サラVSヨウ(11)
翌日、朝。
サラは目覚めると、寝室の扉を勢いよく開け、朝食の準備をしている父親へ近寄る。
そして、寝起きとは思えない程の声量で決意を口にする。
『お父さん、私冒険者になる!』
急なサラの発言に呆気に取られ、一瞬朝食を作る手が止まったが直ぐに再開する。
『・・・まず、起きたら何するんだっけ?』
『おはよう』
『うん、おはようサラ』
『・・・じゃなくて、私冒険者になる!』
サラは挨拶を済ませると、再び決意を口にする。
父親は手を動かしながら、それを止める。
『前にも言ったよ。虚獣との戦いは命を落とすことだってある。そんな危ない事、サラにしてほしくない』
『そんな事、分かってる。でも、私冒険者になりたい!』
下がる事なく決意を口に出し続けていると、父親は手を止め、サラへ振り返る。
『どうして、そんなに冒険者になりたいんだい・・・?』
『・・・ウェインが昨日、言ってた。自分達は冒険者じゃない。いくら虚獣を(きょじゅう)を倒したってツミビトの・・・自分達の汚れてて冷たい手じゃ誰も救えない、って』
『・・・』
『そんな事ないのに、ウェインの手もお父さんの手も温かいのに・・・私だけ、みんなの手も温かいって知ってるのは・・・!』
『・・・』
『だから、私が・・・!ツミビトじゃないけど、みんなに育ててもらった私が凄い冒険者になれば、きっとみんなの事を見る目が変わるはず!それに・・・』
私のせいでお父さんが、みんなが余計に嫌われてるのが悔しい、そう続けるつもりだった。
しかし、もし父親が未だ牢屋に入っていたい理由が自分を育てる為だったとしたら、世界から嫌われる覚悟でその決意をしたのなら。
ここで自分から『私を育てる為に牢屋に入らなかったんでしょ』と言ってしまったら、お父さんの覚悟を踏み躙ってしまうんじゃないか、そう思ったサラは言葉を止めた。
『・・・とにかく、悔しいの・・・!みんなが嫌われてるのが・・・だから、私冒険者になりたい!』
父親は熱く決意を述べたサラの言葉を受け取るように目を瞑った。
そして、目を開ける。
『・・・サラの思いは伝わった』
『それじゃあ・・・!』
『でも、ダメだ』
『何で・・・!』
『サラが私達の為に何かしようと思ってくれたことは嬉しい。ただ、これは私達の罪。サラは関係ない・・・それに、やっぱり虚獣と戦うなんて危険な事をサラにさせるわけにはいかない』
『・・・ばか・・・お父さんのばか!!』
サラはそう声を荒げると、机に置いてあった昨日残したパンを持ち、家を飛び出した。
サラは昨日、ウェインと話をしたベンチに座り、怒りながらパンをかじる。
(お父さんのばか!別に危なくないもん・・・!私だって毎日特訓してる。お父さんみたいになれるように・・・!)
サラは昔、集落の中まで入ってきた虚獣を父親が純白の大きな鎌を一振りして倒したのを見た。
それから、父親みたいになりたくて特訓をしたいとお願いした。
危ないと断られるかと思ったが、万が一の事を考えて自分の身を守れるようにと、次の日から大人達に稽古をつけてもらった。
武器は父親の持っていた大きな鎌に憧れたが、そんな形の武器は当然集落に無く、仕方なく長さが似ていた槍をサラは選んだ。
サラは持ち出したパンを食べ切ると、ベンチを立つ。
(諦めない・・・私、絶対冒険者になる!みんなの為に・・・!)
それから、サラは毎日必ず1回は父親に『私、冒険者になる!』と言い続け、その度に父親も『ダメだ』と言い続けた。
そんなやり取りが約1年続いていたある日。
サラの耳にある話が入ってくる。
それは、よく王都に買い出しに行っていた2人、ウェインとオットが話していた。
サラは物陰に隠れながら耳を立てる。
『本当に始まるんですかね、冒険者や騎士を育てる学校』
ウェインが1枚の紙を見ながら言う。
『どうだろうな。まぁ、でも始まったら冒険者や騎士になりたいって人が増えるかもな。虚獣が年々減ってるとはいえ、まだあちこちで被害はあるみたいだし、少しでも俺らみたいのが減れば嬉しいよ・・・』
『オットさん・・・』
『それに、普通に冒険者になるよりは安全だろうしな。元英雄のディアロ様含め、元冒険者の人達が1から教えてくれるんだから』
『そうですね、安全ですよね・・・これだったら、お嬢も・・・』
そう呟いたウェインにオットは呆れる。
『はぁー・・・お嬢には言うなよウェイン。また、余計なこと言うなって頭に怒られるぞ』
『い、言わないですよ!』
『本当か?1年前もツミビトがどうのこうのってお嬢に言ったことを怒られたんだろ?しかも、それがきっかけでお嬢が冒険者になりたいって言い出したみたいだし』
『そ、それはそうですけど・・・』
ウェインはしゅんとし、反省の表情を見せる。
そして、続けた。
『お嬢の前だと気が抜けちゃうんです。心地良いと言うか・・・だから、何でも話しちゃうんです。それに、お嬢には自分のしたい事をして欲しい、たとえそれが冒険者という危険な事でも・・・』
そう言ったウェインに、オットは頷くように口を開いた。
『・・・俺もお嬢には自分のしたい事をして欲しいって思うよ。ただ、頭がダメだって言い続けてる理由も分かる』
『・・・自分達の為だからですか?』
『ああ。お嬢が俺達の為に何かしようとしてくれるのは嬉しい。ただ、俺達がツミビトになったのは自分達で選択したからだ。そうしなきゃ生きられなかったとしても。だから、お嬢がその罪を背負うのは違う』
『確かにお嬢は関係ないですけど・・・だったら、どうすれば・・・』
『そうだな・・・』
オットはそう言いながら、物陰をチラッと見る。
『頭も鬼じゃないんだ。お嬢が本心を隠さず、気持ちをぶつければ分かってくれるかもな』
『本心を隠さずって・・・お嬢はまだ何か言いたい事があるって事ですか?』
『多分な』
『何でそう思うんですか?』
『何となくだ』
『何となくって・・・』
『まぁ、これは頭とお嬢の問題、俺達が出来るのは見守るくらいだ』
『そうですね・・・』
『・・・ほら、そろそろ森に入るぞ。準備始めとけ!』
『は、はい・・・!』
日課の虚獣退治の時間が迫っていた。
オットは神妙な面持ちでいたウェインの背中を叩き、2人共その場を後にした。
サラは物陰に隠れたまま立ち尽くし、悩む。
(本心を・・・でも、言ったら・・・)
サラが本心を父親に言うとなれば、1年前に止めた言葉を言わなくてはならなかった。
『私を育てる為に牢屋に入らなかったんでしょ』と。
(でも・・・私、絶対に冒険者になりたい・・・!)
サラは今日で首を縦に振らせる。
そんな強い思いで父親の下へ駆ける。
それが、父親の覚悟を踏み躙ってしまう事になってしまっても。
続く。




