大きな光
─ ここ数日、俺はこの暗闇を照らしてくれる光を求めて走り続けた。C級の虚獣を倒せば、この暗闇が照らされると思って。だから必死に1人で挑んだ・・・でも、その結果、俺は自分の覚悟を否定し、仲間を傷つけた。もう、暗闇の中を走るのが怖い・・・走ったらまた誰かを傷つけてしまう・・・だから俺はもう何もしない・・・強くなんかならない・・・。
アカサの周りはどんどん暗闇に包まれていく。
右も左も上も下も暗くて何も見えない。
ただ、微かに光っていた所があった。
しかし、今のアカサがそれに気付く事はなかった。
♢♢♢
ザー、ザーと雨が降っている音が聞こえてくる。
アカサはベットから起き上がり、時計を確認する。
針は朝の9時を刺していた。
昨日、夕方くらいからベットに入ったアカサは、あの夢を見て以降、寝て起きてを繰り返していた。
─ 寝た気がしない。
再び、ベットに寝転がる。
すると、ぐぅ〜、とお腹がなった。
─ こんな時でもお腹は減るんだな・・・。
自分に呆れながらベットから立ち上がり、簡単に身支度を済ますと食堂へ向かう。
─ 食堂の食事もこれで最後だな・・・俺はもう何もしない。ドルト先生に話して学校を辞めよう・・・。
そんな事を思いながら廊下を歩いていると、前から目つきの悪い男が歩いてくるのが見えた。
「・・・ナイト」
「聞いたぜ、お前のせいでチームの1人が怪我したそうだな!」
「・・・ああ」
会って早々、ナイトは嬉しそうな声で痛いところをついてくる。
「やっぱ、お前は英雄の器じゃないな!」
「そうだな・・・」
アカサは下を向き覇気のない声で返事を返す。
「・・・何だよ、それ。この前みたいに睨み返してこいよ・・・おい!」
その態度が気に食わなかったのか、ナイトはアカサの胸ぐらを掴み、顔を上げさせる。
「・・・!何だよ、その顔は・・・」
アカサの目は曇っていて、そこには覚悟を決めて学校に残った戦士の顔はなかった。
「もう・・・いいんだ。俺は学校を辞める・・・」
「はぁ・・・?何言ってんだ・・・ふざけてんのか!俺と戦えよ!!」
ナイトの声はどんどん大きくなっていく。
「戦わなくても分かるだろ。俺はC級を倒せなかったけどお前は倒したんだ・・・ナイトの方が強い」
「っ!違う!!俺はお前に勝たないとシークの変わりに英雄を目指せない!!」
「・・・今、シークは」
『今、シークは関係ないだろ!』
「、関係ないだろ ・・・」
ゴウに言われたことが頭に浮かんだ。
「関係ある!!俺はシークを超えたいんだ!!」
そう声を荒げながら言うナイトに、アカサは何処か憶えがあった
─ ナイトのこの感じ・・・どこかで・・・。
「でも、もうシークはいない!!だから、最後にシークと戦って引き分けたお前しかいないんだ!!」
─ そうか、この感じ・・・。
「俺は英雄になってシークに恩返しがしたいんだ!!」
─ 俺と同じようにナイトはシークに救われたんだ・・・ナイトにとってもシークは光だったんだ・・・。
シークと出会い、必死にシークに追いつこうとしていた頃の自分を見ているようだった。
─ 何故か、俺は俺だけがシークを越えようとしていると思ってた・・・そんなはずないのに。冒険者や騎士を目指す人が入ってくる学校だ。誰もが強くなろうと思っていたはずだ。そんな人達がシークを越えようとしないはずがない・・・シークはきっとみんなの光だったんだ・・・俺はその光を消した・・・。
「・・・ごめん・・・」
アカサの口から自然とその言葉が出た。
「っ!何が『ごめん』だ!!誰も謝れなんて言ってない!!ふざけんなっ!!何でお前なんかをシークは庇ったんだよ・・・!お前が死んでればよかったんだ!!」
そう声を荒げるとナイトはアカサを吹き飛ばすように胸ぐらを離し、来た道を早足で引き返していった。
吹き飛ばされ壁にぶつかったアカサはそのまま背中を壁に擦らせながら、崩れるように床にお尻をつけた。
(くそっ!くそっ!ふざけやがって!!)
ナイトは階段を降りようと早足で角を曲がる。
すると、何か固いものに当たった。
「っ、いてぇ・・・カルド、先生・・・」
当たった勢いで尻餅をついたナイトが顔を見上げると、カルド先生が少し怒ったような表情をして立っていた。
ナイトが立ち上がると、
「言い過ぎだ」
そう言って、拳を握り軽く頭を叩いた。
「っ・・・だって、あいつ学校辞めるとか言い出したんですよ!わざわざ、カルド先生に嘘までついてもらったのに・・・!」
怒りながらも、申し訳なさそうに反論した。
すると後ろから、
「やはり、あれは嘘だったんだな」
そう言いながら、ドルト先生が階段を上がってくる。
「ドルト・・・」
「おかしいと思ってたんだ。あの時のナイト達ではC級の虚獣を倒せる実力は無かった」
「・・・やっぱ、バレてたか」
カルド先生はあっさりと嘘を認めた。
「違うんです!俺がお願いして嘘をついてもらったんです!だからっ・・・!」
ナイトはカルド先生が怒られるんじゃないかと思い、必死に弁明する。
「別に何か言う為にきたのではない。アカサに用事があって来たら、たまたま聞こえてきただけだ・・・それよりも、アカサは学校を辞めると言ったんだな?」
「・・・はい」
「そうか・・・」
ドルト先生は返事をするとアカサのいる方へ歩き始める。
「待ってください!・・・あいつの所に行くんですよね」
「ああ」
「絶対に辞めさせないでください・・・!」
「・・・ライバルがいなくなるのが寂しいのか?」
「ライバル?笑わさないでください、あいつはただの通過点ですよ・・・そう、英雄になる為には必ず通らないといけない・・・ただの通過点です・・・」
初めは嗤いながら喋っていたが、段々と真剣な表情に変わっていく。
言い終わると、ナイトはそのまま階段を下りて行った。
ナイトの姿が見えなくなると、ドルト先生はやれやれな表情をしながらため息をつく。
「はぁー・・・アカサといいナイトといい、今の2学年は癖のある奴しかいないな」
「ああ・・・そして、その中心にいたのがシークだ」
そう言ったカルド先生はいつになく真剣な顔をして静かにドルト先生の方を見た。
「大きな光は時に人を狂わせる・・・ドルトなら分かるよな」
「・・・ああ」
その一言にドルト先生の決意を感じたカルド先生は満足そうな表情をする。
「そうか、それなら良いんだ」
(昔から、暑苦しくて人を煽るくせに、時折人の気持ちが分かったように気遣ってくる。本当にやな奴だ・・・)
そう思いつつも、ドルト先生は満更でもなさそうだった。
「それじゃ、俺は戻るわ」
カルド先生は階段を降りようと背中を向け、歩き始める。
「あっ!最後にいいか?」
「まだ、何かあるのか」
背中を向けたまま、カルド先生は喋り始めた。
「・・・先生は楽しいか?」
「何だ、急に」
「いいから、答えろ」
困惑しつつも、ドルト先生は返答をする。
「・・・楽しいさ。大変だが、やり甲斐がある」
「そうか・・・俺もお前を追いかけて先生になって良かったよ」
2人は先生という立場を一瞬だけ忘れ、友と話しているかのように砕けた話し方でそう言った。
「・・・まぁ、私はカルドがいない方が良かったんだかな」
「本当は嬉しいくせに、素直じゃないな!」
「だ、黙れ!さっさっと、行け!」
「おじさんのツンデレはモテないぞ!わっはっはっはっ!」
カルド先生は豪快に笑いながら、階段を下りて行った。
(まったく・・・さて、私も行くか)
気合を入れ、再びドルト先生はアカサの下へ歩き始めた。
続く




