくしゃくしゃの顔で笑った。
ただいま、兼さん。
あの後、兼さんと安定は清光の予想通り之定…歌仙兼定に説教をされていた。
僕が、原因なのだし謝りに行こうと思っていたら清光に止められた。
ついてきて、と連れてこられた先は、清光と安定が使っている部屋だという。
「きっと、これを逃すと兼定に内緒にはしておけないからさー」
そう言って笑う清光は、仲間内で一番早くに別れた刀だ。
しかも、僕なんかと違って、清光は確実に一度、刀として死んでいる。
「まさか、清光にも会えるなんて。びっくりしたよ。」
「そうねー。
俺も、選んでもらえて、びっくりした。」
俺ね、ここで唯一、主に直接選んでもらったんだ。初期刀の、特権、ってやつかなと朗らかに笑う。
ああ、今の清光もこんな顔で笑えるんだ、と少し安心した。
あの人みたいに、扱いにくくても、いいって言ってもらえた。
だから、その言葉には、そう、よかったね。と答えるのが精一杯だった。
「って、俺の話はいいんだって。俺がしたいのは、堀川がいなかった間の兼定の話。」
「あ、それ僕も聞きたい。
兼さん、ちゃんとしてた?」
「まあ…兼定なりに、頑張っていたよ。たまに俺たちも手伝ったし、何より之定がいたし、形にはなってた。」
確かに、なんとなく装束の雰囲気も似ていて、何より前の主のあこがれだった之定のいうことなら兼さんも聞いたに違いない。
「それよりも面白かったのは、演練で他の本丸の堀川に会った時の話かな。」
演練ってのは、他の主のところにいる俺たちとやる、実戦形式の手合せのことね、と教えてくれる。
「ほら、俺たちって分霊だからさ、主の数だけ俺たちがいるわけ。
で、他の本丸では、堀川国広の方が和泉守兼定より先にくる方が多いらしいんだ。
だから、演練で会う堀川に、『そっちの僕はいいなぁ、兼さんがいるなんて。』とよく言われたらしい。
毎回あとで、こっちにはその国広がいねぇんだ、ちくしょう、ってぼやいてたよ。」
「ああ、だから、あんな兼さんらしくない行動にでたわけか。納得。」
しばらくは、兼さんを甘やかそう、と決意した。