過ち
ドルト先生はアカサの下へ向う。
曲がり角を曲がると、生徒達の部屋が並ぶ長い廊下に出た。
その長い廊下の遠くの方から、下を向き、とぼとぼ歩きながらこちらへ向かってくるアカサの姿が見えた。
ドルト先生は早足で迎えに行く。
「・・・アカサ」
声をかけると、顔を上げた。
「・・・ドルト先生、何でここに?・・・でも、ちょうどよかったです。話したいことがあったんで」
「そうか、私もだ・・・ここではなんだ、場所を移そう」
ドルト先生は来た廊下を戻る。
それにアカサは黙ってついて行った。
2人は寮を出て、教務棟へ向かう。
「ん?あれは、アカサと・・・ドルト先生?何してるんだ?」
雨が降る中、教務棟へ向かう2人の姿を部屋の窓から見ていたゴウ。
そんな2人が気になり、気づいたら部屋を出ていた。
2人は教務棟にある部屋へ入った。
小さな個室の真ん中に机があり、机を挟んでソファーが向かい合って置かれている。
座ると、早速ドルト先生は本題に入る。
「それで、話というのは?」
「その、俺・・・学校やめようと思います・・・」
「・・・どうしてだ?」
「・・・俺がいると誰かが傷つきます」
「それはレナのことを言っているのか?」
アカサは静かに下を向く。
「俺が自分勝手な事をしなければレナが傷つく事は無かった・・・」
「・・・では何故、そんな行動をとったんだ?」
ドルト先生はアカサの本音を引き出そうと質問をする。
数秒の沈黙の後、アカサは口を開いた。
「・・・夢を見るんです。暗闇の中、1人でいる夢を」
「夢?」
「初めは明るかったんです。でも、その暗闇を照らしていた光は遠くへ行ってしまった。俺が弱いから・・・」
「・・・」
「その暗闇にいるのが凄い不安だった・・・だから、俺は早く強くなって──!」
「その『光』に近づきたかった、か?」
「っ!?・・・なんで?」
黙って話を聞いていたドルト先生は遮るようにその言葉を言った。
アカサは驚きの表情を見せる。
そして、懐かしそうな顔を浮かべ、ドルト先生は喋り出す。
「冒険者時代に似たような男を見たことがある・・・少しだけ話をしても良いか?」
「・・・はい」
アカサは何故かその冒険者のことが気になった。
何故かはわからない。
ただ、何となくこの冒険者の話を聞けばこの気持ちが晴れるような、そんな気がした。
アカサは顔を上げ、話を聞く。
「これは私・・・私の知り合いの冒険者の話だ・・・」
"その冒険者はとても強く、周りから期待されていた。
男は真面目な性格で、その期待に応えようと必死に強くなろうと努力をする。
男が努力し、みんなの期待に応えていくたびにその期待はどんどん膨れ上がり、やがて大きな光となって遠くの方に現れる、そんな夢を男は毎晩見るようになった。
そして、男はその大きな光に近づこうと、期待に応えようと無我夢中で虚獣を倒し続け、やがて英雄候補とまで言われるようになった"
─ 英雄候補・・・それって、まさか・・・。
ドルト先生は微笑み、話を続ける。
"そして、男はやっと大きな光の目の前まで近づいた。しかし、どうしてもあと少し届かない。
男は頭を悩ませた。
そんなある日、S級近くまで成長した人型のジンが出たと報告があった。
『これだ・・・』、男はそう思うと直ぐに依頼を受け、止めようとした仲間の声を無視して1人で王都を飛び出した。
結局、男はジンを倒せず、助けに来てくれた師匠が倒した。
しかしその時、男を心配して同行していた仲間が生死を彷徨う事になったり、助けに来てくれた師匠が戦う事が困難になるくらいの怪我を負い、冒険者を引退すると言う事態になった。
それに男は後悔し、絶望し、そのまま冒険者を辞めた"
「こんな、話だ・・・」
「・・・」
「・・・大きな光は時に人を狂わせる。私はそう思った。アカサなら分かるな?」
「・・・はい」
─ 俺はシークという大きな光を取り戻そうと必死になってレナ達に迷惑をかけた。何となくだけど、その冒険者の気持ちが分かる・・・。
「そんな男に師匠はこう言ってたんだ。『遠くだけではなく近くも見ろ』と・・・」
─ 近くを・・・。
「男はみんなの期待に応えようと必死に大きな光に手を伸ばした。ただ、遠くだけを見て・・・男は気づかなかった。近くで仲間が心配の声をかけている事に。気づいていればきっと過ちを起こさなかった・・・!」
ドルト先生はまるで自分に言い聞かせているように話す。
「ただアカサ、お前はまだ引き返せる。もう、気づいているはずだ。本当にその暗闇を照らしてくれるのは・・・お前のことを支えてきてくれてきたのは、本当にその光だけだったのか?」
─ 俺のことを・・・。
アカサはドルト先生の言葉を聞いて、何となく足元に顔を向けた。
次の瞬間、足元が照らされていくような感覚になる。
─ そうだ・・・俺を支えてきてくれたのはシークだけじゃない・・・子供の頃からずっと俺の隣で支えてきてくれたのはレナだ。3年前もレナがいなかったら俺はもっと荒んでいたかもしれない・・・。
足元に光が広がっていく。
─ その荒んでいた俺に声を掛けて来てくれたのはシーク以外でゴウだけだった。・・・まだ、知り合って1ヶ月くらいしか経ってないけど、俺の日常を彩り、さらに明るくしてくれたのはサラだ・・・。
アカサの瞳に光が戻る。
─ そうだ、俺の日常を・・・心を照らしてたのはシークだけじゃなかった。レナ、ゴウ、サラも俺の光だった・・・!
こんな大事なことを忘れていた自分が情けなくなって自然と涙がこぼれてくる。
「・・・まだ、学校を辞めたいと思うか?」
アカサは涙をぬぐい、ドルト先生の目をまっすぐ見る。
「思わないです・・・俺は大事なことを忘れてました。今度は1人じゃなくて、みんなで・・・4人で強くなっていきたいです!」
「・・・そうか」
男のような過ちを起こしてほしくない。
そんな気持ちがアカサに伝わって、ドルト先生は満足そうに微笑んだ。
「俺、みんなに謝りに行ってきます!」
アカサは勢いよく立ち、扉を開ける。
すると、目の前に2メートル近い身長の男が立っていた。
「ゴウ!?・・・なんでここに?」
「2人が寮から出ていくのが見えたから、気になって・・・」
ゴウは気まずそうに立っている。
「・・・ゴウ、その、ごめん!俺の勝手な行動でみんなに迷惑をかけた!」
「アカサ・・・俺の方こそ殴ってすまん!あの時はつい、カッとなってしまった・・・」
お互い、頭を下げて謝る。
「ゴウが謝ることなんてない。俺の心が弱かったのがわるいんだ。全部俺のせいだ・・・」
「アカサ、一人で背負い込むなと言っただろ」
ゴウはアカサの肩に手をそっと置く。
「シークの事をアカサのせいなんて誰も思ってない。レナの事は・・・まぁ、少しはアカサのせいでもあるけど、そんなものドルト先生のせいにしてしまえばいいんだ!」
ゴウは笑顔でそう言った。
「そうだアカサ。今回のことは生徒を守れなかった私の責任だ。お前が背負うべきことではない」
「ドルト先生・・・ありがとうございます」
「・・・ほら、謝りに行くんだろ。さっさと行ってこい」
ドルト先生は少し照れくさそうにアカサ達を部屋から出そうとする。
「・・・あっ、ドルト先生、最後に良いですか?」
「何だ?」
「・・・さっきの冒険者、今は楽しく過ごしてますか?」
「・・・ああ、そうだな。きっと、どこかで楽しく過ごしているはずだ」
微笑みながらそう言った。
「・・・そっか、それなら良かったです!それじゃ、失礼します」
アカサはすっきりした顔でゴウと共にレナとサラの元へ向かった。
ドルト先生はソファーに座り、窓の方へ顔を向ける。
(小降りになってきたな・・・)
立ち上がり、何かを思い出しながら外を眺める。
♢♢♢
『ドルト、いつまでそうしているつもりですか?風邪を引きますよ』
『・・・』
『・・・今度、冒険者や騎士を目指す若者を育てる学校を始めようと思ってます。ドルト、そこで教師をやってみるつもりはないですか?』
『・・・私には無理です』
『何故?』
『私のせいで英雄が1人いなくなったんです。私はみんなの光を消した・・・!そんな私が英雄になるかもしれない子達を育てる資格はない・・・!』
『・・・きっと将来、ドルトみたいに大きな光に狂わされる若者が現れるかもしれない。そんな時、救ってやれるのはドルト、貴方しかいない。私はそう思います』
『・・・』
『その過ちを受け入れて前を向きなさい。貴方が新たな英雄を育てるんです』
♢♢♢
(ディアロ師匠・・・私は教師になって良かったです)
小雨が降る中、雲の隙間から少しだけ太陽の日が差し込んだ。
それはまるで、新たな英雄候補が生まれたことを神が教えてくれているみたいだった。
続く




