出会い
-1年後-
[ランス暦 417年5月]
ゴーン!!ゴーン!!
ガタッッ!!
「・・・ん・・・うーん」
昼前の午前。
授業の終わりを告げる鐘がなると同時に、後ろから勢いよく椅子から立ち上がる音が聞こえてきた。
机に顔を付けて寝ていたアカサはその音で目が覚める。
「ふぁーー・・・」
座りながら口を大きく開けてあくびをするアカサの耳に聞き慣れた声が聞こえてくる。
「授業終わったよアカサ。ご飯食べに行きましょ」
そう声を掛けてきたのは幼馴染のレナ。
髪は綺麗にツインテールで結び、大きな瞳で寝起きのアカサの顔を覗いている。
「また寝てたでしょ」
「しょうがないだろ、眠いんだから。それに2年の午前授業は1年の時の復習だろ」
「それはそうだけど・・・」
そんなアカサの言葉に少し不服そうな表情を浮かべるレナをよそに、アカサは椅子から立ち上がり背伸びをする。
そして、キョロキョロと首を振る。
「あれ?バカは?」
いつもいる奴がいない事に気がつく。
「シークなら、授業が終わったと同時に教室を飛び出して行ったぞ!」
ギシギシと音を立てそうなほどの筋肉の付いてある腕を胸の前で組み、元気な声でそう返答したのはゴウ。
身長は2メートル近くあり、ガタイも良く、短髪で褐色。
豪快に笑う漢だ。
「どこ行ったんだあいつ?・・・まぁいいや、俺トイレ行きたいから、先に食堂行ってて」
そう言うとアカサはトイレに、レナとゴウは先に食堂へ向かった。
用を済ませるとアカサは直ぐに食堂へ向かう。
ご飯を頼み終えると、先に注文を済ませ席に座っていたレナとゴウの下へ。
アカサが机に頼んだご飯を置くと、
「アカサは今日もそばか!」
と隣に座っているゴウが声を出す。
「そう言うゴウだって、いつも肉と白飯だろ」
「がっはっはっ!まぁな!逆にレナは毎日違うものを頼んでるな!」
「これが普通、ゴウ達が逆なのよ。よく毎日同じもの食べてて飽きないよね」
「何言ってるんだレナ?肉にも種類があるだろ?牛肉、豚肉、鶏肉、他にもいっぱい」
「そうだぞレナ、そばも豊富だ。あったかい物から冷たい物。そして、入れる薬味によっても味が変わる。更に麺の太さによってもっ──」
「はいはい。私が悪かったから」
話が長くなりそうなのを察知したレナは早めに止め、食事を続ける。
すると、ゴウよりも元気で大きな声を出しながら、長髪の男性がこちらの方へ走って来た。
「おーい!!」
「声がでかいわ!」
「おお!アカサは相変わらず目つきが悪いね!」
「悪いって言うな、鋭いと言え!」
「どっちでもいいでしょ・・・」
レナが冷静にツッコむ。
「がっはっはっ!それでシークは何してたんだ?いち早く教室から出て行ってたが?」
「うん?ああ、お腹痛くてね。トイレに閉じこもってた!」
─ そういえばトイレに行った時、個室から『うーん、うーん』って、唸り声が聞こえてきてたな。こいつだったのかよ。
「先生に言えば良かっただろ」
「もう授業も終わりそうだったし我慢した!」
何故かドヤ顔をする。
「それに我慢してたからかいっぱい出た!うん──」
「それ以上、言うなバカ!」
レナは声を荒げ、その言葉を止める。
レナの今日の昼食はカレー。
いやでも頭の中で連想してしまったようだ。
「と、とりあえずご飯頼んでこいよ」
「うん!そうする!」
少し怒った表情をするレナにアカサは気付き、シークを一旦その場から離す。
少し目を細めながらカレーを一口、口へ運ぶレナだったが、口に入れて仕舞えば美味しいので、次からはいつも通り美味しそうに食べ始めた。
─ ったく、あのバカ!レナが怒ったら怖いの知ってるだろ。
アカサはホッと胸を撫で下ろし、そばを啜る。
そして、シークがご飯を頼み終え、空いていたレナの隣に座るとゴウがある話題を出す。
「2年に上がって一ヶ月、明日から遂に実戦だな!」
1年生の時は午前中に文字の読み書きや冒険者に必要な座学などを学び、午後に体力作りのランニング、筋力づくりの筋トレ、生徒同士での模擬戦と学校内でしか授業がなかったが、2年生に上がり一ヶ月経つと王都の外で虚獣と呼ばれるモンスターと戦う実戦がほとんどになる。
「そう、やっとだよ!英雄になる為のスタートラインに立てるんだ!ねぇ、アカサ!」
「・・・ああ、そうだな」
アカサは少し言葉に詰まる。
「・・・まだ、英雄のことが嫌いなのか?」
「いや、まぁ・・・前ほどは嫌いではないかな。この1年間、毎晩お前に色んな英雄達の話しを聞かされてきたからな」
「そっか!」
シークは嬉しそうに笑った。
3年前に母親が亡くなり、父親と喧嘩していて荒んでいたアカサはあの教室でシークと出会い、そしてレナ、ゴウ、3人と過ごしていくうちに段々と変わっていった。
♢♢♢
〜1年前〜
『英雄!!!』
アカサが今この世界で1番嫌いな言葉が後ろから聞こえてくる。
教室にその言葉が響き渡り2秒くらいシーンとなって先生が口を開く。
『急に大きな声を出したらびっくりするでしょう』
『はい!!すいません!!』
さっきよりは小さいがそれでもまだ大きい。
─ 何だ、このロン毛のバカは?
それが第一印象だった。
アカサが睨んでいると、こちらを見てきて驚いたような表情をした。
それから授業は滞りなく終わり、教室から出て行こうとすると、
『待って!』
聞き覚えのある声がアカサを呼び止める。
『君、英雄アークの子供か?何となく目つきが似てたから』
『!!』
今1番聞きたくない名前が耳に入り、思わずシークの胸ぐらに掴み掛かる。
『あいつ・・・あいつの息子だったらなんだ』
『いや、君も英雄に育てられたんだったら少し話がしたかったんだ』
ロン毛の青年は動じることなく喋り続ける。
─ 君も?今の英雄たちに子供っていたっけ?
疑問に思っていると、騒ぎを聞きつけた先生が駆けつけてきた。
『何してるだ君達は!』
『ちっ、二度と話しかけてくるな』
アカサはそう言い残し、胸ぐらを離してその場を立ち去る。
昼食を挟み、午後。
次の授業は模擬戦。
模擬戦は1対1の形式で1組ずつ進んで行き、ようやくアカサの番が回ってきた。
名前を呼ばれ前へ出ると、目の前には自分をイライラさせたロン毛の声がでかいバカが立っていた。
『・・・先生、対戦相手変えてください』
思わず、先生にそう言ってしまう。
『ん?悪いがそれは無理だ。君達が最後の組み合わせだからな』
と、一蹴される。
─ まぁ、しょうがないか。それに丁度いいな。このイライラを発症させた奴が相手・・・発散させてもらうぜ!
『おい!』
『?』
アカサはロン毛の青年に剣を突きつけ、呼び掛ける。
『お前、さっき少し話がしたいとか言ってたよな?』
『うん!』
『この模擬戦に勝ったら、話してやるよ』
『本当に!』
『ああ。ただし、本気で来いよ!』
『もちろん!』
真剣な表情で剣を構えたアカサに対し、ロン毛の青年はワクワクした笑みを浮かべ剣を構える。
─ なに笑ってやがんだ・・・イライラする。
3年前、虚獣と呼ばれるモンスターが王都を襲った事件で、アカサの母親は虚獣によって殺された。
目の前で・・・。
その時にアカサは悟り、決意した。
この世界では力が無いと大切な人すら守れないと。
強くなければ平和に過ごせないと。
絶対に強くなるんだと。
だから、学校に入学するまでの間は必死に鍛えた。
走って体力を付け、腕立てなど腹筋などで筋肉を付け、同じ学校に入ると言った幼馴染のレナと軽い模擬戦もして、ある程度の対人戦も身に付けた。
更に入学式前日に現状の実力を測る為にと行われた先生との軽い模擬戦も思うように体が動き自信があった。
だから、誰にも負けない。
負けるはずがない。
特に模擬戦前に笑みを浮かべる能天気野郎なんかには。
そんな面持ちでアカサは剣を構えた。
そして、先生の合図で模擬戦が始まる。
アカサは合図と同時に斬りかかった。
自信に溢れたその一撃を読んでたかのようにロン毛の青年は簡単にかわし、胴に一発入れる。
『んぐっ!』
あまりにも重い一撃に膝をつく。
『くっ、おらぁぁぁーー!』
すぐに立ち上がり反撃するが、ヒラヒラと攻撃を簡単にかわされ、いなされ、何度もカウンターを浴びせられる。
─ 何で・・・何で当たらないっ!
焦りが生まれたアカサの剣は、その後もロン毛の青年に掠りもせず模擬戦は終わった。
手も足も出ず負け、自分は強いんだという自信は砕ける。
しかし、アカサの心は折れなかった。
圧倒的すぎて悔しいという感情すら湧かなかったのもそうだが、光って見えたからだ。
─ ははっ・・・強ぇ・・・!こいつみたいに強くなりたい!
そう思うほど眩しく見えた。
そして、ロン毛の青年へのイライラは消え、目標・・・憧れの対象へと変わっていた。
授業が終わると先生は怪我したものは保健室へ、そうでないものは教室に置いてある荷物を持ち、寮へ向かうように指示をする。
他の生徒達がそう行動する中、アカサはロン毛の青年へ声を掛ける。
『おい』
『僕に何か用?』
『まぁ、用って言うか・・・お前、何でそんなにつよっ──』
『あっ!そういえば、模擬戦前に約束してたね。僕が勝ったら話をしてくれるって!』
『いや、それもそうだけど、その前にっ──』
『そうだなー。話したいけどもう暗いし、寮へ行かなきゃいけないから、また明日ね!じゃねー!』
『あっ、おい!』
自分の言いたいことだけを言い残して、荷物を取りに教室の方へ向かっていった。
─ ・・・何だあいつ。俺は何でそんなに強いのか聞きたかっただけなのに。・・・仕方ねぇ。また明日だ。・・・保健室行くか。
アカサは怪我の治療の為、先に保健室に行ってから、その後荷物を取りに教室に行き、寮へ向かった。
寮は3階建てで、1階に食堂、2階に女子部屋、3階に男子部屋がある。
アカサは3階に行き、寮母さんに言われた自分の部屋へ向かう。
部屋は2人で1部屋だった。
部屋の前に着き、アカサはドアを開ける。
すると、そこには先ほど自分をボコボコにしたロン毛が立っていた。
『お前・・・』
『ん!君は目つきの悪い人!』
『悪いって言うな!鋭いと言え!』
『それ、どっちも変わんなくない?』
『何言ってんだ!全然違うだろ!鋭いって言い方の方がかっこいいだろ!』
『うーん、そうかな・・・どうだろう?うーん・・・』
普通に考えればどちらでもいい事なのだが、ロン毛の青年は何故か真剣に考え始める。
アカサもアカサで、その様子をジッと見つめる。
そして数秒後、
『うん!分かんないや!』
『おい!・・・はぁ、まぁいいや。アカサだ。これからよろしくな』
『うん!こちらこそよろしく!シークだ!』
アカサがため息ながらに挨拶をすると、シークは満面の笑みで迎えた。
その夜、約束通りアカサはシークと話をしながら過ごした。
『そう言えば、お前英雄に育てられたとか言ってたよな』
『・・・!!そ、そんなこと言ったかな・・・?』
『は?何とぼけてるんだよ。『君'も'英雄に育てられてるんだったら』って言ってただろうが』
『・・・いや、実はその事あまり言わないようにしようと思ってたんだけど、アカサの顔見たらついね』
シークは反省の表情でそう言う。
『それで、結局アカサって英雄アークの息子なの?』
『・・・ああ』
『やっぱそうだったんだ!』
『そう言うお前は誰の子供なんだよ』
アカサは自分の話を早々に切り上げ、シークに問う。
『英雄ハクウだよ!』
『・・・!!まじか!?あの人、子供いたのか!?』
『血は繋がってないんだけどね。4歳の頃に拾われて、育ててもらったんだ』
『ふーん。そうだったのか・・・』
虚獣に親を殺された子供が誰かに拾われ育てられる。
この世界ではよくある話だった。
少しだけだがお互いの境遇が分かったところでシークは手を叩き、ワクワクした声を出す。
『よし!まずは僕の大好きな英雄の話をアカサに聞いてもらおうかな!』
『は?やだよ。英雄の話なんて』
『何でよ!カッコいいじゃん!英雄!』
『別にカッコよくねぇよ。むしろ、嫌いだ!』
『何でそんなこと言うんだよ〜!お願いだよ〜、聞いてよ〜!』
『は、離せ!抱きつくな気持ち悪い!わ、分かったから、聞くから離せバカ!』
『やった!これは、僕が初めてじいちゃんから聞いた英雄の話なんだけど・・・』
アカサなこの日から毎夜、寝る前にシークから様々な英雄達の事を聞かされることになる。
それから、アカサの生活はシーク中心になった。
授業の時。
『ねぇアカサ、あの先生鼻毛でてない?』
小声で言う。
『そんなこと気にしてないで静かに授業聞いてろ』
『いやいやだって見てよ。明らかに鼻から細くて黒い毛が出てるんだもん』
『あぁ・・・もうわかったから。鼻毛でてるな、うん』
軽くあしらいながらアカサは机に顔を打っ伏す。
『先生に言ってあげないと。後で気づいたら恥ずかしさが倍になっちゃう』
『・・・えっ!?ちょっおまっ──!?』
『先生!鼻から毛が出てます!トイレの鏡を見ながら抜いてきたほうがいいと思います!』
椅子から勢いよく立ち上がり手を上げながら言った。
その後、先生は声を震わせながら『少し席を外します』と言い教室を出て行った。
模擬戦の時。
『ようやくお前との番が回ってきた!今回はこっちがボコボコにしてやる!』
『今回も負けないよ!』
模擬戦は毎日ローテーションで組まれていた。
他の生徒との模擬戦は全勝。
後、勝ててないのはシークだけという状態だったアカサは気合の入った斬撃を放つ。
『おらぁ!』
『はい、残念。当たりませんよー』
シークはひらりと、アカサの攻撃を避ける。
『くそっ!避けんなバカ!』
アカサは剣をシークに向け怒鳴る。
『嫌ですー、当たったら痛いもん。それに、当たる方が難しいよーだ』
『何だと!』
煽るシークにアカサは更に怒鳴る。
『だって、アカサの攻撃単純なんだもん。単純に攻撃するなら、それなりのパワーとスピードを付けなきゃ当たらないよ』
『ぐぬぬ!』
ぐうの音も出ないアカサ。
『くそがっ!バカのくせに正しいこと言うんじゃねぇ!』
『負け犬の遠吠えー』
『うぜぇ!皆んなにベットの下に隠してる物の事、言うぞ!』
『別に言ってもいいもーん。僕達くらいの年齢ならあれくらい見るよーだ。恥ずかしがってるのアカサだけだよ、本当は見たいくせに』
『うるせぇ!』
周りが模擬戦をしている中、戦わずに口論している2人に先生が気付く。
『お前達、何してるんだ!真面目にやれ!』
2人の頭に先生の拳骨が落ちる。
それから2人は懲りずに口論をしつつも、剣を交えた。
放課後。
学校の授業は時刻で言うと大体3時頃に終わり、そこからは自由。
部屋でゆっくりしたり、街で過ごす生徒もいた。
『ふぅー、スッキリしたー』
そんな中、寮にある共同トイレから帰ってきたシークはそう言いながら部屋の扉を開ける。
そして、帰ってきて早々、アカサへ疑問をぶつけた。
『ねぇ、アカサ』
『ん?』
『うんちって美味しいと思う?』
『・・・』
─ また、バカなこと言ってるわ。
そんな事を思いつつ、ベットに座わっていたアカサは言葉を返す。
『何でそんな事、急に思ったんだよ』
『いやー、毎回トイレ行って'清水貝'見る度に思うんだよね』
清水貝とは、海に生息している貝の事。
その特徴として、自身からおよそ30センチ程の周りの水の中にあるゴミなどを水ごと吸い込み、ゴミだけを食べ、綺麗になった水を自身の周りにまた吐き出す。
この世界ではこの貝をトイレとして利用していた。
考えるのもバカらしい質問だったので、アカサは適当にあしらう。
『さぁな。食べてみればわかるんじゃないか?』
『ふふん!そう言うと思って、さっき食べてみました!』
『・・・!!??』
他の人がそう言ったら冗談だと思うアカサだったが、あのバカなシークが言ったという現実を目の前にして『こいつならやりかねない!』と思い、動揺する。
『お、おい・・・本当に食べたのか・・・?』
『まぁ、冗談なんだけどね!』
その一言でアカサは胸を撫で下ろす。
『まぁ、流石にそうだよな・・・』
『・・・半分』
『半分!?』
その一言でアカサは胸が騒ぐ。
『お、おい!半分ってどう言う事だ!?食べた冗談の半分って事は舐めたのか!?』
『落ち着いてよアカサ〜。冗談だってば〜』
ぐわんぐわんと肩を掴み揺らしてくるアカサをシークは落ち着かせる。
『本当に冗談なんだな!』
『だから、そう言ってるじゃん。流石の僕でもそんな事はしないよ』
『いや、お前ならやりかねないと思って・・・つい取り乱した・・・。普通に嫌だからな、同室の奴がうんこ食う奴とか』
『全く、アカサは大袈裟だなー』
アカサは落ち着きを取り戻し、再びベットに座る。
そんなアカサに別の疑問をシークはぶつける。
『そもそも、何で人間ってうんちをするんだろうね』
『知らないし、気になったこともないし、どうでもいい』
『でも、ちょっと面倒くさくない?いちいちトイレに行くの』
『だから、どうでもいいって。そんなに気になるんなら、教会にでも行って女神様に聞いてこいよ』
『・・・!』
ベットに寝転がりながら、淡々と答えていたアカサが冗談混じりに言ったその言葉を聞くとシークは目を見開く。
『それだ!ちょっと教会行ってくる!』
『えっ・・・?』
シークはそう言うと、勢いよく部屋の扉を開け、王都にある大きな教会へ走って行った。
そして、数十分後。
ベットに寝転がっているアカサの耳に、部屋の扉がゆっくり開く音が聞こえてくる。
『・・・』
数十分前と同じ人物とは思えないほどシークのテンションは低く、白い制服のお腹辺りには茶色の大きなシミが出来ていた。
『ど、どうしたんだよ・・・?』
アカサは起き上がり、扉の前で立ち尽くすシークに恐る恐る聞く。
『・・・教会に行って、女神様の像の前で手を合わせてたんだ』
『おう・・・』
『そしたら、シスターさんが『何をお祈りになさっているのですか?』って聞いてきたんだ・・・』
『おう・・・』
『だから、僕は元気良く『何で人間はうんちをするのかを聞きにきたんです!』って答えたら・・・』
『お、おう・・・』
『落ちてた犬のうんちを手掴みで投げて来た・・・』
『マジか・・・。お前もお前だけど、シスターもやばいな・・・って事は、その茶色いシミは犬のうんこって事か・・・?』
『・・・冗談』
『・・・冗談かよ』
『本当は帰ってくる時に転んで、ぬかるんでいた土にダイブしちゃったんだ・・・』
『・・・はぁ、何だよそんな事かよ。いつになく暗かったから何事かと思ったわ。さっさと、その制服洗ってこいよ』
凄い無駄な会話をした、とため息をつき、呆れながら疲れるようにアカサは再びベットに寝転がる。
しかし、シークは立ち尽くしたまま動かない。
『何やってんだ?さっさと洗いにいけよ。早く洗わないと落ちないぞ』
アカサがそう急かすと、シークはゆっくりと口を開いた。
『・・・実はさっきまでの話、半分冗談で半分本当なんだ』
『ど、どう言う事だよ・・・』
アカサは再び起き上がり、恐る恐る聞く。
『・・・帰りに転んだのは本当で』
『おう・・・』
『・・・この茶色いシミはシスターに犬のうんちを投げつけられたわけじゃなく、ぬかるんだ土にダイブしたわけでもなくて』
『お、おう・・・』
『・・・転んだ時に落ちていた犬のうんちにダイブしちゃったんだ・・・』
『つまり、その茶色いシミは犬のうんこって事か・・・?』
『・・・フン』
『うん、だろ・・・。何、しょうもないこと言ってんだよ・・・』
『ごめん・・・』
『・・・とりあえず、その制服捨てて新しいの貰ってこいよ』
『うん・・・』
『後、距離が空いてるからか、今さら俺の鼻腔を刺激してきてるわ』
『ごめん・・・』
『後、よく普通に喋れるな』
『慣れた・・・』
『慣れんなよ・・・』
その後、シークは新しい制服をもらいに行き、その間、アカサは部屋の窓という窓を開け、換気を行った。
ご飯の時。
入学してからの数日はアカサ、シーク、そしてアカサの幼馴染のレナ。
主にこの3人で朝食、昼食、夕飯を食べていた。
『ほんとアカサはそば好きだね』
『まぁな』
『僕は麺類苦手だな。すするの下手だし』
『ふーん』
アカサは興味なさそうに相槌をする。
『レナは麺類苦手?』
シークは正面に座っていたレナに聞く。
『私は別に苦手じゃないよ』
『そっか。・・・そうだ!アカサ、少しそばもらっていい?ちょっと練習してみようかな』
『まぁ・・・ひと口くらいならいいけど・・・はい』
『ありがとう!よし、食べるぞー!』
シークは箸でそばを掴み、冷たいつゆにつける。
そんなシークにアカサはアドバイスをする。
『いいか。まずゆっくりすすったほうがいいぞ。勢いよくすすると喉につっかえて大変なことに・・・』
『ズゾゾゾッッ!!』
勢いよくすすった。
『ンッ!ゴホッ!!ゴホッ!!』
勢いよくむせた。
『ゴホッ!ゴホッ!・・・いやー、やっぱ苦手だ。はい、アカサ・・・アカサ?』
シークはアカサにそばを返すが、その表情は青ざめていた。
『どうしたの?』
シークは疑問に思いながら、アカサの視線の先へ顔を向ける。
『・・・』
視線の先にはシークが咳き込んだ時に飛び散ったそばや麺つゆを被ったレナの姿が映る。
『お、おい!!このバカ!!早く謝れ!!』
黙ったままジッと鋭い目つきで微動だにしないレナを見て焦るアカサに対し、
『あっ、えーっと、ごめん⭐︎』
ウィンクをしながら、手を合わせて軽く謝るシーク。
『おいバカ野郎!!何だその謝り方は!!本当に悪いと思ってんのかー!?』
『本当に思ってるよ!』
『嘘をつくなっ!』
『本当だって!僕なりにちゃんと謝ってるんだよ!』
被害者のレナをよそに口論を始める2人。
すると、ゆっくりレナは立ち上がり、シークの元へ。
『シーク・・・』
『レナ?』
『立って・・・』
そう淡々と言うレナの表情はまだ変わらない。
シークが言葉通り素直に立つと、レナはシークの肩に左手を乗っけ、笑顔を見せる。
『・・・!!ほら、見てよアカサ!レナにはちゃんと伝わってるじゃん!』
レナの笑顔を見て、ちゃんと謝罪が伝わり、許してもらえたと思ったシークはドヤ顔でアカサの方を向くが、アカサの表情は青ざめている。
幼馴染のアカサは分かっていた。
この笑みは許しているわけではないと。
そして、次の瞬間、
『流石レナ!器がおおきっ──』
『ちゃんと謝れ、このバカ!!』
『ぐはっっ!!』
拳闘士かと思わせるほどのレナの完璧な右ボディブローがお腹に突き刺さり、シークは糸の切れた操り人形の様に地面に崩れ落ちた。
『ふん!』
と、レナは怒りの息を吐いて、顔にかかったそばや麺つゆを洗い流す為、食堂を後にした。
アカサは嵐が去ったとホッとし、うずくまるシークを無視してそばを啜り始めた。
この日から『レナを怒らせてはならない』と強くと思ったシークだった。
入学してから一ヶ月が経とうとしている中、その食卓にゴウも加わっていた。
『いやー、やっぱ疲れた日の夜ご飯はお肉だよね!』
『その通りだ!肉は全てを解決する!がっはっはっ!』
隣同士で座るシークとゴウは大きな牛肉のステーキを前に意気投合する。
その様子をシークの正面に座りそばを前にするアカサ、その隣に座り唐揚げ定食を前にするレナは『こいつら元気だなー』と思いながら手を合わせる。
『いただきまーす!』
シークは元気良く手を合わせるとフォークを刺し、ナイフで切ることなく肉にかぶりついた。
『あむ!あむ!んっ・・・!んーっ!んーっ!』
肉にすじがあり、なかなか噛み切れないのか、フォークを両手で持ち必死に噛み切ろうと口で肉を引っ張る。
『んーっ!んーっ!』
そして次の瞬間、シークが思いっきり引っ張ると肉は千切れる。
『あむ!あむ!』
シークは美味しそうに肉を噛み飲み込むと、フォークに刺さっているお肉に再びかぶりつこうとする。
『・・・あれ?お肉・・・』
しかし、先程まで刺さっていたはずの肉はフォークに刺さっていなかった。
シークは地面に落ちたのかな?とキョロキョロと地面を見るがない。
『あれ?ねぇ、アカサ。僕のお肉知らない?』
そう言いながらアカサの方へ視線を向けると、アカサはレナの方に顔を向け、表情は青ざめていた。
シークも青ざめながら、ゆっくりとレナの方へ顔を向ける。
夢であってくれ、とシークは願うが、実際にレナの顔には先程まで自分のフォークに刺さっていたであろう肉がビタッと張り付いていた。
張り付いた肉は少し湯気が漏れ、熱そうに見えるが『ごめんレナ!!暑くない!?』『大丈夫レナ!?』など、そんな心配の声を掛けづらいくらいにレナの表情はお怒りだ。
そんなレナを前にアカサの食事の手を止まる。
一方ゴウはというと自分の肉を食うのに必死で、顔が下に向いてるからか気づいていない。
そんな中、シークは持っていたフォークを机に置く。
カタカタカタッと音が鳴るくらい、腕は震えている。
そして、スッと立ち上がり、お嬢様の前に颯爽と現れる執事の如くレナの前に立ち、覚悟を決めた顔で服を上げ、お腹を出す。
何故、わざわざお腹を出したのかは謎だ。
『・・・ん?急にレナにお腹見せてどうしたんだシーク?』
自分の食事に夢中だったゴウは、シークの行動でようやく顔を上げた。
『それにしても、中々良い腹筋だな!』
『ゴウ!今、それどころじゃない!』
親指を立て、悠長にシークの腹筋を褒めたゴウにアカサは空気を読めと突っ込む。
『ん?』
と、ゴウは疑問に思いつつ、突っ込まれたアカサの方へ顔を向ける途中、怒った表情のレナが視界に入る。
それと同時にレナはゆっくりと立ち上がると、顔に張り付いていた肉が机に落ちる。
そして、次の瞬間、
拳闘士かと思わせるほどの完璧な左ボディブローがお腹を突き刺し、シークは糸の切れた操り人形のように地面に崩れ落ちた。
『ふん!』
と、レナは怒りの息を吐き、顔についた肉の油を洗い流す為、食堂を後にした。
アカサは嵐が去ったとホッとし、うずくまるシークを無視して再びそばを啜り始める。
一方、ゴウは初めて怒ったレナを目にして『絶対にレナをおこらしてはダメだ』と強く誓い、残りのお肉を食べ始めた。
そして、シークとご飯を食べる際は絶対に正面に座らず、隣に座ると決めたレナだった。
そんな感じの一年をアカサは3人と過ごして来た。
アカサは入学当初、強くなれればそれで良い。
友達や仲間、そんなものはいらない。
馴れ合いなんていらない。
自分は入学した誰よりも強い。
そんな思いと自信を持ちながら入学した。
しかし、入学初日。
アカサは運命の出会いを果たした。
そんなくだらない思いと過信を消し飛ばし、荒んでいた理由の父親の事も忘れるくらいの存在に。
♢♢♢
ゴーンゴーンと、昼休みの終わりの合図が鳴る。
「そろそろ午後の授業だね。ほら早く行こ!」
食事も済み、食堂で談笑していた4人。
昼休みの終わりの合図がなり、レナが男3人の背中を押す。
「うん!実戦前、最後の模擬戦だね。今の所、僕の全勝だからね!」
「ふん、言ってるのもいまのうちだ。本気でこいよ。ここで勝って気持ちよく実戦に向かわしてもらうぜ!」
昼食を食べ、気合い十分なアカサ達は模擬戦の為、校庭へ向かった。
続く




