ゴウVSカタン(2)
カタンの止まらない猛攻は、じわじわと毒のようにゴウの体にダメージを蓄積させていく。
(次々と攻撃が襲いかかってくる!ガードしようにも追いつかない!)
斬撃は正面からだけではなく、時に横から、後ろからゴウを襲う。
まるで、蜂の軍勢に囲まれているようだった。
このままでは防戦一方。
ゴウは何発か受けるのを覚悟でガードをやめ、一回転するように両手剣を振り回し反撃に出る。
それはまたしても絶妙な高さの斬撃。
しゃがんでも中途半端に跳んでも避けられない。
ここでまた高く跳んで避けたら、前と同じ展開になる。
『さっきは避けれたけど次は避けられるか分からない』、そう思ったカタンは仕方なく後退した。
両手剣を地面に突き刺し、肩で息をしているゴウの姿を見て、カタンも肩で息をしながら呆れた声を出す。
「はぁ、はぁ・・・こんだけ攻撃して、ようやく倒れる素振りかよ・・・まぁ、でも次で終わりだ」
カタンは短剣を構え、腰を低く落とす。
すると、ゴウが口を開く。
「はぁ、はぁ・・・カタンの攻撃じゃ、俺は倒れない・・・」
「・・・それは、俺がチビで非力だからか」
「違う・・・」
「じゃあ、何だよ!」
「・・・前を見てないから」
ゴウは両手剣を構え、真っ直ぐカタンの方を見る。
『知ってるかゴウ、この世界には伝説の鉱石があるらしいぞ!それを素材にして打てば絶対に壊れない武器が作れるそうだ』
この父からの言葉はゴウに夢を与えた。
伝説の鉱石を手に入れて絶対に壊れない武器を作る、そんな夢を。
♢♢♢
『ゴウ、冒険をするんだ。そしたら、いつか見つけられるかもな!』
ゴウの父はそう言った。
伝説の鉱石を見つけ手に入れる為には、世界を冒険しなくてはならない。
ゴウはその言葉を聞いた日から、冒険者になる為に身体を鍛え始める。
同時に鍛冶の技術も学びたかったが、父が忙しくてたまにしか教えてもらう事はなかった。
その為、鍛冶場にいる時はほとんどの時間、見て学んでいた。
ゴウは目をキラキラさせながら、その夢を追いかけ始める。
そんなある日、ゴウは近所の同年代の子供と遊んでいる時にその夢を話した。
『すげー!そんなのあるんだ!』
こんな感じで、みんなも目を輝かせてくれると思っていた。
しかし、現実は違った。
『そんなんあるわけないじゃん!』
少年は無邪気にそう言った。
一瞬、頭が真っ白になる。
『・・・えっ』
『そーそー。そんなものあったら、英雄様が見つけてるもん』
違う少年が続けてそう言う。
『えっ・・・でも、あるって父さんが・・・』
『そんなもん嘘に決まってるだろ』
『お前の父ちゃん、嘘つきだ』
2人の少年は、悪気の無さそうな声で笑う。
しかし、ゴウからしたら尊敬する父をバカにされた気分。
『父さんは嘘つきじゃない!』
『うわぁ!』
ゴウはカッとなり、思わず2人に殴りかかってしまう。
しかし2対1、まだ体が大きくなかったゴウは当然返り討ちに合う。
するとそこに、たまたま通りかかった男の冒険者が止めに入る。
その冒険者は40代前半くらいで身長が2メートル近くあり、ガタイもよく、背中には両手剣を背負っていた。
顔や腕には傷が何ヶ所もある。
その風貌に2人の少年は怖がり、声を出して走り去っていった。
『最近の子供は元気だな・・・ほれ、立てるかボウズ』
『うん・・・』
男は手を伸ばし、ゴウを起こす。
すると、男はゴウの顔をじっと見つめる。
『・・・何?』
『ボウズ、もしかしてダウのせがれか?』
ダウはゴウの父の名前だ。
『そうだけど・・・』
『やっぱそうか!褐色だし、よく見たらダウに顔が似てるもんな』
男はニカッと笑う。
デカくて顔と腕に傷がある男。
普通の子供からしたらとても怖い風貌だ。
しかし、ゴウの目にはその男が何故か、かっこよく見えた。
『それじゃあ、行くか!』
『どこに?』
『お前の家だ。ちょうどダウの所に行こうとしてたんだ』
男はそう言うと、ゴウを肩車して歩き始めた。
鍛冶場に着くと、男はゴウを下ろし大きな声を出しながら入っていく。
『おーい!ダウ、いるかー!』
カンカンッと鳴っていた音が止む。
『その声はゾガンか!』
ゴウの父、ダウは嬉しそうにこちらへ近づいてくる。
『久しぶりだな、ダウ!』
『おー、久しぶりだな!1年ぶりくらいか?どこ行ってたんだよ!』
『仕事で雪原エリアの方にいたんだ。それがようやく終わって、さっき王都に着いたばっかだ』
久しぶりに会った2人は嬉しそうに話す。
すると、ゾガンの大きな体に隠れていたゴウの姿にダウが気づく。
『ん?そこにいるのはゴウか?何でゾガンと一緒に?遊びに行ってたんじゃ・・・』
ダウの目には、ボロボロ姿のゴウがうつる。
『何があったんだ?』
下を向き何も喋らないゴウに変わって、何があったのかをゾガンが話してくれた。
話を聞き終わると、ダウはゴウの目が見えるようにしゃがみ、優しい声を出す。
『どうしてそうなったんだゴウ?』
『・・・笑われたんだ。伝説の鉱石なんか無いって・・・父さんは嘘つきだって・・・』
『ゴウ・・・』
ゴウは涙を堪えながら喋る。
すると、ゾガンはそんなゴウの頭に優しくポンっと手を置いた。
『おっちゃん・・・?』
ゴウが顔を上げると、ゾガンはニカッと笑う。
『とりあえずダウ、武器を見てもらっていいか?修理が必要なら修理も頼みたい』
ゾガンは背中に背負っていた両手剣を取り、ダウに渡した。
『それは別に構わないが・・・』
『それじゃあ頼んだ!終わるまで俺はボウズと遊んでるわ!』
そう言うとゾガンはゴウを再び肩車する。
『えっ!ちょっ、どこ行くのおっちゃん!?』
『ん?そんなの楽しい所に決まってるだろ!』
困惑するゴウを連れて、ゾガンは笑いながら鍛冶場を出て行った。
鍛冶場を出て大通りに出ると、ゾガンに気づいた冒険者達は嬉しそうに声を掛ける。
『あっ、ゾガンさん!いつ帰ってきたんですか?ぜひ今度、模擬戦の相手して貰いたいです!』
『おー、ゾガン!帰ってきてたのか!今度、一杯やろうぜ!』
ゾガンが帰ってきた事に、若手からベテランまで様々な冒険者が喜びの声を上げ、ゾガンも嬉しそうに返事を返した。
ゴウがその光景に驚いていると、いつの間にかゾガンの歩みは止まり、酒場の前にいた。
『ぷぅはぁー!やっぱ、王都の酒も美味しいなー!』
ゾガンは大きな木のジョッキをテーブルにドンっと置き、満面の笑みを浮かべる。
(・・・まだ、明るいのにお酒飲んでる。色んな冒険者達が声をかけるからすごい人だと思ってたのに・・・)
ゴウはその姿を見て、少しがっかりする。
『相変わらず良い飲みっぷりだな、ゾガン!』
『そりゃあ、ここの酒が美味いからさ!マスターも、まだ明るいのに店を開けてくれて助かったよ!』
『なぁに、お前が帰ってきたんだ。喜んで開けてやるよ!』
酒場は基本的に、陽が落ちた夕方から開くことが多い。
まだ明るい時間から開けてもらったので、店内は貸切状態だった。
『マスター、おかわり頼めるか!』
『おうよ!』
ゾガンは空のジョッキをマスターに渡した。
マスターが離れ2人きりになると、ゴウはつまんなさそうな顔で口を開く。
『おっちゃん、楽しい場所ってここ?』
『ああ、そうだ!楽しいだろ!』
『別に楽しくないよ。お酒飲めないし・・・』
ゴウはテーブルに置かれたジュースを一口飲む。
そして、気になっていたことを聞く。
『おっちゃんって、すごい冒険者なの?』
『ん?』
『だって、あんなに色んな冒険者から声をかけられてたから・・・』
『そうだな・・・』
ゾガンが喋ろうとすると、ジョッキがテーブルにドンッと置かれる。
そして、マスターが誇らしそうに喋り始めた。
『そりゃあ、すごい冒険者だぞボウズ!なにしろ上位冒険者に近い男だからな!』
上位冒険者とは英雄の次に強いとされる称号だ。
A級の虚獣は勿論、S級も倒せるくらいの実力があると判断された冒険者に与えられる。
『やめてくれマスター。俺なんか、まだまだ上位冒険者には程遠いいよ』
『何言ってんだ、お前は強い。自信を持て!ゾガンなら、きっと夢を叶えられるさ!』
『・・・ありがとうなマスター』
ゾガンはテーブルに置かれたジョッキを持ち、勢いよく飲み始めた。
その様子を見て、マスターは満足そうに頷く。
そして、マスターは仕事があるからと言って裏の方へ歩いて行った。
勢いよくお酒を飲むゾガンをゴウは見つめる。
『どうしたボウズ?』
『・・・おっちゃんの夢って、何なの?』
ゾガンはジョッキをそっと置く。
『英雄になりたいんだ』
英雄。
それは、白の大陸や王都などに訪れた危機を救った者に贈られる称号。
そして、英雄になる者には1つの共通点があった。
『でも・・・おっちゃん・・・』
『ああ、俺は魂創器を出せない・・・』
英雄と呼ばれている者は、例外なく魂創器使いだ。
魂創器を出せるようになれば神力や魔法が発現するので、魂創器化とは天と地ほどの差がある。
ゴウと出会った時、ゾガンの背中には両手剣が背負ってあった。
基本的に魂創器使いが武器を装備する事はほとんど無かった。
『魂創器が出せないんじゃ英雄になれるわけないだろ、って散々言われたな・・・』
ボソッとそう言うとゾガンはお酒を一口飲み、今度はゴウに質問をする。
『ボウズは何か叶えたい夢はあるか?』
『・・・伝説の鉱石を見つけて、壊れない武器を作りたい・・・でも、それを言ったら笑われた・・・』
ゴウは涙を堪えながら、ジュースの入ったコップを強く握った。
『夢、諦めるのか?』
『・・・』
ゴウは下を向き、黙ってしまう。
あの少年達も悪気があったわけではない。
ただ、子供のゴウにはそれが深く心に刺さった。
すると、ゾガンは立ち上がり、座っているゴウの目の前まできてしゃがんだ。
そして、ニカッと笑った。
『いいかボウズ。夢を──』
このゾガンの言葉はゴウの心に深く刺さった棘をそっと取り除いた。
続く。




