サラVSヨウ(3)
そして次の日。
ヨウは寮を出て教室に向かう。
その道中・・・いや、昨日の夜から頭の中はサラのことで一杯だった。
恋?
もちろんそんなものではない。
あいつは何故、あんなに強いのか。
何故、あんなに槍の扱いに慣れているのか。
そんなことをずっと考えていた。
(ごちゃごちゃ考えてても無駄だな。直接、本人に聞くしかねぇ)
ヨウは前髪をかき上げ、早足で教室に向かった。
教室の前まで来ると、中から騒がしい声が聞こえてくる。
ヨウはゆっくりと扉を開け、中に入る。
すると、
『すごいね君!昨日の模擬戦、かっこよかったよ!』
『きゃー、小さくて可愛い!』
男子生徒と女子生徒のそんな声が教室の中に響く。
(何だ?)
ヨウはその声の中心に近づき目を向けると、椅子にちょこんと座り、クラスの人達からの自分を褒める声を、恥ずかしそうに照れながらも笑顔で受け取っているサラの姿があった。
(あいつ・・・くそっ、邪魔だ!)
サラの周りには数十人の生徒が集まっていて、とても話しかけられる状況では無かった。
(これじゃ、まともに話せねぇ・・・ちっ、後にするか)
ヨウは仕方なく諦め、サラと早く話したくて何となく我慢していた用を足すために、教室を出てトイレに向かった。
そして数分後、用を終え教室に戻ると教室の中は異様な空気になっていた。
数分前まではサラを囲み賑やかな雰囲気だったが、その光景が嘘だったかのようにサラの周りには誰もおらず、数分前まで称賛の声を出していた男子生徒、黄色い声を出していた女子生徒はサラを避けるように集まっていた。
(ん?何かあったのか・・・?まぁいい、これでようやく話せる)
ヨウはその異様な雰囲気に戸惑いながらも、下を向いて椅子に座わっているサラへ近づく。
すると、1人の男子生徒がヨウの肩を掴み、小声で喋りそれを止める。
『お、おい!何してるんだ!』
『あ?何だよ。お前には関係ないだろ。離せ』
ヨウは男子生徒の手を振りほどき、再びサラへ歩み寄る。
しかし、男子生徒は今度は強めに肩を掴み、再び小声で喋りヨウの歩みを止める。
『あいつに近づくのはやめとけって!』
『ってぇな。だから、お前には関係ないだろ』
『お前の為に言ってるんだ!』
『あ?どういうことだよ?』
ヨウにそう問いかけられた男子生徒は、さらに小さい声でこう言った。
『あいつ、ムクロ出身なんだ・・・!』
『・・・!』
その言葉を聞き、流石のヨウも驚きの表情を見せる。
(ムクロって、確か・・・)
ヨウは驚きの表情のまま、サラへ思わず目線を向けてしまう。
それに気付いたのか、サラは小さな体を更に小さくして下を向き、丸まるように椅子に座る。
すると、教室の扉がガラガラっと開き、女性の先生が入ってきた。
『授業の時間ですよ。皆さん、席に着いてください』
先生のその声に従い、生徒達は自分の席に座り始める。
ヨウもヨウの肩を掴んだ男子生徒も自分の席に着く。
そんな中、サラの近くに席がある生徒達はサラから少し椅子を遠ざけ、怯えるように座った。
異様な空気を漂わせて授業が進んでいく中、ヨウは[ムクロ]に関して父親から言われたことを思い出し、周りの生徒が怯えた様子の中、1人口角を上げた。
そして午前中の授業が終わり、昼食を挟んで模擬戦の時間が訪れた。
昨日は初日ということもあり、改めて先生は生徒達の実力を見る為、1組ずつ戦わせていたが、今日からは昨日とは別の人と組み、何組か同時に模擬戦を行う事になった。
しかし、ヨウとサラだけは既に初歩的なオーラの纏い方が出来ているのと、素の実力が他の生徒よりも高いことから昨日同様、2人で組む事になった。
2人の出番が来ると、ヨウは昨日よりも更にやる気に満ち溢れた表情で片手剣を構える。
(まさか、ムクロの奴と戦えるなんてなぁ!マジで王都に来てよかったぜ!)
昨日、サラと出会い心の奥で燃え上がった炎はムクロと言う言葉をきっかけに更にメラメラと燃え上がった。
しかし、逆にサラは昨日の自信に満ち溢れた表情が嘘だったかのように槍を構えた。
顔は常に下を向き、何かに怯えるような表情をしている。
『はぁー・・・』
ヨウはため息を吐き、呆れる。
そのため息はサラにではなく、サラを見つめる周りの生徒達へだった。
(情けねぇ・・・冒険者や騎士になろうとしてる奴らが何をビビってんだよ・・・)
自分達の模擬戦の順番が来るまで待機していた生徒達は、サラの方をチラチラと見ていた。
サラの事を見る生徒達の目には【恐れ】の感情があった。
(王都でもこの目を見る事になるとはな・・・まぁ、俺に対してじゃないけど・・・)
ヨウは下を向き、怯えているサラに近づき声を掛ける。
『おい』
『・・・な、なに』
サラはヨウの声にビクッとし、返事をする。
『周りの奴らの目なんか気にすんな。今は俺との戦いだけに集中しろ。いいな』
ヨウはそう言い残し、定位置に戻る。
サラはその背中を見つめることなく直ぐに下を向き、小さく何かを呟いたが、その声はヨウに聞こえる事は無かった。
ヨウは定位置に戻ると、再び片手剣を構える。
(俺は他の奴らとはちげぇ。ムクロ・・・罪人が集う集落・・・親父はそう言ってた。でも、その後にこうも言ってた。ムクロの奴らは強いやつしか居ないって)
他の組は既に模擬戦を始めていて、周りから武器と武器がぶつかり合う音が響く。
(ムクロ出身だからビビる?ちげぇだろ。ムクロ出身だから燃えるんだろうが!周りのやつなんか気にすんな。俺だけを見ろ、俺だけを!)
サラが槍を構えたのを確認したヨウは昨日同様、勢いよく自分から仕掛けていく。
(取り敢えず初撃だ。昨日は上手く対応できなかったが、初めの攻撃を上手くガードさえすればその後の攻撃も捌けるはず。そしたら、間合いに入れる!)
昨日の戦いで何となくサラの間合いを把握したヨウは、間合いに気をつけながらサラに接近する。
しかし、まだしっかりと間合いを測れていなかったのか、予想外のタイミングで攻撃が飛んでくる。
(っ!もう攻撃範囲内だったか!)
サラの槍は右から払うようにしてヨウの足元へ向かっていく。
(まずい!これをくらったら動きを止められて、また昨日みたいに連撃が始まる・・・!くそっ、避けれねぇ!)
ヨウは昨日みたいにボコボコにやられると思った。
しかし、サラの足払いが足に当たった瞬間、前進する動きは止まらなかった。
それに、サラは驚いたのか追撃をしてはこなかった。
ヨウは戸惑いつつも前進し、自分の攻撃が届く範囲までサラへ近づくことができた。
それから、2人はお互いに戸惑いを持ちつつ模擬戦は進んで行き、お互いが不完全燃焼のままこの日を終えた。
そして、その日の夜。
ヨウは自分の部屋のベットに寝転び、今日の模擬戦を振り返っていた。
(今日のあいつの攻撃、昨日よりも軽かった。何回くらっても平気なくらいに)
その原因は考えるまでも無かった。
(原因はクラスの奴らの目だ。あいつがムクロ出身って知ってから露骨に見る目を変えやがった。それにあいつはビビってるのか知らねぇが、昨日の力の半分も出てなかった。ちっ、クラスの奴ら余計な事しやがって!)
ヨウはイライラしながら眠りについた。
次の日から、ヨウは何とかしてムクロ出身のサラと初日のような本気の戦いがしたく、色々行動を起こした。
『いいか。周りの目は気にするな!俺だけに集中しろ!俺だけを見ろ!』
と、模擬戦前に声を掛けてたり、片手剣を辞めサラと同じ武器の槍に変えたりなど、どうにかしてサラに本気を出させようと試みた。
しかし、サラは一向に変わらなかった。
常に顔は下を向き、怯えるように教室の中では椅子に座っていた。
(くそっ、どうしたら俺を見てくれるんだ!どうしたら!)
サラと出会って燃え上がっていた炎は日が進むにつれて段々と小さくなっていった。
何をしても一向に本気で戦ってくれない。
ヨウは諦めかけていた。
ところがある日。
授業が全て終わった放課後、ヨウはある光景を目にする。
それは、サラが顔を上げ楽しそうにしている姿だ。
相手は髪の長い男性、目つきの悪い男性、ツインテールの女性、2メートル近い身長の男性だった。
もじもじはしているが、とても楽しそうに笑っていた。
(誰だあいつらは・・・?)
そんなサラをじっと見ていると、クラスメイトの男子生徒が肩を叩く。
『どうしたんだヨウ?何、見てるんだ?』
その男子生徒はヨウの視線の先を見ると、感心したように声を出す。
『ああ、ムクロの。ヨウだけだぞ。ムクロ出身って知ってもあいつに話しかけるバカなんて』
『・・・あいつらは?』
『ん?』
『あいつらだよ』
ヨウは視線をサラと話している人たちに向ける。
『ああ、ムクロの奴と話してる人?確か、2年生の人達だよ』
『2年・・・』
『そう。あの髪の長い人なんて2年生の中でも頭1つ抜けて強いらしいぜ。他の3人も2年生の中じゃ強い方らしいな』
そう聞くと、ヨウは髪の長い2年生を睨むように見つめた。
『それにしても、よくあんな普通に話せるよな。普通ならムクロ出身って知ったら恐くて避けるのに。よっぽど優しい人なのか、めちゃくちゃバカなのかのどっちかだな。まぁ・・・バカならここにもいるけどな』
男子生徒はヨウをからかうと、その場を後にした。
その後も、ヨウは楽しそうにしているサラ達の姿を遠くから見つめる。
(何で2年の事は見るんだよ・・・俺だって2年と同じように接したはずだ。ムクロ出身って知っても普通に接したはずだ!それなのに何で・・・何でお前は俺を見てくれない!2年と俺で何が違うんだ!)
ヨウは拳を強く握り、考える。
2年生と自分とでは何が違うのか。
すると、さっき自分をからかった男子生徒の言葉が頭に浮かんだ。
(強さだ・・・2年の奴らと違うのは強さだ。俺が弱いからサラは俺を見ない!舐めてやがるんだ、見下してんだ!)
小さくなりかけていた炎は再び燃え上がった。
強い嫉妬によって。
♢♢♢
(あれから、俺は強くなった!C級だって、倒せるようになった!それなのにお前は・・・お前は何で俺を見てくれない!)
嫉妬と怒りが混ざった凄まじい突きがサラを襲う。
サラの攻撃をモノともせず、ノーガードで何回も槍を突いた。
その攻撃はクリーンヒットし、サラは吹き飛ばされ木に強くぶつかった。
「っ!」
サラは槍を地面に突き、何とか立ち上がる。
そんなサラにヨウは追撃をしてくる事はなかった。
(どうしたら、お前を本気にさせれるんだ!どうしたら・・・!)
ヨウは必死に考える。
サラが本気を出したのは初めの模擬戦の時。
その時のサラは顔を上げ、笑顔だった。
(どうしたら、あいつの顔を上げられる?あいつが顔を上げてたのは初めて模擬戦をした時と、後は・・・)
その時、ヨウの頭には髪の長い2年生が浮かんだ。
「・・・そういえば死んだらしいな」
「・・・?」
「あいつだよ。ほら、お前とよく一緒にいた2年の髪が長い奴。シークって言ったっけ?」
槍を地面に突き、フラフラな様子だったサラの身体がピクっと動いた。
「2年で1番強かったらしいな。・・・でも、死んだ!何で死んだか分かるか、弱かったからだ!」
「・・・」
ヨウは冒険者の集う街に産まれ、育った。
だから、冒険者が虚獣と戦い死んでいく姿を子供の頃から間近で見ていた。
冒険者の同僚達が悲しむ姿、家族の人達が涙を流し悲しむ姿も。
だから、人の死をだしにするなんて事は絶対にダメだと身体に刻まれていた。
刻まれていたが、自分でも抑え切れないくらいの嫉妬が怒りが溢れる。
「弱かったからよく分からねぇクロビトなんかに殺された!でも、俺はちげぇ!俺は死なねぇ!俺はシークよりも強いからだ!だから、お前も本気をっ・・・!」
「黙って・・・」
その声は小さかった。
小さかったが、ヨウの言葉を止めた。
何故なら、その言葉には大きな怒りと殺意がこもっていたから。
サラの持っている槍が純白に光りだす。
「あなたは絶対に許さない・・・シーク先輩をバカにしたあなたは!!」
サラは顔を上げ、真っ直ぐヨウを見ながら声を荒げてそう言った。
そんなサラを見てヨウは生唾を飲み込み、ゆっくりと口角をあげた。
続く




