脇差の独り言
初出 : 2015/08/06 pixiv
…すっと浮上する感覚
その感覚に疑問を覚える間もなく情報が奔流のように流れてくる
意識が押し流されそうになるけれど、そうならないギリギリに調整されてるようでこうやって考える余裕がある
僕だって目が覚めたばかりで今の自分のことなど欠片も把握してないのに向こうには全て把握されてることに苛立ちを覚える
叩き込まれたものによれば、僕は歴史修正主義者とやらと戦う為に審神者なるものが政府の指示によって呼び起こした、らしい。
でも僕の記憶は兼さんと引き離された所で終わっている。あの後僕がどうなったかはわからないけれど、今まで起きることがなかったのだから希望的観測はできない。なのに何故、僕は今此処に在るのか。
当然のことながら、この答えも向こうから示された。
僕らは九十九神。人の想いが込められたモノに宿るもの。
その物本体だろうが、それに与えられた名に対する想いだろうが、モノに対する人の想いには変わりがない。
だから例え行方知れずでも、その存在が知れ渡っていれば問題はない。
実在が疑われてようが関係ないのは、半ば伝説となって神話に近しくなっているからなのか
とりあえず、真贋すらはっきりしない僕が、そこまで含めて広く知れ渡っているのはそれだけ後の世で作られた主達を題材にしたモノが人気だったということだろう。それはかなり誇らしい。
けれど…やっぱり自分の行方がわかってない、現存しない可能性が高いなど、記録として見たくはなかった。まあ、兼さんが無事で今も主の刀として大切にされてるのがわかったことがそれよりも僕には重要なことだけれども。
兼さん…和泉守兼定。僕とは違って、兼定の真作で、ただ一人の主しか知らない兼さん。主と一緒に写真に写って、今も残って主を語り継いでる兼さん。
今でも自分という存在に疑問を持ってしまうような僕が呼ばれたなら、あの華麗な刀が呼ばれているのは確実だろう。
主の脇差たる僕だけが本差たる兼さん差し置いて選ばれる訳ないんだから。
やっぱり、大小揃ってこその土方歳三の脇差だろう。
「すみませーん。こっちに兼さん…和泉守兼定は来てませんか?」