サラVSヨウ(16)
集落を出て約30分後、馬車はウツロの森と王都を繋ぐ大きな道に出ようとしていた。
そんな中、王都方面の道からベテラン風な男性冒険者1人、若い新米冒険者らしき男性2人を乗せた屋根の無い荷台のようなものをひいている馬車が見えてくる。
サラとディアロが乗っている馬車は交差する道の前で止まり、その馬車が通り過ぎるのを待つ。
すると、サラは少しソワソワしだす。
『どうしました、サラさん?』
『えっと、隠れた方がいいのかなって・・・』
『?。どうしてですか?』
『集落を出る時、お父さんが冒険者になるまではあの集落で育った事まだ言っちゃダメって言ってたから』
サラとディアロを乗せた馬車が止まっている道は集落専用の道。
つまり、この道にいると言う事はツミビトの住むあの集落と何か関わりがあると捉えられる。
現に冒険者達はこちらの馬車をジロジロ見ていた。
『まぁ、角度的にあまり顔は分からないとは思いますし、隠れなくても大丈夫だとは思います。・・・ただ、あまりジロジロ見られるのもあまりいい気分ではありませんね』
ディアロはそう言うと、目の前を通ろうとしているその馬車に声を掛けようと扉を開けて外に出る。
すると、
『ディ、ディアロ様!?』
御者のおじさんと荷台に乗っていた冒険者の男達は声を出して驚き、冒険者達は荷台から降りる。
そんな男達にディアロは微笑みながら声を掛ける。
『こんな遅くからウツロの森に行かれるとは、お疲れ様です』
『ああ、いえ。ちょっと、若い奴らに夜の活動についての指導をしようと』
『そうでしたか』
ベテラン風な冒険者が答える。
『それにしても、ディアロ様の馬車でしたか。この道に高級な馬車が見えたんで誰かと思いましたよ。御者の方も"マント"を羽織っていなかったですし』
(マント・・・?)
馬車の中で聞いていたサラは何か引っかかる。
『少し用事がありましてね。こちらもジロジロ見られて何事かと思いましたよ』
『す、すいません!ジロジロ見てしまって!』
『いえ、大丈夫ですよ』
『そ、それでは私達はこれで、失礼します!』
ベテラン風な男性が頭を下げ挨拶をし、横にいた2人の新米冒険者も続くように頭を下げて挨拶を済ますと3人は荷台に乗り込みウツロの森へ向かって行く。
ディアロはそれを見送ると馬車に戻り、馬車はウツロの森と王都を繋ぐ大通りに出て、王都方面へ走り出した。
ディアロはふぅー、と一息ついたように外を眺め、
『まぁ、あの道にマントを羽織っていない人がいたら、ジロジロ見てしまうのは仕方ないのかもしれませんね・・・』
と、小声で独り言を呟く。
『あ、あのおじいちゃん』
『ん?どうしましたか?』
『冒険者の人も言ってたけど、マントってお父さん達が集落の外に出る時、必ず羽織るマントの事?』
『ええ、まぁ』
『何であのマントをしてない人があの道にいると、ジロジロ見られるの?』
口調は落ち着いているが、何処か必死にそう聞いてきたサラ。
ディアロは何かを察し、
『・・・そうですか。てっきり、知ってると思っていました・・・』
と、ポツリ言葉を吐き、そのままサラへ言葉を続ける。
『サラさんはツミビトが反省の期間を終え、牢屋から出た後の事について何か知っている事はありますか?』
『えっと、出た後に少しのお金と働く場所を紹介される事しか・・・』
『十分です。反省の期間を終え牢屋から出たツミビトは、ほとんどがその紹介された所で働きます』
サラはツミビトのこの事について知ってから、そのツミビト達は凄い大変な思いをしているんだなと感じていた。
もちろん日々、虚獣と戦っている父親達も大変だなと思っていたが、王都から離れた集落に住んでいるので2週間に1回くらいの頻度でしか王都へ行くことはなく、あの嫌な目を日々向けられる事はない。
ただ、街で働いているツミビト達は日々、あの嫌な目を向けられている。
そう思うだけで心が少しキュッとなった。
それほど、サラの中ではあの目が忘れられなかった。
だから、この後にディアロが言った事が衝撃だった。
『そして、牢屋を出たほとんどのツミビトはツミビトだと知られる事はないです』
『!?』
『当然です。周囲にツミビトと知られれば、普通に生活する事が困難になりかねない。そうなってしまえば、働く場を無くし、また罪を犯しツミビトとなってしまう可能性がありますから』
ツミビトやアクジンら罪人が入る牢屋は王都の中の城壁に囲まれた王城の地下にある。
城壁の中にはツミビトかアクジンかを判決する審判者が待つ建物もあり、罪人達は捕まると密閉されるようにカーテンが敷かれた馬車に乗り、城壁内へ入る。
その為、アクジンはともかく何か特別な事件を起こしでもしない限り、ツミビトの顔が割れるなんて事はほとんどなかった。
『・・・じゃあ、何でみんなはツミビトって知られてるの?』
『・・・マントですよ』
『えっ・・・?』
『あのマントが示しているのです。ツミビトである事を』
集落の外に出る際、必ず父親達はマントを羽織っていた。
白い生地にドクロのマークが描かれているマントを。
サラも初めの頃は不気味に思っていたが、特に追求する事はなく、子供の頃から見ているからか、それが当たり前、普通なんだと思い今では特に何も思わなくなっていた。
ただ、ディアロの話を聞き、マントの意味を知り、それは変わる。
『・・・じゃあ、お父さん達は自分からツミビトだってバラしてるって事?』
『そう言う事になりますね。・・・サラさんの気持ちは分かります。私も初めてマントを羽織っている理由を聞いた時は叱りました。何故そのような事をしているのか、と』
悲しいのか、怒っているのか、下を向きながら少し震えた声で言ったサラに寄り添うようにディアロは言葉を返した。
それから、王都に着くまでの間、サラはディアロから様々な話を聞いた。
あのドクロマークの付いたマントを羽織り、王都へ行っているうちに、いつしかあの集落が亡骸と言った意味を待つムクロと呼ばれるようになった事。
他にもウェイン達の子供の頃の話だとか、昔、ディアロが父親に救われた話だとか、嬉しく楽しい話も聞けた。
そんな中、サラはこんな事を聞く。
『おじいちゃんは集落に行ってるのに、みんなから嫌われたりしないの?』
『そうですね。中には私の事をよく思っていない人もいるかもしれませんが、特に何も言われませんね』
『それは英雄、だから・・・?』
『どうなんでしょうか。もしかしたら、そうなのかもしれませんね。・・・ただ、私から言えるのは積み上げて来た善と言うものはそう簡単には崩れないと言う事です』
『善・・・?』
『良い行いという意味です。何が言いたいのかと言いますと、世界から嫌われるような事をした人でも、その人が過去にやって来た善を知っている人はその人を心から嫌いにはならないという事です』
『・・・?』
サラの頭に?が浮かぶ中、ディアロは微笑みながら言った。
サラがこのディアロの言葉の意味を知るのは、まだ先の事だった。
そして約2時間後、陽が落ち少し暗くなった時間、ふたりを乗せた馬車は王都についた。
馬車は南門を通ると王城のある大きな広場を通り、ディアロが用意していた宿がある北西エリアに向かう。
宿の前に着くと、サラはディアロに送ってくれたお礼をし、馬車から降りて宿の中へ入り、受付のおばさんに部屋へ案内され部屋の中に。
英雄ディアロが用意した宿とあって、部屋の中は綺麗で1人部屋としては広く、シャワーだけではなくお風呂も完備されていた。
集落には簡易的なシャワーしか無かったサラは、宿の出す夕食までの間にお風呂に入りスッキリした。
その後、夕食を食べ終わると、明日の入学式に間に合うように早めに部屋のふかふかのベットについた。
明日、ようやく冒険者になる為の一歩目が始まる。
しかし、この後起こる2つの勘違いでサラの学校生活は曇りを見せる事になる。
続く。




