獣戦争
森へ着くと、ドルト先生に先導されC級の虚獣が出るエリアに向かう。
道中、E級、D級の虚獣に遭遇するも苦戦することなく倒していくが、昨日同様アカサは1人で突っ込んでいった。
そんなアカサにゴウは少し釘を刺す。
「アカサ、あまり1人で無茶するなよ。今はチームで動いてるんだ、もう少し俺達を頼ってくれ」
「・・・ああ、ごめん」
その返答は少しそっけなかった。
─ 分かってる、分かってるけど、E級、D級くらい1人で倒せるようにならないとC級なんて倒せない・・・!早く強くならないと・・・シークの隣に立たないと!
ゴウの言葉は直ぐにアカサの頭から抜けていった。
しばらく歩いていると、感じたことのある重い空気がアカサ達の身体にまとわりつく。
C級の虚獣が出るエリアに着いた。
この空気に慣れたのか、前回よりみんなの足取りは軽く、どんどん奥へ進んでいく。
そんな中、ある違和感にドルト先生は気付く。
(虚獣の気配が少なすぎる・・・)
C級の虚獣が出るエリアに足を踏み入れてから、まだ1体とも遭遇していなかった。
ドルト先生はこの違和感に心当たりがあった。
(この感じ・・・獣戦争か?)
[獣戦争]
普段オーラの持つ人間にしか襲いかからない虚獣が突然、虚獣同士が殺し合いを始める現象。
時間が経つと勝手におさまり、それが起こった周辺には数日の間、争いで生き残った虚獣だけが徘徊している。
1日、2日経ったら、再びたくさんの虚獣が出現し、生態系は元に戻る。
(今朝、王都を出る時にその報告は受けてない。と言う事は起きたばかりか?)
基本的に獣戦争が起きるのは夜で、朝には異変に気づいた冒険者や騎士が王都へ報告するのだが、稀に朝や昼といった時間帯にも起きることがあった。
なんにせよ特訓の為に来ているアカサ達にとっては、
戦っている時に他の虚獣が邪魔に入らないような、戦いやすい環境になっていた。
ドルト先生は4人に獣戦争の事を説明して、再び歩き始める。
10分くらい歩いていると木に囲まれた開けた場所に出る。
その場所の光景に4人は目をひらいて驚く。
「こ、これは・・・」
「地面に落ちてるのって・・・」
「鍛治氏にとっては夢のような場所だな!」
「キラキラ、してる・・・」
そこには、大量の魂石が地面に落ちていて、太陽の光が魂石に当たり、地面はキラキラと輝き幻想的な光景になっていた。
4人は少しの間、その光景に目が釘付けになっていたが、だんだん遠くの方に視線を向けると大きな黒い影が目に入った。
「あれは・・・」
その黒い影はキラキラ光っている地面に自分の太い腕を枕にしながら寝ていた。
疲れた身体を休めるように。
「虚獣!」
「て事は、あれが獣戦争で生き残った虚獣・・・」
4人は現実に戻り、武器を構えオーラを纏い始めて戦闘態勢に入る。
ドルト先生はその様子を後ろに下がって眺める。
(この前C級と戦った時には、すでに4人ともC級を倒せるくらいのオーラは持っていた。ただ、あの時はまだ纏い方が甘く倒せなかったが、今の4人の武器、体を見るに徐々に上手くオーラを纏わせるようになってきている。後は・・・)
4人が上手くオーラをコントロールできるようになってきて順調に成長してるのを感じて嬉しい気持ちになる。
ただその反面、不安な気持ちも抱えながら4人をドルト先生は見守る。
虚獣はまだこちらに気づいておらず、スヤスヤ寝ている。
アカサ達は起こさないようにゆっくり近づこうとする。
─ くそっ、歩きずらい・・・
4人は地面に落ちている魂石を踏まないように避けながら一歩足を踏み出す。
すると踏み出した足を地面につけた瞬間、虚獣の耳がピクっと動き、伏せてあった顔を上げて辺りをキョロキョロ見回す。
「・・・っ、気付かれた!」
アカサ達を発見すると、大きな体をゆっくり起こして四足歩行で立ち、口を大きく開け咆哮を上げる。
「ガオオーー!!」
その咆哮は地面にある魂石は吹っ飛ばし、まだ遠くにいるアカサ達の服をなびかせるほど凄まじかった。
「オオーーッ・・・」
咆哮が終わると、たくさん落ちていた魂石は一つも残らず吹き飛ばされていて、先程までのキラキラしていた光景はみる影もなくなっていた。
茶色になった地面をよく見ると、人の乾いた血があちこちにあり、まるで虚獣が『ここは戦場だ』と言うことを教えているようだった。
─ さすが獣戦争を生き残った虚獣、凄まじい咆哮だ。ただC級のプレッシャーにはもう慣れた・・・今日こそは、倒す!
アカサは地面を蹴って勢いよく走り、1人で突っ込んでいく。
「あっ、おい!アカサっ!」
ゴウが呼び止めようとするが、その声はもう届かない。
(昨日からアカサの様子が変だ。俺達の声が全く届いてない・・・くそっ、そんなに俺達は頼りないのか!)
ゴウはアカサの自分勝手な行動に、少しずつ苛立ちを覚え始めた。
レナはそんなゴウに気付くと、笑顔を浮かべながら大きな背中を叩き落ち着かせる。
「ほら、私達も行くよ!」
「お、おう・・・」
しかし、以前表情は変わらない。
「・・・ゴウだって心配でしょ?」
「昨日まではな・・・今は腹が立ってる、殴りたいくらいだ」
拳を強く握るゴウに、レナはアカサの表情や行動を見て感じたことを話した。
「・・・多分、まだシークの事を気にしてるんだと思う」
「どういうことだ?」
「今のアカサ、シークと会う前に戻ったみたいなの。自分が弱いから大切な人がいなくなった、だから無茶をしてまで強くなろうとしてる」
「誰も、アカサのせいなんて思ってない!」
「でも、アカサはそう思ってる。多分・・・だから、シークがいない今は私達が目を覚ましてあげなきゃ!殴ってでも!」
そう言いながら、レナはゴウのお腹をグーで軽く叩く。
「殴って、でも・・・!」
レナに続いて、サラも小さな拳で軽くゴウの太ももを叩く。
「・・・ああ、そうだな。殴ってでもだ!」
ゴウは自分の胸を強く叩き、気合いを入れた。
3人は1人で虚獣へ突っ込んで行ったアカサを助けに・・・いや、1人でシークの事を背負い込んでいるアカサを殴って目を覚まさせる為に走り出した。
続く。




