サラVSヨウ(9)
陽が落ち始めて辺りが少し暗くなってきた夕方、サラ達はムクロに着いた。
門番の人は門を開け、馬車は集落の中に入る。
いつもは荷台から荷物を運ぶ為、馬車の帰りと同時に大人達が集まってくるが、今日に限ってはサラの事が心配だったのか既に門の近くに大人達が立っていた。
その中にはここの集落の長、サラの父親の姿もあった。
大人達は皆、心配そうな表情でサラ達3人を迎える。
馬車が集落内に入り止まると、サラは荷台から降りた。
そして、下を向きながらトボトボと父親の元へ歩き始める。
この時点で心配していたことが起きたんだと大人達は察し、表情が暗くなる。
サラは父親の前まで来ると、下を向いたまま少し震えた声で喋り始めた。
『お父さん・・・何で、みんなは嫌われているの・・・?』
『・・・』
『[アクジン]、[ツミビト]って、何・・・?』
『・・・』
『王都で男の人がウェインに怒ってた・・・牢屋で反省しろって・・・牢屋って悪い事した人が入る所だよね・・・?』
『・・・』
『みんなは悪いこと、したの・・・?』
サラは顔を上げ、父親の顔を見る。
疑念と悲しみが混じった瞳を受け入れるように父親は目を閉じ、そして開けて、
『・・・うん。私達は昔、悪いことをした』
と、真っ直ぐサラの瞳を見つめ、そう吐いた。
サラはその瞳を大きく開いて驚き、この場から、この現実から逃げ出したい気持ちをグッと抑えて、再び父親へ質問する。
『悪いことって何・・・?』
『私以外の皆んなはお金を払わずに食べ物を盗んだりした・・・そして、私はそれ以上の事をした・・・』
『それ以上の事って・・・?』
『ごめん・・・それは、言えない・・・』
父親は視線を背ける。
サラはそれを仕方なく受け入れ、質問を続ける。
『・・・悪いことしたのに、何でみんなは牢屋の中にいないの・・・?』
『それは、ムクロにいる皆んなが[ツミビト]だからなんだ』
そう言うと、父親はサラへ簡単に説明を始めた。
この世界では罪を犯した者を罪人と呼び、その中でも2つの罪人に分けられる。
1つは[ツミビト]と呼ばれる罪人。
ツミビトは罪悪感を抱えながらも生きる為に仕方なく罪を犯してしまった者。
主に窃盗など。
2つめは[アクジン]と呼ばれる罪人。
アクジンは自分の快楽の為に罪悪感など微塵も持たず、悪意を持って罪を犯す者。
罪人は捕まったら、まずそのどちらかに判決される。
その判決を下すのは嘘を見抜くスキルを持った審判者と呼ばれる者達。
ツミビトと判決された者は長くて1年、短くて1週間は牢屋で反省を行い、その後、少しばかりの資金と数件の職場の紹介状を渡されて釈放される。
逆にアクジンと判決された者は一生を牢屋の中で過ごす事となる。
『外にいるって事は、もう牢屋の中で反省したんだよね・・・?』
『うん。ウェイン達は牢屋に入り、ちゃんと反省した・・・』
『だったら──!』
『ただ、私はまだなんだ・・・』
『・・・えっ』
『まだ、私は牢屋に入っていない・・・』
『な、何で・・・?』
『あの時、私は牢屋に入るわけにはいかなかった・・・だから、王様にお願いして1つの条件と共に牢屋に入ることなく、ムクロで暮らすことを許してもらった・・・』
その父の言葉を聞き、サラの中にある疑念が生まれる。
もしかしたら、みんなが嫌われているのはお父さんのせいなんじゃないか、お父さんがちゃんと牢屋に入り、反省してないから集落に住むウェイン達も嫌われているんじゃないかと。
サラの頭の中はそんな疑念で直ぐにいっぱいになり、それはゆっくりと口から溢れる。
『・・・じゃあ・・・それじゃあ、みんなが嫌われてるのは、お父さんのせいなの・・・?』
『・・・そう、私のせいだ』
『──っ!!』
サラは今日1日で、王都の人達がウェインに向けていた嫌な目、みんながツミビトと呼ばれる罪人で嫌われているという事、そんな嫌な現実を知り、一杯一杯だった。
だから、否定して欲しかった。
違うと言って欲しかった。
これ以上、受け止めきれなかったから。
しかし、大好きな父親のせいで大好きなみんなが嫌われているかもしれないという疑念は肯定され、受け止めきれずに溢れた現実は無理やりサラの中へ入っていき、耐えきれたくなったサラはその場から走り去る。
『あっ、お嬢!』
ウェインは声を出し止めようとしたが追いかけようとはせず、頭の方へ顔を向ける。
『・・・頭、何で嘘ついたんですか?自分のせいだなんて・・・元々、ツミビト自体がっ──』
『別に嘘じゃないよ・・・きっと、ウェイン達だけだったらここまで嫌われてない・・・私が・・・シロビトを殺めた私が捕まることなく、普通に外で暮らしてるから余計に恐がられ、避けられ、嫌われている・・・だから、嘘なんかじゃないよ・・・』
『頭・・・』
『ウェイン・・・サラの事、頼めるかな?』
『・・・分かりました』
表情を誤魔化すように無理に口角を上げて頼んできた頭にウェインは返事をし、サラが走って行った方へ駆けて行く。
サラは集落の端の方にあるベンチに、身体を抱き抱えるように座っていた。
ウェインはそっと隣に座る。
お互い何も喋らず、遠くからは王都で買った荷物を倉庫などに運ぼうとしている他の大人達の声が微かに聞こえてくる。
『・・・ウェインは知ってたの?お父さんが牢屋に入ってない事・・・』
『知ってましたよ』
『・・・じゃあ、何でお父さんの事嫌いじゃないの?ウェイン達が王都で辛い目にあってるのだって、お父さんのせいなのに・・・』
そんなサラの質問にウェインは微笑みながら口を開く。
『嫌いになんかなりませんよ、絶対に。確かに王都に行くと辛い事もありますけど、それ以上に頭のおかげで自分達は人並みの暮らしが出来てるんです』
ウェインの口から出る言葉には有り余るほどの感謝の気持ちが乗っていた。
『それに、頭は自分のせいだなんて言ってましたけど、元々ツミビト自体が好かれてませんから・・・』
その言葉にサラはキョトンとした顔をする。
『・・・何で?』
『そりゃあ、悪い事したんです。好かれる理由はありません』
『でも、アクジンと違って生きる為に仕方なくしたことだよね・・・?』
『・・・理由がどうであれ悪い事をした。そこに、ツミビトもアクジンも無い・・・罪を犯し、人に迷惑をかけた時点で罪人なんです』
『・・・分からないよ・・・確かに昔は悪いことをしたかもしれない、けどちゃんと反省した。それに、ウェイン達はみんなの為に虚獣と戦ってる・・・!だから、冒険者の人達みたいに感謝されてもいいはずなのに・・・!』
悔しそうに言ったサラの言葉をウェインは真剣な表情で否定する。
『それは違いますよお嬢。自分達は冒険者なんて立派なものじゃない・・・』
『違くないよ!ウェイン達はみんなの為にボロボロになりながら戦ってるじゃん・・・!』
サラは、毎日何人かで森に入り虚獣と戦い、帰ってくるたびボロボロの姿になったみんなを見てきた。
その筆頭のウェインが『自分は立派じゃない』と卑下したのが嫌だったのか、いつもよりも声を張り否定する。
それが嬉しかったのか、ウェインの表情が緩む。
『お嬢は優しいですね・・・お嬢は知ってますか?冒険者の手が温かいことを。あの手で撫でられると、抱かれると救われるんです』
そう言うと、ウェインは手のひらを自分に向ける。
『自分達は罪を犯した時点でシロビトとして・・・人間として死んだ。そんな、ツミビトの汚れてて冷たい手じゃ誰も救えない・・・お嬢がそう言ってくれるのは嬉しいですが、やっぱり自分達は冒険者なんて立派な者じゃないです』
『ウェイン・・・』
ウェインは自分に向けた手のひらをギュッと握り立ち上がると、笑顔でサラの方へ顔を向ける。
『すいません、お嬢!何か変な事言ってましたよね!もう暗くなってきましたし、頭も心配してます。家に帰りましょうか』
『うん・・・』
サラはベンチから降り、ウェインと一緒に家へ歩き始める。
すると、サラは少し前を歩いているウェインの手を握った。
『どうしたんですか、お嬢?』
『別に、なんでもない・・・このまま帰る』
『自分は構いませんが・・・』
ウェインは戸惑いながら手を繋ぎ、サラを家まで送って行った。
続く




