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バカはしんでも治らない  作者: すし河原たまご
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出会い

-1年後-


[ランス暦 1017年5月]


キーンコーンカーンコーン


ガタッッ!!


「・・・ん・・・うーん」


昼前の午前。

授業の終わりを告げる鐘がなると同時に、後ろから勢いよく椅子から立ち上がる音が聞こえてきた。

机に顔を付けて寝ていたアカサは、その音で目が覚めた。


「ふぁーー・・・」


座りながら口を大きく開けてあくびをする。

そんなアカサの耳に聞き慣れた声が聞こえてくる。


「授業終わったわよ、アカサ。ご飯食べに行きましょ」


そう声を掛けてきたのは幼馴染のレナ。

髪は綺麗にツインテールで結び、大きな瞳で寝起きのアカサの顔を覗いている。


「また寝てたでしょ、アカサ」


「しょうがないだろ、眠いんだから。それに、2年の座学は1年の時の復習だろ」


「それはそうだけど」


アカサはそう言うと、椅子から立ち上がり背伸びをする。

そして、キョロキョロと首を振る。


「あれ?バカは?」


いつもいる奴がいない事に気がつく。


「シークなら授業が終わったと同時に、教室を飛び出して行ったぞ!」


元気な声でそう返答したのはゴウ。

身長は2メートル近くあり、ガタイも良く、短髪で褐色。

豪快によく笑う漢だ。

アカサとは一年生の時に知り合い、それから一緒にいることが多くなった。


「どこ行ったんだあいつ?・・・まぁいいや、俺トイレ行きたいから、先に食堂行ってて」


そう言うとアカサはトイレに、レナとゴウは先に食堂へ向かった。

用を済ませるとアカサは直ぐに食堂へ向かう。

ご飯を頼み終えると、先に注文を済ませ席に座っていたレナとゴウの下へ。

アカサが机に頼んだご飯を置くと、


「アカサは今日もそばか!」


左前に座っているゴウが声を出す。


「そう言うゴウだって、いつも肉と白飯だろ」


「がっはっはっ!まぁな!」


そんな他愛のない話をしながら、3人でご飯を食べていると、


「おーい、みんな!!」


ゴウよりも元気で大きな声を出しながら、長髪の男性がこちらの方へ走って来た。


「声がでかいわ!」


「おお!アカサは相変わらず目つきが悪いね!」


「悪いって言うな、鋭いと言え!」


「どっちでもいいでしょ・・・」


レナが冷静にツッコむ。


「がっはっはっ!それでシークは何してたんだ?いち早く教室から出て行ってたが?」


「うん?ああ、お腹痛くてね。トイレに閉じこもってた!」


─ そういえばトイレに行った時、個室から『うーん、うーん』って、唸り声が聞こえてきてたな。シークだったのかよ。


「先生に言えば良かっただろ」


「もう授業も終わりそうだったし我慢した!」


何故かドヤ顔をする。


「それに我慢してたからか、いっぱい出た!うん─ ─」


「それ以上、言うなバカ!」


レナは声を荒げ、その言葉を止める。


レナの今日の昼食はカレー。

いやでも頭の中で連想してしまったようだ。


「と、とりあえず、ご飯頼んでこいよ」


「うん!そうする!」


少し怒った表情をするレナにアカサは気付き、シークを一旦その場から離す。


少し目を細めながらカレーを一口、口へ運ぶレナだったが、結局食べたら美味しいので、次からはいつも通り美味しそうに食べ始めた。


─ ったく、あのバカ!レナが怒ったら怖いの知ってるだろ。


アカサはホッと胸を撫で下ろし、そばを啜る。


そして、シークがご飯を頼み終え席に座ると、ゴウがある話題を出す。


「2年に上がって一ヶ月、明日から遂に実戦だな!」


1年生の時は午前中に座学、午後に生徒同士での模擬戦と学校内でしか授業がなかったが、2年生からの授業は王都の外で虚獣(きょじゅう)と呼ばれるモンスターと戦う実戦がほとんどになる。


「そう、やっとだよ!英雄になる為のスタートラインに立てるんだ!ねぇ、アカサ!」


「・・・ああ、そうだな」


アカサは少し言葉に詰まる。


「・・・まだ、英雄のことが嫌いなのか?」


「いや、まぁ・・・前ほどは嫌いではないかな。この1年間、お前に散々いろんな英雄達のことを聞かされてきたからな」


「そっか!」


シークは嬉しそうに笑った。


─ 母さんが亡くなって親父と喧嘩していて荒んでいた俺は、あの教室でシークと出会ってから少しずつ変わっていったと思う。



♢♢♢



〜1年前〜


『英雄!!』


アカサが今この世界で1番嫌いな言葉が後ろから聞こえてくる。

教室にその言葉が響き渡り2秒くらいシーンとなって先生が口を開く。


『急に大きな声出したらびっくりするでしょ、シーク

くん』


『はい!すいません!』


さっきよりは小さいがそれでもまだ大きい。


─ なんだこのバカは?


それがシークへの第一印象だった。

アカサが睨んでいると、こちらを見てきて驚いたような表情をした。


それから授業は滞りなく終わり、教室から出て行こうとすると、


『待って!』


聞き覚えのある声がアカサを呼び止める。


『君、英雄アークの息子か?何となく目つきが似てたから』


『!!』


今1番聞きたくない名前が耳に入り、思わずシークの胸ぐらに掴み掛かる。


『あいつ・・・あいつの息子だったらなんだ』


『いや、君も英雄に育てられたんだったら少し話がしたかったんだ』


シークは動じることなく喋り続ける。


─ 君も?今の英雄たちに子供っていたっけ?


疑問に思っていると、そこに騒ぎを聞きつけた先生が駆けつけてきた。


『何してるだ君達は!』


『ちっ、二度と話しかけてくるな』


アカサはそう言い残し、胸ぐらを離してその場を立ち去る。


昼食を挟み、午後。

次の授業は模擬戦。


─ このイライラした気持ちを晴らすにちょうど良いな。


そう思いつつ名前を呼ばれるのを待つ。

模擬戦は1対1の形式で1組ずつ進んで行き、最後にアカサの番が回ってきた。

名前を呼ばれ前へ出ると、目の前には自分をイライラさせたロン毛の声がでかいバカが立っていた。


『・・・先生、対戦相手変えてください』


思わず、先生にそう言ってしまう。


『ん?悪いがそれはダメだ。学校に入る前の実力試験で、ランキングが隣同士の人と組んでもらっているからな』


アカサはその先生の発言に驚く。


この学校に入る時、現状の実力を測りクラス分けの参考にと先生と軽い模擬戦をした。

アカサはその年では2番目に実力があると判定された。

その時はアカサ自身そんなに気にしてなかったが、


『お前もしかして・・・』


『うん!一位だった!』


『・・・!』


弱い自分が嫌いだったこの頃のアカサは、強くなることだけに執着していた。

2度と目の前で大切な人を失わない、何が起こっても乗り越えられる、そんな強さを求めていたアカサにとって、自分より強いかもしれない相手との模擬戦ほど望んでいた事はなかった。


『おい、本気でやれよ!もし俺に勝ったら、話してやるよ!』


『もちろん本気でやるよ!そっちも負けたからって言い訳しないでね!』


剣を構えて、先生の合図で始まった。


アカサは合図と同時に斬りかかる。

それを読んでたかのようにシークは簡単にかわし、胴に一発入れる。


『んぐっ!』


あまりにも重いシークの一撃に膝をつく。


『くっ、おらぁぁぁーー!』


すぐに立ち上がり反撃するが、シークはヒラヒラとアカサの攻撃を簡単に避け、いなし、何度もカウンターを浴びせる。

結局、その後もアカサの攻撃は掠りもせずに授業は終わった。


『はぁ、はぁ、はぁ・・・・』


手も足も出なかった。

圧倒的で悔しいという感情すら湧かない。

むしろ、憧れさえ抱いてしまうほどにシークは強かった。


『僕の勝ちだね!約束通り少し話したいけど・・・もう暗いしまた明日だね!じゃねー!』


『あっ、おい!』


そう言い残して、疲れた表情も見せずに寮のある方へ走って行った。


寮は3階建てで、1階に食堂、2階に女子部屋、3階に男子部屋がある。

3階に行き、アカサは自分の部屋へ向かう。

部屋は2人で1部屋だった。

なんとなくその時点で嫌な予感がしていた。

アカサはおそるおそるドアを開ける。

すると今日、何回も見た姿がそこにはあった。


『はぁー・・・やっぱりお前か・・・』


『ん!君は2位くん!』


『誰が2位くんだ!・・・アカサだ。これからよろしくな』


『うん!こちらこそよろしく!シークだ!』


その夜、約束通りアカサはシークと話をしながら過ごした。


『じゃあ、まずは僕の大好きな英雄の話をアカサに聞いてもらおうかな!』


『は?やだよ。英雄の話なんて』


『何でよ!カッコいいじゃん!英雄!』


『別にカッコよくねぇよ。むしろ、嫌いだ!』


『何でそんなこと言うんだよ〜!お願いだよ〜、聞いてよ〜!』


『は、離せ!抱きつくな、気持ち悪い!・・・わ、分かったから、聞くから離せバカ!』


『やった!これは、僕が初めてじいちゃんから聞いた英雄の話なんだけど・・・』




それから1日のほとんどはシークと一緒だった。


授業の時。


『ねぇアカサ、あの先生鼻毛でてない?』


小声で言う。


『そんなこと気にしてないで静かに授業聞いてろ』


『いやいやだって見てよ。明らかに鼻から細くて黒い毛が出てるんだもん』


『あぁ・・もうわかったから。鼻毛でてるな、うん』


軽くあしらいながらアカサは机に顔をつけ、()()す。


『先生に言ってあげないと。後で気づいたら恥ずかしさが倍になっちゃう』


『・・・えっ!?ちょっおまっ!?』


『先生!鼻から毛が出てます!トイレの鏡を見ながら抜いてきたほうがいいと思います!』


椅子から勢いよく立ち上がり手を上げながら言った。

その後、先生は声を震わせながら『少し席を外します』と言い教室を出て行った。


模擬戦の時。


模擬戦は本来なら毎日、別の人と組むのが普通だったが、アカサとシークは他の生徒達よりも素の実力があった為、2人で組む事がほとんどだった。

もちろん、アカサとシークの間にも大きな実力の差があった。


『おらぁ!』


『はい、残念。当たりませんよー』


シークはひらりと、アカサの攻撃を避ける。


『くそっ!避けんなバカ!』


アカサは剣をシークに向け怒鳴る。


『嫌ですー、当たったら痛いもん。それに、当たる方が難しいよ』


『何だと!』


煽るシークにアカサは更に怒鳴る。


『だって、アカサの攻撃単純なんだもん。単純に攻撃するなら、それなりのパワーとスピードを付けなきゃ当たらないよ』


『ぐぬぬ!』


ぐうの音も出ないアカサ。


『くそがっ!バカのくせに正しいこと言うんじゃねぇ!』


『負け犬の遠吠えー』


『うぜぇ!皆んなにベットの下に隠してる物の事、言うぞ!』


『別に言ってもいいもーん。僕達くらいの年齢ならあれくらい見るよーだ。恥ずかしがってるのアカサだけだよ、本当は見たいくせに』


『うるせぇ!』


周りが模擬戦をしている中、戦わずに口論している2人に先生が気付く。


『お前達、何してるんだ!真面目にやれ!』


2人の頭に先生の拳骨が落ちる。

それから2人は懲りずに口論をしつつも、剣を交えた。


ご飯の時。


『ほんとアカサはそば好きだね』


『まぁな』


『僕は麺類苦手だな。すするの下手だし』


『ふーん』


『・・・そうだ!アカサ少しそばもらっていい?ちょっと練習してみようかな』


『まぁ・・・ひと口くらいならいいけど・・・はい』


『ありがとう!よし、食うぞー!』


シークは箸でそばを掴みつゆにつける。


『いいか。まずゆっくりすすったほうがいいぞ。勢いよくすすると喉につっかえて大変なことに・・・』


『ズゾゾゾッッ!!』


勢いよくすすった。


『ンッ!ゴホッ!!ゴホッ!!』


勢いよくむせた。


『ゴホッ!ゴホッ!・・・いやーやっぱ苦手だわ』


そばを返そうとアカサの方を見ると髪が濡れていて、そばが顔についていた。

少し濡れた髪から覗く目は心なしか赤く光ってるように見えたよ。

byシーク


『あっ・・・えっーと・・・ごめ☆』


『っ〜このバカが!!』


アカサの声は食堂内に響き渡った。



♢♢♢



「いやーあん時のアカサは怖かったねー」


「あれはお前が悪いだろ」


食事をしながら思い出話をしていると、キーンコーンカーンコーンと、昼休みの終わりの合図が鳴る。


「そろそろ午後の授業だね。ほら早く行こ!」


レナが男3人の背中を押す。


「うん、実戦前の最後の模擬戦だね。今の所、僕の全勝だからね!」


「ふん、言ってるのもいまのうちだ。ここで勝って気持ちよく実戦に向かわしてもらうぜ!」


昼食を食べ、気合い十分なアカサ達は模擬戦の為、校庭へ向かった。


続く










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