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バカはしんでも治らない  作者: すし河原たまご
9/64

未来の英雄

先程まで、木々の隙間から太陽の光が差していたが、大きな雲に覆われ辺りは暗くなっていた。


「ギャー・・・」


─ これで3体目、何とか目標の数に届いたな。・・・それにしても急に暗くなってきたな。雨で濡れる前にさっさと戻るか。


アカサはその後、順調に虚獣を倒していき魂石(こんせき)を3つ持って森の入り口まで戻ろうとする。


ドカーン!


すると、遠くの方から大きな音がする。


カキン!・・・カキン!


─ 何だ!?木が倒れてく音がする・・・それに武器と武器で斬り合ってる音も聞こえる。この辺に、武器を持った虚獣はいなかったはず・・・この方角、確かシークが進んでった方向だ!


アカサはその方角目掛けて、全力で走る。


ガキン!・・・ガキン!


─ 結構走ってきたけど、まだ剣戟の音が聞こえる。もし、シークが戦ってるんだとしたら、かなりの強敵なんじゃ・・・早く加勢しに行こう!


アカサは一直線に音の鳴る方へ走る。

そして、木で覆われてた視界がだんだんひらけてきた。

辺りは、木が無造作に倒れていて更地になっている。

その中央で、シークは体全体が黒の布で覆われた謎の人物と戦っていた。


「シーク!」


「っ!アカサ!」


シークは何ヶ所も体を斬られていて、出血しながら戦っていた。


─ な、何だあいつ!?・・・人の形してる、ジンか?いや、でもこの辺にはE級、いたとしてもD級の虚獣しか出現しない。だから、武器は持ってない筈・・・それにあいつが持ってる武器・・・黒いオーラが纏ってある!?ってことはまさか[クロビト]!!なんで白の大陸に!?


謎のクロビトはアカサには目もくれず、ひたすらシークに襲いかかる。

シークは数秒先を視ることができる神力(シキ)を発動して必死にガードし耐えていたが、クロビトはお構いなしにガードの上から攻撃してシークを吹き飛ばす。


「くっ・・・ぐわぁ!」


「シーク!」


アカサは急いでシークの下へ走って駆け寄る。


「大丈夫か!」


「はぁ、はぁ、アカサ・・・全然大丈夫じゃない。なにあの人、急に襲ってきたんだけど・・・」


「なに、弱気になってんだよ!いつもの明るいバカはどこ行ったんだ?」


いつもより弱気になってるシークをアカサなりに励まそうとする。


「・・・いや、だって見てよあの人。武器にオーラを纏って戦ってるだけなのに、魂創器(ソウル)を使って戦ってる僕を子供扱いだよ・・・」


確かに異常だった。

魂創器とは言わばオーラの塊。

武器に纏わすのとは圧倒的にオーラの量も質も違った。

それなのに、魂創器と正面から斬り合って刃こぼれすらしてない。

2人の間には今すぐには決して埋められない大きな力の差があった。


「アカサ・・・僕が抑えてるから、その間に逃げてドルト先生の所に」


「なに言ってんだ!お前、もうボロボロだろ!」


そう言ったものの、アカサの手や足は震えていた。

ジンと戦った時のようなトラウマなどではなく、ただただ恐怖・・・目の前の圧倒的な力に怯えていた。


「いいから逃げてよ!震えてるじゃんか!」


「うるせぇー!!」


アカサは気合を入れるように叫ぶと、前日にベランダでシークと話したことを思い出す。


「・・・誰かが困ってたら助けるし、見捨てない。お前昨日の夜、言ってたよな」


「・・・うん、言ったよ。でもアカサは気が向かなきゃ、助けてくれないんでしょ」


「ああ。だから今、気が向いた・・・助けてやるよ」


「ははっ、なにそれ・・・アカサって僕にバカってよくいうけど、アカサも相当だよ」


シークはいつもの笑顔になり、アカサも話してるうちに自然と震えが止まっていた。


「英雄になりたいんだろ。だったらこんなとこで、死ぬんじゃねぇぞ!」


「アカサこそ!」


シークは立ち上がり、剣を構えアカサに指示を出す。


「少しだけ、時間稼いでもらっていい?オーラを魂創器にもっと集める」


「まかせろ!」


アカサは謎のクロビトに、勢いよく近づき攻撃を始める。


「おらぁー!」


─ シークを子供扱いしてた奴だ。もちろん俺1人では勝てるはずはない。でも時間稼ぎくらいなら!


アカサはひたすら剣を振るう。

そして、アカサは謎のクロビトの行動に疑問を抱く。


─ おかしい・・・何で反撃してこないんだ?・・・まぁ別にいい、そっちが反撃してこないなら、このまま攻撃し続けるだけだ!


アカサは斬り続ける。

すると、謎のクロビトの体勢が少し崩れ、よろける。


─ 今だ!


アカサは剣を鞘に収めて居合の構えをとる。


「くらえ!」


-竜断-


アカサの居合は空いてる胴体めがけて放たれた。

しかし・・・


パキンッ


「!?」


完璧に入ったと思われた居合は謎のクロビトの体に纏ってる黒いオーラに弾かれ、剣は真っ二つに折れる。


─ 嘘・・・だろ?傷1つ付けられないなんて・・・それどころか剣が壊れた!?マジで何だ、こいつの異常なオーラは・・・!見た感じは薄く体に纏ってるだけなのに・・・!


剣が折れ、まともに戦える武器が無くなったアカサは直ぐに後退する。

そんな、ほぼ丸腰状態のアカサへ謎のクロビトはゆっくり近づく。


─ まずい、やられる!!


「っ!」


しかし、クロビトは攻撃をせず、アカサの耳元に顔を近づけてボソッと喋る。


「ふふっ、君は本当におもしろいですね・・・」


「・・・えっ?」


謎のクロビトは、まるでアカサのことを知ってるかのようだった。

しかし、声はこもっていて誰かはわからない。

アカサが困惑していると、後ろからシークが大きな声を出しながら剣を振り下ろしてくる。


「アカサから、離れろ!」


シークの攻撃を避ける為、謎のクロビトはアカサから離れる。


「シーク!時間は結構稼いだぞ」


「ああ、ありがとう!おかげで今までで、1番強烈な一撃が出せそうだよ」


シークが持ってる片手剣の魂創器は、刃が倍に大きくなっていた。


「いくぞ!」


シークはジャンプをし、思いっきり振り下ろす。


「はぁーー!!」


-纏撃(てんげき)-


クロビトはシークの斬撃に合わせ剣を振り、渾身の一撃を片手で止める。

バチバチと音を立て衝撃波が生まれる。


「あぁーー!!」


シークはさらに力を入れる。

すると、少しづつ相手が後ろに押されていく。


─ いける!このままいけ、シーク!!


「・・・流石にこのままじゃ、押し負けますか」


そう呟き、クロビトは剣にオーラを勢いよく纏い始めた。

そして、剣はだんだんと漆黒に染まっていく。


魂創器(ソウル)化!!


魂創器(ソウル)化とは武器をオーラで侵食し、一時的に魂創器(ソウル)状態にすること。

ただオーラを纏わした武器より強度が高くなり、威力も段違いになる。


─ まずい!ただでさえ苦戦してたのに、このままじゃ押し負ける!


「っ、ぐっ!」


だんだんとシークは押されはじめる。


「くそっ・・・」


謎のクロビトはそのまま薙ぎ払うとシークは吹き飛び、地面を勢いよく転がった。


「かはっ・・・!もうダメだ・・・ごめん、アカサ・・・」


クロビトはシークに近づく。


─ くそ、くそ!動け!・・・何で動かないんだ!!


実際に謎のクロビトと戦い、圧倒的な力の差を見せつけられ、アカサの手足は再び震え出す。


─ まただ、また俺は目の前で大切な人を失うのか・・・結局あの頃から何も変わってない、弱いままだ・・・誰か・・・誰か助けてくれよ・・・。


「英雄・・・」


アカサの口から、自然とその言葉が出た。

嫌いなはずなのに・・・嫌いだったはずなのに・・・。


そして、クロビトは剣を後ろに引き、シークの胸あたりを突き刺す。


「シーーク!!」


死んだ・・・アカサはそう思った。


ガキーン!


しかし、人を刺したとは思えない音が聞こえてきた。


そこには、英雄と呼ばれる人の姿はなかった。


英雄なんて言葉は人それぞれだ。

国が滅びそうな時、それを助けたらもちろん英雄と呼ばれるだろう。

それでは、もし子供が迷子になっていてそれを助けた人がいたとする。

そしたら、子供にとってその人は英雄と呼ばれてもおかしくはない。

何が言いたいかというと、英雄なんて言葉はこんな簡単に使われていいものなんだ。


だから、今目の前に現れた人はアカサからしたら・・・英雄だ。


「大丈夫か、お前達!」


「ドルト先生!!」


「ふんっ!」


先生は謎のクロビトの剣を弾き返し、足の後ろで思いっきり蹴飛ばす。

クロビトは吹き飛び、シークから離される。


「遅くなって、すまなかったな」


アカサは直ぐにドルト先生の元へ駆け寄る。


「本当ですよ!死ぬとこだったんですから!・・・はっ、それよりシークが!」


アカサは頬をつたっていた涙を服の袖で拭ってから、シークを抱えドルト先生に見せる。


「大丈夫だ、まだ息はある・・・アカサ、そのままシークを抱えながら後ろに下がっていろ・・・」


「・・・!はい!」


─ 初めて見た・・・先生がこんなに怒ってるの。


ドルト先生はアカサ達が十分に下がったことを確認し、謎のクロビトに白く光ってる片手剣の魂創器を向ける。


「・・・さて、何でクロビトが白の大陸でシロビトを殺そうとしてる?『しばらく、お互いに大陸へ入る事を禁ずる』、そう成約したはずだろ・・・」


「・・・」


先生は剣を向けながら、少しずつ近づく。


「これは、貴様の独断か?それとも皇帝の命令か?」


「・・・」


クロビトは無言をつらぬく。


「だんまりか・・・まぁ、いい。それより今は、貴様が私の生徒を殺そうとしたことの方が問題だ・・・」


先生から放たれる殺気が十分離れた筈のアカサまで届き、味方のはずだが身体が震える。


「生きて大陸に帰れると思うな!!」


怒号と共に先生は斬りかかる。


「ふんっ!」


謎のクロビトは剣で受けず、避ける。

そして、2人は凄まじい速さで移動しながら戦いはじめた。


─ 速すぎる!かろうじて見えるのが、剣と剣がぶつかって起きた火花くらいだ・・・これが、強者同士の戦い・・・!


時には、空中で火花が起きている。


ドカン!


すると、クロビトが地面に叩き落とされ煙が立つ。


「ドルト先生!」


アカサは倒したと思い喜びの声で先生を呼ぶ。

しかし、先生は剣を構えたままそっと地面に着地し、戦闘体制をとかない。


(ふむ、体を斬ってみたが・・・この感触、凄まじいオーラの塊を斬ってるみたいだった。このオーラの量、上位冒険者・・・いや英雄クラスまであるな)


ドルト先生は警戒しながら近づいていく。

段々と煙が晴れていく・・・しかし、そこにはクロビトの姿はなかった。


(どこにいった!?)


「先生!後ろ!」


「くっ!」


アカサの声が聞こえ、後ろを向きガードしようとするが遅い。

クロビトの斬撃はドルト先生の胴体に直撃する。


「ドルト先生!」


─ やばい・・・先生までやられたら・・・


「・・・舐められたもんだな、私も。貴様にできることが私にもできないはずがない」


やられたと思ったアカサだったが、そこには平気な顔で立つドルト先生がいた。

謎のクロビトは斬れないのが予想外だったのか、慌てて後退する。


「上位冒険者、英雄とオーラの量が多い者は体に纏う際、オーラを隙間なく薄くし、それを何層にも重ねて纏う。だから、見た感じは少ししか纏ってないように見えるが普通の冒険者の数十倍は堅い」


ピキッ・・・


「たかが武器を魂創器化しただけで、私を斬れると思ったのか?」


ピキピキッ・・・パリン・・・


クロビトが持ってる武器が粉々に砕ける。

そして、ようやく不気味な声で喋り出した。


「ふふっ・・・さすが元英雄候補の1人。ただの鉄の塊じゃ倒せませんか」


─ 先生が元英雄候補!?


「・・・そんなの昔の話だ。これ以上傷つきたくなければ、おとなしく投降しろ」


「ふふっ、何言ってるんですか。ここからでしょう・・・面白くなるのは」


クロビトの右手に黒いオーラが集まり、歪な形の剣になっていく。


魂創器(ソウル)使い同士の戦い・・・ゴクッ


アカサは先程よりも緊張感のある空気に思わず生唾を飲み込む。


「いきますよっ!」


謎のクロビトは先程とは段違いの凄まじい速さでドルト先生に突進し、すれ違いざまに何度も斬撃を浴びせる。


「ぐっ!」


(さっきまでは本気じゃなかったってことか!スピードもパワーも格段に上がってる!)


「ぐっ・・・舐めるな!!」


ドルト先生はクロビトの動きを止めようと技を放つ。


-審輝(しんぎ)-


片手剣の魂創器(ソウル)を地面に突き刺して、自分を中心に辺りを光で包んだ。


しかし、謎のクロビトの動きは止まらず、むしろ喜びの声を上げる。


「ははっ!いいですね!久しぶりに体がチクッとしましたよ!・・・それでは、次はこちらの番です!えいっ!」


謎のクロビトはジャンプをし、ドルト先生の真上から剣を振った。


「ぐあっ!」


剣を振った際のただの風圧でドルト先生は地面に叩きつけられた。

ただの一振りが先生の技を上回る。


「くっ・・・はぁ、はぁ・・・はぁ・・・」


(まずい・・・これはもう英雄クラスの力だ・・・このままでは・・・)


「何だ、英雄候補と言われた人でもこんなもんですか・・・もういいや、君には飽きました」


クロビトは再びドルト先生を一振りで吹き飛ばす。

ドルト先生は立ち上がろうとするが、足に力が入らない。


「・・・今度は、君たちですね」


クロビトはアカサの方を向き、凄まじいスピードで距離を詰め、アカサに剣を突き刺そうとする。


「アカサ!!シーク!!」


ドルト先生は声をあげるが体は動かない。


─ っ!だめだ・・・死んだ!


ブスっ・・・


地面に大量の血が流れ、あっという間に赤く染まっていく。

しかし、それはアカサの血ではなかった。


「がはっ・・・かはっ・・・」


「・・・シー・・・ク」


気絶してた筈のシークがアカサの前に立っていた。

胸には剣が突き刺さっている。


「シーク!?何やってんだ、お前!!」


「言っ・・・た、でしょ・・・困ってた、ら・・・助けるっ・・・て・・・」


シークは笑顔を浮かべながら、そう言う。


「ふふっ、やはり凄いですね。数秒先の未来が視れる神力(シキ)。私ですら初めてです・・・。あなたなら友達を狙えば庇うと思ってましたよ」


クロビトは不気味に笑う。

その発言にドルト先生は疑問を抱く。


(どういうことだ?別にシロビトなら誰でもいいというわけではないのか?まるで、初めからシークのことを知り、シークだけを狙ってたかのような発言だ)


「それじゃ・・・いただきますね」


クロビトが刺した剣を引き抜くと、シークの体から白く光る丸い物が出てくる。

それを手に持つと、謎のクロビトの体に吸収されていく。


「はぁ〜・・・ありがとうございます。これで、ようやく[あの方]の近くにいけます。それに便利な神力(シキ)も」


(今のは・・・!?もしかして、シークの魂を奪ったのか!?)


ドルト先生がその光景に驚く中、謎のクロビトは長年の夢が叶ったかのように気持ちよさそうに佇む。


すると、何かに気づき、我に帰る。


「っ!・・・この気配、応援でも呼びましたか。しかも英雄・・・」


ドルト先生はシーク達の下へ走りながら近づいていくうちに何か不気味な気配を感じ、騎士団に通知がいく緊急連絡用の"アーティファクト"を使っていた。


「流石に分が悪いですね。それに、光の魂を吸収したからなのか、気分がすぐれません」


そう言うと、クロビトの周りに黒いサークルが浮き上がる。


(あれは・・・もしかして、転移の魔法(スペル)か!?)


ドルト先生は何とか立ち上がり、それを阻止しようとするが身体が上手く動かず、再び地面に倒れる。


すると、


ドスン!!


と空から人が降ってきた。


(・・・!!まさか、この方が来てくれるとは!)


ドルト先生は安堵した表情になる。

現れたのは、頑丈な鎧に包まれた目つきの悪い屈強な見た目の男だった。


─ 親父!?


空から現れたのは、現英雄の4人の内の1人にして、アカサの実の父であるアークだった。


「少し遅かったですね。それでは」


「逃すか・・・」


アークは逃がしまいと突進するが、謎のクロビトは影のようなものに包まれ、何処かに消えてしまった。

アークは表情ひとつ変えず、倒れているドルト先生に近づいてリン先生を近くまで連れてきた事を言うと、簡潔に何があったのかドルト先生に聞く。


「みんな!大丈夫!?」


数分後、アークの言葉通り、リン先生が直ぐに駆けつけて来た。

アークはリン先生とすれ違うように、報告の為、急ぎ王都へ戻って行く。

アカサとドルト先生はリン先生にシークの回復を優先させるよう声をかける。

しかし、その傷を見てリン先生は顔が青ざめる。


「っ!この傷じゃ、もう・・・」


「えっ・・・」


(やはり、さっき取られたのはシークの魂だったか・・・魂は神が人間を創った際に1番初めに創造したものと言われている。魂があるから人は生きていられる)


フラフラとシークの側に近寄って来たドルト先生は確信する。

そして、怒りが込み上がる。


(あのクロビト・・・私の生徒を手にかけたんだ・・・覚えたからな!!)


ドルト先生は手から血が出るほど、自分の拳を強く握った。


「シーク・・・」


「・・・かはっ・・・がはっ」


「シーク!?」


シークは奇跡的に意識が復活する。

そして、苦しそうに喋り始める。


「あれ・・・みんな、どこ・・・」


─ シーク、お前もう目が・・・


「この感じ・・・もしかして、アカサ・・・目の前に、いる?」


「ああ!いるよ!」


シークは、アカサが目の前にいるとわかると、いつもの笑顔になる。


「あの、ねぇ・・・今日の、朝・・・いい夢、見れたんだ・・・僕とアカサが・・・英雄になる夢・・・」


アカサの目から涙が溢れ始める。

そして、その涙はシークの頬へ落ちる。


「あれ・・・何、泣いてんのさ・・・これから英雄に・・・なる、男が・・・」


「何言ってんだ!英雄になるのはお前だろ!!俺は英雄になりたいと思わないし、なれるとも思ってない!」


「・・・大丈夫」


シークは必死に手を動かし、アカサの顔に手を優しく添える。


「ははっ・・・ここ、顔で・・・合ってる?」


アカサはその手を強く握る。


「アカサなら・・・なれるさ・・・君は、英雄の心を・・・持って、る・・・」


シークの手から段々と力がなくなっていく。


「だから・・・なれ、る・・・がん、ばれ・・・未来の・・・英・・雄・・・」


掴んでいたシークの手はアカサの手からスッと抜けて地面に落ちた。


「シーク・・・シーーク!!」


森の中にアカサの悲痛の声が響き渡る。


ポタッ・・・ポタッ・・・


小雨が降り出した。


ザー、ザー。


そしてすぐに大雨へと変わる。

雨の中、座り込んで一歩も動かないアカサ。


─ 今日、初めて虚獣を倒した・・・最初はトラウマで思い通りに体が動かなかったけどシークのおかげで乗り越えられた・・・だから何だ・・・そのシークは死んだ!・・・シーク・・・っ。


アカサは雨で柔らかくなった地面を強く叩いた。

顔に泥が跳ねて汚れるが、雨はそれを綺麗に流してくれる。

しかし、アカサの心に泥のようにまとわりついた物は、いつまで経っても綺麗に流れてはいかなかった。


こうして、アカサ達の初めての実戦は最悪の形で終わった。

しかし、これはまだこれからはじまる物語の序章に過ぎなかった。


続く





















































































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