サラVSヨウ(10)
家に帰る道中、サラは父親とどんな顔で接すればいいか分からず眉をひそめていた。
そんなサラにウェインは声を掛ける。
『お嬢。家に帰ったら、ちゃんと頭と話すんですよ』
『・・・うん』
変わらず眉をひそめながら返事をするサラ。
ウェインは続ける。
『自分は頭がまだ牢屋に入ってない事は知ってましたが、どんな理由で入らなかったのか、そしてどんな条件を王様と交わしたのかは知りません・・・ただ、捕まるのが嫌だとかそんなダサい理由じゃなくて、優しい理由だと思うんです』
『優しい理由・・・?』
『はい。自分の為なんかじゃない、きっと・・・誰かの為とかそんなんです。お嬢も知ってると思いますが、頭は優しいですから!』
と、子供のような無邪気な笑顔をした。
集落が小さいのでそんな会話をしていると、直ぐに家の近くまで来る。
家の前にはサラのことを待つように立っている父親の姿があった。
『おかえり、サラ』
『・・・ただいま』
下を向き目を合わせずにそう言うと、サラは握っていたウェインの手を離し、直ぐに家の中へ入った。
そんなサラへ何も言わず迎え、父親はウェインへ、
『今日はありがとうね、ウェイン。ゆっくり休んで』
『はい・・・』
そうお礼の言葉を言うと、家に入り扉をゆっくり閉めた。
ウェインは2人の事を心配そうに扉を数秒見つめ、自分の家へ帰った。
サラが家の中に入ると机にはパン、湯気の立つスープ、サラダと夕食が並んでいた。
『ちょうどご飯が出来たところだったんだ。冷めないうちに食べちゃおうか』
『・・・うん』
いつも通り話しかけてくる父親に対し、サラは少しだけ気まずそうに返事をして席へ着く。
普段もそこまで会話をする事はなく黙々と食事をする2人だったが、今日に限ってはいつもよりも静けさが際立つ。
何気ない咀嚼音、スープをすくう際にお皿とスプーンが当たる音、それらが部屋に響く。
食事中、ウェインの
『ちゃんと頭と話すんですよ』
その言葉が頭にずっとあったが、口を開く事はできなかった。
お互い何一つ言葉を放つ事なく黙々と食事を進める中、まだパンが半分残っている状態だったが、
『ごちそうさま・・・』
とサラは手を合わせた。
『もういいのかい?』
『うん・・・残りは明日の朝食べる・・・』
そう言うと席を立ち、家の中にある簡易的なお風呂場へ向かった。
髪、体を洗い終えると寝巻きに着替え椅子に座り、髪が乾くのを待つ。
初めて外に出て王都に行き疲れていると言うのもあったが、やはり父親と顔を合わせるのが気まずかったサラは早くベットに寝たかった。
30分くらいが経ち髪が乾く。
その間も会話は無かった。
サラは寝室へ早々に向かう。
『もう寝るの?』
『疲れたから・・・』
『そっか・・・おやすみサラ』
『おやすみ・・・』
少しぎこちない会話を交わし、サラは寝室のベットに寝転んだ。
そして約1時間後。
サラの目を開いていた。
身体は疲れていて眠いはずなのに、色々な事が頭を巡り中々寝付けない。
すると、寝室の扉がキィーと開き明かりが少し入ると、誰かが入ってきた。
家にいるのは自分と父親だけ。
サラはお父さんが入ってきたと思い、目を瞑り寝たフリをする。
父親は起こさないようにとゆっくり歩くいてる様子だが、ギシッ、ギシッと床が軋む音が響き、その音は寝転んでいるサラへ向かう。
足音が横で止まると、サラは自分の頭に何かが置かれてたのをを感じた。
そして、一言、
『ごめんね・・・』
その言葉が耳に入る。
頭に置かれたのは手。
(久しぶりな気がする・・・)
サラは物心がついた頃から、父親から頭を撫でられたり、手を握ったり、抱っこされたりとスキンシップの記憶が無かった。
唯一憶えてるのは、小さい頃に1回撫でられたくらい。
そんな久しぶりの父親の手は懐かしく、優しく、そして・・・とても温かかった。
(全然冷たくない・・・お父さんもウェインも凄く温かい)
父親は起こさないように頭を優しく撫でる。
サラは頭の中を巡っていた色々なモヤモヤが1つにまとまっていくような感覚になり、頭がスッキリすると共に悔しい気持ちが込み上げてくる。
(私だけだ、みんなの手が温かいことを知ってるのは・・・私以外にも知って欲しい、ツミビトの手も温かいって・・・)
父親は数回、優しく撫でると扉を閉め寝室を出ていき部屋が再び真っ暗になると、サラはゆっくり目を開け、天井を見つめる。
(・・・お父さんがどんな悪い事をしたか分からないけど、何で牢屋に入らなかったのか分かった気がする)
サラは昔、ウェインが酔ってこんな事を言っていたのを思い出していた。
『いやー、お嬢が赤ちゃんの頃は大変でしたよ!自分達も赤ちゃんのお世話なんてした事なかったし、頭も初めて。頭なんて、顔にオシッコかけられてたんですから!』と。
これだけ聞くと父親とウェイン達に赤ちゃんの頃、お世話をしてもらったと言う普通の昔話だ。
ただ、今は違った。
父親とウェイン達がツミビトと知った。
ウェイン達は牢屋に入り反省したが、父親はまだ牢屋に入ってない事を知った。
そして帰る道中、ウェインが言っていた『自分の為なんかじゃない、きっと・・・誰かの為とかそんなんです』。
それらが合わさり、サラの中で1つの答えになる。
(きっと、私を育てる為に入らなかったんだ・・・)
母親が自分を産んだ後、直ぐに亡くなったのは聞いていた。
だから、自分を育てられるのは父親しかいない、そう思った。
自分を育てる為にお父さんが、みんなが余計に嫌われている、そう思うと更に悔しさが込み上げてくる。
そして、決意する。
(私、冒険者になりたい。それで、ウェイン達みたいに虚獣をいっぱい倒してすごい冒険者になる・・・!そしたら、みんなを見る目が変わるはず・・・!)
ツミビトではないが、ムクロで育った自分が虚獣を倒し、皆んなから感謝されるような存在になれば、自分を育てたお父さん、ウェイン達が優しい事に気付き、みんなの印象が変わる。
サラはそう思った。
(私が、変える、んだ・・・ぜっ、た・・・い、に・・・スゥー、スゥー・・・)
そう決意した瞬間、急激な眠気に襲われる。
モヤモヤしたものが決意に代わりスッキリしたのか、久しぶりに父親に頭を撫でられ安心したのか。
サラは寝息をたて、深い眠りに落ちた。
続く




