バカ、神力(シキ)を使う
[虚獣]
原初の時代、[ライト]と呼ばれるクロビトによって創られたモンスター。
赤い瞳に全身が黒く影のような姿をしていて、オーラを持つ者を襲う習性がある。
主に"人型"獣型"飛行型"が存在してる。
強さもバラバラで下から[E級、D級、C級、B級、A級、S級、SS級]と分けられている。
♢♢♢
太陽の光がカーテンの隙間から差しアカサの顔にかかる。
普通なら気持ちのいい目覚めだ。
しかし、学校の寮で生活しはじめてから、アカサはシークの大声で目覚めることの方が多くなった。
「すぅー、おはよう!!アカサ朝だよ!!」
大声でアカサを起こし、カーテンを勢いよく開ける。シークは毎朝早く起き、ジョギングをするのが日課だった。
「・・・うーん、もう朝か」
慣れというものは怖いものだ。
初めの頃はうるさくて毎朝、耳を塞いで文句を言ってたが段々それが普通になっていった。
「っていうか、今日はいつにも増して声でかいな。俺じゃなきゃ鼓膜いってんぞ」
「いやーめんご、めんご!今日、すごくいい夢見れたからさ」
たしかに異様にテンションが高い。
今日はバカというか気持ち悪いとまでアカサは思ってしまう。
「それに、ついに実戦だしね!」
「ああ、そうだな」
こんな感じで適当に会話しながら支度をすまし、学校指定の白い制服に着替え、朝食を食べに2人は学食へ向かう。
食堂は朝の7時から夜の9時までは常に開いていて、自由に食事ができる。
「いやー、改めてこんな美味しいご飯がタダだ食べれるなんて凄いよね」
「まぁな」
ここは白の大陸で唯一の冒険者や騎士を育てる学校。
年々の虚獣の減少と共に少しずつだが、世界は平和に向かっていた。
そのせいか、冒険者や騎士と言う、命を落とすかもしれない仕事に就く人は減っていた。
そんな中、この学校に入ってくれた若者達に敬意と尊敬を示し、入学費や学校内での費用は全て国が請け負っていた。
2人は注文を済まし席を探していると、いつも通りレナとゴウが先に座り食事をしてる。
「おーいアカサ、シーク」
レナに呼ばれ席に近づく。
すると、ゴウのでかい体からヒョコッと顔を出し
「・・・シーク先輩」
と腰まである長い髪を揺らしながら、小柄な女の子がパンを持ちこちらを見る。
「おお、サラ!おはよう!」
「おはようございます」
彼女は1年生のサラ。
実力は先生達から絶賛で、学校に入る時の模擬戦ではその年で1番の実力と判断された。
常にもじもじしていて、同じ学年の生徒に絡まれてるところをシークが助けてからシークに懐いている。
「そういえば、昨日昼食の時いなかったけど何かあったの?」
「えっと、昨日は眠かったから、パンを部屋に持って帰って食べて、少し寝てました・・・」
「そっか!でも。今日は珍しいね。サラが朝食食べるなんて」
朝に少し弱いサラは授業の時間ギリギリまで寝ていることが多く、朝にシーク達と顔を合わせることはあまり無かった。
「今日は先輩達が実戦って聞いたから、応援しに来ました・・・」
サラはゴウのデカい体に隠れながら、パンをにぎにぎし、少し照れくさそうに言う。
「ありがとうサラ!これで、もっと頑張れるよ!」
シークはサラを子供を抱っこするかのように軽々しく持ち上げて、くるくる回る。
「シーク先輩、目がまわっちゃう・・・」
そう言いつつも、嬉しそうな表情をするサラ。
まるで兄妹のように、戯れ合っている2人を見ているレナとアカサの顔はだらしなくなっていた。
「かわいいね〜」
「ああ〜、癒されるな〜」
「まるで、孫を見てる老夫婦のようだな!」
そんな2人に思わずつっこんでしまうゴウ。
レナは満更でもなさそうに
「ちょっ、ちょっと何言ってんのよゴウ!そ、そんな夫婦だなんて・・・ねぇ、アカサ?」
「ぅえ?なんかいったか?・・・いいな〜俺も抱っこしたいな〜」
「・・・はぁー」
「がっはっはっはっ!」
いつもの鋭い目つきはどこにいったのか。
だらしない顔のアカサはサラの可愛さに夢中で全く話を聞いていなかった。
それにレナはがっかりし、ゴウは豪快に笑う。
シークがサラを下ろしたタイミングでアカサも抱っこしようと両手を広げて近づく。
「サラ〜俺も抱っこしてあげるぞ〜」
アカサが近づくと、またゴウのでかい体の後ろに隠れて顔だけを出す。
「アカサ先輩、顔・・・こわい」
「はっ!!」
アカサはかたまり、棒立ちになる。
「がっはっはっはっ、まだアカサの顔に慣れないようだな!」
「んぐっ、くそー・・・ゴウだって体がでかくてこわいじゃんかよー!」
ゴウに嫉妬するあまりいつもより、口調が幼くなる。
「ゴウ先輩は、近くにいると・・・安心する」
「まぁ・・・確かに、ゴウは安心感あるな」
「それは認めるんだ。まぁそうなんだけど」
うんうん、と頷くアカサにレナはつっこむ。
続けてシークも会話に入る。
「大丈夫だサラ!顔は怖いけどめちゃくちゃ優しいぞアカサは。顔は怖いけど!」
「うるせぇ!2回言うな、このバカ!」
「・・・ふふっ」
サラは小さく笑う。
5人でわちゃわちゃ楽しく会話をしながら食事を楽しんでいると、ぼそっと嫌な言葉が聞こえてくる。
「何楽しくはしゃいでんだよ・・・罪人の子供が」
「・・・」
その言葉が耳に入り、サラは一気に表情が暗くなる。それを見たアカサは、声の聞こえた方を鋭い目で睨む。
「誰だ・・・今言ったの・・・!」
その鋭い目で見た方にいた人は、思わず全員顔を背けてしまう。
「いいんです・・・本当のことだから・・・」
「・・・わかった」
サラはアカサの服の端を掴み、そう言った。
サラは赤ちゃんの頃から母親がおらず、親は父親1人だった。
そんなサラの父親は罪を犯した事のある罪人だった。
しかし、父親は捕まる事はなく、小さな集落で今も普通に暮らしている。
「サラ、気にすることないよ。それに役に立つでしょ、アカサのこわい顔も!」
「うん・・・ありがとう、シーク先輩」
シークはアカサのこわい顔をいじりつつ、場を和ませる。
サラはシークにお礼をし、次にアカサの顔をしっかり見ながらお礼をする。
「あの、アカサ先輩も・・・ありがとうございます。優しい人は、好きです」
「大したことしてないよ。こんな目つきだけど、サラの役に立てたならよかったよ」
アカサは初めてくらいに自分の目つきが悪いことを良かったと思えた。
そしてまた、5人で喋りながら食事をしていると、実戦の時間が迫って来た事にレナが気づく。
「もうこんな時間!ほらアカサ、シーク、ゴウ行くよ!」
「ああ、行くか。王都の南門前に集合だっけ?」
「確かそうだったね。じゃあ、サラ行ってくるね!」
「先輩達・・・がんばってください」
しっかり食事を摂り、準備万端な4人はサラに見送られながら王都の南門に向かう。
♢♢♢
南門に着くと、他のクラスメイトとドルト先生がもう既にいた。
「遅いぞ、お前達!」
「す、すいません!」
4人は謝りながら、整列する。
そして先生から、実戦についての話が始まった。
「まず、実戦の場所は王都から南にまっすぐ行ったウツロの森で行う」
白の大陸は王都を中心に北に海が広がっていて、東に雪山がある雪原が広がっており、西には火山がある灼熱地帯がある。
そして、南に進むとウツロの森と呼ばれる森があり、更にその森を抜けると黒の大陸へ繋がる大きな橋が掛かった崖に出る。
「ウツロの森は中央から東や西、端に行くほど虚獣のランクも上がっていく。なので、今日は基本的にE級しか出ない森の中央辺りで行おうと思う」
先生は淡々と説明していく。
「そして、前にも言ったが今日の実戦は1人行動だ。2年生に上がったと言うことは、E級の虚獣なら1人でも討伐できるくらいの力があると認められたからだ。お前達は強い、自信を持って挑むように」
入学した時は100人近くいた同級生達も、2年生に上がった時には1クラス15人の2クラスまで減っていた。
それほど、神からもらった力[オーラ]を現代の人達が扱うのは難しかった。
「以上で説明は終わりだ。何か質問ある人はいるか?・・・いなそうだな。じゃあ各自、馬車の準備ができるまで待機だ。それとシーク。虚獣相手なら魂創器を使ってもいいぞ」
「えっ、本当ですか!やったー!」
「!!」
ドルト先生の言った[魂創器]と言う言葉に、アカサ達は驚く。
「やっぱ、模擬戦の最後に出そうとしてたの魂創器だったのか・・・!」
[魂創器]とは神からもらった力[オーラ]を自分が扱いやすい武器へ具現化したもので、9割血筋でどんな武器へ具現化されるか決まっている。
形は様々で剣や弓といった王道な武器を具現化する者もいれば、王冠や手袋といった武器とは思えないような物を具現化する者もいる。
そして、神力や魔法と言った不思議な力も発現する。
英雄や名の知れた冒険者、騎士団の隊長クラス以上の人はほとんどが魂創器を出せた。
それから、アカサ達はドルト先生に渡された今日戦うかもしれないE級の虚獣について書かれた本を見ながら待機してると馬車の準備が終わる。
アカサはシーク、レナ、ゴウといつもの面子で馬車に乗り込む。
道中はもちろんシークの魂創器の話題で盛り上がる。
「シーク、最後に出そうとしてたのやっぱ魂創器だったんだな」
「ふふん、びっくりしたでしょう!」
「当たり前だろ。学校の卒業条件の[魂創器化]よりも、さらに上のことしてきたんだから。ちなみに、いつ出せるようになったんだ?」
「3日前くらいかな」
「ふーん」
─ そういえば、3日前くらいから急に攻撃が当たらなくなったな。
アカサはもしかしてと思い、シークに問いかける。
「お前、もしかしてこっちの行動が分かってたような動きをしてたのって神力だったりするのか?」
「あっ、ばれた?実は僕が発現した神力は、数秒先の未来が視えるスキルだったんだよね・・・」
「・・・」
少しの間静かになる。
そして、アカサとレナはそのスキルが強すぎる事に気が付く。
「な、何だそのズルい神力は!」
「た、たしかにズルいわね」
神力とは自身に身に付く特殊な能力。
発現する神力は1人1つで魂創器同様、9割血筋が関係している。
どんなものがあるか例を挙げると、目にも止まらない速さで動けるようになるとか、オーラに炎の力が付与されるなど。
シークの場合は、数秒先の未来が視れるという神力が発現した。
「い、いやそんな事ないよ!だってほらアカサとの模擬戦思い返してみてよ」
シークは必死に2人を落ち着かせる。
「いくら数秒先が視えたってそれに対応できるかは別だし、神力を使うとすごい疲れるから連続でつかえないし、そんなに強くないよ!」
「ま、まぁそうか・・・いや待て、神力って確か発現者の成長と共に効果が伸びていく物もあるんだよな。って事は、先のこと考えたらやっぱ強いだろ・・・ちなみに、今はどんぐらい先まで見えるんだ?」
「えーっと、頑張れば8秒くらい・・・あっ」
「ん?どうした」
シークは途中で言葉が詰まり、アカサに座ってる場所を交代するようにお願いする。
「ごめんアカサ、ちょっと座る場所変わってくんない?少し気持ち悪くなってきちゃって、寝転びたいんだ」
「急にどうした。まぁいいけど・・・」
そう言いアカサは、座ってる場所を変わりシークは馬車の奥の方で寝転がる。
「そういえば気持ち悪くなったで思い出したけど、ゴウって乗り物に弱くなかったっけ?・・・ゴウ?」
「・・・」
正面に座るゴウの顔は真っ青になっており、今にも吐きそうだ。
「ちょ、ゴウ待て!吐くならせめて、外に!」
「ごめん、アカサもう・・・おろろろろろ」
「ゴウーー!!」
ゴウの口から出されたものは、アカサのズボンをびしょびしょに濡らした。
そこでシークが席を交代するよう言った理由がわかった。
「おいバカ!分かってたんなら教えろや!」
「んーあー、ごめんごめん。ほら、アカサが『どんくらい視えるの?』って言うから、久々に限界まで未来見たら頭が痛くなっちゃって教えるの忘れてた」
シークはぐったり寝転びながら答える。
「確か、ウツロの森の入り口付近には川が流れてたはずだから、そこまで我慢するしかないわね」
「まぁ、しょうがないか」
「す、すまんなアカサ・・・うぷっ」
ゴウは吐きそうになりながら謝る。
「いやまぁしょうがない。わざとじゃないのは分かるし。教えてくれなかったこのバカが悪い」
「もう、何だよ。アカサが言うからやったのに!分かったよ。ズボン交換しよ!」
寝転んでたシークは、立ち上がりズボンを下ろし始める。
「きゃーー!何、急にズボン下ろしてんのよ!」
レナはシークのお腹に思わずパンチを入れる。
「ふごっ!あっ、もう・・・だめだ・・・」
バタッ
神力を限界まで使って疲れてたシークのお腹に、レナの絶妙なパンチが入りシークは膝から崩れ落ちる。
「・・・」
「くんくん・・・臭い!」
「はぁ、はぁ、・・・うぷっ」
「はぁー」
こうして馬車は気絶してる奴と、ゲロ臭い奴と、酔ってる奴と、ため息をつくレナを乗せてウツロの森へ向かう。
続く