ゴウVSカタン(3)
ゴウは両手剣を構えて、カタンに問いかける。
「カタンは何の為に強くなってるんだ?」
「・・・そんなの冒険者になりたいからに決まってるだろ」
「本当か?」
「っ、何が言いたいんだよ!」
「・・・俺の目には、ただデカいやつらを見返す為に強くなっているようにしか見えない」
♢♢♢
『いいかボウズ。夢を叶えるのは他人じゃない自分だ。未来を向いた奴だけが夢を叶えられる』
ゾガンは優しい声でそう言った。
『前を向く・・・?』
ゴウは首を傾げる。
『そうだ。誰かに笑われたり、バカにされても前を向くんだ。それを憎んだり、恨んだりするんじゃない。糧にするんだ』
ゾガンはゴウの頭にポンっと優しく手を置いた。
すると、ゴウは心に刺さっていた物がスゥーッと消えていくような感覚になった。
『そしたら、いつか本気でボウズの夢を応援してくれる友達や仲間が出来る。そうなったら、次はボウズが誰かの夢を応援してやれ』
『俺が?』
『ああ。夢を叶えるのは自分だが、それを支えるのは他人だ。誰の支えもなく、夢を見失っている奴がいたら、今度はボウズが前を向かしてやるんだ』
♢♢♢
「カタンは冒険者になる為に、学校に入ったんだろ。憎しみや恨みを持って、武器を振る為じゃないはずだ」
「黙れ・・・」
カタンは前髪をくしゃくしゃする。
「いつまで過去を向いてるんだ。後しか見てない奴の攻撃なんか効かない!夢は未来を向いてなきゃ叶わないんだ!そのままじゃ、冒険者なんてなれない!」
「っ!黙れ!!」
『冒険者になれない』この言葉は、カタンにとってデカい奴らへの憎しみや恨みを持ち始めたきっかけでもあり、ここまで強くなれた力の源だった。
しかし、それと同時に冒険者になると言う夢を見失った言葉でもあった。
(冒険者になれない・・・?ふざけるな!何が、いつまでも過去を向いてるだ・・・何が、未来を向かなきゃ夢は叶えられないだ!冒険者に必要なのは強さだ!)
「憎しみや恨みで武器を持ったって、強けりゃ冒険者になれんだよ!!」
カタンは怒号と共に、地面を蹴って勢いよくゴウヘ襲いかかる。
そんな中、ゴウは微笑んでいた。
(おっちゃん。おっちゃんの言うとおり、あれから俺は未来を向いて夢の為に歩き始めた。そしたら出来たんだ。俺の夢を本気で応援してくれる友達・・・仲間が)
ゴウは両手剣に勢いよくオーラを纏い始める。
(俺には支えてくれる仲間が出来た!だから次は、俺が誰かの夢を支える番だ!)
両手剣が純白に光る。
「魂創器化したからなんだ!当たんなきゃ意味ねぇんだよ!!」
カタンは止まることなくゴウへ突っ込む。
「おらぁーー!!」
力いっぱい振り下ろされた両手剣は、今までで一番鋭かった。
(っ!速い!ダメだ、避けれない!)
ゴウの斬撃は確かに鋭かった。
模擬戦が始まる前のカタンだったら避けれていたかもしれない。
しかし、今のカタンが避けるのは困難だった。
何故なら体と心がチグハグだったからだ。
夢を笑われた日から、カタンの中では冒険者になると言う夢よりもデカい奴らを見返すのが一番になっていた。
そんな中、ゴウに『カタンは何の為に強くなってるんだ?』と聞かれた時、心に迷いが生じる。
(そんなの・・・あれ・・・?俺は何で強くなってるんだ?デカイ奴らを見返す為・・・いや、冒険者になる為・・・)
心に迷いが生まれたカタンの体は冒険者になると言う夢の為に未来を向き始めたが、心は未だにデカい奴らへの憎しみや恨みを持って過去を向いたままだった。
その結果、体と心がチグハグになりカタンの動きを鈍らせた。
そして次の瞬間、カタンはゴウの両手剣に押し潰されるように地面へ叩きつけられた。
「ぐぁ!!」
(ぐっ・・・!くそっ、結局デカいやつには勝てないのかよ・・・)
うつ伏せに倒れているカタンは起き上がろうとするも、足に力が入らず今度は仰向けに倒れる。
『カタンは冒険者になる為に学校に入ったんだろ。憎しみや恨みを持って、武器を振る為じゃないはずだ』
ゴウの言葉が頭に浮かぶ。
(俺だって初めは純粋に冒険者になりたくて学校に入った!あの冒険者のように・・・子供の頃、助けてくれたあの両手剣を背負った冒険者のようになりたくて・・・)
カタンは悔しそうにヴェリアの魔法によって創り出された空を眺める。
すると、
「大丈夫か、カタン?今回は俺の勝ちだな!」
ゴウがニカッと、屈託のない笑顔を浮かべながら手を差し伸べた。
その姿は、子供の頃助けてくれた冒険者を思い浮かばせた。
(そういえば、あの冒険者もこんなふうに笑いながら手を差し伸べてくれた・・・)
♢♢♢
カタンが家族で王都の外へ出掛けていた時、乗っていた馬車に虚獣が襲いかかってきた。
追いかけてくる虚獣から逃げようと馬車は激しく揺れる。
すると、子供の頃から小さかったカタンはその揺れに耐えきれず、馬車から振り落とされてしまった。
両親が御者に馬車を止めるように訴えかけるが、ものすごいスピードで走っていた馬車が止まった頃には、既に数百メートルは離れていた。
虚獣は地面に倒れているカタンへドシッドシッと近づき、鋭い爪を振り下ろそうとする。
両親は叫び、カタンは何が起こったのか分からず動けずにいた。
すると、
『おらぁーー!!』
と、猛々しい声と共に1人の男が両手剣を振り下ろし、虚獣を一刀両断した。
男は両手剣を背中に背負うと、倒れているカタンに近づき手を差し伸べる。
『大丈夫か、ボウズ!』
ニカッと笑い、そう言った。
男の顔や腕には傷があり、身長も高く体格もいい。
普通の子供なら、怖がってもおかしくない風貌だった。
しかし、カタンの目にはその男が英雄のように見える。
カタンはその手を取り、お礼を言いながら立ち上がると、
『あ、あの、おじさんは冒険者ですか?』
『ああ、そうだ』
『俺でも・・・小さくても冒険者になれますか・・・?』
カタンは不安そうに、弱々しい声でそう言った。
すると、男はしゃがみ目線を合わせる。
『確かに冒険者はデカいやつばっかだ。でもその中には、少ないが小柄な冒険者だっている。俺の知り合いにもいるが、最初の頃は舐められたりして大変だったそうだ。でも、そいつは今も冒険者として活躍している。何故だか分かるか?』
カタンは首を横に振る。
『諦めなかったからだ。何を言われても、それを糧にして未来をむいた。だから、冒険者になれたんだと俺は思う』
微笑みながらそう言うと、男は再びニカッと笑い、カタンの頭にポンっと優しく手を置いた。
『夢を叶えるのは自分だ。ボウスも冒険者になりたいと思ってんなら、未来を向いて頑張れ!そしたら、きっと冒険者になれる!』
『うん!』
♢♢♢
(そうだ・・・あの人も未来を向けって言ってた。何で、こんな大事なこと忘れてたんだ・・・)
学校に入った時、周りがデカいやつしかいなかった事で少し心が折れかけたカタンだったが、男の言葉を思い出し諦めずに前を向いた。
しかし、そこへ追い打ちをかけるように夢をデカいやつに笑われ、カタンの折れかけだった心は完全に折れる。
そうして、ただただデカいやつらへの憎しみや恨みと言った感情だけがカタンの心を覆い尽くし、男の言葉を閉じ込めていった。
しかし、ゴウが覆い尽くしていたものをかけ分け、笑いながら手を差し伸べる姿を見せたことで、カタンは思い出す事ができた。
カタンはゴウの手を取り、ふらふらになりながら立ち上がる。
「・・・ひとつ聞いていいか?」
「何だ?」
「何で戦ってる最中、笑ってたんだ・・・?」
「ん?そんなの楽しいからに決まってるだろ」
「楽しい・・・?」
「ああ。この1年で強くなった自分を試せる。そんな模擬戦、ワクワクするだろ!」
ゴウは笑いながら、そう言った。
(模擬戦が楽しい・・・そんな事、思ったことなかった・・・俺にとって模擬戦はデカいやつらを見返す為の場所だったから・・・)
カタンが下を向きながらそんな事を思っていると、ゴウが優しい声で喋り始める。
「俺も子供の頃、夢を笑われたことがあった。だから、俺は人の夢を笑ったりしない。応援する」
「・・・そんなこと言われたのは初めてだ」
「そうなのか?少なくとも1年間一緒に特訓してきたナイト達は、カタンが冒険者になる事を笑ったりしなかったはずだ」
ゴウの一言で、カタンの頭の中にナイト達の声が浮かんでくる。
『カタンは身軽だから探索とか出来て、冒険者に向いてるな!』
『カタンさんの回避能力にはいつも驚かされます。本当にすごいですね』
『いやー、カタン先輩がいつも虚獣の注意を引きつけてくれるから戦いやすいですわ。流石2年生、強いっすね!』
(そうだったな。アイツらは俺の事を笑ったりしなかった)
今まで過去ばっか向いてて、ナイト達の声に気づいていなかったカタンだったが、ゴウと戦って体も心も未来を向き始めた事により、ナイト達の声がハッキリと頭に浮かんできた。
さらに、カルド先生の声も頭に浮かぶ。
『カタンは、もう少し楽しそうに戦うといいぞ!冒険者は強くあるのも大切だが、笑顔でいるのも大切だ。冒険者は人を助ける仕事でもある。助けた時に暗い顔してたら、助けてもらった人は素直に喜べないだろ』
(確かに、俺を助けてくれた冒険者はずっと笑ってた。俺はそんな冒険者に憧れてたんだ・・・今からでも遅くないよな。こんな俺の夢を応援してくれる奴らがいる事に気づけたんだから!)
体も心も未来を向いたカタンは、この日から改めて、子供の頃に助けてくれた冒険者のように強くなろうと決意した。
「次は負けないからな」
「ああ!」
スッキリした表情でカタンがそう言うと、ゴウは嬉しそうな表情を浮かべ、力強く返事をした。
こうして、ゴウVSカタンはゴウの勝利で幕を閉じた。
(ふぅー、楽しかったが流石に疲れたな。サラは大丈夫だろうか・・・)
ゴウは武器を地面に突き、疲れた様子で森に入っていったサラの方を心配そうに見つめた。
続く




